このページでは、フリーランス保護法の発注事業者・フリーランスの双方向けに、いわゆる「60日ルール」とその例外について解説しています。

フリーランス保護法が適用される企業間取引の契約では、納入等(給付・役務の提供)の時点から起算して、原則として、60日後までに支払期日・支払期限を設定しなければなりません。

この「60日ルール」の規制にはいくつかの例外があり、その例外に該当した場合は、60日を経過した後に支払ったとしても、フリーランス保護法違反とはなりません。

ただし、この「60日ルール」の例外には、詳細な条件がありますので、その条件を満たしていないと、フリーランス保護法違反となります。

このページでは、こうした「60日ルール」とその例外について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • フリーランス保護法の「60日ルール」の定義。
  • フリーランス保護法の「60日ルール」の数え方。
  • フリーランス保護法の「60日ルール」の6つの例外と条件。




フリーランス保護法の「60日ルール」とは?

支払期限・支払期日は給付日・役務の提供日から60日以内

フリーランス保護法における「60日ルール」とは、企業間取引の契約において、支払期日・支払期限を納入等(給付・役務の提供)があった日(初日算入)から起算して、最長でも60日以内とするルールのことをいいます。

【意味・定義】60日ルール(フリーランス保護法)とは?

60日ルールとは、フリーランス保護法が適用される業務委託契約における支払代金の支払期日について、検査の有無にかかわらず、発注事業者(特定業務委託事業者)がフリーランス(特定受託事業者)からの給付を受領した日・役務の提供を受けた日(初日を算入する)から起算して60日以内を最長とするルールをいう。

フリーランス保護法では、報酬の支払期日・支払期限は、次のように制限されています。

フリーランス保護法第4条(報酬の支払期日等)

1 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第2条第3項第2号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

3 前2項の規定にかかわらず、他の事業者(以下この項及び第6項において「元委託者」という。)から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務(以下この項及び第6項において「元委託業務」という。)の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合(前条第1項の規定により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)には、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して30日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

4 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは元委託支払期日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは元委託支払期日から起算して30日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

5 特定業務委託事業者は、第1項若しくは第3項の規定により定められた支払期日又は第2項若しくは前項の支払期日までに報酬を支払わなければならない。ただし、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して60日(第3項の場合にあっては、30日)以内に報酬を支払わなければならない。

6 第3項の場合において、特定業務委託事業者は、元委託者から前払金の支払を受けたときは、元委託業務の全部又は一部について再委託をした特定受託事業者に対して、資材の調達その他の業務委託に係る業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。

60日ルールはあくまで「特定業務委託事業者」が発注事業者の場合に適用される

なお、フリーランス保護法第4条にあるとおり、60日ルールは、あくまで「特定業務委託事業者」が発注事業者である場合に限って適用されます。

【意味・定義】特定業務委託事業者とは?

フリーランス保護法における特定業務委託事業者とは、業務委託事業者のうち、次のいずれかのものをいう。

  • 従業員を使用する個人事業者
  • 役員が2人以上いる法人
  • 従業員を使用する法人

このため、特定業務委託事業者でない「業務委託事業者」が発注事業者である場合には、60日ルールは適用されません。

【意味・定義】業務委託事業者とは?

フリーランス保護法における業務委託事業者とは、特定受託事業者(従業員がいない個人事業者・一人法人)に対し業務委託をする事業者をいう。

ポイント
  • フリーランス保護法が適用される企業間取引の契約では、支払期日・支払期限は、原則として納入日・業務提供日から60日以内。
  • 60日ルールは、「特定業務委託事業者」が発注事業者である場合に適用される。





フリーランス保護法の「60日ルール」の数え方は?

「60日ルール」はいつから計算する?

