このページでは、フリーランス保護法が適用される取引の発注事業者とフリーランスに向けて、フリーランス保護法第3条に規定されている通知(以下、「三条通知」といいます)について解説しています。
フリーランス保護法における「三条通知」とは、フリーランス保護法第三条にもとづき、発注事業者がフリーランスに対し通知しなければならない内容のことです。
フリーランス保護法が適用される業務委託契約の場合、委託者である発注事業者は、受託者であるフリーランスに対し、法定事項について三条通知をしなければなりません。
このため、実務上は、業務委託契約書や取引基本契約書+個別契約書が三条通知の要件を満たすように考慮して作成します。
具体的には、公正取引委員会が定める「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」や「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」を満たした内容にします。
このページでは、こうしたフリーランス保護法の三条通知の基本や業務委託契約書を三条通知とする場合の注意点について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。
このページをご覧いただくことで、フリーランス保護法の遵守をはじめ、以下の内容を理解できます。
このページでわかること
- 三条通知の定義。
- 三条通知の必須事項。
- 業務委託契約書を三条通知にする場合のポイント。
- 電磁的方法や電子契約による三条通知の交付のポイント。
- 三条通知の不実施によるフリーランス保護法違反の罰則、リスク。
【意味・定義】三条通知とは?
発注事業者がフリーランスに対して交付する義務がある書面
三条通知とは、フリーランス保護法(正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)第3条に規定されている明示による通知です。
【意味・定義】三条通知(フリーランス保護法)とは?
三条通知(フリーランス保護法)とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対し明示しなければならない通知をいう。
公正取引委員会規則=「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」
フリーランス保護法第3条に規定する「公正取引委員会規則」とは、「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」のことです。
フリーランス保護法の施行規則は、公正取引委員会のものと厚生労働省のものの2種類があります。
このため、単に「フリーランス保護法施行規則」と表現すると、どちらのものなのかが分からなくなるので、注意が必要です。
実際に三条通知を作成する際には、フリーランス保護法第3条とともに、上記の公正取引委員会の施行規則も併せて確認しながら作成します。
不十分な三条通知は明示したことにならない
三条通知は、フリーランス保護法第3条と公正取引委員会の施行規則に適合した内容であることが必須となります。
逆にいえば、これらのフリーランス保護法第3条と施行規則に適合していない内容を明示しても、三条通知を明示したことにはなりません。
また、こうした不十分な内容の通知の明示は、当然ながらフリーランス保護法第3条違反となり、勧告・命令・企業名の公表・罰則の対象となります(後述)。
このため、発注事業者は、フリーランスに対し、単に通知を明示するだけでなく、内容もフリーランス保護法第3条と施行規則に適合したものを作成する必要があります。
ポイント
- フリーランス保護法における三条通知とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、発注事業者(業務委託事業者)がフリーランス(特定受託事業者)に対し明示しなければならない通知のこと。
- フリーランス保護法第3条と公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則に適合した三条通知を明示しなければ、発注事業者は三条通知を明示したことにならない。
フリーランス保護法第3条の適用対象かどうかの条件とは?
なお、フリーランス保護法第3条が適用される対象かどうかの条件は、以下のとおりです。
フリーランス保護法第3条が適用される条件
- 発注事業者が事業者であること(業種、規模、従業者の有無を問わない)。
- 受注事業者(フリーランス)が個人事業者または一人法人(役員が1人だけの法人)であり、かつ、いずれも従業員を使用しないものであること。
- 業務委託の内容が物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供(物品の修理を含み、発注事業者自らに役務の提供をさせることを含む)であること。
これらの条件は、以下の点が重要となります。
フリーランス保護法第3条が適用される条件のポイント
- 発注事業者は、すべての事業者が対象となる。
- フリーランスは、個人事業者だけでなく一人法人も対象となる。ただし、従業員を1人でも使用する場合は対象外となる。
- 従業員とは、「1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者」(派遣労働者を含む)のこと。
- 従業員には同居家族は含まれない。
- 下請法とは異なり、役務の提供には建設工事も含まれる。
- 下請法とは異なり、再委託のもののみならず、発注事業者が「その事業のために」委託するものや、「(発注事業者)自らに役務の提供をさせることを含む」。
この他、フリーランス保護法の適用対象となる事業者・取引につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
三条通知で明示するべき12の必須事項
三条通知の明示事項一覧
フリーランス保護法第3条と関連する施行規則では、以下の内容が、三条通知の明示事項とされています。
三条通知の必須明示事項
- 業務委託事業者および特定受託事業者の商号、氏名もしくは名称または事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者および特定受託事業者を識別できるもの(施行規則第1条第1項第1号)
- 業務委託をした日(施行規則第1条第1項第2号)
- 特定受託事業者の給付の内容(施行規則第1条第1項第3号)
- 特定受託事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける期日等(施行規則第1条第1項第4号)
- 特定受託事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける場所(施行規則第1条第1項第5号)
- 特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日(施行規則第1条第1項第6号)
- 報酬の額(施行規則第1条第1項第7号)
- 報酬の支払期日(施行規則第1条第1項第7号および同条第3項)
- 報酬の全部または一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額および満期(施行規則第1条第1項第8号)
- 報酬の全部または一部の支払につき一括決済方式(債権譲渡担保方式またはファクタリング方式もしくは併存的債務引受方式)により金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の賃付けまたは支払を受けることができることとする場合は、当該金融機関の名称、当該金融機関から貸付けまたは支払を受けることができることとする額、および当該報酬債権または当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日(施行規則第1条第1項第9号)
- 報酬の全部または一部の支払につき、業務委託事業者および特定受託事業者が電子記録債権の発生記録をし、または譲渡記録をする場合は、当該電子記録債権の額および当該電子記録債権の支払期日(施行規則第1条第1項第10号)
- 報酬の全部または一部の支払につき、業務委託事業者が、資金決済に関する法律第36条の2第1項に規定する第一種資金移動業を営む同法第2条第3項に規定する資金移動業者(以下、単に「資金移動業者」という。)の第一種資金移動業に係る口座、同法第36条の2第2項に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者の第二種資金移動業に係る口座または同条第3項に規定する第三種資金移動業を営む資金移動業者の第三種資金移動業に係るロ座への資金移動を行う場合は、当該資金移動業者の名称および当該資金移動に係る額(施行規則第1条第1項第11号)
これらをより分かりやすく表現すると、以下のとおりとなります。
三条通知の必須明示事項
- 発注事業者およびフリーランスの名称(番号・記号等による記載も可)
- 業務委託をした日(業務委託をすることについて合意した日)
- 業務内容
- 納期等(成果物の納期または役務提供の期日・期間)
- 納入場所等
- 検査完了日(検査をおこなう場合)
- 報酬の額
- 報酬の支払期日
- 手形を交付する場合はその金額および満期
- 一括決済方式で支払う場合は、以下のもの
- 金融機関名
- 貸付けまたは支払を受けることができることとする額
- 報酬債権または報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日
- 電子記録債権で支払う場合はその額および支払期日
- 電子マネー等の資金移動業者を通じてで支払う場合はその資金移動業の事業者の名称および金額
1.発注事業者およびフリーランスの名称
