- フリーランス新法(保護法)は、施行前の契約であっても適用されるのでしょうか?
- フリーランス新法(保護法)は、施行前に締結された契約には適用されません。しかし、施行前に締結された契約であっても、施行日(2024年11月1日)以降に更新したものについては、フリーランス新法(保護法)の適用対象となります。
このページでは、フリーランス・個人事業者やその発注者向けに、フリーランス新法(保護法)の施行前後の適用について解説しています。
フリーランス新法(保護法)は、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(別名:フリーランス・事業者間取引適正化等法)といい、フリーランス・個人事業者・一人法人を保護し、その発注者を規制する法律です。
このフリーランス新法(保護法)の施行日(施行期日)は、2024年(令和6年)11月1日とされており、同日から適用されます。
当然ながら、フリーランス新法(保護法)は、施行後に締結された業務委託契約には適用され、施行日前に締結された業務委託契約には適用されません。
しかしながら、施行前に成立した業務委託契約であっても、更新した場合は、フリーランス保護法の適用対象となります。
このページでは、こうしたフリーランス保護法の施行前後の適用関係について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- フリーランス保護法の施行前に締結された業務委託契約への適用の可否
フリーランス新法(保護法)の施行前の契約でも更新後は適用対象となる
フリーランス新法は、一般的な法律と同じように、いわゆる遡及効や遡及適用はありません。
このため、フリーランス新法は、施行前に適用された業務委託契約には適用されません。
しかしなんがら、施行日以前に締結された業務委託契約であっても、施行日(施行期日)以後に更新された場合、更新後の業務委託契約については、フリーランス保護法が適用されます。
このため、更新後の業務委託契約については、改めて3条通知(フリーランス保護法第3条)による明示が必要となります。
フリーランス保護法第3条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。
【意味・定義】三条通知(フリーランス保護法)とは?
三条通知とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対し明示しなければならない通知をいう。
ただし、更新前の業務委託契約の内容や交付・提供の方法(書面・電磁的方法)が3条通知の要件を満たしている場合において、明示項目に変更がないときは、改めて通知する必要はありません。
No. | 関係項目等 | 意見の概要 | 考え方 |
---|---|---|---|
2-1-4 | 解釈ガイドライン第2部第1の1 | 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託をした場合、直ちに規則に定められる事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に明示することが求められていますが、本法の施行以前から、特定受託事業者と業務委託契約書等を取り交わし、これを自動更新する又は期限の定めのない契約の形で業務委託を行っているケース等については、本法の趣旨に沿って、特定受託事業者との取引の適正化を阻害しないような運用が担保されていることを前提に、ただちに業務委託契約書等を再度取り交わすことが求められるものではないと理解して宜しいでしょうか。 | 本法は令和6年 11 月1日から施行されるところ、本法の規定は本法の施行後に行われた業務委託が対象となりますので、本法の施行前に行われた業務の委託については、3条通知による明示を行う必要はありません。 一方、本法の施行前に行われた業務の委託について、本法施行後に契約の更新(自動更新の場合を含みます。)が行われた場合には、新たな業務委託が行われたものと考えますので、3条通知による明示を行う必要があります。この場合において、施行前に行われた業務の委託に係る契約書等に3条通知により明示すべき事項が全て記載されており、当該契約書等が書面又は電磁的方法によって交付されている場合には、契約の更新に当たって明示事項に該当する定めに変更がないときには、新たに3条通知により明示する必要はありません。ただし、業務委託事業者は、トラブル防止の観点から、特定受託事業者に対し、従前の契約書等の条項と明示事項との対応関係を明確にすることが求められます。 |
引用元:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方p.30
フリーランス新法(保護法)の施行日以降に更新する場合は三条通知に対応する
フリーランス新法(保護法)の三条通知は下請法の三条書面とは若干異なる
このため、フリーランス新法の施行日である2024年11月1日以降に契約更新がある業務委託契約の場合、遅くとも更新前には、業務委託契約書の記載内容が三条通知の明示項目の要件を満たすよう、契約内容を確認しておく必要があります。
なお、下請法が適用される場合、業務委託契約書については、下請法の三条書面の要件を満たすよう作成されているものと思われます。
【意味・定義】三条書面(下請法)とは?
