こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約書で問題となる、意匠権の使用許諾(ライセンス)・権利処理(意匠登録を受ける権利の譲渡等)について、簡単にわかりやすく、まとめて解説しています。

意匠権は、工業製品のデザインに関する権利のひとつです。

業務委託契約の実務において、意匠権が問題となるのは、主に製造請負の業務委託契約です。

製造請負の業務委託契約では、意匠権をライセンスすることがあります。こうした意匠権のライセンスが問題となることがあります。

また、工業製品のデザインの作成業務委託契約では、そのデザインの権利処理(=意匠登録を受ける権利の処理)が問題となります。

いずれも、業務委託契約書で、その取扱いを明記しておくことで、トラブルを防止することができます。

このページでは、こうした業務委託契約における意匠権の対処について、解説しています。

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意匠権・登録意匠・意匠とは

【意味・定義】意匠権とは?

意匠権は、意匠法では直接的に定義づけられていませんが、一般的には、以下のとおりです。

意匠権の定義

意匠権とは、登録意匠(意匠登録がされた工業デザイン)を排他的独占的に実施できる権利をいう。

※排他的・独占的については、以下のとおり。

  • 排他的:重複する第三者の権利の存在を認めないこと。
  • 独占的:権利者だけが実施=使用でき、第三者は実施=使用できないこと。

【意味・定義】登録意匠・意匠とは?

では、登録意匠(そして意匠)の定義は何かというと、意匠法第2条では、次のとおり規定されています。

意匠法第2条(定義等)

1 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

2 前項において、物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする。

(省略)

4 この法律で「登録意匠」とは、意匠登録を受けている意匠をいう。

このように、意匠法の第2条第1項では、以下の4つの条件を満たしたものを「意匠」としています。

意匠の4要件

意匠法の「意匠」であるためには、以下の4つの条件を満たす必要がある。

  1. 物品と認められること。
  2. 物品自体の形態であること。
  3. 視覚に訴えるものであること。
  4. 視覚を通じて美感を起こさせるものであること。

【意味・定義】意匠登録を受ける権利とは

「意匠登録を受ける権利」は、一般的には馴染みのない言葉かもしれませんが、意匠制度では非常に重要な概念です。

意匠登録を受ける権利は、意匠法では直接的に定義づけられていませんが、一般的な定義は、次のとおりです。

意匠登録を受ける権利の定義

意匠登録を受ける権利とは、意匠の創作をなした者(職務創作の場合は使用者等)に発生する、意匠登録出願により意匠登録を受けることができる権利をいう。

意匠登録を受ける権利は、移転・譲渡をできる権利です(意匠法第15条第2項によって準用される特許法第33条)。

なお、意匠権、意匠、意匠登録の要件、意匠を受ける権利などに関する詳細な解説は、以下のページをご覧ください。

意匠権・意匠の定義・要件とは?業務委託契約との関係をわかりやすく解説

ポイント

  • 意匠権は、工業製品のデザインを排他的独占的に使用できる権利。
  • 意匠登録を受ける権利は、意匠権の登録出願ができる権利。この権利がないと、意匠権の登録出願ができない。

業務委託契約で意匠権をライセンス(実施権の設定・許諾)する場合のポイント

意匠権のライセンスは製造請負の業務委託契約で重要となる

業務委託契約で意匠権が重要となるのが、(主に大手)製造業者=委託者が、外注先・下請企業の製造業者=受託者に製造請負を業務委託する場合です。

例えば、典型的なパターンとしては、委託者がデザインした製品や部品などを、受託者に製造させる場合です。

このような場合、委託者が、自ら取得している意匠権をライセンス(実施権の設定・許諾)して、受託者に製品・部品などを製造させることがあります。

こうした業務委託契約では、デザインの意匠権のライセンス(実施権の設定・許諾)のしかたが問題となります。

なお、製造請負の業務委託契約については、以下のページをご覧ください。

これだけは押さえておきたい!製造請負契約書の作成の20のポイント

意匠権の「実施権」=ライセンスのこと

意匠法では、他人に意匠権の使用を許諾する=ライセンスすることを、「実施権を設定する」(専用実施権の場合)、「実施権を許諾する」(通常実施権の場合)と表現します。

また、この実施権は、「専用実施権」と「通常実施権」の2種類が存在します。さらに、通常実施権の許諾のしかたは、大きく分けて、4種類あります。

このため、意匠権のライセンス(実施権の設定・許諾)がともなう業務委託契約では、専用実施権の設定か、4種類の通常実施権の許諾の、合計5つのライセンスのどれかを契約内容として規定します。

この5つのライセンスのしかたは、特許権のライセンスとほぼ同じです。

特許権のライセンスにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における特許権の5つライセンス(実施権の設定・許諾)のしかた

