コンサルティング契約は、一般的には、経営コンサルタントやコンサルティングファームが、なんらかのコンサルティング業務を提供し、クライアントが、その対価として、報酬・料金・委託料を支払う契約です。
「コンサルティング契約」や「コンサルティング業務」には、法律上の明確な定義はありません。
このため、実際には、コンサルティング契約やコンサルティング業務の内容は、経営コンサルタントやコンサルティングファーム、また、案件によっても様々で、統一的な定義があるわけではありません。
そこで、実際のコンサルティング契約では、コンサルティング契約書の記載内容によって、コンサルティング契約やコンサルティング業務の内容を明確に定義づけることが、非常に重要となります。
コンサルティング契約とは?
【意味・定義】コンサルティング契約とは?
一般的なコンサルティング契約は、受託者(経営コンサルタント)からの知識・情報・ノウハウ・助言=コンサル内容=コンサルティング業務の提供があり、これらのコンサル内容の提供の対価として、委託者(クライアント)からの金銭の支払いがある契約です。
【意味・定義】コンサルティング契約(経営コンサルタント契約)とは?
コンサルティング契約(経営コンサルタント契約)とは、経営コンサルタント・コンサルティングファームから、クライアントに対し、知識・情報・ノウハウ・助言の提供とその知的財産権の利用許諾または譲渡があり、その対価として、クライアントから報酬・料金が支払われる契約をいう。
つまり、コンサルティング契約は、法令用語ではありません。
実際には、ひとくちに「コンサルティング契約」「コンサルティング業務」といっても、内容は様々です。
このため、コンサルティング契約の実務では、コンサルティング契約書で、契約内容を詳細に規定することが重要となります。
コンサルティング契約とアドバイザリー契約の違いは?
なお、コンサルティング契約と似たような名前の契約として、「アドバイザリー契約」という契約があります。
このアドバイザリー契約も、コンサルティング契約と同じく、法令用語ではなく、民法などの法律にもとづく定義がありません。
つまり、コンサルティング契約もアドバイザリー契約も法的な定義がない契約であるため、コンサルティング契約とアドバイザリー契約の違いについては、有るとも無いともいえません。
このため、「コンサルティング契約」であろうと、「アドバイザリー契約」であろうと、重要なのは名前ではなく、契約内容、つまり契約書に何が書いているのかが重要となります。
ポイント
- コンサルティング契約は、法律上の定義がない契約。このため、契約書で契約内容を詳細に規定することが重要となる。
- コンサルティング契約とアドバイザリー契約の違いは、有るとも無いともいえない。
- コンサルティング契約であろうとアドバイザリー契約であろうと、契約書の内容が重要となる。
コンサルティング契約は知的財産の創造・提供・利用許諾(譲渡)の契約
コンサルティング契約の3要素とは?
ただ、どのコンサルティング契約にも共通していえるのが、コンサルティング契約は、以下の3つの要素から構成されています。
コンサルティング契約の3要素
- 経営コンサルタントによる、なんらかの知的財産の創造。
- 経営コンサルタントから、クライアントに対する、なんらかの方法による創造された知的財産の開示。
- 経営コンサルタントによる、創造された知的財産にかかる知的財産権の譲渡または利用許諾。
このため、コンサルティング契約の契約条項は、主にこれらの3要素が中心となります。
【要素1】経営コンサルタントによる知的財産の創造
まず、どのようなコンサルティング契約であれ、経営コンサルタントは、クライアントのために、何らかの知的財産を創造します。
少なくとも、経営コンサルタントは、すでに創造された何らかの知的財産を保有しています。
そして、この知的財産は、多くの場合は、著作物または営業秘密(いわゆるノウハウ)であることがほとんどです。
著作物・著作権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
また、営業秘密につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【要素2】経営コンサルタントによる知的財産の開示
次に、コンサルティング契約では、経営コンサルタントが、クライアントに対して、創造された知的財産に関する情報を開示します。
この知的財産に関する情報の開示には、様々な方法があります。
一例をあげると、次のとおりです。
コンサルティング契約における情報開示=業務実施の方法
- 情報が記録された記録媒体を引渡す
- 講演・研修・助言などの際に口頭で伝える
- クライアントのプロジェクトにフルコミットして(場合によってはジョインして)体験を通じて伝える
なお、次項とも関係しますが、この段階では、単に知的財産に関する情報が開示されただけです。
クライアントが、その知的財産を使えるかどうかは、別問題です。