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(1)業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
(以下省略)
「業務委託事業者および特定受託事業者の商号、氏名もしくは名称または事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者および特定受託事業者を識別できるもの(施行規則第1条第1項第1号)」は、発注事業者とフリーランスの名称(商号や屋号等)や記号のことです。
発注事業者は、発注事業者とフリーランスを「識別できる情報(氏名又は登記されている名称に限らない。)を明示する必要がある」とされています(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(3)ア)。
一般的な契約書を三条通知として運用する場合は、より厳格に当事者を識別できるよう、称号・名称に加えて、住所・所在地、署名者・記名者の役職と氏名を記載します。
なお、契約当事者に関する明示項目は、下請法と同様です。
2.業務委託をした日(業務委託をすることについて合意した日)
フリーランス保護法では業務委託の合意日=契約締結の日
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(2)業務委託(法第二条第三項に規定する業務委託をいう。以下同じ。)をした日
「業務委託(略)をした日」とは、いわゆる「契約締結日」のことです。
この業務委託をした日は、次のとおり、発注事業者とフリーランスとの間で、「業務委託をすることについて合意した日」とされています。
イ 業務委託をした日(本法規則第1条第1項第2号)
業務委託(法第二条第三項に規定する業務委託をいう。以下同じ。)をした日」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で、業務委託をすることについて合意した日をいう。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)イ
この点について、発注書・注文書を三条通知として使用する場合、発注書・注文書は契約の申込みを証する書面でしかありません。
つまり、発注書・注文書を交付した時点ではまだ契約は成立しないため発注書・注文書には、「業務委託をした日=契約締結日」は記載されていないこととなります。
よって、フリーランス保護法が適用される場合、発注事業者としては、発注書・注文書(と受注書・注文請書)の使用は、望ましくはありません。
フリーランス保護法が適用される場合は個別契約書かWebアプリ・Webサービスを使う
これに対し、発注書・注文書(と受注書・注文請書)とは異なり、個別契約書は、契約締結日が明記されます。
このため、フリーランス保護法が適用される場合、発注事業者としては、個別契約書の使用が望ましいといえます。
また、一部のWebアプリやWebサービスでは、発注日とは別に、契約締結日(契約成立日)も併せて出力される場合もあります。
この場合は、下請法の三条書面(発注日。次項において詳述)、フリーランス保護法の三条通知(契約締結日)の両者の規制を満たすこととなります。
下請法では製造委託等をした日=発注日
なお、下請法では、三条書面において「製造委託等をした日」を記載する義務があります。
三条書面の交付の時期は「製造委託等をした場合は、直ちに」となっていますが、これは、以下のとおり、「発注した場合『直ちに』書面を交付する義務がある」とされています。
- Q32:3条書面は様式を問わないので契約書を3条書面とすることも可能と聞いたが、発注後、契約締結まで日数を要する場合、どの程度までなら「直ちに」交付したといえるか。
- A:「直ちに」とは「すぐに」という意味である。親事業者には、発注した場合「直ちに」書面を交付する義務があるので、発注から契約締結までに日数を要するのであれば、発注後、直ちに交付したとはいえない。そのような場合には、契約書とは別に必要事項を記載した書面(3条書面)を、発注後直ちに交付しなければならない。
引用元:下請取引適正化推進講習会テキストp.31
逆に言えば、三条書面の交付の時期は、「契約締結した場合直ちに」ではないことを意味しています。
つまり、下請法の「製造委託等をした日」は、フリーランス保護法とは異なり、「契約締結の日」ではなく「発注日」のことを意味しています。
このため、フリーランス保護法と下請法が重畳適用される契約の場合は、契約締結の日と発注日をそれぞれ分けて記載する必要がある場合があります。
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
日付の記載 | 「業務委託をした日」=「業務委託をすることについて合意した日」=契約締結日 | 「製造委託等をした日」=「発注日」 |
内容
業務内容は「品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する」
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(3)特定受託事業者の給付(法第二条第三項第二号の業務委託の場合は、提供される役務。第六号において同じ。)の内容
「特定受託事業者の給付(略)の内容」とは、いわゆる「業務内容」のことです。
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」によると、特定受託事業者の給付については、次のとおり記載しなければなりません。
ウ 特定受託事業者の給付の内容(本法規則第1条第1項第3号)
給付(法第二条第三項第二号の業務委託の場合は、提供される役務。第六号において同じ。)の内容」とは、業務委託事業者が特定受託事業者に委託した業務が遂行された結果、特定受託事業者から提供されるべき物品及び情報成果物(役務の提供を委託した場合にあっては、特定受託事業者から提供されるべき役務)であり、3条通知において、その品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要がある。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)ウ
なお、業務内容の基本的な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する
また、業務の遂行を通じて、フリーランスの知的財産権が発生する場合は、三条通知の「給付の内容」=業務内容として、次のとおり、知的財産権の譲渡または許諾の範囲を明確に記載する必要があります。
ウ 特定受託事業者の給付の内容(本法規則第1条第1項第3号)
(途中省略)
また、委託に係る業務の遂行過程を通じて、給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者は、目的物を給付させる(役務の提供委託については、役務を提供させる)とともに、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「給付の内容」とすることがある。この場合は、業務委託事業者は、3条通知の「給付の内容」の一部として、当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要がある。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)ウ
よって、フリーランスの知的財産権が発生する業務委託の場合は、知的財産権の譲渡または利用許諾等についても合意のうえ、その内容について、三条通知や個別契約書に記載する必要があります。
業務委託契約における成果物の知的財産権の帰属・権利処理のしかたにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、業務内容に関する明示項目は、下請法と同様です。
4.納期等(成果物の納期または役務提供の期日・期間)
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(4)特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日(期間を定めるものにあっては、当該期間)
「特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日(期間を定めるものにあっては、当該期間)」とは、いわゆる「納期」「業務実施日(履行期日)」「業務実施期間(履行期間)」等のことです。
フリーランス保護法施行規則の条文上は、「期限」という表現はありませんが、実務上は、契約書において、以下のいずれかの記載をすることが多いです。
期限・期日・期限の記載
- 成果物の納入または役務提供の期日
- 成果物の納入または役務の提供の期限
- 役務提供の期間
この他、納期、納入期日・納入期限、役務提供期日・役務提供期間等の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、納期等に関する明示項目は、下請法と同様です。
5.納入場所等
納入・役務提供の場所を明記する
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(5)特定受託事業の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
「特定受託事業の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所」とは、物品や成果物を納入するタイプの委託では、いわゆる「納入場所・納品場所」のことです。
また、物品を納入しないタイプの委託では、「作業=役務の提供場所」になります。
なお、「給付」の内容によっては、物品・成果物の納入と作業の提供の両者が発生することがありますので、その場合は両者を規定します。
納入・役務提供の場所を明示しなくてもいい場合は?
