このページでは、業務委託契約(請負契約・準委任契約)の委託者・受託者双方に向けて、業務委託契約における指揮命令・指示がどこまでできるのか等の指揮命令・指示の例外について解説しています。

業務委託契約(請負契約・準委任契約)では、委託者が受託者の労働者に対し指揮命令・指示をしてしまうと、業務委託契約(請負契約・準委任契約)ではなく労働者派遣契約とされてしまい、いわゆる「偽装請負」に該当してしまいます。

この場合、無許可で労働者派遣事業をしている受託者のみならず、その無許可の労働者派遣事業者(受託者)から派遣労働者を受け入れている委託者も、違法な受入先として労働者派遣法違反となります。

このように、業務委託契約(請負契約・準委任契約)の現場では、委託者による指揮命令・指示をおこなってはなりません。

しかし、「何ひとつ受託者の労働者に指揮命令・指示をせずに現場のオペレーションを回すのは無理じゃない?」と思われる方も多いと思います。

それもそのはずで、例えば現場で事故が発生した場合や、法令を遵守する場合など、最低限の指揮命令・指示ができなければ、現場で不必要なリスク、デメリット、無駄が発生してしまいます。

実は、厚生労働省は、指揮命令・指示のうち、直ちに偽装請負にならない例外や、そもそも指揮命令・指示に該当しない例外などを示しています。

このページでは、こうした業務委託契約(請負契約・準委任契約)における指揮命令・指示の例外について、厚生労働省の資料にもとづき、開業22年・400社以上の取引実績と労働者派遣法に関する書籍の出版経験がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページを読むことで、業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、労働者派遣法違反・偽装請負に該当しない指揮命令・指示のしかたが理解できます。

このページでわかること
  • 業務委託契約(請負契約・準委任契約)においてできる、労働者派遣法違反・偽装請負に該当しない適法・例外となる指揮命令・指示。
  • 指揮命令・指示に関連する行為の中で、指揮命令・指示に該当しない行為。
  • 労働者派遣法・偽装請負にならない業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)のポイント。

なお、このページは、前提として、以下の労働者派遣法・偽装請負に関連するページをご覧になった方々に向けた記事ですので、未読の方は、まずはこれらの記事をご覧ください。




【意味・定義】指揮命令・指示とは?

指揮命令と指示の違いは重要ではない

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、委託者が受託者に対して指揮命令・指示をおこなうと、労働者派遣法違反・偽装請負となります。

【意味・定義】偽装請負(労働者派遣法・労働者派遣契約)とは?

労働者派遣法・労働者派遣契約における偽装請負とは、実態は労働者派遣契約なのに、労働者派遣法等の法律の規制を免れる目的で、請負その他労働者派遣契約以外の名目で契約が締結され、労働者が派遣されている状態をいう。

この指揮命令・指示についてですが、結論から言えば、特に定義や違いについては気にする必要はありません。

重要なことは、指揮命令・指示の定義や違いよりも、指揮命令・指示は、原則として両者とも違法行為であるという点です。

指揮命令・指示はいずれも厚生労働省の資料に出てくる違法行為

なお、指揮命令については、労働者派遣法や偽装請負の判断基準である37号告示の疑義応答集で使われれている表現ですが、37号告示の本体では使われていません。

【意味・定義】37号告示とは?

37号告示とは、労働者派遣事業と請負等の労働者派遣契約にもとづく事業との区分を明らかにすることを目的とした厚生労働省のガイドラインである「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」をいう。

指示については、労働者派遣法、37号告示、37号告示に関する疑義応答集で使われている表現です(資料はいずれも後掲)。

ただし、労働者派遣法の指示は、労働者派遣契約に関連する文脈で出てくるものではないので、実質的には使われていないといえます。

これらの資料において、指揮命令・指示は、日本語としては区別されていますが、いずれも「おこなった場合は原則として偽装請負となる行為」として使われています。

業務委託契約(請負契約・準委任契約)の委託者・受託者ともに指揮命令・指示に関する資料は必読

具体的には、指揮命令・指示は、以下の厚生労働省の資料に出てくる表現です。

これらの資料は、労働者派遣法違反・偽装請負に該当しない適法な業務委託契約(請負契約・準委任契約)とするには、委託者・受託者ともに必読の資料です。

このページでも、これらの資料を根拠に解説をしていきます。

ポイント
  • 指揮命令・指示の定義や違いは重要ではない。
  • 業務委託契約(請負契約・準委任契約)における委託者から受託者の労働者に対する指揮命令・指示は、「偽装請負・労働者派遣法違反に該当する違法行為」である点が重要。
  • 37号告示と、これに関する疑義応答集は、業務委託契約(請負契約・準委任契約)の委託者・受託者両者にとって必読の資料。





業務委託契約(請負契約・準委任契約)における指揮命令・指示の例外のパターンは?

指揮命令・指示の例外は大きく分けて2パターン

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、偽装請負・労働者派遣法違反に該当しない、例外となる指揮命令・指示は、大きく分けて以下の2パターンがあります。

業務委託契約における指揮命令・指示の例外2パターン
  • 【指揮命令・指示の例外1】4の適法な指揮命令・指示
  • 【指揮命令・指示の例外2】10の指揮命令・指示ではない行為

以下、詳しく見ていきましょう。

指揮命令・指示の例外1:適法な指揮命令・指示

業務委託契約(請負契約・準委任契約)における指揮命令・指示の例外のひとつめは、適法な指揮命令・指示です。

これは、指揮命令・指示に該当するものであっても、労働者派遣法違反・偽装請負に該当しない適法・例外となるものです。

適法な指揮命令・指示の具体例は、以下のとおりです。

適法な指揮命令・指示の具体例
  • 災害時等の緊急時における受託者の労働者に対する指示(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者側で緊急に別の用務先に行く必要が生じた場合における受託者の労働者に対する指示(同上)
  • 法令遵守のために必要な指示(同上)
  • 業務手順等の指示(同上)

なお、これらは、一部を除いて詳細で厳しい前提や例外があるため、これらに該当しそうな指揮命令・指示であっても、安易におこなってはなりません。

この前提や例外については、詳しくは、後に解説します。

指揮命令・指示の例外2:指揮命令・指示ではない行為

業務委託契約(請負契約・準委任契約)における指揮命令・指示の例外のふたつめは、指揮命令・指示でない行為です。

これは、指揮命令・指示に関連する行為ではあるものの、そもそも指揮命令・指示に該当しない行為です。

指揮命令・指示でない行為の具体例は、以下のとおりです。

指揮命令・指示ではない行為の具体例
  • 委託者と受託者の労働者との日常的な会話(疑義応答集第1集)
  • (通信回線の営業代行契約・代理店契約等の場合)委託者から受託者の労働者に対する回線工事のスケジュール等の情報提供(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者から受託者の労働者に対する用務先での停車位置や待機場所、用務先からの出発時間の伝達(同上)
  • 打ち合わせへの受託者の労働者の同席(同上)
  • 委託者による受託者の管理責任者に対する電子メールを送信した場合にける受託者の労働者に対する(CC等による)電子メールの送信(同上)
  • 委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション(疑義応答集第3集)
  • (アジャイル開発型のシステム・アプリ等開発契約の場合)開発チーム内のコミュニケーション(同上)
  • (同上)会議や打ち合わせ等への参加(同上)
  • (同上)委託者による受託者の開発担当者の技術・技能の確認・スキルシートの提出を求める行為(同上)