このように、「60日ルール」は、「特定受託事業者の給付を受領した日」(物品の製造・情報成果物の作成の場合)・「特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日」(役務の提供の場合)から計算します(以下、これらを総称して「給付を受領した日」とします)。

なお、「特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうか」は問題になりません。

このため、発注事業者が検査をしたとしても、また、その検査が終わっていなかったとしても、フリーランスによる給付・役務の提供があった日から起算して、原則として60日後には支払いをしなければなりません。

ただし、後述の「やり直しの場合」等を除きます。

60日ルールには「初日不算入の原則」は適用されない

さらに、フリーランス保護法の60日ルールには、「初日不算入の原則」は適用されず、初日を算入します。

【意味・定義】初日不算入の原則とは?

初日不算入の原則とは、日、週、月または年によって期間を定めた場合、期間の初日は算入しない原則をいう。

民法第140条(初日不算入の原則)

日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

一般的な期間の計算では、初日を算入せずに、翌日を初日=起算点として算入して計算します。

しかし、フリーランス保護法が適用される企業間取引の計算における支払期日・支払期限の計算では、次のとおり、初日を算入します。

1 報酬の支払期日等(本法第4条)

特定業務委託事業者は、特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日以内(給付を受領した日を算入する。)のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定める義務がある。

具体的な支払期日

原則通り60日ルールが適用される場合、支払期日は次のとおりとなります。

60日ルールが適用される場合の具体的な支払期日
  • 給付を受領した日から起算して60日以内に支払期日を定めた場合=その定められた支払期日
  • 支払期日を定めなかった場合=給付を受領した日
  • 給付を受領した日から起算して60日を超えて支払期日を定めた場合=給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日

このため、原則として、給付を受領した日から起算して60日後が最長の支払期日となります。

ただし、これらの原則には、多くの例外があります(次項にて解説)。

ポイント
  • フリーランス保護法の「60日ルール」の起算点は、検査の有無に関係なくフリーランスからの給付・役務の提供があった日。
  • フリーランス保護法の「60日ルール」には初日不算入の原則は適用されず、フリーランスからの給付・役務の提供があった日を初日として計算する。





フリーランス保護法の60日ルールの6つの例外とは?

フリーランス保護法の60日ルールには、以下の例外があります。

60日ルールの例外
  • 例外1:再委託の場合
  • 例外2:システム等開発業務委託契約の「受領」の場合
  • 例外3:継続的な役務提供委託の場合
  • 例外4:やり直しの場合
  • 例外5:フリーランスの責めに帰すべき事由により支払うことができなかった場合
  • 例外6:支払日に銀行等が休日・休業日である場合

それぞれ、詳しく見ていきましょう。





60日ルールの例外1:再委託の場合(30日ルール)

再委託の場合における60日ルールの例外=30日ルールが適用される条件とは

フリーランス保護法では、発注事業者(特定委託事業者)からフリーランス(特定受託事業者)に対する業務委託が事業者(元委託者)からの業務委託(元委託業務)の再委託の場合、発注事業者は、一定の事項を明示することにより、60日ルールの特例の適用を受けることができます(フリーランス保護法第4条第3項)。

これは、下請法には無い、フリーランス保護法特有の制度です。

発注事業者が明示するべき一定の事項とは、以下の3つの事項です。

再委託の場合における60日ルールの例外のが適用される明示事項
  • 再委託である旨(再委託であることを把握し得る程度のもの)
  • 元委託者の商号、氏名もしくは名称または事業者別に付された番号、記号その他の符号であって元委託者を識別できるもの
  • 元委託業務の対価の支払期日(=元委託支払期日)

特定業務委託事業者が特定受託事業者に対しこれらの内容を明示した場合、上記の元委託支払期日から起算して最長で30日(初日を算入する)の期間内に報酬の支払期日を定めることができます。

なお、これらの事項を明示しない場合は、通常どおりの60日ルールが適用されます。

このため、30日ルールを適用しないのであれば、発注事業者は、フリーランスに対し、必ずしも再委託である旨を明示する義務まではありません。

「明示」の方法とは?

上記の3つの事項を明示する方法は、三条通知の明示の方法と同様、書面または電磁的方法となります。

【意味・定義】三条通知(フリーランス保護法)とは?