なお、以下の2点の場合は、納入・役務提供場所について明示する必要はありません。
納入・役務提供場所について明示しなくてもいい場合
- 委託内容=業務内容に給付を受領する場所等が明示されている場合
- 給付を受領する場所等の特定が不可能な委託内容の場合
オ 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所(本法規則第1条第1項第5号)
(途中省略)
ただし、主に役務の提供委託において、委託内容に給付を受領する場所等が明示されている場合や、給付を受領する場所等の特定が不可能な委託内容の場合には、場所の明示は要しない。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)オ
電子メールアドレス等の明示でもいい場合は?
また、情報成果物作成委託における電子データの成果物などについては、有体物としての記録媒体(CD-R等)を納入するのではなく、電子データそのものを電子メール等に添付して納入することがあります。
このような場合は、納入場所を明示するのではなく、納入先である電子メールアドレス等を明示することとなります。
オ 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所(本法規則第1条第1項第5号)
(途中省略)
また、給付を受領する場所等について、主に情報成果物の作成委託において、電子メール等を用いて給付を受領する場合には、情報成果物の提出先として電子メールアドレス等を明示すれば足りる。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)オ
この他、納入場所につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
納入・役務提供場所 | 情報成果物の提出先としては電子メールアドレス等の記載で足りる | 電子メールアドレス等の記載までは求められない |
6.検査完了日(検査をおこなう場合)
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(6)特定受託事業の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
「検査を完了する期日」とは、発注事業者が受入検査をする場合における検査完了日のことで、一般的には検査期間の最終日のことを意味します。
契約実務上は、納入・納品のが完了した日から起算して、具体的な日付を区切って指定することが多いです。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】検査に関する条項
第○条(検査)
受託者からの本件製品の納入があった場合、委託者は、納入があった日から起算して10日以内に、納入された本件製品の検査を実施するものとする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
なお、この記載事項は、あくまで「検査をする場合は」とあるとおり、検査がある場合に限った内容であり、検査をしない場合は記載する必要はありません。
この他、検査期間の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、検査完了日に関する明示項目は、下請法と同様です。
7.報酬の額(算定方法による記載も可)
あくまで金額で規定することが原則
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(7)報酬の額及び支払期日
報酬の額とは、報酬や委託料の金額または計算方法です。
報酬の額については、原則として金額で規定することとなりますが、例外として、算定方法によることも認められる場合もあります。
(ア)具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合(本法規則第1条第3項)
3条通知により明示する「報酬の額」は、特定受託事業者の給付に対し支払うべき代金の額をいい、3条通知には具体的な金額を明確に記載することが原則であるが、具体的な金額を明示することが困難なやむを得ない事情がある場合には、報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法を明示することも認められる。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)キ(ア)
金額が確定したら別途明示する
また、計算方法により記載した場合は、金額が確定したときは、発注事業者は、フリーランスに対し、直ちに金額を明示しなければばりません。
(ア)具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合(本法規則第1条第3項)
(途中省略)
報酬の具体的な金額を確定した後、速やかに特定受託事業者に当該金額を明示する必要がある。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)キ(ア)
知的財産権の対価を報酬に加える
なお、フリーランスの知的財産権が発生する場合において、その知的財産権の譲渡・許諾があるときは、その知的財産権の譲渡・許諾の対価も報酬に加えて明示する必要があります。
(イ)知的財産権の譲渡・許諾がある場合
業務委託の目的物たる給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者が目的物を給付させる(役務の提供委託については、役務を提供させる)とともに、当該知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを含めて業務委託を行う場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を報酬に加える必要がある。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)キ(イ)
この他、報酬・料金の金額・計算方法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、報酬の額に関する明示項目は、下請法と同様です。
8.報酬の支払期日
60日ルールとは?
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(7)報酬の額及び支払期日
報酬の支払期日は、文字どおり報酬の支払期日・支払期限のことです。
フリーランス保護法では、発注事業者(ただし、特定業務委託事業者に限る)からの支払期日は、「給付を受領した日」や「役務の提供を受けた日」から起算して最長でも60日となっています。
フリーランス保護法による支払期日の制限
フリーランス保護法が適用される業務委託契約における支払期日は、発注事業者(特定業務委託事業者)による検査の有無にかかわらず、発注事業者がフリーランスからの給付を受領した日・役務の提供を受けた日、つまり納入があった日または業務が終了した日(初日を算入する)から起算して60日以内が最長。
この制限のことを、「60日ルール」といいます。
【意味・定義】60日ルール(フリーランス保護法)とは?
60日ルールとは、フリーランス保護法が適用される業務委託契約における支払代金の支払期日について、検査の有無にかかわらず、特定業務委託事業者が特定受託事業者からの給付を受領した日・役務の提供を受けた日(初日を算入する)から起算して60日以内を最長とするルールをいう。
なお、下請法同様、60日ルールには、「初日不算入の原則」は適用されず、初日を算入しますので、注意してください。
【意味・定義】初日不算入の原則とは?
初日不算入の原則とは、日、週、月または年によって期間を定めた場合、期間の初日は算入しない原則をいう。
民法第140条(初日不算入の原則)
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
再委託の場合の60日ルールの特例(30日ルール)とは?
なお、発注事業者(ただし、特定委託事業者に限る)からフリーランスに対する業務委託が他の事業者(=元委託者)からの業務委託(=元委託業務)の再委託である場合、一定の条件を満たすことで、60日ルールの特例が適用されます(フリーランス保護法第4条第3項)。
その条件とは、以下の3つの事項を明示することです。
再委託の場合における60日ルールの例外のが適用される明示事項
- 再委託である旨(再委託であることを把握し得る程度のもの)
- 元委託者の商号、氏名もしくは名称または事業者別に付された番号、記号その他の符号であって元委託者を識別できるもの
- 元委託業務の対価の支払期日(=元委託支払期日)
発注事業者がフリーランスに対しこれらの内容を明示した場合、元委託支払期日から起算して最長で30日(初日を算入する)の期間内に報酬の支払期日を定めることができます。
この他、フリーランス保護法における60日ルールにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
支払期日 | 原則:60日ルール 例外:30日ルール(再委託の場合に限り、一定の事項を明示したうえで、元委託支払期日から起算して最長で30日。) | 60日ルールのみ |
9.手形を交付する場合はその金額(支払比率でも可)および満期
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(8)報酬の全部又は一部の支払いにつき手形を交付する場合は、その手形の金額及び満期
手形にはいくつかの種類がありますが、現在、企業間取引の決済手段・支払方法として使われているのは、約束手形です。
【意味・定義】約束手形とは?