【要素3】経営コンサルタントによる知的財産に関する知的財産権の譲渡・利用許諾
そして、コンサルティング契約では、経営コンサルタントによって創造された知的財産に関する知的財産権の譲渡または利用許諾があります。
ある意味では、この知的財産権の譲渡・利用許諾は、コンサルティング契約では、最も重要な契約実務上の要素のひとつです。
というのも、経営コンサルタントが創造した知的財産に関する知的財産権は、あくまでその創造者たる経営コンサルタントが保有するものです。
このため、経営コンサルタントから、知的財産権の譲渡や利用許諾がなければ、クライアントは、使うことができません。
この点につきましては、クライアントはやむを得ないとしても、経営コンサルタントの側ですら、見落としがちな要素です。
なお、コンサルティング契約において創造される代表的な知的財産権である、営業秘密の譲渡・利用許諾につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【補足】一部のコンサルティング契約は常駐型の業務委託契約
なお、名称は「コンサルティング契約」であったとしても、実態は、何らかの作業がともなう常駐型の業務委託契約であることもあります。これは、「常駐コンサル」とも言われます。
この場合の業務内容は、主に次の2つがとなります。
常駐コンサルタントの業務内容
- クライアントから求められた質問や疑問に回答するもの(準委任型)
- クライアントの社員と同様の業務を高品質なレベルで実施するもの(準委任型・請負型のいずれか)
「常駐コンサル」の業務内容は、どちらかといえば後者のパターンが多く、その実態から、「高級派遣」と呼ばれることもあります。
当然ながら、クライアントからの指揮命令がある場合は、労働者派遣法の規制対象となります。
このため、適法な形で労働者派遣契約を締結しないと、労働者派遣法違反となります。
ポイント
- コンサルティング契約は、本質的には、経営コンサルタントによる知的財産の創造・提供・利用許諾(譲渡)の契約。
- 一部の客先常駐がコンサルティング契約は、実態としては常駐型業務委託契約または労働者派遣契約であることもある。
コンサルティング契約書を作成する法律上の義務はない
下請法が適用される場合は契約書の作成義務がある
なお、現在の法律では、原則として、コンサルティング契約書を作成する法的な義務はありません。
ただし、コンサルティング契約の内容や契約当事者の関係によっては、下請法が適用される可能性もあります。
下請法が適用される場合(後掲)は、契約書(いわゆる「三条書面」)を作成する必要があります。
この場合、理屈のうえでは、委託者(クライアント)=親事業者が、コンサルティング契約書を作成しなければなりません。
なお、三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
特定の業界のコンサルティング契約では契約書が必要になる
ただし、特定の業界のコンサルティング契約では、「コンサルティング契約書」という名目ではなくても、契約書の作成義務がある場合もあります。
例えば、金融商品取引法にもづき、投資助言業務をおこなう投資助言・代理業者は、投資顧問契約書(いわゆる「契約締結時等の書面」)を作成する義務があります(金融商品取引法第37条の4)。
また、不動産投資顧問業登録規程にもとづき、投資助言契約や投資一任契約を結ぶ不動産投資顧問業は、契約締結時の書面を作成する義務があります(不動産投資顧問業登録規程第16条)。
このように、特定のコンサルティング契約、とくに許認可が必要なコンサルティング業務では、コンサルティング契約書の作成義務がある場合もあります。
ポイント
- 法律的には、一般的なコンサルティング契約書を作成する義務はない。
- ただし、下請法が適用される場合は、コンサルティング契約書を「クライアント側が」作成する義務がある。
- 特定の業界のコンサルティング契約ではコンサルティング契約書の作成義務がある。
コンサルティング契約に下請法は適用される?
コンサルティング契約には様々なものがありますが、依頼者に対しコンサルタントが助言をするような、一般的なコンサルティング契約では、下請法は適用されません。
他方で、資本金の区分が下請法の規制対象となり、かつ、一部のコンサルティング業務である場合は、コンサルティング契約であっても、下請法の適用対象となる可能性があります。
コンサルティング契約が下請法の規制対象となる条件
- 条件1.クライアント企業とコンサルタント企業の資本金の区分が下請法の規制対象であること。
- 条件2.コンサルティング業務の内容が下請法の規制対象である「製造委託等」(下請法第2条第5項)に該当すること。
これらの下請法が適用されるコンサルティング契約の条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
コンサルティング契約書には印紙税が発生し収入印紙が必要?