なお、これらにも、一部を除いて詳細で厳しい前提や例外があるため、これらに該当しそうな行為であっても、安易におこなってはなりません。

この前提や例外については、詳しくは、後に解説します。

ポイント
  • 業務委託契約(請負契約・準委任契約)における偽装請負・労働者派遣法違反とならない指揮命令・指示の例外は、「適法な指揮命令・指示」「指揮命令・指示ではない行為」の2パターン
  • いずれのパターンも、詳細で厳しい前提や例外があるため、安易に指揮命令・指示をしてはならない。





適法な指揮命令・指示の詳細・前提条件・例外とは?

繰り返しになりますが、適法な指揮命令・指示の具体例は、以下のとおりです。

適法な指揮命令・指示の具体例一覧
  • 災害時等の緊急時における受託者の労働者に対する指示(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者側で緊急に別の用務先に行く必要が生じた場合における受託者の労働者に対する指示(同上)
  • 法令遵守のために必要な指示(同上)
  • 業務手順等の指示(同上)

これらについて、具体的な詳細と、前提条件、例外等について、次のとおり解説します。





指揮命令・指示の例外1:災害時等の緊急事態における指示

緊急事態では当然に指示は認められる

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において受託者の労働者に直接的に指揮命令・指示ができる例外の1点めは、災害時等の緊急事態における指示です。

これについては、疑義応答集第2集において、「発注者が、災害時など緊急の必要により、請負労働者の健康や安全を確保するために必要となる指示を直接行ったとしても、そのことをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません」と明確に記載されています。

根拠資料
問3 災害時など緊急の必要により、請負労働者の安全や健康を確保するため、発注者が請負労働者に対して直接指示を行った場合、請負でなく労働者派遣事業となりますか。
発注者が、災害時など緊急の必要により、請負労働者の健康や安全を確保するために必要となる指示を直接行ったとしても、そのことをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。

業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)には指示の義務と指示に従う義務を規定する

緊急事態において、偽装請負等の労働者派遣法違反を遵守するあまり、委託者が受託者の労働者の保護を怠ることはまず考えられません。

このため、緊急事における委託者側による指示の権利または義務について、わざわざ業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)に記載する必要性は低いと考えがちです。

ただし、受託者としては、自身の労働者の保護のために、緊急事態における委託者の指示(義務)を規定することは検討するべきです。

他方で、委託者としては、緊急事態において、受託者(とその労働者)が委託者の指示に従う義務を課すことも検討するべきです。

業務委託契約書を作成する理由

業務実施の現場で緊急事態があった場合、委託者が指示を出し、受託者の労働者がその指示に従うことについて、それぞれ義務として規定した契約書が必要となるから。

緊急事態は確率が低いが損害が大きいからこそ規定を検討する

災害等の緊急事態は、発生する確率は非常に低いですが、いざ発生すると、甚大な被害となります。

このため、その被害の負担について、委託者と受託者の双方にどの程度の責任があるのか、契約書の記載が重要となることは十分にあり得ます。

この点からも、緊急事態における指示とそれに従う義務について、業務プロセスの検討を含めて、契約書への記載を検討するべきでしょう。





指揮命令・指示の例外2:緊急の業務内容の変更に伴う指示

業務内容の変更の指示(依頼)は適正な手続きをすれば認められる

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において受託者の労働者に直接的に指揮命令・指示ができる例外の2点めは、緊急の業務内容の変更に伴う指示(依頼)です。

ただし、この例外には、次のとおり厳しい条件があります。

緊急の業務内容の変更に伴う指示(依頼)が認められる条件
  • 業務内容に予測できない部分があるなど、委託者が受託者に対し業務についてすべて計画通りに依頼することが社会通念上困難な場合であること。
  • 委託者の労働者から受託者の労働者に対して指示(依頼)があった場合に、受託者の労働者が直ちに携帯電話等で受託者に対し連絡をして了解を取るなどにより、受託者が自己の労働者の労働力を直接利用している認められること。
  • 指示(依頼)について受託者の了解を得ずにおこなわないこと。
  • 受託者の労働者の労働時間管理その他の労働条件に影響を及ぼさないこと。

つまり、大前提として業務内容が事前に完全に決められないものであり、その業務内容の変更の指示(依頼)について、(なるべく変更前が望ましいのですが)変更後に直ちに受託者の労働者が受託者(の管理者)に連絡して了解を取り、その変更が労働条件に影響を与えない程度であれば、その指示(依頼)が例外として認められることとなります。

根拠資料
問4 車両運行管理の請負業務の中で、発注者の社用車の運転を請負労働者が行っています。発注者から請負事業主に当初依頼していた行先以外にも、発注者側で緊急に別の用務先に行く必要が生じたため、別の用務先へも立ち寄るよう、発注者の労働者から請負労働者に直接依頼した場合、請負でなく労働者派遣事業となりますか。
労働者派遣でなく請負と判断されるためには、発注者でなく請負事業主が自ら労働者に対して業務の遂行方法に関する指示を行う必要があります。車両運行管理業務の場合、発注者が、運行計画により配車時間・用務先等を請負事業主に依頼する必要があり、発注者が請負労働者に直接このような依頼をすることは、原則としてできません。
一方で、車両運行管理業務の性質上、日時、場所等を指定した発注となるため、当該日時、場所等の変更の状況によっては、すべて運行計画により請負事業主に依頼することが社会通念上、困難となる場合があり得ます。 例えば、発注者が出発時までに予測できず、乗車中に運行計画に当初予定されていなかった用務先に行く必要が急遽生じることもあり得ます。
このような場合、発注者が直接、請負事業主の了解を取ることが基本ですが、これに代えて、発注者の労働者が請負労働者に対して用務先の追加や変更を伝えたとしても、例えば、請負労働者が直ちに当該注文の変更を車内から携帯電話等で連絡し請負事業主の了解をとるなどして、請負事業主が自らの労働力を直接利用していると認められる限り、発注者からの指揮命令に該当するとは判断されません。
ただし、用務先の変更等が、請負事業主の了解無く行われたり、又は請負労働者の労働時間管理その他労働条件に影響を及ぼしたりするような場合は、労働者派遣事業と判断される可能性が高くなります。

業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)には業務内容の変更のプロセスや手続きを明記する

このため、適法な指示(依頼)と認められるためには、業務内容の変更について、こうした一連のプロセスを可視化したりマニュアル化しつつ、実際の現場で適切に運用しなければなりません。