一般的には(非完全非独占的)通常実施権を設定する

製造請負の業務委託契約で意匠権のライセンス(実施権の設定・許諾)がある場合、一般的には、(非完全非独占的)通常実施権を設定します。

非完全非独占的の概要は、次のとおりです。

完全・非完全 独占的・非独占的
非完全非独占的通常実施権 【非完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができる。
【非独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の許諾ができる。

つまり、非完全非独占的ライセンスでは、委託者=ライセンサーは、自分でも意匠権を使えるうえ、受託者=ライセンシー以外の第三者にも、別途意匠権をライセンス(通常実施権を許諾)できます。

なお、業務委託契約の内容として、再委託を認めない場合は、意匠権についても、サブライセンス(再実施)の許諾はしません。

ポイント

  • 製造業の業務委託契約で、委託者が受託者に対し意匠権のライセンスをする場合は、実質的にはライセンス契約の内容も含まれた契約となる。
  • 意匠権のライセンスのしかたは、大まかに分けて、専用実施権と4つの通常実施権の合計5パターン。
  • ただし、一般的な製造業の業務委託契約では、委託者が、自己実施ができ、かつ、受託者以外の第三者にもライセンスができる、非完全非独占的ライセンスとする。
  • 一般的な製造業の業務委託契約では、委託者は、受託者による第三者へのサブライセンス(再実施)の許諾はしない。

工業デザイン作成業務委託契約では権利処理が重要

業務委託契約書で意匠登録を受ける権利の譲渡・移転を明記する

工業デザイン作成業務委託契約とは?

もうひとつ、業務委託契約で意匠権が重要となるのが、外部デザイナーとの、工業デザイン(≒意匠)の作成業務委託契約の場合です。

工業デザイン作成業務委託契約は、委託者(=主に製造業者)が、受託者(=外部デザイナー)に対し、工業デザインの作成を委託する、請負型の業務委託契約です。

これは、受託者=外部デザイナーによる委託業務の実施により、「工業デザイン」という仕事の完成を目的とした契約です。

なお、請負型の業務委託契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

請負契約とは?―請負型の業務委託契約のポイント・当事者の権利義務を解説

契約の目的はデザインの引渡しではなく意匠登録を受ける権利の移転

工業デザイン作成業務委託契約では、委託者(=主に製造業者)は、受託者(外部デザイナー)に対して、報酬・料金・委託料を支払います。

その対価として、工業デザインが完成し、その引渡しを受けるわけですが、単にデザインが印刷された紙やデータを受取るだけでは、意味がありません。

工業デザイン作成業務委託契約では、受託者である外部デザイナーに、「意匠登録を受ける権利」が発生します。

意匠権の登録を目的とした工業デザインの作成を委託しているのであれば、この「意匠登録を受ける権利」を譲渡・移転してもらわなければ、意匠権の登録はできません。

ですから、工業デザイン作成業務委託契約では、意匠登録を受ける権利の譲渡・移転の条項を明確に規定しておく必要があります。

「お金を払った=意匠登録を受ける権利の移転」とはならない

知的財産権の作成に関する契約では、委託者が報酬・料金・委託料を支払ったからといって、当然にその知的財産権が委託者に譲渡・移転するわけではありません。

業務委託契約書に知的財産権の取扱いが記載されていない場合、報酬・料金・委託料は、「作成の対価」と判断されるでしょうが、必ずしも「知的財産権の対価」が含まれる、と判断されるとは限りません。

このため、工業デザイン作成業務委託契約書には、意匠登録を受ける権利の譲渡・移転について、明確に規定しておく必要があります。

こうした規定がないと、その契約書は、「意匠登録を受ける権利の譲渡・移転」について合意した証拠にはなりません。

ポイント

  • 工業デザインの作成業務委託契約は、そのデザインの作成だけではなく、デザインの意匠登録を受ける権利の譲渡・移転も目的となる契約。
  • ただし、後述のとおり、委託者としては、意匠登録を受ける権利だけではなく、他の権利も含めて、譲渡・移転を受ける。
  • 知的財産権の譲渡・移転を目的とした契約では、譲渡・移転について何も規定していなければ、委託者は、目的の知的財産権の譲渡・移転を受けられなくなる可能性がある。

念のため他の知的財産権も含めた譲渡・移転とする

工業デザインは著作権・特許権・実用新案権・商標権としても保護される

工業デザインの作成業務委託契約では「意匠登録を受ける権利」だけの譲渡・移転ではダメ

なお、工業デザインは、意匠法上の意匠であり、かつ、著作権法上の著作物である場合があります。

また、同様に、工業デザインは、特許法上の発明や実用新案法上の考案、さらには、商標法上の商標(特に立体商標)である場合もあります。

つまり、工業デザインは、意匠権、著作権、特許権、実用新案権、商標権の5種類の別々の権利として保護を受けられる可能性があります。

ですから、工業デザイン作成業務委託契約で、「意匠登録を受ける権利」だけの譲渡・移転を規定しておくと、著作権や特許を受ける権利が、受託者である外部デザイナーに残ったままになります。