約束手形とは、有価証券の一種で、振出人が、受取人(またはその指図人)・手形所持人に対し、一定の期日(支払期日・満期)が到来した後で、現金を支払うことを約束して発行するものをいう。
フリーランス保護法では、この手形による報酬の支払いが認められています。
「手形の金額及び満期」は、報酬のうちの手形による支払いの金額と満期のことを意味します。
この他、手形による支払いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、手形による支払いに関する明示項目は、下請法と同様です。
10.一括決済方式で支払う場合は金融機関名、貸付け又は支払可能額、金融機関へ支払う期日
一括決済方式とは?
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(9)報酬の全部又は一部の支払につき、債権譲渡担保方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債権を担保として、金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付けを受ける方式)又はファクタリング方式(特定受託事業者が報酬の額に相当する報酬債権を金融機関に譲渡することにより、当該金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の支払を受ける方式)もしくは併存的債務引受方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債務を業務委託事業者と共に負った金融機関から、当該報酬の額に相当する金銭の支払いを受ける方式)により金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の賃付け又は支払を受けることができることとする場合は、次に掲げる事項
イ 当該金融機関の名称
ロ 当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額
ハ 当該報酬債権又は当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日
一括決済方式は、電子記録債権(次項で解説)と同様に、手形に代わるものとして普及した支払方法です(一括決済方式は、あくまで下請法における呼び方です)。
【意味・定義】一括決済方式とは?
一括決済方式とは、委託者と受託者に加えて、金融機関(主に銀行やファクタリング会社)との三面契約・三者契約により、委託者から受託者への支払いにもとづく金銭債権について、委託者と受託者の間に金融機関を入れることで、受託者への金銭の貸付または支払いによって、委託者からの支払いを現金化する支払方法をいう。
代表的な一括決済方式としては、債権譲渡担保方式、ファクタリング方式(債権買取方式)、併存的債務引受方式の3つがあります。
フリーランス保護法が適用される業務委託契約では、この3つの方式での支払いが認められています。
一括決済方式は、電子記録債権とは異なり、銀行やファクタリング会社が直接当事者として関与して、フリーランスに対して金銭の貸付または支払いをすることによって、フリーランスが現金を受取ることができる、という特徴があります。
一括決済方式での必須明示項目とは?
一括決済方式での報酬の支払いの場合は、以下の3つについて明示する必要があります。
一括決済方式における明示事項
- 金融機関の名称
- 金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額
- 報酬債権又は当該報酬債務の額に相当する金銭を金融機関に支払う期日
「金融機関の名称」は、文字どおり一括決済方式に関与する金融機関の名称のことです。
「金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額」は、一括決済方式によりフリーランスが支払いを受ける金額のことです。
「報酬債権又は当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日」は、発注事業者から金融機関に対する支払いの期限です。
この他、一括決済方式による支払いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、一括決済方式による支払いに関する明示項目は、下請法と同様です。
11.電子記録債権で支払う場合はその額および支払期日
電子記録債権(でんさい)とは?
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(10)報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者及び特定受託事業者が電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下同じ。)の発生記録(電子記録債権法第十五条に規定する発生記録をいう。)をし又は譲渡記録(電子記録債権法第十七条に規定する譲渡記録をいう。)をする場合は、次に掲げる事項
イ 当該電子記録債権の額
ロ 電子記録債権法第十六条第一項第二号に規定する当該電子記録債権の支払期日
電子記録債権は、政府の指定を受けた電子債権記録機関に発生・譲渡などを記録することにより、決済手段として活用できる債権です。
電子記録債権法第2条(定義)
1 この法律において「電子記録債権」とは、その発生又は譲渡についてこの法律の規定による電子記録(以下単に「電子記録」という。)を要件とする金銭債権をいう。
(以下省略)
【意味・定義】電子記録債権とは?
電子記録債権とは、電子記録債権法にもとづく電子的な債権のことで、電子債権記録機関による電子的な記録により、手形や債権譲渡と同様の決済を電子的にできるものをいう。
フリーランス保護法が適用される業務委託契約では、電子記録債権での支払いが認められています。
電子記録債権での支払いの場合の必須明示項目は?
「電子記録債権の額」は、報酬のうち、電子記録債権で支払われる金額のことを意味します。
「電子記録債権の支払期日」は、電子記録債権法第16条第1項2号に規定する支払期日、つまり支払期限に相当する日のことです。
この他、電子記録債権による支払いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、電子記録債権による支払いに関する明示項目は、下請法と同様です。
12.電子マネー等の資金移動業者を通じて支払う場合はその資金移動業の事業者の名称および金額
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則第1条
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
(途中省略)
(11)報酬の全部または一部の支払につき、業務委託事業者が、資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第三十六条の二第一項に規定する第一種資金移動業を営む同法第二条第三項に規定する資金移動業者(以下単に「資金移動業者」という。)の第一種資金移動業に係る口座、同法第三十六条の二第二項に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者の第二種資金移動業に係る口座または同条第三項に規定する第三種資金移動業を営む資金移動業者の第三種資金移動業に係るロ座への資金移動を行う場合は、次に掲げる事項
イ 当該資金移動業者の名称
ロ 当該資金移動に係る額
「資金移動業者」とは、いわゆる電子マネー等の事業者のことを意味します。
フリーランス保護法が適用される業務委託契約では、下請法とは異なり、電子マネー等での支払いが認められています。
電子マネー等での報酬の支払いの場合、発注事業者は、フリーランスに対し、電子マネー等の事業者の名称と報酬のうち電子マネーで支払われる金額について明示する必要があります。
三条通知と三条書面の違い
フリーランス保護法の三条通知における支払方法としては、電子マネー等が認められ、下請法の三条書面における支払方法としては電子マネー等は認められない。
補足:下請法とは異なり原材料等の有償支給に関する規定はない
なお、下請法が適用される取引の場合、「製造委託等に関し原材料等を親事業者から購入させる場合は、その品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済の期日及び方法」を三条書面に明記する必要があります。
しかしながら、フリーランス保護法には、同様の規定はありません。
このため、フリーランス保護法のみが適用される業務委託契約では、特に原材料の有償支給=売買契約について、明示する必要はありません。
ただ、原材料の有償支給については、口約束だけではトラブルの元になりますので、別途売買契約を締結するべきです。
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
原材料等の有償支給 | 明示義務なし | 原材料等の「品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済の期日及び方法」の表示義務あり |
三条通知の明示の方法は?