頻繁に業務内容について変更がある場合は、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)に業務変更についての手続きを明記して、委託者・受託者双方に対し義務を課すことで、コンプライアンスを徹底するべきでしょう。

業務委託契約書を作成する理由

偽装請負にならない適法な業務内容の変更の指示(依頼)とするために、業務変更に関する手続きを明確化した契約書が必要となるから。

なお、この根拠となる疑義応答集第2集には、連絡手段として「携帯電話」という例が記載されていますが、音声の通話のみでは記録が残りません。

ですので、チャットツールなどを使用することで、指示(依頼)の了解について、委託者・受託者ともに直ちに記録に残しておくべきでしょう。





指揮命令・指示の例外3:法令遵守のために必要な指示

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において受託者の労働者に直接的に指揮命令・指示ができる例外の3点めは、法令遵守のために必要な指示です。

これについては、疑義応答集第2集において、「労働安全衛生法第29条では、元請事業者が講ずべき措置として、関係請負人及び関係請負人の労働者が、労働安全衛生法令の規定に違反しないように必要な指導や指示を行うことが同法上の義務として定められています。これらの指導や指示は、安全確保のために必要なものであり、元請事業者から下請事業者の労働者に対して直接行われたとしても、業務の遂行に関する指示等には該当しません。」と明確に記載されています。

労働安全衛生法第29条(元方事業者の講ずべき措置等

1 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行なわなければならない。

2 元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。

3 前項の指示を受けた関係請負人又はその労働者は、当該指示に従わなければならない。

疑義応答集第2集では、上記の労働安全衛生法のみについて回答していますが、同様の法令等についても、同様の判断になると思われます。

なお、この法令遵守のために必要な指示は、そもそもその内容が法令に規定されている以上、関連する契約条項を業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)に記載する必要は(法的には)ありません。

根拠資料
問5 建設作業で、複数の請負事業者が同じ現場に入場している場合や、製造業等において親企業の構内に複数の構内下請事業者が入構している場合、労働安全衛生法第 29 条に基づき、元請事業者が下請の作業員に安全衛生のために必要な事項を直接指示すると、請負でなく労働者派遣事業となりますか。
 労働安全衛生法第29条では、元請事業者が講ずべき措置として、関係請負人及び関係請負人の労働者が、労働安全衛生法令の規定に違反しないように必要な指導や指示を行うことが同法上の義務として定められています。
これらの指導や指示は、安全確保のために必要なものであり、元請事業者から下請事業者の労働者に対して直接行われたとしても、業務の遂行に関する指示等には該当しません。





指揮命令・指示の例外4:業務手順等の指示

業務手順等の指示は指示書等の内容が適切であれば認められる

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において受託者の労働者に直接的に指揮命令・指示ができる例外の4点めは、業務手順等の指示です。

ただし、この例外には、次のとおり条件があります。

業務手順等の指示が認められる条件
  • 指示書等の業務手順等が記載された書面が作成されていること。
  • 受託者が自身の労働者の配置等を決定していること。
  • 受託者(の管理者)が実際の作業の指揮命令をおこなっていること。
  • 指示書等の書面に工程ごとの労働者数を特定したり作業の割付まで示したりしていないこと。

つまり、指示書等が作成されていて、その指示書等に業務内容の手順等のみが明記されており、実際の労働者の配置等、指揮命令、労働者数の特定、作業の割付などを受託者(の管理者)が実施していれば、指示書等による指示は例外として認められ、労働者派遣事業とは判断されません。

根拠資料
問6 学校給食調理業務の発注者が「調理業務指示書」を作成し、献立ごとの材料、調理方法、温度設定等を請負事業主に示すことは問題がありますか。
学校給食調理業務の場合、「学校給食衛生管理基準」等に基づき、発注者から「調理業務指示書」が示されたとしても、請負事業主が作業ごとの労働者の配置等の決定を行っており、実際の作業の指揮命令も請負事業主によってなされる場合には、労働者派遣事業と直ちに判断されることはありません。
ただし、「調理業務指示書」の内容が、献立ごとの労働者数を特定したり作業の割付まで示したりしている場合は、請負労働者の配置の決定や業務遂行に関する指示を発注者が実質的に行っていると認められるので、労働者派遣事業と判断されることになります。

必ず指示書等を作成する

この根拠となる疑義応答集第2集では、書面が作成されていること自体は、特に条件として明記されてはいません。

ただ、そもそも記録として書面を残さずに口頭で指示を指示を出している場合、その指示が適法なものであったとしても、その証拠が残りません。

このため、なるべく指示書等の書面があったほうが望ましいといえます。

業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)には指示書の記載事項・様式・禁止事項等を明記する

なお、この指示の例外については、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)よりも指示書の内容が重要となります。

ただ、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)にも、指示書の記載事項や、可能であれば様式を記載しておくことで、よりコンプライアンスを徹底することができます。

同様に、労働者の配置等、指揮命令、労働者数の特定、作業の割付などについては、受託者がおこなう権利と義務があり、委託者にはその権利がない旨を業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)に明記することで、コンプライアンスを徹底している証拠にもなります。

業務委託契約書を作成する理由

コンプライアンスを徹底し、かつその証拠を残すために、指示書の記載事項や様式、受託者の労働者に関する労務管理の権利義務が受託者にあり委託者にないこと等について明記した契約書が必要となるから。

なお、当然ながら、単に契約書にこれらの記載があればいい、という話ではなく、実際に現場でその契約条項が遵守されていなければ、偽装請負・労働者派遣法違反となります。

あまりに詳細な指示書は逆に偽装請負・労働者派遣法違反となる

ただし、あまりに詳細な指示書は、逆に偽装請負・労働者派遣法違反となる可能性があります。

疑義応答集第1集では、以下の疑義応答があります。

7. 作業工程の指示

 発注者が、請負業務の作業工程に関して、仕事の順序の指示を行ったり、請負労働者の配置の決定を行ったりしてもいいですか。また、発注者が直接請負労働者に指示を行わないのですが、発注者が作成した作業指示書を請負事業主に渡してそのとおりに作業を行わせてもいいですか。
 適切な請負と判断されるためには、業務の遂行に関する指示その他の管理を請負事業主が自ら行っていること、請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して処理することなどが必要です。
したがって、発注者が請負業務の作業工程に関して、仕事の順序・方法等の指示を行ったり、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定したりすることは、請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っていないので、偽装請負と判断されることになります。
また、こうした指示は口頭に限らず、発注者が作業の内容、順序、方法等に関して文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合も、発注者による指示その他の管理を行わせていると判断され、偽装請負と判断されることになります。

この疑義応答のポイントは、文書等で「詳細に」示している点と、「そのとおりに」受託者が作業をおこなっている点です。

このような状態では、受託者が指揮命令・指示をしていることにならず、委託者が指揮命令・指示をしていることとなり、偽装請負・労働者派遣法違反と判断されることとなります。

ポイント
  • 緊急事態や法令遵守のために必要な指示は、当然に認められる。
  • 緊急の業務内容の変更に伴う指示は、適切なプロセス・手続きあれば認められる。
  • 業務手順等の指示は、指示書等の内容が適切であり、現場での指揮命令・指示・労務管理等が受託者(の管理者)によりおこなわれていれば認められる。





指揮命令・指示ではない行為の詳細・前提条件・例外とは?