三条通知(フリーランス保護法)とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対し明示しなければならない通知をいう。

具体的には、以下のものが該当します。

三条書面の明示の方法
  • 書面の交付(契約書の取交しを含む)
  • 書面に出力されるファクシミリ(FAX)の送付
  • 電子メールの送信
  • ショートメッセージ・SNSのメッセージ機能による送信
  • Webアプリ・Webサービス(電子契約サービスを含む)による表示
  • 電磁的記録ファイルに出力されるファクシミリ(FAX)の送信

この他、三条通知につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

フリーランス保護法(新法)の三条通知とは?

業務委託契約書を作成する理由

フリーランス保護法が適用される契約では、「60日ルール」の例外として30日ルールを適用するために、特約として30日ルールを適用する旨について明示した書面が必要となるから。

具体的な支払期日

再委託の場合において30日ルールを適用するときは、支払期日は次のとおりとなります。

再委託の場合(30日ルールを適用した場合)の具体的な支払期日
  • 元委託支払期日から起算して30日以内に支払期日を定めた場合=その定められた支払期日
  • 支払期日を定めなかった場合=元委託支払期日
  • 元委託支払期日から起算して30日を超えて支払期日を定めた場合=元委託支払期日から起算して30日を経過した日の前日





60日ルールの例外2:システム等開発業務委託契約の「受領」の場合

60日ルールの例外の2つめは、情報成果物の作成における「受領」の場合です。

システム等開発委託契約のような情報成果物の作成の場合、クラウド上での開発、納入前の一時的な成果物の受領など、フリーランスの作成内容の確認や今後の作業の指示等をおこなうために情報成果物を一時的に発注事業者の支配下に置く場合があります。

この際、その情報成果物が給付としての水準に達し得るかどうか明らかではない場合があります。

この場合、発注事業者は、次の一定の条件を満たすことにより、必ずしも支払期日・支払期限どおりに支払いをする必要はありません。

イ 情報成果物の作成を委託した場合

(途中省略)

情報成果物の作成委託では、特定業務委託事業者が作成の過程で、特定受託事業者の作成内容の確認や今後の作業の指示等を行うために情報成果物を一時的に特定業務委託事業者の支配下に置く場合がある。この時点では当該情報成果物が給付としての水準に達し得るかどうか明らかではない場合において、あらかじめ特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、特定業務委託事業者が自己の支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合には、特定業務委託事業者が当該情報成果物を自己の支配下に置いたとしても直ちに受領したものとは取り扱わず、自己の支配下に置いた日を支払期日の起算日とはしない。
ただし、3条通知に明記された納期において、当該情報成果物が特定業務委託事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、当該納期に受領したものとして、支払期日の起算日とする。

(以下省略)

これをわかりやすくまとめると、次のとおりです。

情報成果物の作成委託における支払期日・支払期限の起算日・受領日
  • 情報成果物が給付としての水準に達し得るかどうか明らかではない場合
  • あらかじめ特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、特定業務委託事業者が自己の支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合

―以上の2点を満たしていれば、発注事業者は、その確認の時点まで(ただし、最長で三条通知に記載した納期まで)は、受領を留保することができる。

業務委託契約書を作成する理由

フリーランス保護法が適用される契約では、「60日ルール」の例外として、情報成果物の受領について、情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で給付を受領したこととすることとする場合は、その旨の合意が必要となるから。

ポイント
  • 請負型のシステム等開発業務委託契約において、成果物を受領した際、成果物が委託内容の水準に達しているかどうかがわからない場合、発注事業者は、一定の条件を満たすことにより、最長で納期までは受領を留保できる。





60日ルールの例外3:継続的な役務提供委託・締切計算の場合

60日ルールの例外の3つめは、継続的な役務提供委託における締切計算の場合です。

継続的な役務提供委託≒準委任型の業務委託契約の場合、次のとおり、一定の条件を満たせば、「月単位で設定された締切対象期間の末日(個々の役務が連続して提供される期間が1か月未満の役務の提供委託の場合には、当該期間の末日)」を役務提供の日とすることができます。

ウ 役務の提供を委託した場合

(途中省略)