三条通知は書面の交付・電磁的方法のいずれかによる
三条通知の明示の方法は、大きく分けて「書面の交付」と「電磁的方法による提供」のいずれかとなります。
より具体的には、以下の6つのうち、いずれかの方法となります。
三条書面の明示の方法
- 書面の交付(契約書の取交しを含む)
- 書面に出力されるファクシミリ(FAX)の送付
- 電子メールの送信
- ショートメッセージ・SNSのメッセージ機能による送信
- Webアプリ・Webサービス(電子契約サービスを含む)による表示
- 電磁的記録ファイルに出力されるファクシミリ(FAX)の送信
三条通知の方法1:書面の交付(契約書の取交しを含む)
三条通知の方法の1つめは、書面の交付です。
当然ながら、契約書も三条通知の記載事項が網羅されていれば、この書面に該当します。
書面は、一方的に交付する通知書でも差し支えないですが、その場合は、発注事業者には交付した証拠が残りません。
このため、三条通知を書面で交付する場合は、三条通知の要件を満たした契約書を2部作成して、相互に取交すこととなります。
三条通知の方法2:書面に出力されるファクシミリ(FAX)の送付
三条通知の方法の2つめは、書面に出力されるファクシミリ(FAX)の送付です。
具体的には、フリーランス側のFAX機能がある電話、コピー機、複合機などのうち、書面で出力されるものへの送付です。
なお、発注事業者からのFAXの送信そのものは、一般的には契約成立の証拠とはならないことから、別途契約締結の手続きが必要となります。
このため、FAXの送信は、別の手続き(例:注文書・注文請書の交付)で契約を成立させたうえで、改めて三条通知として書面を交付する場合等で使用します。
このような手続きは実務上は非常に煩雑で手間がかかりますので、よほど例外的な状況でない限り別の方法を検討するべきでしょう。
三条通知の方法3:電子メールの送信
三条通知の方法の3つめは、電子メールの送信です。
下請法の三条書面とは異なり、電子メールへの電子ファイルの添付は必須ではありませんが推奨されています。
例えば、次のような方法は、電子メール等により送信する方法に該当する。
①業務委託事業者が明示事項を記載した電子ファイルを添付して、特定受託事業者の指定する電子メールアドレス宛てに電子メールを送信する方法
(以下省略)
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(5)イ(ア)①
なお、発注事業者からの電子メールの送信そのものは、一般的には契約成立の証拠とはならないことから、別途契約締結の手続きが必要となります。
このため、電子メールの送信は、別の手続き(例:注文書・注文請書の交付、Webアプリ・Webサービスの使用)で契約を成立させたうえで、改めて三条通知として電磁的方法で提供する場合等で使用します。
三条通知の方法4:ショートメッセージ・SNSのメッセージ機能による送信
三条通知の方法の4つめは、ショートメッセージ(SMS)やSNSのメッセージ機能による送信です。
下請法の三条書面とは異なり、ショートメッセージ(SMS)やSNSのメッセージには電子ファイルの添付は必須ではありません。
この際、特にSNSでは、ダイレクトメッセージ(DM)のように「第三者が関覧することができない」ことが必要です。
例えば、次のような方法は、電子メール等により送信する方法に該当する。
(途中省略)
②ソーシャルネットワーキングサービスにおいて第三者が関覧することができないメッセージ機能がある場合に、業務委託事業者が当該メッセージ機能を利用して、明示事項を記載したメッセージを特定受託事業者宛てに送信する方法
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(5)イ(ア)②
なお、発注事業者からのSMSやDMの送信そのものは、一般的には契約成立の証拠とはならないことから、別途契約締結の手続きが必要となります。
このため、SMSやDMの送信は、別の手続き(例:注文書・注文請書の交付、Webアプリ・Webサービスの使用)で契約を成立させたうえで、改めて三条通知として電磁的方法で提供する場合等で使用します。
三条通知の方法5:Webアプリ・Webサービス(電子契約サービスを含む)による表示
三条通知の方法の5つめは、Webアプリ・Webサービスによる表示です。
いわゆる電子契約サービスなども、これに該当します。
例えば、次のような方法は、電子メール等により送信する方法に該当する。
(途中省略)
③業務委託事業者が明示事項のー部を掲載しているウェブページをあらかじめインターネット上に設けている場合に、業務委託事業者が他の明示事項とともに、当該ウェブページのURLを記載して特定受託事業者宛てに電子メールにより送信する方法
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(5)イ(ア)③
Webアプリ・Webサービス・電子契約サービスは、電磁的方法による提供としては三条通知と契約締結の手続きの両者を同時にできることから、効率よく三条通知と契約締結ができます。
このため、発注事業者としては、三条通知の方法として、こうしたWebアプリ・Webサービス・電子契約サービス等の使用を検討するべきでしょう。
三条通知の方法6:電磁的記録ファイルに出力されるファクシミリ(FAX)の送信
三条通知の方法の6つめは、電磁的記録ファイルに出力されるファクシミリ(FAX)の送信です。
例えば、次のような方法は、電子メール等により送信する方法に該当する。
(途中省略)
④業務委託事業者が明示事項を記載した書面等を、電磁的記録をファイルに記録する機能を有する特定受託事業者のファクシミリへ送信する方法
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(5)イ(ア)④
なお、書面のFAX同様、発注事業者からのFAXの送信そのものは、一般的には契約成立の証拠とはならないことから、別途契約締結の手続きが必要となります。
このため、FAXの送信は、別の手続き(例:注文書・注文請書の交付)で契約を成立させたうえで、改めて三条通知として書面を交付する場合等で使用します。
このような手続きは実務上は非常に煩雑で手間がかかりますので、よほど例外的な状況でない限り別の方法を検討するべきでしょう。
補足1:下請法とは異なり電子ファイルの添付は必須ではない
すでに述べたとおり、フリーランス保護法の三条通知では、電磁的方法による提供の場合は、電子ファイルの出力ができようにファイルの添付は必須ではありません(電子メールの送信の場合は推奨されています)。
これに対し、下請法の三条書面では、「下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない」(下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則第2条第2項)とされています。
なお、フリーランス保護法と下請法が重畳適用される場合は、ファイルの添付が必須となります。
このため、電磁的方法で提供する場合は、いずれにしてもファイルの添付ができる機能が実装されている方法を利用するべきです。
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
電磁的方法の場合の電子ファイルへの出力 | 必須ではない | 必須 |
補足2:下請法とは異なり電磁的方法による提供はフリーランスからの事前承諾は不要
フリーランス保護法では、電磁的方法による三条通知の提供について、事前にフリーランスから承諾を得る必要はありません。
なお、業務委託事業者は、③条通知を電磁的方法により提供することについて、事前に特定受託事業者の承諾を得る必要はない。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(5)イ
これに対し、下請法では、電磁的方法による三条書面の提供について、下請事業者の事前の承諾が必要です。
しかも、その承諾についても、細かな条件があります。
下請事業者の事前承諾
電磁的方法による三条書面の交付に必要な下請事業者の事前承諾の条件
- あらかじめ書面または電磁的方法による承諾を得ること(下請法施行令第2条第1項)
- 三条書面を交付する電磁的方法の種類および内容を明記すること(下請法施行令第2条第1項)
- 種類については、電磁的方法について明記すること(下請法三条規則第3条第1号)
- 内容については、「ファイルへの記録の方法」を明記すること(下請法三条規則第3条第2号)
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
電磁的方法の事前承諾 | 不要 | 必要 |
三条通知の明示の時期は?
