こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約書で問題となる、知的財産権の権利処理・使用許諾・改良発明の問題について、簡単にわかりやすくまとめて解説しています。

業務委託契約では、知的財産権の取扱いが問題となることがあります。

これは、主に、委託業務の実施により創造された知的財産権の権利処理の問題と、業務委託契約において知的財産権の使用許諾=ライセンスがある場合の問題との2種類に分かれます。

そして、知的財産権(特に特許権)の使用許諾=ライセンスがある場合は、その知的財産権の改良によって発生した権利の帰属の問題もあります。

このため、こうした問題にも対処した業務委託契約書が作成されていなければ、大きなトラブルとなることがあります。

そこで、このページでは、こうした知的財産権の権利処理・使用許諾・改良発明についての概要を説明します。

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【意味・定義】知的財産・知的財産権とは?

知的財産・知的財産権については、知的財産基本法に、次のとおり規定されています。

知的財産基本法第2条(定義)

1 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。

2 この法律で「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。

(以下省略)

これをわかりやすく一覧表示にすると、次のとおりです。

知的財産とは?


創造的活動により生み出されるもの

  • 発明
  • 考案
  • 植物の新品種
  • 著作物

商品または役務(サービス)の信用・ブランドのために表示するもの

  • 商標
  • 商号

事業活動に有用な技術上又は営業上の情報

  • 営業秘密
知的財産権とは?

知的財産権は、以下のものを含む、知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利。

  • 特許権
  • 実用新案権
  • 育成者権
  • 意匠権
  • 著作権
  • 商標権

これらの個々の知的財産・知的財産権の解説につきましては、以下のページをご覧ください。

【一覧版】業務委託契約に関係する6つの知的財産権とは?

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業務委託契約における知的財産権の権利処理の問題とは?

業務委託契約では知的財産権が発生することがある

業務委託契約では、委託業務の実施によって、知的財産・知的財産権が発生することがあります。

典型的な例としては、次のようなものがあります。

知的財産・知的財産権が発生する業務委託契約の一例

  • 受託研究開発の業務委託契約
  • データ分析の業務委託契約
  • 金型の作成の業務委託契約
  • 工業デザイン・製品デザインの作成の業務委託契約
  • ロゴ・ブランドマークの作成の業務委託契約
  • 音楽・SE・音声の作成の業務委託契約
  • ソフトウェア・システム・アプリなど、プログラムの開発の業務委託契約
  • ウェブサイトの作成・ウェブデザインなどの作成の業務委託契約
  • グラフィックデザイン・イラストの作成などの業務委託契約
  • キャラクターデザインの作成などの業務委託契約
  • ライティングなど文章の作成の業務委託契約
  • 素材撮りなどの撮影業務委託契約
  • マニュアルの作成業務委託契約
  • プロモーション動画の作成業務委託契約
  • 経営コンサルティング契約(成果物の作成がある場合)
  • 講演などの業務委託契約
  • 建築設計業務委託契約
  • 営業代行の業務委託契約(代理店契約・販売店契約)

これらのうち、特許権(特許を受ける権利)、実用新案権(実用新案登録を受ける権利)、意匠権(意匠登録を受ける権利)が発生することは、稀なケースです。

これに対し、営業秘密に関する権利、著作権が発生することは、よくあるケースです。

【パターン1】知的財産の創造を目的とした業務委託契約

業務委託契約において、知的財産・知的財産権が発生する主なパターンは、受託者による知的財産・知的財産権の創造そのものが契約の目的となっている場合です。

特に、なんらかの情報を創造し、その情報を成果物として納入してもらう請負契約は、このパターンに該当します。

すでに触れた業務委託契約の一例も、ほとんどがこのパターンの業務委託契約です。

こうした、知的財産・知的財産権を発生させることそのものを目的としている業務委託契約では、知的財産権の処理(移転または使用許諾)が、非常に重要となります

【パターン2】委託業務の実施にともない付随的に知的財産が発生する業務委託契約

また、他に知的財産・知的財産権が発生するパターンとしては、主要な業務のとしては知的財産・知的財産権が発生しないまでも、業務に付随して知的財産・知的財産権が発生する場合です。