繰り返しになりますが、指揮命令・指示でない行為の具体例は、以下のとおりです。

指揮命令・指示ではない行為の具体例一覧
  • 委託者と受託者の労働者との日常的な会話(疑義応答集第1集)
  • 製品・サービスに関する注文・クレーム(同上)
  • (通信回線の営業代行契約・代理店契約等の場合)委託者から受託者の労働者に対する回線工事のスケジュール等の情報提供(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者から受託者の労働者に対する用務先での停車位置や待機場所、用務先からの出発時間の伝達(同上)
  • 打ち合わせへの受託者の労働者の同席(同上)
  • 委託者が受託者の管理責任者に対し電子メールを送信した場合における受託者の労働者に対する(CC等による)電子メールの送信(同上)
  • 委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション(疑義応答集第3集)
  • (アジャイル開発型のシステム・アプリ等開発契約の場合)開発チーム内のコミュニケーション(同上)
  • (同上)会議や打ち合わせ等への参加(同上)
  • (同上)委託者による受託者の開発担当者の技術・技能の確認・スキルシートの提出を求める行為(同上)

これらについて、具体的な詳細と、前提条件、例外等について、次のとおり解説します。





例外としての行為1:委託者と受託者の労働者との日常的な会話

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の1点めは、委託者と受託者の労働者との日常的な会話です。

これについては、疑義応答集第1集において、「発注者が請負労働者と、業務に関係のない日常的な会話をしても、発注者が請負労働者に対して、指揮命令を行ったことにはならないので、偽装請負にはあたりません」と明記されています。

根拠資料
請負労働者に対して、発注者は指揮命令を行うと偽装請負になると聞きましたが、発注者が請負事業主の労働者(以下「請負労働者」といいます)と日常的な会話をしても、偽装請負となりますか。
発注者が請負労働者と、業務に関係のない日常的な会話をしても、発注者が請負労働者に対して、指揮命令を行ったことにはならないので、偽装請負にはあたりません。





例外としての行為2:製品・サービスに関する注文・クレーム

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の2点めは、委託者から受託者に対する製品・サービスに対するクレームです。

これについては、疑義応答集第1集において、「発注者から請負事業者に対して、作業工程の見直しや欠陥商品を製作し直すことなど発注に関わる要求は注文を行うことは、業務請負契約の当事者間で行われるものであり、発注者から請負労働者への直接の指揮命令ではないので労働者派遣には該当せず偽装請負にはあたりません」と明記されています。

ただし、この例外・行為には、次のとおり条件があります。

業務委託契約の履行に必要な発注者からの情報提供等が認められる条件
  • 委託者が受託者の働者に対し直接作業工程の変更を指示しないこと。
  • 委託者が受託者の労働者に対し直接欠陥商品の再製作を指示しないこと。
根拠資料
欠陥製品が発生したことから、発注者が請負事業主の作業工程を確認したところ、欠陥商品の原因が請負事業主の作業工程にあることがわかりました。この場合、発注者が請負事業主に作業工程の見直しや欠陥商品を製作し直すことを要求することは偽装請負となりますか。
発注者から請負事業者に対して、作業工程の見直しや欠陥商品を製作し直すことなど発注に関わる要求は注文を行うことは、業務請負契約の当事者間で行われるものであり、発注者から請負労働者への直接の指揮命令ではないので労働者派遣には該当せず偽装請負にはあたりません。
ただし、発注者が直接、請負労働者に作業工程の変更を指示したり、欠陥商品の再製作を指示したりした場合は、直接の指揮命令に該当することから偽装請負と判断されることになります。

なお、特に製造請負契約では、検査後の「やり直し」は、下請法の問題となりやすいため、委託者としては、十分に注意が必要です。

検査につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における検査(検査項目・検査方法・検査基準)とは?書き方・規定のしかたは?

業務委託契約における検査期間・検査期限と検査手続きとは?書き方・規定のしかたは?





例外としての行為3:業務委託契約(請負契約・準委任契約)の履行に必要な委託者からの情報提供等

単なる情報提供等であれば指揮命令・指示には該当しない

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の3点めは、業務委託契約(請負契約・準委任契約)の履行に必要な委託者からの情報提供等です。

ただし、この例外・行為には、次のとおり条件があります。

業務委託契約(請負契約・準委任契約)の履行に必要な発注者からの情報提供等が認められる条件
  • 業務の実施に必要な範囲であること。
  • 提供されるものが委託者のみが把握している情報であること。
  • 業務実施の方針等の本来受託者自身が独立して把握しているべき専門的な情報ではないこと。
  • 委託者が受託者の労働者に顧客への営業上の対応方針等を直接指示していないこと

つまり、業務実施に必要な範囲で、委託者が把握している情報について、委託者から受託者の労働者に対し、単に情報提供等をするだけであれば、指揮命令・指示には該当せず、労働者派遣事業とは判断されません。

根拠資料
問1 通信回線の新規導入の営業の請負業務の中で、請負事業主が雇用する労働者(以下「請負労働者」といいます。)が、新規契約取得のための顧客開拓を行っています。請負労働者が、回線工事のスケジュールの情報を発注者に確認すると、請負でなく労働者派遣事業となりますか。
請負(委任及び準委任を含みます。以下同じ。)の業務では、請負事業主が自ら業務の遂行方法に関する指示を行う必要があります。ただし、例えば、通信回線導入の営業業務を行う請負労働者から、請負業務に必要な範囲で、工事スケジュールについての問い合わせを受け、発注者が情報提供することに限られるのであれば、それ自体は発注者からの指揮命令に該当するとは言えないため、直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。
一方、発注者が、工事スケジュールの情報提供に加えて、顧客への営業上の対応方針等を請負労働者に直接指示している場合は、労働者派遣事業と判断されることとなります。

提供情報の内容に注意する

提供情報の具体例「工事スケジュール」

この指揮命令・指示の例外に関する根拠となる疑義応答集第2集では、通信回線の顧客開拓の事業における具体例が記載されています。

このような事業の契約は、営業代行契約や代理店契約等が該当します。

営業代行契約や代理店契約は、契約当事者以外に、第三者である顧客(エンドユーザー)が存在します。

具体例では、あくまで業務実施に必要な範囲であり、かつ、受託者自身が自ら単独で把握できず委託者が把握している情報として、「工事スケジュール」が挙げられています。

受託者が把握できる情報やノウハウ等の情報の提供に注意する

これに対し、「顧客への営業上の対応方針等」について、「請負労働者に直接指示している場合」は、労働者派遣事業となり、偽装請負・労働者派遣法違反となります。

「顧客への営業上の対応方針等」のノウハウは、受託者自身f独立して把握しているべき専門的な情報です。

であるにもかかわらず、委託者から受託者への情報提供があったり、受託者の労働者に指示がある場合は、「自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること」により、「請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること37号告示第2条第2号ハ(2))に反することとなります。