三条通知を明示する時期は「業務委託契約の締結後直ちに」
三条通知は、発注事業者がフリーランスに対し「業務委託をした場合は、直ちに」明示しなければなりません(フリーランス保護法第3条第1項)。
ここでいう「業務委託をした場合」とは、「業務委託をすることについて合意した場合」とされています。
(1)業務委託をした場合
「業務委託をした場合」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で、業務委託をすることについて合意した場合をいう。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)
また、「直ちに」とは、「すぐにという意味で、一切の遅れを許さないこと」とされています。
(2)直ちに
「直ちに」とは、すぐにという意味で、一切の遅れを許さないことをいう。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(2)
よって、三条通知の明示の時期は、「業務委託契約の合意=契約締結があった後、直ちに」ということになります。
三条書面の交付の時期は「発注後直ちに」
これに対し、下請法の三条書面は、次のとおり、契約の締結前であっても、「発注後直ちに交付しなければならない」とされています。
- Q32:3条書面は様式を問わないので契約書を3条書面とすることも可能と聞いたが、発注後、契約締結まで日数を要する場合、どの程度までなら「直ちに」交付したといえるか。
- A:「直ちに」とは「すぐに」という意味である。親事業者には、発注した場合「直ちに」書面を交付する義務があるので、発注から契約締結までに日数を要するのであれば、発注後、直ちに交付したとはいえない。そのような場合には、契約書とは別に必要事項を記載した書面(3条書面)を、発注後直ちに交付しなければならない。
引用元:下請取引適正化推進講習会テキストp.31
よって、フリーランス保護法と下請法が重畳適用される場合において、発注の時期と契約締結の時期に差があるときは、三条書面の交付と三条通知の明示を別々におこなう必要があります。
具体的には、発注書・注文書と受注書・注文請書での受発注をおこなっている場合が該当します。
逆に、スポットの業務委託契約書を使用する場合や基本契約書と個別契約書を併用する場合は、発注の時期と契約締結の時期について明記できます。
このため、発注の時期と契約締結の時期に差があっても、特に問題はありません。
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
明示・交付の時期 | 業務委託契約の締結後直ちに | 発注後直ちに |
業務委託契約書=三条通知の書面・電磁的方法にできる
三条通知の明示事項を網羅していれば業務委託契約書だけでいい
すでに述べたとおり、三条通知は、書面の交付により明示することもできます。
このため、フリーランス保護法や同法施行規則に適合した内容であれば、業務委託契約書を三条通知の交付書面とすることもできます。
なお、この場合、発注事業者は、業務委託契約書を「業務委託契約の締結後直ちに」交付しなければなりません。
このため、発注事業者が署名または記名押印の手続きを完了した時点で業務委託契約が成立する場合は、発注事業者は、フリーランスに対し、直ちに業務委託契約書を交付する必要があります。
取引基本契約+個別契約でも三条通知の明示となる
なお、業務委託契約書単体で対処するのは、いわゆる「スポット」での取引きのように、1回だけ、または数回程度の取引きの場合です。
これに対し、継続的な業務委託契約では、いわゆる基本契約と個別契約で対応する場合があります。
【意味・定義】基本契約(取引基本契約)とは?
基本契約とは、継続的な売買契約、請負契約、準委任契約の取引の基本となる、個々の取引における共通した条項を規定した契約をいう。取引基本契約ともいう。
この基本契約の内容と個々の業務委託に関する合意(個別契約)の内容の両者を三条通知とすることも認められています。
(1)業務委託をした場合
(途中省略)
なお、業務委託事業者と特定受託事業者の間で、一定期間にわたって同種の業務委託を複数行う場合において、個々の業務委託ごとに同様の内容を取り決める手間を省く観点から、あらかじめ個々の業務委託に一定期間共通して適用される事項(以下「共通事項」という。)を取り決めることがある。この場合において「業務委託をした場合」とは、当該共通事項を取り決めた場合ではなく、後に個々の業務委託をすることについて合意した場合をいう。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)
この場合、個別契約の合意があった場合が、「業務委託をした場合」になります。
基本契約書を使う場合は発注書(注文書)・受注書(注文請書)ではなく個別契約書で対処する
発注書(注文書)は三条通知の交付書面にはならない
なお、取引基本契約書を使う場合、個別契約については、発注書・注文書と受注書・注文請書で対処する場合と個別契約書で対処する場合があります。
フリーランス保護法が適用される場合、発注書・注文書と受注書・注文請書による対処では、契約締結後に改めて三条書面(の補充書面)を交付する必要があります。
というのも、すでに述べたとおり、三条通知には、「業務委託をした日」=「業務委託をすることについて合意した日」=業務委託契約の締結日を記載しなければなりません。
この点について、発注書・注文書は、単なる契約の申込みを証する書面に過ぎません。
【意味・定義】注文書・発注書とは?