個々の役務が連続して提供される役務であって、次の①から③までの全ての要件を満たす場合には、月単位で設定された締切対象期間の末日(個々の役務が連続して提供される期間が1か月未満の役務の提供委託の場合には、当該期間の末日)に当該役務が提供されたものとして取り扱い、当該日から起算して60日(2か月)以内に報酬を支払うことが認められる。

① 報酬の支払は、特定受託事業者と協議の上、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることがあらかじめ合意され、その旨が3条通知に明確に記載されていること。

② 3条通知に、当該期間の報酬の額又は報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方式(役務の種類・量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限る。)が明確に記載されていること。

③ 特定受託事業者が連続して提供する役務が同種のものであること。

(以下省略)

これをわかりやすくまとめると、次のとおりです。

継続的な役務提供契約の場合において60日ルールが例外となる条件
  • 「個々の役務が連続して提供される役務」であること。
  • 支払いが役務提供ベースの月末締切であることについてあらかじめ合意されていること。
  • 上記の「月末締切」について三条通知に明記されていること。
  • 三条通知に報酬の額または算定方式が明記されていること。
  • フリーランスが「連続して提供する役務が同種のものであること。」

この条件を満たした場合、発注事業者は、月末に締切り、その月末から60日後(2ヶ月後)を支払期日として設定できます。

なお、「月末締め翌月末払い」につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

「月末締め翌月末払い」の正しい契約書の書き方は?正確の規定のしかたについて解説

また、三条通知につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

フリーランス保護法(新法)の三条通知とは?

業務委託契約書を作成する理由

フリーランス保護法が適用される契約では、「60日ルール」の例外として「月末締切」で報酬の計算をする場合、特約としてその合意が必要となるから。

ポイント
  • 役務提供委託≒準委任型の業務委託契約の場合、一定の条件を満たせば、「月単位で設定された締切対象期間の末日」を役務提供の日とし、月末締切・翌々月末日を支払期日・支払期限とすることができる。





60日ルールの例外4:やり直しの場合

60日ルールの例外の4つめは、やりなおしの場合です。

これは、フリーランスによる給付に契約不適合等の下請事業者の責めに帰すべき理由がある場合において、報酬の支払前にやり直しをさせるときが該当します。

この場合、発注事業者は、当初の支払期日・支払期限ではなく、やり直し後の受領日から60日以内に支払えばよいとされています。

エ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由があるとしてやり直しをさせた場合

特定受託事業者の給付に、特定受託事業者から提供されるべき物品及び情報成果物と適合しないこと等があるなど、特定受託事業者の責めに帰すべき事由があり、報酬の支払前にやり直しをさせる場合には、やり直しをさせた後の物品又は情報成果物を受領した日(役務の提供委託の場合には、特定受託事業者が役務を提供した日)が支払期日の起算日となる。

この点について、契約内容として、契約不適合や、フリーランスの責めに帰すべき理由があるかどうかが明確である必要があります。

そうでないと、「不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止」(フリーランス保護法第5条第2項第2号)に該当するリスクがあります。

【意味・定義】不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(フリーランス保護法)とは?

フリーランス保護法における不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止とは、フリーランス保護法が適用される取引において、フリーランスの責めに帰すべき理由がないのに,フリーランスの給付の内容を変更させ、またはフリーランスの給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、フリーランスがその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させることをいう。

特に、システム等の開発契約、とりわけアジャイル開発の場合は、要求仕様や要件定義が明確でないと、この「不当なやり直し」に該当するリスクがありますので、注意が必要です。

ポイント
  • 支払期日・支払期限の到来の前に、フリーランスの給付に契約不適合等のフリーランスの責めに帰すべき理由が発見された場合、発注事業者は、当初の支払期日・支払期限ではなく、やり直し後の受領日から60日以内に支払えばよい。





60日ルールの例外5:フリーランスの責めに帰すべき事由により支払うことができなかった場合

60日ルールの例外の5つめは、フリーランスの責めに帰すべき事由により支払うことができなかった場合です。

フリーランス保護法第4条第5項では、「ただし、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して60日(第3項の場合にあっては、30日)以内に報酬を支払わなければならない。」とあります。