この点から、委託者から提供される情報については、以下の点について注意が必要です。

委託者から提供される情報のポイント
  • あくまで委託者のみが把握している「業務の実施に必要な範囲」の情報であること。
  • 受託者自身が独立して把握できる情報ではないこと。
  • 本来受託者自身が把握しているべき企画・専門的な情報・経験に関する情報等のノウハウではないこと。

業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)には提供できる情報の項目や内容について規定する

上記の具体例のように、業務委託契約(請負契約・準委任契約)の中には、委託者からの情報提供が前提となるなど、受託者が委託者から完全に独立しては業務を実施できないものもあります。

こうした場合、契約内容の検討の際には、委託者から提供される情報の内容を精査して、すでに述べた適法な情報提供となるよう、検討する必要があります。

また、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)には、委託者が受託者の労働者に対し直接提供する、あるいは提供しなければならない情報の項目や内容を明記し、逆に提供してはならない情報やしてはいけない行為(指揮命令・指示)についても明記します。

こうした業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)を作成することにより、委託者・受託者の双方の関係者に注意を喚起するとともに、併せてコンプライアンスを遵守している証拠とします。

業務委託契約書を作成する理由

委託者から受託者の労働者に対する情報提供が指揮命令・指示に該当しないようにするためには、提供される情報の内容・性質が重要であるであることから、その情報の項目・内容等を明記する必要があるから。

現場での運用・マニュアル等の整備・研修等も重要

なお、適法は業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)の作成も重要ですが、その契約内容が形骸化し、現場で運用されていなければ、当然ながら偽装請負となり、労働者派遣法違反となります。

このため業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)を作成しただけで安心するのではなく、日々の現場でのオペレーションが適法におこなわれているのか、常に確認する必要があります。

また、委託者・受託者ともに、マニュアル等の整備や、管理者や労働者に対する研修などを通じて、現場で適法な情報提供等がなされる体制を構築することも検討するべきでしょう。





例外としての行為4:業務委託契約(請負契約・準委任契約)の履行に必要な業務内容の指定

業務内容をあらかじめ詳細に明確化できない場合に限る

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の4点めは、業務委託契約(請負契約・準委任契約)の履行に必要な業務内容の指定です。

ただし、この例外・行為には、次のとおり条件があります。

業務委託契約(請負契約・準委任契約)の履行に必要な業務内容の指定が認められる条件
  • 業務内容に予測できない部分があるなど、業務内容について、あらかじめすべてを正確に定めることが社会通念上困難な場合であること。
  • 特定される個々の業務内容が、あらかじめ指定された範囲内であること。
  • 上記の範囲が可能な限り狭く特定されていること。
  • 上記の範囲が幅広く指定されており、業務実施の都度、委託者から受託者の労働者に対し指示したり、委託者によって受託者の了解なく受託者の労働者が高速される場合など、委託者が受託者の労働者の労働時間管理等に影響を与える運用となっていないこと。

つまり、大前提として業務内容が事前に完全に決められないものであり、委託者から受託者の労働者に対する業務内容の特定が、あらかじめ指定された可能な限り狭い範囲内である場合は、例外として指揮命令・指示には該当せず、労働者派遣事業とは判断されません。

根拠資料
問2 車両運行管理の請負業務の中で、発注者の社用車の運転を請負労働者が行っています。発注者の労働者が社用車に乗車後、請負労働者に、用務先での停車位置や待機場所、用務先からの出発時間を直接伝えると、請負でなく労働者派遣事業となりますか。
請負業務では、請負事業主が自ら業務の遂行方法に関する指示を行う必要があるので、車両運行管理業務の請負では、通常、発注者が、あらかじめ定められた様式(運行計画)等により配車時間・用務先等を請負事業主に依頼し、請負事業主によって指名された請負労働者はその運行計画に基づき発注者の労働者を乗車させ用務先まで移動させることが求められています。
一方で、車両運行管理業務の性質上、用務先での停車位置や待機場所、用務先からの出発時間は、当日の交通事情や天候、用務先の状況により予測できず、運行計画にあらかじめ正確に記載することが社会通念上困難な場合も多いと考えられます。このため、運行計画であらかじめ指定された範囲内で発注者の労働者が詳細な停車位置や待機場所を特定しても、発注者からの指揮命令に該当するとは直ちに判断されません。
また、用務先からの出発時間に関しても、用務先に到着してからの概ねの待機時間が運行計画に明示されており、それに逸脱しない範囲で業務が遂行されていれば、発注者の労働者から請負労働者に用務先からの出発時間を直接伝えても、発注者からの指揮命令に該当するとは直ちに判断されません。
ただし、例えば、運行計画における用務先が市町村名のような幅広い区域を記しているような場合であって、運行の都度、発注者の労働者が直接、請負労働者に番地や建物名といった具体的な用務先を示したり、用務先からの出発時間のめどが全く立てられず、待機時間が発注者により請負事業主の了解なく拘束される場合など、請負事業主による請負労働者の労働時間管理等に影響を与えるような運用は、発注者からの指揮命令に該当し、労働者派遣事業と判断されることとなります。

業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)等の書面でなるべく「範囲」を限定する

この指揮命令・指示の例外に関する根拠となる疑義応答集第2集では、車両運行管理業務に関する請負契約が具体例として挙げられてます。

このため、その業務内容の詳細や範囲については、「運行計画」で示される前提となっています。

この疑義応答集第2集における回答では、あらかじめ指定された業務内容の「範囲」がいかに狭く特定されているかポイントとなっています。

他の業務委託契約等でも同様ですが、契約全体で業務内容の詳細や範囲について特定できる場合は、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)において、なるべく狭く特定した業務内容の範囲を指定しておきます。

業務委託契約書を作成する理由

業務内容が不明確または広範囲で、事実上業務内容が決まっていない場合において、その都度業務内容を委託者から受託者の労働者に指示してしまうと偽装請負・労働者派遣法違反となるため、業務内容をなるべく狭い範囲で指定しておく必要があるから。

また、日々、業務内容の詳細が異なる場合や、週次・月次で業務内容の詳細が変わる場合は、「運行計画」のように、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)とは別途の書面を用意する必要があります。

この場合も、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)において可能な限り狭く業務内容の範囲を指定しつつ、別途の書面においても、同様に可能な限り狭く業務内容の範囲を指定するべきです。