具体的な知的財産・知的財産権としては、報告書、企画書、資料などのドキュメント類などが該当します(これらは著作物・著作権に該当します)。

また、「付随的」という意味でよく問題となる知的財産権が、特許権のライセンスがある業務委託契約で、その特許発明の改良発明があった場合の「特許を受ける権利」です(後で詳しく触れます)。

こうした付随的に発生する知的財産・知的財産権は、契約締結の当初は気にしていないために、その権利処理について、何も規定されていない場合が多いです。

しかし、こうした付随的に発生した知的財産・知的財産権が意外に価値があるものであった場合、権利処理が何も規定されていないために、トラブルになることがあります。

業務委託契約では知的財産権は原始的に受託者に発生・帰属する

知的財産権は委託者に当然に発生・帰属はしない

知的財産・知的財産権が発生する業務委託契約において、非常に重要となるのが、「知的財産権は、知的財産を創造した者(受託者)に原始的に発生・帰属する」という考え方です。

言いかえれば、「知的財産権は、委託者には当然に発生・帰属しない」ということになります。

知的財産の制度は、知的財産・知的財産権を保護する制度であり、同時に、知的財産を創造した者を保護する制度です。

このため、知的財産権は、原則として、知的財産を創造したものに、原始的に帰属します。

「職務発明」と「職務著作」だけが例外

例外として、職務発明と職務著作だけが、発明・創作をした従業者等ではなく、その勤務先である使用者等に、特許を受ける権利・著作権が原始的に発生・帰属します。

もっとも、これは、あくまで労働契約・雇用契約が結ばれた、労使関係にある使用者等と従業者等との間にだけ適用される制度です。

業務委託契約は企業間取引ですから、受託者による委託業務の実施が職務発明・職務著作に該当することはありません。

つまり、受託者が創作した著作物の著作権が、委託者に原始的に発生・帰属することはありません。

知的財産権が「委託者に帰属する」業務委託契約は無効となる可能性もある

以上のような原則があるため、以下のような、「ありがちな」知的財産権に関する規定は、実は非常に問題です。

契約条項の記載例・書き方

第○条(知的財産権の帰属)

受託者による本件業務の実施により発生した知的財産権は、委託者に帰属する。

この規定は、おそらく、本来は知的財産権の「移転・譲渡」を意図した書き方なのでしょうが、「帰属」と書いています。

この書き方では、「知的財産権は知的財産を創造した者に原始的に帰属する」という原則に反します。

このような、知的財産権が委託者に帰属する規定は無効である、という考えがあるくらいです(私自身は必ずしもそうとは考えていません)。

ポイント

  • 業務委託契約では知的財産権が発生する。
  • 業務委託契約で発生した知的財産権は原始的に受注者に帰属する。
  • 委託者に知的財産権が「帰属する」契約条項は無効となる可能性がある。
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業務委託契約における知的財産権の処理のしかた

業務委託契約では知的財産権の処理を必ず規定する

知的財産権の処理を業務委託契約で規定しないと受託者が有利となる

このように、業務委託契約では、受託者に知的財産権が原始的に発生・帰属します。このため、委託者としては、その権利処理について、業務委託契約に明確に規定しておく必要があります。

逆に、業務委託契約で知的財産権の権利処理について規定がないと、委託者は圧倒的に不利になり、受託者は圧倒的に有利になります。

繰り返しになりますが、知的財産の制度は、知的財産を創造する者(=受託者)と知的財産権を強力に保護する制度です。

このため、業務委託契約に知的財産権の権利処理について規定がないと、受託者は、強力に保護されたままとなります。

当然ながら、その知的財産権も、依然として受託者の元に残ったままとなります。

報酬・料金・委託料の支払いあっても当然には知的財産権は移転しない

この点について、「委託者が報酬・料金・委託料を払っている以上、その成果物である知的財産権は、業務委託契約に規定がなくても、当然に委託者に移転する」という考え方があります。

確かに、相当高額な報酬・料金・委託料が支払われていれば、そういう解釈も成り立ちます。

しかしながら、そこまで高額な報酬・料金・委託料でない場合、これらは、「単に『成果物の作成の対価』であって、知的財産権の移転・譲渡・使用許諾(=ライセンス)の対価ではない」と解釈される可能性が高いです。