注文書・発注書とは、一方の契約当事者(委託者・発注者)から他方の契約当事者(受託者・受注者)に対する、何らかの契約の申込みの意思表示をするための書面をいう。
このため、一般的な発注書・注文書には、発注日は記載されていても契約の締結日は記載されていません。
よって、発注書・注文書は、それ単体では三条通知のすべての要件を満たしていることにはなりません。
発注書・注文書を使う場合は補充書面で「業務委託をした日」を明示する必要がある
このように、個別契約で発注書・注文書を使用する場合は、それだけでは「業務委託をした日」が確定しません。
よって、「業務委託をした日」が確定した場合、具体的には、フリーランスから受注書・注文請書が交付された場合に、その受注書・注文請書に記載された「受注日」が、一般的には「業務委託をした日」=業務委託をすることについて合意した日」に該当すると思われます。
この際、受注書・注文請書は発注事業者の手元に届くことになるため、その時点では、「業務委託をした日」は、フリーランスに対し明示されていないこととなります。
よって、発注事業者としては、フリーランスから受注書・注文請書の交付を受けた場合、改めて、「業務委託をした日」について、補充書面等により明示しなければなりません。
基本契約書を使う場合は個別契約書で対処する
このように、基本契約書を使った継続的な業務委託契約では、発注書・注文書は、それ単体では完全な三条通知として運用できず、後日、改めて「業務委託をした日」を記載した補充書面等で対応する必要が出てきます。
親事業者としては、こうした煩雑な手続きを回避するため、発注書・注文書や受注書・注文請書ではなく、個別契約書による運用が望ましいです。
個別契約書を使用する場合は、「業務委託をした日」は、いわゆる契約締結日として記載されますので、それ単体で三条通知として使用できます。
三条通知としての業務委託契約書の使い方
- スポット=1回だけの取引:業務委託契約書を使う。
- 継続的取引:取引基本契約書+個別契約書を使う。
なお、フリーランス保護法と下請法が重畳適用される場合であっても、個別契約書には下請法の三条書面の必須記載項目である「発注日」が記載できますので、こちらも問題なく使用できます。
Webサービス・Webアプリ・電子契約サービスで対処する
なお、Webサービス・Webアプリ・電子契約サービス等を使用する場合、フリーランス保護法の「業務委託をした日」=業務委託をすることについて合意した日」が明示されるかどうかがポイントとなります。
同様に、下請法が重畳適用される場合は、「製造委託等をした日」=「発注日」が表示されるかどうかもポイントとなります。
この両者が表示されるWebサービス・Webアプリ・電子契約サービス等を使用する場合は、スポットの業務委託契約書、基本契約書+発注書(注文書)・受注書(注文請書)、基本契約書+個別契約書のいずれのものでも対応可能です。
よって、紙の契約書ではなく、Webサービス・Webアプリ・電子契約サービス等を使用した方が、より効率的に三条通知・三条書面の契約業務を実施できることとなります。
ポイント
- フリーランス保護法第3条と同法施行規則に適合していれば、業務委託契約書を三条通知の交付書面とすることは可能。
- 基本契約書を使用する場合、注文書・発注書には「業務委託をした日」が記載できないため、後日改めて補充書面等で対応する必要がある。
- 基本契約書を使用する場合は、個別契約は、それ単体で三条通知の交付書面となる個別契約書で対応するべき。
- Webサービス・Webアプリ・電子契約サービス等を使用することで、効率的に三条通知・三条書面の明示・交付ができる。
三条通知を明示しないと最大で50万円の罰金が個人単位にも科される
三条通知を明示しないと勧告・命令・公表の対象となる
発注事業者が三条通知を明示しない場合、勧告の対象となります。
フリーランス保護法第8条(勧告)
1 公正取引委員会は、業務委託事業者が第三条の規定に違反したと認めるときは、当該業務委託事業者に対し、速やかに同条第一項の規定による明示又は同条第二項の規定による書面の交付をすべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 (以下省略)
【意味・定義】勧告とは?
勧告とは、行政機関がその任務または所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を勧め促す行為をいう。
また、発注事業者がこの勧告に違反して三条通知を明示等しなかった場合は、命令と公表の対象となります。
フリーランス保護法第9条(命令)
1 公正取引委員会は、前条の規定による勧告を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、当該勧告を受けた者に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
2 公正取引委員会は、前項の規定による命令をした場合には、その旨を公表することができる。
【意味・定義】命令とは?
命令とは、行政機関がその任務または所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を命ずる行為をいう。一般的に、命令に違反した場合は罰則が伴う。
三条通知の命令に違反すると50万円の罰金が法人と担当者個人に科される
発注事業者がこの三条通知の命令に違反して三条通知を明示しなかった場合は、最大で50万円以下の罰金が科されます。
フリーランス保護法第24条(命令)
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
(1)第九条第一項又は第十九条第一項の規定による命令に違反したとき。
(2)第十一条第一項若しくは第二項又は第二十条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
ポイントは、発注事業者である法人だけに罰金が科されるのではなく、「その違反行為をした発注事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」にも罰金が科される、ということです。
フリーランス保護法第25条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。
つまり、会社で50万円を払えばいい、というものではないのです。しかも、50万円とはいえ、いわゆる「前科」がつきます。
なお、発注事業者である法人にも、罰金は科されます。
下請法第12条(罰則)
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。
ポイント
- 三条通知の明示をしない場合は勧告・命令・公表の対象。
- 三条通知の明示についての命令違反は犯罪行為。
- しかも法人だけでなく個人にも罰金が科される。
三条通知と三条書面の違い
すでに述べたとおり、三条通知と三条書面には、次のような違いがあります。
三条通知と三条書面の違い | ||
---|---|---|
三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
日付の記載 | 「業務委託をした日」=「業務委託をすることについて合意した日」=契約締結日 | 「製造委託等をした日」=「発注日」 |
納入・役務提供場所 | 情報成果物の提出先としては電子メールアドレス等の記載で足りる | 電子メールアドレス等の記載までは求められない |
支払期日 | 原則:60日ルール 例外:30日ルール(再委託の場合に限り、一定の事項を明示したうえで、元委託支払期日から起算して最長で30日。) | 60日ルールのみ |
原材料等の有償支給 | 明示義務なし | 原材料等の「品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済の期日及び方法」の表示義務あり |
電磁的方法の場合の電子ファイルへの出力 | 必須ではない | 必須 |
電磁的方法の事前承諾 | 不要 | 必要 |
明示・交付の時期 | 業務委託契約の締結後直ちに | 発注後直ちに |
罰則・刑事罰 | 三条通知の不明示にもとづく命令違反の場合に50万円以下の罰金 | 三条書面の不交付の場合は50万円以下の罰金 |
補足1:フリーランス保護法が適用される条件とは?
