請負契約の請負人に善管注意義務は課されますか?また、特約で請負人に善管注意義務を課すことはできますか?
善管注意義務は、民法上は主に(準)委任契約の受任者に課される義務であり、請負契約の請負人には課されません。また、特約で請負人に善管注意義務を課すことはできますが、契約実務では実益はほとんどないため、こうした特約が規定されることはあまりありません。

このページでは、弊所によく寄せられるご質問である、請負契約の請負人には善管注意義務が課されるのか、また、特約で請負人に善管注意義務を課すことができるのかという点について、注文者・請負人向けに解説しています。

善管注意義務は、民法上は、主に準委任契約の受任者に課される義務であり、請負契約の請負人に善管注意義務が課される民法上の規定はありません。

このため、民法上は、請負契約の請負人に善管注意義務が課されることはありません。

また、契約自由の原則により、特約で請負契約において請負人に善管注意義務を課すことができます。

ただ、請負人に善管注意義務を課したとしても、実益はほとんどないため、契約実務ではめったに規定することはありません。

このページでは、こうした請負契約における善管注意義務について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページを読むことで、請負契約における善管注意義務について理解できます。

このページでわかること
  • 民法上は請負契約の請負人に善管注意義務が課されていないこと。
  • 特約で請負契約の請負人に善管注意義務を課す契約実務上の意味。

なお、請負契約と善管注意義務の解説につきましては、詳しくは、それぞれ以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?

【改正民法対応】準委任型業務委託契約における善管注意義務とは?定義・具体例と5つのポイントもわかりやすく解説




善管注意義務は(準)委任契約に課される義務

善管注意義務は受任者の義務

善管注意義務は、民法上は、主に(準)委任契約の受任者の義務として規定されているものです。

根拠条文

民法第644条(受任者の注意義務)

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

【意味・定義】善管注意義務とは?

善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。

【改正民法対応】準委任型業務委託契約における善管注意義務とは?定義・具体例と5つのポイントもわかりやすく解説

請負人の義務は契約不適合責任

他方で、請負契約に関する民法上の規定には、善管注意義務の規定はありません。

その代わりに、請負契約の請負人には、契約不適合責任が課されています。

根拠条文

民法第562条(買主の追完請求権)

1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

民法第559条(有償契約への準用)

この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

民法第637条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

1 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。

【意味・定義】請負契約における契約不適合責任とは?

請負契約における契約不適合責任とは、仕事の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約不適合があった場合。瑕疵、ミス、欠陥等があった場合を含む。)において、注文者から請求された、履行の追完、報酬の減額、損害賠償、契約の解除の請求に応じる請負人の責任・義務をいう。

このように、請負人に課される義務は契約不適合責任による義務であって、善管注意義務ではありません。




特約で請負契約の請負人に善管注意義務を課すことはできる

契約自由の原則=内容自由の原則により特約の規定はできる

なお、特約で請負契約の請負人に善管注意義務を課すこと自体はできます。

これは、いわゆる契約自由の原則によるものです。

【意味・定義】契約自由の原則とは?

契約自由の原則とは、契約当事者が、契約について自由に決められる原則をいう。契約自由の原則は、さらに以下の4つに分類される。

  • 契約締結自由の原則
  • 相手方自由の原則
  • 内容自由の原則
  • 方式自由の原則

契約自由の原則のうち、内容自由の原則により、原則として自由に契約内容を決めることができます。

このため、理論上は、請負契約において、請負人に善管注意義務を課す特約を規定することはできます。

請負契約における善管注意義務の条文記載例

なお、請負契約における善管注意義務の条文の記載例は、以下のとおりです。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】善管注意義務に関する条項

第○条(善管注意義務)

乙は、善良な管理者の注意をもって、本件業務を実施する義務を負う。

(※乙が義務を負う場合。便宜上、表現は簡略化しています)

【契約条項の書き方・記載例・具体例】善管注意義務に関する条項

第○条(善管注意義務)

乙は、善良な管理者の注意をもって、本件業務を実施しなければならない。

(※乙が義務を負う場合。便宜上、表現は簡略化しています)

いずれも、このようにシンプルに記載します。




「請負人の善管注意義務」はハードルが低い

善管注意義務違反=債務不履行=損害賠償責任・契約解除

では、請負人に善管注意義務を課すことには、どのような意味があるのでしょうか?

善管注意義務は、債務者が違反することによって、債務不履行となり、損害賠償責任や契約解除事由が発生する義務です。

つまり、債権者にとっては、善管注意義務違反=債務不履行は、債務者に対する損害賠償責任の追求や、契約の解除ができるようになります。

そこで問題となるのは、「請負契約における善管注意義務」はどの程度のものなのか、ということです。

「請負契約の善管注意義務」はハードルが低い

ここで、改めて善管注意義務の定義を確認しましょう。

【意味・定義】善管注意義務とは?

善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。

このように、善管注意義務は、非常に曖昧な定義であり、状況によって義務の程度が変わってきます。

このため、「請負契約の善管注意義務」も、請負契約の性質から判断されるものと思われます。

この点について、請負契約は、そもそも「仕事の完成」を目的とした契約です。

【意味・定義】請負契約とは?

請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。

つまり、請負契約で請負人に善管注意義務を課したとしても、注文者としては、明らかに「仕事の完成」が見込めないような状況でない限り、善管注意義務違反を追求することはできない、と言えます。

言い換えれば、請負人としては、善管注意義務を果たすハードルは、非常に低いと言えます。




「仕事の完成」が見込めなければ契約解除ができる

また、請負人による「仕事の完成」が見込めない場合、注文者は、民法第542条第1項第5号により、催告による契約解除ができます(催告解除権)。

民法第542条

民法第542条(催告によらない解除)

1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

(1)債務の全部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3)債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

(4)契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

(5)前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

(1)債務の一部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

【意味・定義】催告解除権とは?

催告解除権とは、その行使に催告を要する契約解除権をいう。

つまり、請負契約において明らかに仕事の完成が見込めない状態であれば、注文者は、請負人に対し催告のうえ、契約を解除できます。

このため、わざわざ特約で善管注意義務を規定する必要性や実益はあまりありません。




例外:請負契約に付帯する契約の善管注意義務は規定するべき

ただし、請負契約そのものではなく、請負契約に付随する別の契約や義務の一部として善管注意義務を規定することはあります。

代表的な例としては、請負契約において規定される秘密保持義務や付随して締結される秘密保持契約における、秘密情報の管理に関する条項として規定します。

秘密情報の管理条項とは?規定のしかたや書き方についても解説

具体的には、次のように規定します。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】秘密情報の管理に関する条項

第○条(情報管理)

受領者は、善良な管理者の注意をもって秘密情報を管理しなければならない。

※便宜上、表現は簡略化しています

秘密保持義務や秘密保持契約は、請負契約の義務や請負契約そのものとは別の義務・契約です。

このため、請負契約とは別の独立した善管注意義務を規定する意味はあります。




請負契約における善管注意義務に関するよくある質問

請負契約の請負人に善管注意義務は課されますか?
善管注意義務は、民法上は主に(準)委任契約の受任者に課される義務であり、請負契約の請負人には課されません。
特約で請負人に善管注意義務を課すことはできますか?
特約で請負人に善管注意義務を課すことはできますが、契約実務では実益はほとんどないため、こうした特約が規定されることはあまりありません。
請負契約に付随する義務・契約の一部として善管注意義務が課されることはありますか?
請負契約に付随するものとして、例えば秘密保持義務や秘密保持契約の一部として、秘密情報の管理に関する条項として、善管注意義務が課されることがあります。