下請法の三条書面としても注意する

なお、業務内容を可能な限り特定した書面の交付は、下請法が適用される契約では、下請法を遵守する観点からも重要となります。

このため、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)や書面の作成にあたっては、これらが三条書面に該当するように留意する必要があります。

下請法の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法とは?禁止事項・支払期限・三条書面・五条書類について解説

三条書面の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項について解説





例外としての行為5:打ち合わせへの受託者の労働者の同席

単なる打ち合わせへの同席は指揮命令・指示には該当しない

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の5点めは、打ち合わせへの受託者の労働者の同席です。

これは、疑義応答集第2集において、「発注者・請負事業主間の打ち合わせ等に、請負事業主の管理責任者だけでなく、管理責任者自身の判断で請負労働者が同席しても、それのみをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません」と明記されています。

ただし、この例外・行為には、次のとおり条件があります。

打ち合わせへの受託者の労働者の同席が認められる条件
  • 打ち合わせ等の際、委託者から作業の順序や受託者の労働者への割振り等の詳細な指示がおこなわれないこと。
  • 打ち合わせ等の際、委託者から受託者の労働者に対し作業方針の変更が日常的に指示されないこと。

つまり、単に受託者の労働者が打ち合わせに同席するのみであり、その打ち合わせの際に、委託者が受託者の労働者への指揮命令・指示や労務管理等をおこなっていないのであれば、例外として指揮命令・指示には該当せず、労働者派遣事業とは判断されません。

根拠資料
問9 発注者との打ち合わせ会議や、発注者の事業所の朝礼に、請負事業主の管理責任者だけでなく請負労働者も出席した場合、請負でなく労働者派遣事業となりますか。
発注者・請負事業主間の打ち合わせ等に、請負事業主の管理責任者だけでなく、管理責任者自身の判断で請負労働者が同席しても、それのみをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。
ただし、打ち合わせ等の際、作業の順序や従業員への割振り等の詳細な指示が行われたり、発注者から作業方針の変更が日常的に指示されたりして、請負事業主自らが業務の遂行方法に関する指示を行っていると認められない場合は、労働者派遣事業と判断されることになります。

打ち合わせにはなるべく受託者の管理者が同席する

なお、受託者の管理者が同席せず、受託者の労働者のみが打ち合わせに出席した場合は、委託者による受託者の労働者への直接の指揮命令・指示に該当する可能性があります。

このため、受託者の労働者のみの打ち合わせの出席は控えるべきです。

打ち合わせには、委託者・受託者双方の管理者が出席・同席をするようにします。





例外としての行為6:電子メール(CC)の送信

電子メール(CC)には記載してはいけない内容が多い

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の6点めは、電子メール(CC)の送信です。

これは、疑義応答集第2集において、「発注者から請負事業主への依頼メールを、管理責任者の了解の下、請負労働者に併せて送付したことのみをもって、直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。」と明記されています。

ただし、この例外・行為には、次のとおり条件があります。

電子メール(CC)の送信が認められる条件
  • 受託者の労働者に電子メール(CC)を送信することについて、受託者の「管理者の了解」を得ること。
  • 電子メールの内容に作業の順序、受託者の労働者への割振りの詳細な指示が含まれないこと。
  • 電子メールにおいて作業方針の変更が日常的に指示されていないこと。
  • 委託者が受託者の労働者に対し直接返信を求めないこと。

つまり、委託者が受託者の管理者の了解を得たうえで、電子メールの文面に、作業順序・委託者の労働者の割り振りの詳細な指示、作業方針の変更の日常的な指示、委託者の労働者への直接返信の求め等が記載されていなければ、単に委託者から受託者への電子メール(CC)が送信されたとしても、例外として指揮命令・指示には該当せず、労働者派遣事業とは判断されません。

根拠資料
問 10 発注者からの依頼メールを請負事業主の管理責任者に送付する際、管理責任者の了解の下、請負労働者にも併せて(cc で)送付した場合、請負でなく労働者派遣事業となりますか
発注者から請負事業主への依頼メールを、管理責任者の了解の下、請負労働者に併せて送付したことのみをもって、直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。
ただし、メールの内容が実質的に作業の順序や従業員への割振り等の詳細な指示が含まれるものであったり、作業方針の変更が日常的に指示されたり、あるいは発注者から請負労働者に直接返信を求めている場合など、請負事業主自らが業務の遂行方法に関する指示を行っていると認められない場合は、労働者派遣事業と判断されることになります。
なお、請負事業主から発注者に請負労働者の個人情報を提供する際には、個人情報保護法等に基づく適正な取扱(例えば、請負労働者のメールアドレスの提供に先立ち請負労働者本人の同意を得る等)が求められます。

メールの送受信は必ず管理者同士でおこなう

なお、電子メールに関して、根拠となる疑義応答集第2週では、わざわざ「(ccで)」と記載しています。

ということは、委託者から受託者の労働者に対して、CCではなく個別で電子メールを送信すると、委託者による受託者の労働者への直接の指揮命令・指示に該当する可能性があります。

このため、委託者から受託者の労働者に対する個別の電子メールの送信は、たとえ受託者の管理者にCCで送信する場合であっても、控えるべきです。

電子メールは、必ず委託者・受託者の双方の管理者同士でおこなうようにします。





例外としての行為7:委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション

エンジニア同士の技術的なコミュニケーションは指揮命令・指示には該当しない

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の7点めは、委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーションです。

これは、いわゆるアジャイル型開発のシステム等の開発に関するものであり、以下同様となります。

【意味・定義】アジャイル開発とは?

アジャイル開発とは、「開発の途中で仕様や設計の変更があるとの前提に立って、最初から厳密な仕様を決めずにおおよその仕様だけで開発に着手し、小単位での『実装→テスト実行』を繰り返しながら、徐々に開発を進めていく手法を指す。」契約形態は、主に準委任契約となる。

ただし、この例外・行為には、次のとおり条件があります。

委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーションが認められる条件
  • 実態として、委託者側と受託者側の開発関係者が対等な関係の下で協働していること。
  • 実態として、受託者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務をおこなっていること。
  • プロダクトバックログの内容についての詳細の説明や、開発業務に必要な開発の要件を明確にするための情報提供であること。
  • 情報提供が、実態として、受託者側の開発担当者に対する業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令ではないこと。

つまり、あくまで実態として、委託者・受託者双方の開発関係者が対等な関係で協働しており、委託者側の開発担当者(労働者)が自律的に判断して開発業務をおこなっていれば、プロダクトバックログの説明や要件の明確化のための情報提供は、偽装請負とは判断されません。