この「特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったとき」の具体例として、次のとおり、銀行の口座番号の伝達ミスなどがあります。

ア 特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったとき

「特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったとき」とは、例えば、特定受託事業者が誤った口座番号を特定業務委託事業者に伝えていたため、特定業務委託事業者は、支払期日までに報酬について払込みを実施していたにもかかわらず、口座番号の誤りのために支払期日までに特定受託事業者が実際には報酬を受け取るこ
とができなかったときが該当する。

この場合、発注事業者は、正しい銀行の口座番号の伝達があった日から60日以内(30日ルールの場合は30日以内)に報酬を支払う必要があります。





60日ルールの例外6:支払日に銀行等が休日・休業日である場合

60日を超える場合は順延できる

順延できるのは2日以内

60日ルールの例外の6つめは、支払日に銀行等が休日・休業日である場合です。

フリーランス保護法が適用される企業間取引の契約であっても、支払期限・支払期日が銀行等の金融機関の休日・休業日に該当する場合は、次のとおり、例外として、支払期限・支払期日を順延できます。

(5) 支払期日が金融機関の休業日に当たったとき

報酬を毎月の特定日に金融機関を利用して支払うこととしている場合に、当該支払日が金融機関の休業日に当たることがある。このような場合、支払日が土曜日又は日曜日に当たるなど支払を順延する期間が2日以内である場合であって、特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で支払日を金融機関の翌営業日に順延することについてあらかじめ書面又は電磁的方法で合意しているときは、結果として給付を受領した日から起算して60日(本法第4条第3項の場合には、元委託支払期日から起算して30日)を超えて報酬が支払われても問題とはしない。

(以下省略)

ただし、順延できる期間は、あくまで「2日以内」となります。

また、発注事業者とフリーランスとの間で、書面での合意が必要となります。

銀行等の休業日の場合において60日ルールが例外となる条件(フリーランス保護法)
  • 支払日が土曜日又は日曜日に当たるなど支払を順延する期間が2日以内である場合
  • 発注事業者とフリーランスとの間で支払日を金融機関の翌営業日に順延することについてあらかじめ書面で合意している場合

銀行営業日は「土日・祝日・12月29日から翌年1月3日まで」以外の日

なお、銀行は、銀行法第15条により、土日・祝日・12月29日から翌年1月3日まで日が休日となっています。

銀行法第15条(休日及び営業時間)

1 銀行の休日は、日曜日その他政令で定める日に限る。

2 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。

銀行法施行令第5条(休日)

1 法第15条第1項に規定する政令で定める日は、次に掲げる日とする。

(1)国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第百78号)に規定する休日

(2)12月31日から翌年の1月3日までの日(前号に掲げる日を除く。)

(3)土曜日

2 (以下省略)

このため、一般的にも、また、法令用語としても、「銀行営業日」は、上記の休日(土日・祝日・12月29日から翌年1月3日まで)を除いた日とされています。

【意味・定義】銀行営業日とは?

銀行営業日とは、土曜日、日曜日、祝日および12月29日から翌年1月3日まで以外の日をいう。

順延後の支払期限・支払期日が60日以内の場合は2日以上順延できる

また、同様に、順延後の支払期限・支払期日が60日(30日ルールの場合は30日)以内となるのであれば、次のとおり、2日以上の順延も可能です。

(5) 支払期日が金融機関の休業日に当たったとき

(途中省略)

なお、順延後の支払期日が給付を受領した日から起算して60日(本法第4条第3項の場合は、元委託支払期日から起算して30日)以内となる場合には、特定受託事業者との間であらかじめその旨を書面又は電磁的方法で合意していれば、金融機関の休業日による順延期間が2日を超えても問題とはしない。 

この場合は、年末年始・ゴールデンウィーク・3連休以上の休日などの銀行の休業日であっても、フリーランス保護法違反となりません。

なお、この場合も、書面での合意が必要です。

書面での合意が必須

このように、支払期限について順延する場合は、順延後の支払期限・支払期日が60日を超える場合または60日以内の場合(30日ルールの場合はいずれも30日)のいずれであっても、書面での合意=契約書の作成が必須となります。