意匠権が著作権や先願の特許権に「抵触」する

このため、理屈のうえでは、以下のような状態にもありえます。

ひとつの工業デザインで複数の権利が成立する

  • 意匠登録を受ける権利:委託者(主に製造業者)が保有
  • 著作権・特許を受ける権利その他の「意匠登録を受ける権利以外の権利」:受託者(外部デザイナー)が保有

こうなると、受託者(外部デザイナー)は、著作権を主張できますし、特許の出願もできます。

この場合、委託者(主に製造業者)が、せっかく意匠登録を受ける権利の譲渡・移転を受けて意匠登録をしても、その登録意匠を実施できなくなります。

意匠法第26条(他人の登録意匠等との関係)

1 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない。

2 (省略)

意匠登録を受ける権利以外の権利も譲渡・移転の対象とする

このため、委託者(主に製造業者)としては、工業デザイン作成業務委託契約では、意匠登録を受ける権利だけではなく、以下の権利も、譲渡・移転の対象とします。

譲渡・移転の対象となる権利

工業デザイン作成業務委託契約で、最低限、委託者に譲渡・移転させるべき権利は、以下のとおり。

  • 著作権
  • 特許を受ける権利
  • 実用新案登録を受ける権利
  • 意匠登録を受ける権利

つまり、これらの知的財産権は、「意匠登録をするため」(=意匠登録を受ける権利)というよりも、「登録意匠の使用の妨げにならないようにするため」に譲渡・移転させる、ということです。

著作権法第27条および第28条の権利の譲渡と著作者人格権不行使特約も規定する

なお、著作権の譲渡を規定する場合は、「著作権法第27条および第28条の権利」も譲渡・移転の対象とします。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における著作権の譲渡4つのポイント【買取り方式】

また、著作権が発生する工業デザイン作成業務委託契約では、著作者人格権も発生します。

このため、委託者(主に製造業者)としては、著作者人格権不行使特約も規定しておきます。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書における著作権・著作者人格権―その帰属・使用許諾・使用制限の問題点とは?

ポイント

  • 工業デザインは、意匠・発明・著作物のいずれにも該当する可能性がある。
  • 委託者としては、工業デザインの作成業務委託契約では、意匠登録を受ける権利、特許を受ける権利、著作権いずれの権利も譲渡・移転を受けるようにする。
  • 著作権については、著作権法第27条および第28条の権利の譲渡・移転も忘れない。
  • 同時に、著作者人格権の不行使特約も規定する。

意匠登録を受ける権利の処理は下請法の三条書面の必須記載事項

なお、下請法が適用される工業デザイン作成業務委託契約の場合、意匠登録を受ける権利その他の権利の処理は、いわゆる「三条書面」の必須記載事項とされています。

(途中省略)また,主に,情報成果物作成委託に係る作成過程を通じて,情報成果物に関し,下請事業者の知的財産権が発生する場合において,親事業者は,情報成果物を提供させるとともに,作成の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「下請事業者の給付の内容」とすることがある。この場合は,親事業者は,3条書面に記載する「下請事業者の給付の内容」の一部として,下請事業者が作成した情報成果物に係る知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要がある。

このため、下請法が適用される工業デザイン作成業務委託契約の場合、委託者(主に製造業者)は、三条書面を作成して、受託者(=外部デザイナー)に対して、交付しなければなりません。

三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?―業務委託契約書の12の必須事項

また、下請法が適用される業務委託契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法が適用される4つの業務委託契約のパターン

ポイント

工業デザイン作成業務委託契約が下請法の適用対象となる場合は、必ず業務委託契約書を作成する。

無償・不当に低い対価では独占禁止法違反・下請法違反

工業デザイン作成業務委託契約では、意匠登録を受ける権利その他の権利の譲渡・移転について、対価を設定します。

一般的には、業務委託の報酬・料金・委託料の中に含まれる形にするか、または業務委託の報酬・料金・委託料とは別に、意匠登録を受ける権利その他の権利の譲渡・移転・使用許諾の対価を設定します。

これらの対価が無償の場合、または不当に低い場合は、独占禁止法や下請法に違反することになります。

このため、特に委託者(主に製造業者)の側は、意匠登録を受ける権利その他の権利の対価は慎重に決定するべきです。

逆に受託者(外部デザイナー)の側は、委託者(主に製造業者)から意匠登録を受ける権利その他の権利の対価を無償にされたり、不当に低い金額とされた場合は、独占禁止法違反や下請法違反を主張できます。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

無償・不当に低い対価による知的財産権の譲渡・使用許諾は独占禁止法違反・下請法違反

ポイント

  • 無償・あまりにも低い意匠登録を受ける権利その他の権利の対価は、独占禁止法・下請法違反。
  • 独占禁止法・下請法違反となれば、追加で対価を負担しないと、意匠登録を受ける権利その他の権利の譲渡・移転が無効となることも。