コンサルティング契約書は、契約形態や業務内容によって、収入印紙・印紙税の取扱いが異なります。
コンサルティング契約書における収入印紙・印紙税の扱い
- 契約形態が請負契約の場合:印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要がある=2号文書
- 契約形態が準委任契約の場合:原則として印紙税が発生せず、収入印紙を貼る必要はない=非課税文書
- 知的財産権の譲渡がある場合:印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要がある=1号文書
これらのコンサルティング契約書の印紙税・収入印紙につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
印紙税の節税は電子契約サービスがおすすめ
印紙税の節税には、電子契約サービスの利用がおすすめです。
というのも、電子契約サービスは、他の方法に比べて、デメリットがほとんど無いからです。
印紙税を節税する方法は、さまざまあります。
具体的には、以下のものが考えられます。
印紙税を節税する方法
- コピーを作成する:原本を1部のみ作成し、一方の当事者のみが保有し、他方の当事者はコピーを保有する。
- 契約形態を変更する:節税のために準委任契約のような非課税の契約にする。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:取引基本契約に初回の注文書・注文請書や個別契約を綴じ込むことで7号文書から2号文書・1号文書に変える。
しかし、これらの方法には、以下のデメリットがあります。
印紙税の節税のデメリット
- コピーを作成する:契約書のコピーは、原本に比べて証拠能力が低い。
- 契約形態を変更する:節税のために契約形態を変えるのは本末転倒であり、節税の効果以上のデメリットが発生するリスクがある。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:7号文書よりも印紙税の金額が減ることはあるものの、結局2号文書・1号文書として課税される。
これに対し、電子契約サービスは、有料ではあるものの、その料金を上回る節税効果があり、上記のようなデメリットがありません。
電子契約サービスのメリット
- 電子契約サービスを利用した場合、双方に証拠として電子署名がなされた契約書のデータが残るため、コピーの契約書よりも証拠能力が高い。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、印紙税を考慮した契約形態にする必要がない。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、7号文書に2号文書や1号文書を同轍する必要はなく、そもそも契約書を製本する必要すらない。
このように、印紙税の節税には、電子契約サービスの利用が、最もおすすめです。
コンサルティング契約の契約条項のポイント
コンサルティング契約では、次のような重要な契約条項があります。
コンサルティング契約の重要な契約条項
- コンサルティング業務の内容
- コンサルティング業務の提供方法・回数等
- 契約形態
- 報告義務
- 成果物の作成
- コンサルティング業務のスケジュール・成果物の納入
- コンサルティング業務・成果物の検査
- コンサル内容の知的財産権の譲渡・利用許諾
- 費用負担
- 報酬・料金・委託料の金額・計算方法
- 再委託の可否
- 秘密保持義務
- 利益相反行為・利益相反取引の禁止
- 免責・成果の不保証
- 損害額の予定
こうしたコンサルティング契約の契約条項のポイントにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
コンサルティング契約に関するよくある質問
- コンサルティング契約とは何ですか?
- コンサルティング契約(経営コンサルタント契約)とは、経営コンサルタント・コンサルティングファームから、クライアントに対し、知識・情報・ノウハウ・助言の提供とその知的財産権の利用許諾または譲渡があり、その対価として、クライアントから報酬・料金が支払われる契約のことです。
- コンサルティング契約では、どのような契約条項が重要となりますか?
- コンサルティング契約では、以下の契約条項が重要となります。
- コンサルティング業務の内容
- コンサルティング業務の提供方法・回数等
- 契約形態
- 報告義務
- 成果物の作成
- コンサルティング業務のスケジュール・成果物の納入
- コンサルティング業務・成果物の検査
- コンサル内容の知的財産権の譲渡・利用許諾
- 費用負担
- 報酬・料金・委託料の金額・計算方法
- 再委託の可否
- 秘密保持義務
- 利益相反行為・利益相反取引の禁止
- 免責・成果の不保証
- 損害額の予定