根拠資料
Q4 アジャイル型開発においては、発注者側の開発責任者はプロダクトバックログ(開発対象に係る機能等の要求事項の一覧)の内容やその優先順位の決定を行い、開発手法やスプリント(開発業務を実施するための一定の区切られた期間)内における開発の順序等については開発担当者がその専門的な知見を活かして自律的に判断し開発業務を進めるのが通常ですが、その際、発注者側の開発責任者から、受注者側の開発担当者に対し、直接、プロダクトバックログの詳細の説明や、開発担当者の開発業務を円滑に進めるための情報提供を行うと偽装請負と判断されますか。
A4 前記A2で述べたとおり、アジャイル型開発において、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。そのため、両者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めている限りにおいては、そのプロセスにおいて、発注者側の開発責任者が受注者側の開発担当者に対し、その開発業務の前提となるプロダクトバックログの内容についての詳細の説明や、開発業務に必要な開発の要件を明確にするための情報提供を行ったからといって、それだけをもって直ちに偽装請負と判断されるわけではありません。
他方で、発注者側の開発責任者による受注者側の開発担当者に対する説明や情報提供が、実態として、受注者側の開発担当者に対する業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令と認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。

指揮命令・指示と開発については管理者とエンジニアに権限を切り分ける

このように、エンジニア同士の技術的なコミュニケーションについては、前提条件さえ満たせば、指揮命令・指示には該当しません。

もっとも、このコミュニケーションに、委託者側の管理者とエンジニアの兼任者が混じっていしまうと、問題となる可能性があります。

というのも、管理者とエンジニアの兼任者の場合は、つい管理者として、受託者のエンジニアに対し、指揮命令・指示や労務管理に影響を与える行為をしてしまいがちです。

このため、管理者とエンジニアについては、それぞれ管理と開発の権限を切り分けるようにして、なるべく兼任させないことが重要となります。

業務委託契約書でプロダクトオーナー、スクラムマスター、その他の管理者を選任する

なお、スクラム開発のアジャイル型開発では、一般的には、いわゆるプロダクトオーナーとスクラムマスターが管理者に該当します。

【意味・定義】プロダクトオーナーとは?

プロダクトオーナーとは、「開発する機能の仕様策定に関する議論を主導し、開発機能の優先順位や実現方法等に対する意思決定を主体的に行う役割 」をいう。

【意味・定義】スクラムマスターとは?

スクラムマスターとは、「チームが機能するように、アジャイル開発が前提としている価値観、考え方、実践にあたって必要な振る舞い、方法についてのレクチャーやコーチングなどを行い、支援する役割」をいう。

もっとも、委託者がユーザであり、かつ自社開発もおこなっている場合などでは、プロダクトオーナーとスクラムマスターが委託者の労働者から選任されることとなります。

また、アジャイル型開発業務委託契約(請負契約・準委任契約)が再委託である場合は、委託者(元請け)・受託者(下請け)ともに、プロダクトオーナーが選任されないこととなります。

この場合、大規模な開発であれば、委託者・受託者ともに、スクラムマスターすら選任されないこととなります。

こうした場合は、プロダクトオーナーやスクラムマスターとは別に、管理者を選任する必要があります。

業務委託契約書でプロダクトオーナー、スクラムマスター、管理者の権限を明記する

なお、これらのプロダクトオーナー、スクラムマスター、管理者については、その権限を明確化する必要があります。

また、併せてエンジニアの権限も明確化します。

これにより、不必要な指揮命令・指示、労務管理等への影響がないようにします。

この際、権限について、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)において具体的な権利義務として規定することで、その実効性を法的に担保することになります。

業務委託契約書を作成する理由

委託者のエンジニアが受託者のエンジニアについて指揮命令・指示、労務管理等をおこなうと偽装請負・労働者派遣法違反となるため、プロダクトオーナー、スクラムマスター、その他の管理者等による指揮命令・指示、労務管理等の権限を規定した契約書が必要となるから。





例外としての行為8:開発チーム内のコミュニケーション

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の8点めは、開発チーム内のコミュニケーションです。

ただし、この例外には、次のとおり条件があります。

開発チーム内のコミュニケーションが認められる条件
  • 実態として、委託者側と受託者側の開発関係者が対等な関係の下で協働していること。
  • 実態として、受託者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務をおこなっていること。
  • コミュニケーションがシステム開発に関する技術的な議論や助言・提案であること。
  • コミュニケーションが、実態として、受託者側の開発担当者に対する業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令ではないこと。

つまり、あくまで実態として、委託者・受託者双方の開発関係者が対等な関係で協働しており、委託者側の開発担当者(労働者)が自律的に判断して開発業務をおこなっていれば、システム開発に関する技術的な議論や助言・提案は、偽装請負とは判断されません。

根拠資料
Q5 アジャイル型開発の開発チーム内のコミュニケーションにおける技術的な議論や助言・提案によって、偽装請負と判断されることはありますか。
A5 前記A2で述べたとおり、アジャイル型開発において、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。そのため、実態として、両者間において、対等な関係の下でシステム開発に関する技術的な議論や助言・提案が行われ、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めているのであれば、偽装請負と判断されるものではありません。
他方で、発注者側の開発担当者の助言・提案や技術的な議論における言動が、実態として、受注者側の開発担当者に対する業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令と認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。

「委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション」同様の対応をする

この点について、前項にて解説した「委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション」と同様の対応をする必要があります。

つまり、プロダクトオーナー、スクラムマスター、その他の管理人、エンジニアの権限や役割を明確化することが重要となります。

同様に、業務委託契約書(請負契約書・準委任契約書)において、委託者・受託者のこれらの当事者の権限・役割を規定することも重要です。





例外としての行為9:会議や打ち合わせ等への参加

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の9点めは、会議や打ち合わせ等への参加です。

これは、会議・打ち合わせのみならず、電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用も含みます。

ただし、この例外には、次のとおり条件があります。

会議や打ち合わせ等への参加が認められる条件
  • 実態として、委託者側と受託者側の開発関係者が対等な関係の下で協働していること。
  • 実態として、受託者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務をおこなっていること。
  • 実態として、会議や打ち合わせ、電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、両者が対等な関係の下で情報の共有や助言・提案がおこなわれていること。
  • 実態として、上記の利用において、委託者側の開発責任者や開発担当者から受託者側の開発担当者に対し、直接、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令がおこなわれていないこと。
  • 受託者側が管理責任者を選任するなどして受託者自らが受託者の労働者に対し指揮命令をおこなうこと。

つまり、あくまで実態として、委託者・受託者双方の開発関係者が対等な関係で協働しており、委託者側の開発担当者(労働者)が自律的に判断して開発業務をおこなっていれば、会議や打ち合わせ、電子メール、チャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用における情報の共有や助言・提案は、偽装請負とは判断されません。