このように、「委託者が受託者に対してお金を払った」ということをもって、当然に受託者の知的財産権が委託者に移転する、ということにはなりません。

知的財産権の権利処理は下請法の三条書面の必須記載事項

なお、下請法が適用される業務委託契約の場合、知的財産権の権利処理は、いわゆる「三条書面」の必須記載事項とされています。

知的財産権が譲渡される場合も、使用許諾される場合も、いずれも三条書面に記載しなければなりません。

(途中省略)また,主に,情報成果物作成委託に係る作成過程を通じて,情報成果物に関し,下請事業者の知的財産権が発生する場合において,親事業者は,情報成果物を提供させるとともに,作成の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「下請事業者の給付の内容」とすることがある。この場合は,親事業者は,3条書面に記載する「下請事業者の給付の内容」の一部として,下請事業者が作成した情報成果物に係る知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要がある。

このため、下請法が適用される業務委託契約では、委託者は、三条書面=業務委託契約書に知的財産権の権利処理について規定したうえで、受託者に対し、交付しなければなりません。

三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?―業務委託契約書の12の必須記載事項

また、下請法が適用される業務委託契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法が適用される4つの業務委託契約のパターン

知的財産権の処理は買取り方式とライセンス方式の2種類

買取り方式・ライセンス方式とは?

知的財産権が発生する一般的な業務委託契約では、知的財産権の権利処理は、次の2種類のうちのいずれかです。

業務委託契約における知的財産権の2つの処理

  • 【買取り方式】受託者から委託者に著作権を移転・譲渡させる方式。
  • 【ライセンス方式】著作権自体は受託者に留保しつつ、委託者に著作権の使用を許諾する方式。

なお、業務委託契約における著作権の買取り方式・ライセンス方式につきましては、詳しくは、それぞれ以下のページをご覧ください。

業務委託契約における著作権の譲渡4つのポイント【買取り方式】

業務委託契約における著作権のライセンス6つのポイント【ライセンス方式】

買取り方式とする知的財産権は?

業務委託契約において、どの知的財産権を買取り方式で処理するのか、またはライセンス方式で処理するのかは、契約の内容次第で、原則として、当事者が自由に決めれます。

一般的には、次のような業務委託契約における知的財産権は、買取り方式とします。

買取りとする知的財産権

  • 受託研究開発の特許を受ける権利・特許権(ただし共有の場合あり)
  • 工業デザインの作成業務委託契約における、成果物である工業デザインの意匠登録を受ける権利・著作権等
  • ロゴマーク・ブランドマークの作成業務委託契約における、成果物の著作権等
  • 音楽・SE・音声の作成の業務委託契約における、成果物の著作権等
  • ソフトウェア・システム・アプリなど、プログラムの開発の業務委託契約における成果物の著作権等(ただし、汎用的な成果物はライセンス方式の場合もあり)
  • ウェブサイトの作成・ウェブデザインなどの作成の業務委託契約の成果物の著作権等(ただし、汎用的な成果物はライセンス方式の場合もあり)
  • グラフィックデザイン・イラストの作成などの業務委託契約の成果物の著作権等
  • キャラクターデザインの作成などの業務委託契約の成果物の著作権等(ただし、著名な漫画等のキャラクターであればライセンス方式の場合もあり)
  • ライティングなど文章の作成の業務委託契約における著作権等
  • 素材撮りなどの撮影業務委託契約における著作権等
  • マニュアルの作成業務委託契約におけるマニュアルの営業秘密に関する権利・著作権等
  • プロモーション動画の作成業務委託契約における成果物の著作権等
  • 経営コンサルティング契約であって、成果物の作成がある場合における成果物の営業秘密・著作権等(ただし、汎用的な成果物はライセンス方式の場合もあり)

ライセンス方式とする知的財産権は?