フリーランス保護法は特定の当事者と業務委託の内容に該当すると適用される
フリーランス保護法では、すべての企業間取引が適用対象となるわけではありません。
フリーランス保護法が適用される企業間取引は、委託者が業務委託事業者または特定業務委託事業者であり、受託者が特定受託事業者である場合に限られます。
フリーランス保護法の適用対象となる3つの事業者
- 特定受託事業者:個人事業者または役員が1人だけの法人(いずれも従業員を使用しないものに限る)
- 業務委託事業者:特定受託事業者に対し業務委託をする事業者(三条通知の明示義務の対象者)
- 特定業務委託事業者:業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人事業者または役員が2人以上いる、もしくは従業員を使用する法人(業務委託の期間により様々な規制が課される)
つまり、事業者として従業員を使用しない個人事業者または一人法人に対して業務委託をする場合は、フリーランス保護法の適用対象となる可能性があります。
そして、これらが当事者となる企業間取引のうち、特定の業務委託の内容のものが、フリーランス保護法の適用対象となります。
具体的には、物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供のいずれかの業務委託の場合が、フリーランス保護法の適用対象となります。
【意味・定義】業務委託(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における業務委託とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む)、情報成果物の作成、役務の提供(自らに役務の提供をさせることを含む)を委託することをいう。
フリーランス保護法第2条(定義)
3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
フリーランス保護法の規制内容とは?
フリーランス保護法には、主に以下の7つの規制があります。
フリーランス保護法の7つの規制
- 三条書面の明示
- 60日ルール
- 禁止行為
- フリーランスの募集広告における募集情報の的確表示義務
- フリーランスの妊娠・出産・育児・介護に対する発注事業者の配慮義務
- フリーランスに対するハラスメントに関する発注事業者の配慮義務
- 30日前の契約の予告解除・予告不更新
これらの規制は、発注事業者の従業員や業務委託の期間の内容によって、課される内容が異なります。
具体的には、発注事業者が事業者(≠一般消費者)であり、フリーランスが特定受託事業者(従業員を使用しない個人事業者または一人法人)である場合、従業員・役員の人数と業務委託の期間に応じて、次の4つの区分で規制が課されます。
フリーランス保護法の規制内容 | ||
---|---|---|
発注事業者の使用従業員・代表以外の役員 | 業務委託の期間 | 規制内容 |
0人 | ― |
|
1人以上 | 1ヶ月未満 |
|
1ヶ月以上6ヶ月未満 |
| |
6ヶ月以上 |
|
この他、フリーランス保護法が適用される詳細な条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足2:三条通知は保存義務や保存期間はない
三条通知には、発注事業者・フリーランスともに、保存義務や保存期間はありません。
そもそも、三条通知は、発注事業者からフリーランスに明示されるものですので、発注事業者の手元には残りません。
このため、発注事業者が三条明示を「保存する」こと自体、フリーランス保護法では想定されていません。
また、フリーランスに交付された三条通知の書面・電磁的記録についても、特にフリーランス保護法では、保存期間は設定されていません。
三条書面の保存期間・保存義務
フリーランス保護法では、三条通知の保存期間や保存義務はない。
これは、下請法における三条書面についても同様です。
なお、これはあくまでフリーランス保護法における話であり、別の法律(会社法等)にもとづく場合や、会計証憑として、三条通知(発注事業者の場合はその写しや契約書など)の保存義務がある場合もあります。
補足3:フリーランス保護法には下請法の「五条書類」に該当するものはある?
フリーランス保護法には「五条書類」「五条書面」はない
下請法には、いわゆる「五条書類」(五条書面)があります。
下請法第5条(書類等の作成及び保存)
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託をした場合にあつては、下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成し、これを保存しなければならない。
【意味・定義】五条書類・五条書面とは?
五条書類(書面)とは、下請法第5条にもとづき、親事業者が、作成し、保存しなければならない書類。
これに対し、フリーランス保護法には、下請法の五条書類に相当する書面や電磁的記録はありません。
下請法が重畳適用される場合は五条書類の作成は必須
なお、フリーランス保護法と下請法が両方適用される場合(重畳適用)、フリーランス保護法の発注事業者は、同時に下請法の親事業者にも該当します。
このため、フリーランス保護法だけでなく下請法も適用される場合は、発注事業者(親事業者)は、下請法にもとづき、五条書類の作成義務があります。
五条書類・五条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足4:書面の三条通知と注文書・発注書の関係
三条通知の交付書面と注文書・発注書は、ともに契約の内容を通知する書面である点で共通しています。
ただ、注文書・発注書は、部分的には三条通知の交付書面とすることができますが、それ単体で完全な三条通知の交付書面とすることはできません、
というのも、発注事業者は、三条通知として、「業務委託をした日」=「業務委託をすることについて合意した日」=業務委託契約の締結日を明示しなければなりません。
しかしながら、注文書・発注書は、あくまで契約の申込みを証する書面に過ぎませんので、発注日は記載されていても、業務委託契約の締結日は記載されていません。
よって、三条通知の交付書面として注文書・発注書を使用する場合、発注事業者は、フリーランスに対し、後日改めて業務委託契約の締結日を記載した補充書面等を交付する必要があります。
補足5:フリーランス保護法の施行日(施行期日)は2024年11月1日
フリーランス保護法の施行日(施行期日)は、2024年(令和6年)11月1日となっています。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の施行期日を定める政令
内閣は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)附則第一項の規
定に基づき、この政令を制定する。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の施行期日は、令和六年十一月一日とする。
このため、施行日(施行期日)以前に締結された業務委託契約につきましては、フリーランス保護法は適用されません。
ただし、施行日(施行期日)以前に締結された業務委託契約であっても、施行日(施行期日)以後に更新された場合、更新後の業務委託契約については、フリーランス保護法が適用されます。
なお、当然ながら、施行日(施行期日)以後に締結された業務委託契約については、フリーランス保護法が適用されます。
この他、フリーランス保護法の施行日(施行期日)と既存の業務委託契約との関係につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
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- 1 【意味・定義】三条通知とは?
- 2 フリーランス保護法第3条の適用対象かどうかの条件とは?
- 3 三条通知で明示するべき12の必須事項
- 4 三条通知の明示の方法は?
- 5 三条通知の明示の時期は?
- 6 業務委託契約書=三条通知の書面・電磁的方法にできる
- 7 三条通知を明示しないと最大で50万円の罰金が個人単位にも科される
- 8 三条通知と三条書面の違い
- 9 補足1:フリーランス保護法が適用される条件とは?
- 10 補足2:三条通知は保存義務や保存期間はない
- 11 補足3:フリーランス保護法には下請法の「五条書類」に該当するものはある?
- 12 補足4:書面の三条通知と注文書・発注書の関係
- 13 補足5:フリーランス保護法の施行日(施行期日)は2024年11月1日
- 14 フリーランス保護法違反とならない契約書・注文書・発注書(三条通知)を作成しよう