根拠資料
Q6 アジャイル型開発においては、発注者側と受注者側の開発関係者が、随時、情報の共有や助言・提案をしながら開発を進めることが通常ですが、そのための会議や打ち合わせ、あるいは、連絡・業務管理のための電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者側及び受注者側の双方の関係者全員が参加した場合、偽装請負となりますか。
A6 前記A2で述べたとおり、アジャイル型開発において、実態として、発注者側と受注者側の開発関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません。そして、会議や打ち合わせ、あるいは、電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者側と受注者側の双方の関係者が全員参加している場合であっても、それらの場面において、実態として、両者が対等な関係の下で情報の共有や助言・提案が行われ、受注者側の開発担当者が自律的に開発業務を進めているのであれば、偽装請負と判断されるものではありません。
他方で、このような会議や打ち合わせなどの全ての機会に管理責任者の同席が求められるものではないものの、実態として、会議や打ち合わせ、あるいは、電子メールやチャットツール、プロジェクト管理ツール等の利用において、発注者側の開発責任者や開発担当者から受注者側の開発担当者に対し、直接、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示などの指揮命令が行われていると認められるような場合には、偽装請負と判断されることになります。
そのため、受注者側の開発担当者に対し、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行うことが必要になった場合には、受注者側が管理責任者を選任するなどして受注者自らが指揮命令を行うなど、適正な請負等と判断されるような体制を確立しておくことが必要です。

会議・打ち合わせにはなるべく受託者の管理者が同席する

なお、受託者の管理者が同席せず、受託者の労働者のみが会議・打ち合わせに出席した場合は、委託者による受託者の労働者への直接の指揮命令・指示に該当する可能性があります。

この例外の根拠となる疑義応答集第3集では、「このような会議や打ち合わせなどの全ての機会に管理責任者の同席が求められるものではない」と明記されてはいます。

しかしながら、受託者の管理者が同席しない場合は、会議や打ち合わせにおいて、委託者による受託者の労働者への直接の指揮命令・指示の温床となります。

それ以上に、受託者の管理者が同席せずに適法な会議・打ち合わせでをしていると、受託者の管理者が不在であることから、委託者は、受託者の(管理者を通じた)労働者への指揮命令・指示ができないこととなります。

これでは、せっかくのアジャイル型開発であるにもかかわらず非常に非効率ですので、なるべく受託者の管理者は会議・打ち合わせへの参加をするべきです。





例外としての行為10:受託者の労働者のスキルの把握

個々の労働者の指名や特定の労働者の就業は拒否をしない

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、そもそも労働者派遣契約の指揮命令・指示に該当しない例外の10点めは、受託者の労働者のスキルの把握です。

ただし、この例外には、次のとおり条件があります。

受託者の労働者のスキルの把握が認められる条件
  • 委託者が受託者に対し個人を特定できるスキルシートを提出させることによって、受託者の個々の労働者を指名したり、受託者の特定の労働者の就業を拒否したりしないこと。

つまり、個人を特定できないスキルシートの提出は、指揮命令・指示に該当せず、偽装請負とは判断されません。

根拠資料
Q7 アジャイル型開発では、開発担当者同士が情報共有や助言、提案を行いながら、個々の開発担当者が自律的に判断して開発業務を進めるため、そのような開発を行うことができる専門的な技術者が必要となりますが、国内ではアジャイル型開発を経験した技術者が少ない等の状況にあるため、開発担当者の技術や技能について、一定の水準を確保することが重要です。そこで、発注者から受注者に対し、開発担当者の技術・技能レベルや経験年数等を記載した「スキルシート」の提出を求めたいのですが、これに何か問題はありますか。
A7 前記A2で述べたとおり、適正な請負等と判断されるためには、受注者が自己の雇用する労働者に対する業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っていること及び請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することが必要であり、そのためには、受注者の労働者の配置等の決定及び変更について受注者自らが行うことが求められます。
そのため、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与していると判断されることになり、適正な請負等とは認められません。
他方で、アジャイル型開発において、受注者側の技術力を判断する一環として、発注者が受注者に対し、受注者が雇用する技術者のシステム開発に関する技術・技能レベルと当該技術・技能に係る経験年数等を記載したいわゆる「スキルシート」の提出を求めたとしても、それが個人を特定できるものではなく、発注者がそれによって個々の労働者を指名したり特定の者の就業を拒否したりできるものでなければ、発注者が受注者の労働者の配置等の決定及び変更に関与しているとまではいえないため、「スキルシート」の提出を求めたからといって直ちに偽装請負と判断されるわけではありません。

逆に言えば、個人を特定できるスキルシートの提出や、これにもとづいて、委託者による受託者の業務従事者の指名や就業拒否があった場合は、偽装請負とみなされる可能性が高くなります。

この他、業務委託契約やSES契約におけるスキルシートの提出の違法性につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

SES契約でスキルシートの提出は違法?偽装請負?適法な方法は?

ポイント
  • 委託者と受託者の労働者との日常会話、製品・サービスに対する注文・クレーム、会議、打ち合わせ、コミュニケーション等については、単にそれのみをおこなうだけであり、委託者から受託者の労働者に対する指揮命令・指示・労務管理等がなければ、そもそも指揮命令・指示には該当しない。
  • 委託者から受託者の労働者への情報提供等、業務内容の特定については、一定の条件を満たした場合は、指揮命令・指示には該当しない。
  • 委託者から受託者に対し送信される電子メール(CC)は、記載してはしけない事項が記載されていなければ、指揮命令・指示には該当しない。
  • スキルシートは、個人を特定できないものの提出のみであれば、指揮命令・指示には該当しない。





業務委託契約(請負契約・準委任契約)における指揮命令・指示の例外に関するよくある質問

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、委託者が受託者の労働者に対し、例外として適法にできる指揮命令・指示には、どのようなものがありますか?
以下の指揮命令・指示については、委託者は、受託者の労働者に対し、例外的に適法にできるとされています。

  • 災害時等の緊急時における受託者の労働者に対する指示(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者側で緊急に別の用務先に行く必要が生じた場合における受託者の労働者に対する指示(同上)
  • 法令遵守のために必要な指示(同上)
  • 業務手順等の指示(同上)
業務委託契約(請負契約・準委任契約)において、委託者が受託者の労働者に対してできる、そもそも指揮命令・指示に該当しない適法な行為には、どのようなものがありますか?
以下の行為は、そもそも指揮命令・指示には該当せず、委託者は、受託者の労働者に対し、適法におこなうことができます。

  • 委託者と受託者の労働者との日常的な会話(疑義応答集第1集)
  • 製品・サービスに関する注文・クレーム(同上)
  • (通信回線の営業代行契約・代理店契約等の場合)委託者から受託者の労働者に対する回線工事のスケジュール等の情報提供(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者から受託者の労働者に対する用務先での停車位置や待機場所、用務先からの出発時間の伝達(同上)
  • 打ち合わせへの受託者の労働者の同席(同上)
  • 委託者が受託者の管理責任者に対し電子メールを送信した場合における受託者の労働者に対する(CC等による)電子メールの送信(同上)
  • 委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション(疑義応答集第3集)
  • (アジャイル開発型のシステム・アプリ等開発契約の場合)開発チーム内のコミュニケーション(同上)
  • (同上)会議や打ち合わせ等への参加(同上)
  • (同上)委託者による受託者の開発担当者の技術・技能の確認・スキルシートの提出を求める行為(同上)