業務委託契約書を作成する理由

フリーランス保護法が適用される契約では、「60日ルール」(30日ルール)の例外として支払期限・支払期日を順延するために、特約として支払期限・支払期日の順延について規定した契約書が必要となるから。

ポイント
  • 支払期日が銀行等の金融機関の休業日に該当する場合、一定の条件を満たすことで、順延後の支払期日・支払期限が60日を超える場合は、2日以内に限り、支払期日・支払期限を順延できる。
  • 順延後の支払期日・支払期限が60日以内の場合は、2日以上であっても順延できる。





補足:フリーランス保護法が適用される条件とは?

フリーランス保護法は特定の当事者と業務委託の内容に該当すると適用される

フリーランス保護法では、すべての企業間取引が適用対象となるわけではありません。

フリーランス保護法が適用される企業間取引は、委託者が業務委託事業者または特定業務委託事業者であり、受託者が特定受託事業者である場合に限られます。

フリーランス保護法の適用対象となる3つの事業者
  • 特定受託事業者:個人事業者または役員が1人だけの法人(いずれも従業員を使用しないものに限る)
  • 業務委託事業者:特定受託事業者に対し業務委託をする事業者(三条通知の明示義務の対象者)
  • 特定業務委託事業者:業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人事業者または役員が2人以上いる、もしくは従業員を使用する法人(業務委託の期間により様々な規制が課される)

つまり、事業者として従業員を使用しない個人事業者または一人法人に対して業務委託をする場合は、フリーランス保護法の適用対象となる可能性があります。

そして、これらが当事者となる企業間取引のうち、特定の業務委託の内容のものが、フリーランス保護法の適用対象となります。

具体的には、物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供のいずれかの業務委託の場合が、フリーランス保護法の適用対象となります。

【意味・定義】業務委託(フリーランス保護法)とは?

フリーランス保護法における業務委託とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む)、情報成果物の作成、役務の提供(自らに役務の提供をさせることを含む)を委託することをいう。

フリーランス保護法第2条(定義)

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

フリーランス保護法の規制内容とは?

フリーランス保護法には、主に以下の7つの規制があります。

フリーランス保護法の7つの規制
  • 三条書面の明示
  • 60日ルール
  • 禁止行為
  • フリーランスの募集広告における募集情報の的確表示義務
  • フリーランスの妊娠・出産・育児・介護に対する発注事業者の配慮義務
  • フリーランスに対するハラスメントに関する発注事業者の配慮義務
  • 30日前の契約の予告解除・予告不更新

これらの規制は、発注事業者の従業員や業務委託の期間の内容によって、課される内容が異なります。

具体的には、発注事業者が事業者(≠一般消費者)であり、フリーランスが特定受託事業者(従業員を使用しない個人事業者または一人法人)である場合、従業員・役員の人数と業務委託の期間に応じて、次の4つの区分で規制が課されます。

フリーランス保護法の規制内容
発注事業者の使用従業員・代表以外の役員業務委託の期間規制内容
0人
  • 三条書面の明示
1人以上1ヶ月未満
  • 三条書面の明示
  • 60日ルール
  • フリーランスの募集広告における募集情報の的確表示義務
  • フリーランスに対するハラスメントに関する発注事業者の配慮義務
1ヶ月以上6ヶ月未満
  • 三条書面の明示
  • 60日ルール
  • 禁止行為
  • フリーランスの募集広告における募集情報の的確表示義務
  • フリーランスに対するハラスメントに関する発注事業者の配慮義務
6ヶ月以上
  • 三条書面の明示
  • 60日ルール
  • 禁止行為
  • フリーランスの募集広告における募集情報の的確表示義務
  • フリーランスの妊娠・出産・育児・介護に対する発注事業者の配慮義務
  • フリーランスに対するハラスメントに関する発注事業者の配慮義務
  • 30日前の契約の予告解除・予告不更新

この他、フリーランス保護法が適用される詳細な条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

フリーランス保護法(新法)の適用対象は?事業者・取引(業務委託)や下請法との違いについて解説