三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者に対し交付しなければならない書面をいう。
下請法第3条(書面の交付等)
1 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。
この場合、フリーランス保護法の三条通知と三条書面には、以下のとおり違いがあります。
三条通知と三条書面の違い | ||
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三条通知(フリーランス保護法) | 三条書面(下請法) | |
日付の記載 | 「業務委託をした日」=「業務委託をすることについて合意した日」=契約締結日 | 「製造委託等をした日」=「発注日」 |
納入・役務提供場所 | 情報成果物の提出先としては電子メールアドレス等の記載で足りる | 電子メールアドレス等の記載までは求められない |
支払期日 | 原則:60日ルール 例外:30日ルール(再委託の場合に限り、一定の事項を明示したうえで、元委託支払期日から起算して最長で30日。) | 60日ルールのみ |
原材料等の有償支給 | 明示義務なし | 原材料等の「品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済の期日及び方法」の表示義務あり |
電磁的方法の場合の電子ファイルへの出力 | 必須ではない | 必須 |
電磁的方法の事前承諾 | 不要 | 必要 |
明示・交付の時期 | 業務委託契約の締結後直ちに | 発注後直ちに |
罰則・刑事罰 | 三条通知の不明示にもとづく命令違反の場合に50万円以下の罰金 | 三条書面の不交付の場合は50万円以下の罰金 |
特に、日付の記載、明示・交付の時期等について、従来の三条書面とは異なる運用を迫られる可能性もあります。
フリーランス新法(保護法)は「自らに役務の提供をさせる」役務提供委託も適用対象
フリーランス保護法は、下請法とは適用範囲が完全に一致していません。
例えば、フリーランス保護法では、業務委託について、「事業者がその事業のために」となっていることから、下請法とは異なり、再委託に限定されていません。
また、役務提供委託に関しては、下請法とは異なり、再委託の場合のみならず「自らに役務の提供をさせる」場合も含ます。
フリーランス保護法第2条(定義)
3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
これに対し、下請法の製造委託等は、いずれも「事業者が業として行う」「事業者が業として請け負う」「事業者が業として提供」といった再委託や自家使用・自家消費の場合に限っています。
このため、下請法が適用されている親事業者であっても、フリーランス保護法の施行を機会に、業務委託契約書の記載内容を改めて検討する必要があります。
フリーランス新法(保護法)は建設工事の役務提供委託も適用対象
同様に、フリーランス新法は、建設工事に関する役務提供委託についても、適用対象となります。
No. | 関係項目等 | 意見の概要 | 考え方 |
---|---|---|---|
4-6 | ― | 本法と建設業法が重畳して適用されるかについても明示されたい。 理由 | 本法の「業務委託」(本法第2条第2項)には、建設工事の委託も含まれるため、本法と建設業法が重複して適用される場合も想定されます。 |
引用元:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方p.207
このため、建設業法が適用されている建設業者であっても、フリーランス保護法の施行を機会に、業務委託契約書の記載内容を改めて検討する必要があります。
なお、この他、フリーランス保護法の三条通知につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足:フリーランス保護法が適用される条件とは?
フリーランス保護法は特定の当事者と業務委託の内容に該当すると適用される
フリーランス保護法では、すべての企業間取引が適用対象となるわけではありません。
フリーランス保護法が適用される企業間取引は、委託者が業務委託事業者または特定業務委託事業者であり、受託者が特定受託事業者である場合に限られます。
フリーランス保護法の適用対象となる3つの事業者
- 特定受託事業者:個人事業者または役員が1人だけの法人(いずれも従業員を使用しないものに限る)
- 業務委託事業者:特定受託事業者に対し業務委託をする事業者(三条通知の明示義務の対象者)
- 特定業務委託事業者:業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人事業者または役員が2人以上いる、もしくは従業員を使用する法人(業務委託の期間により様々な規制が課される)
つまり、事業者として従業員を使用しない個人事業者または一人法人に対して業務委託をする場合は、フリーランス保護法の適用対象となる可能性があります。
そして、これらが当事者となる企業間取引のうち、特定の業務委託の内容のものが、フリーランス保護法の適用対象となります。
具体的には、物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供のいずれかの業務委託の場合が、フリーランス保護法の適用対象となります。
【意味・定義】業務委託(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における業務委託とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む)、情報成果物の作成、役務の提供(自らに役務の提供をさせることを含む)を委託することをいう。
フリーランス保護法第2条(定義)
3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
フリーランス保護法の規制内容とは?
フリーランス保護法には、主に以下の7つの規制があります。
フリーランス保護法の7つの規制
- 三条書面の明示
- 60日ルール
- 禁止行為
- フリーランスの募集広告における募集情報の的確表示義務
- フリーランスの妊娠・出産・育児・介護に対する発注事業者の配慮義務
- フリーランスに対するハラスメントに関する発注事業者の配慮義務
- 30日前の契約の予告解除・予告不更新
これらの規制は、発注事業者の従業員や業務委託の期間の内容によって、課される内容が異なります。
具体的には、発注事業者が事業者(≠一般消費者)であり、フリーランスが特定受託事業者(従業員を使用しない個人事業者または一人法人)である場合、従業員・役員の人数と業務委託の期間に応じて、次の4つの区分で規制が課されます。
フリーランス保護法の規制内容 | ||
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発注事業者の使用従業員・代表以外の役員 | 業務委託の期間 | 規制内容 |
0人 | ― |
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1人以上 | 1ヶ月未満 |
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1ヶ月以上6ヶ月未満 |
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6ヶ月以上 |
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この他、フリーランス保護法が適用される詳細な条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。