他方、一般的には、次のような業務委託契約における知的財産権は、ライセンス方式とします。

ライセンス方式とする知的財産権

  • ソフトウェア・システム・アプリなど、プログラムの開発の業務委託契約における成果物のうち、汎用的なものの著作権等
  • ウェブサイトの作成・ウェブデザインなどの作成の業務委託契約の成果物ののうち、汎用席なものの著作権等
  • キャラクターデザインの作成などの業務委託契約の成果物ののうち、著名な漫画等のキャラクターの著作権等
  • 経営コンサルティング契約であって、成果物の作成がある場合における成果物のうち、汎用的なもの営業秘密・著作権等

無償・不当に低い対価では独占禁止法違反・下請法違反

買取り方式にするにせよ、ライセンス方式にするにせよ、業務委託契約では、知的財産権の譲渡・移転・使用許諾について、対価を設定します。

この対価は、一般的には、業務委託の報酬・料金・委託料の中に含まれる形にするか、または業務委託の報酬・料金・委託料とは別に設定します。

これらの対価が無償の場合、または不当に低い場合は、独占禁止法や下請法に違反することになります。

このため、特に委託者の側は、知的財産権を買取り方式で処理するにせよ、ライセンス方式で処理するにせよ、対価は慎重に決定するべきです。

逆に受託者の側は、委託者から知的財産権の対価を無償にされたり、不当に低い金額とされた場合は、独占禁止法違反や下請法違反を主張できます。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

無償・不当に低い対価による知的財産権の譲渡・使用許諾は独占禁止法違反・下請法違反

著作権の買取り方式では著作権法第27条・第28条の権利に注意する

著作権を買取り方式とする場合、特約として、「著作権法第27条および第28条の権利」の移転も明記しなければなりません。

著作権法第27条および第28条の権利は、「翻訳権、翻案権等」(第27条)と「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」(第28条)のことです。

これらの権利は、特約がない限り、譲渡した者=受託者に留保されたものと推定されます(著作権法第61条第2項)。

著作権法第61条(著作権の譲渡)

1 (省略)

2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

この他、著作権を買取り方式とする場合の注意点については、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における著作権の譲渡4つのポイント【買取り方式】

著作権の権利処理では著作者人格権の不行使特約が重要

また、委託者として、著作権の権利処理を買取り方式とするにせよ、ライセンス方式とするにせよ、単に著作権の権利処理だけを規定するのでは、不十分です。

著作権が発生する場合、著作者=受託者には、著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)も発生します。

著作者人格権そのものにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

著作権・著作物・著作者人格権とは?

この著作者人格権は、譲渡できない権利とされています。

著作権法第59条(著作者人格権の一身専属性)

著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。

このため、委託者としては、受託者による著作者人格権の制限するため、通常は、業務委託契約において、著作者人格権の不行使の特約を規定します。

この他、著作権・著作者人格権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

著作権・著作者人格権の帰属・使用許諾・使用制限の問題点とは?

ポイント

  • 委託者としては、業務委託契約に知的財産権の権利処理について規定するのは必須。
  • 報酬・料金・委託料の支払いあっても当然には知的財産権は移転しない。
  • 知的財産権の権利処置は、下請法の三条書面への必須記載事項。
  • 知的財産権の処理は買取り方式とライセンス方式の2種類。
  • 無償・不当に低い対価では独占禁止法違反・下請法違反となる。
  • 著作権の買取り方式では、必ず著作権法第27条・第28条の権利も移転・譲渡の対象とする。
  • 著作権の権利処理では著作者人格権の不行使特約も規定する。
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業務委託契約における知的財産権の使用許諾=ライセンスの問題とは?

知的財産権のライセンスがある業務委託契約とは?

委託者から受託者への知的財産権のライセンスがある場合

業務委託契約において、知的財産権の使用許諾=ライセンスが問題なるのは、委託者の知的財産権を受託者に対して使用許諾=ライセンスする場合です。

特に、委託者が保有する、特許権(実用新案権)、意匠権、商標権、著作権、営業秘密を、受託者に対して使用許諾する業務委託契約があります。

よくありがちなパターンとしては、製造請負の業務委託契約で、委託者の特許権、意匠権、商標権の使用許諾を受けた受託者が、これらの知的財産権を使用して製品や部品を製造する場合です。

また、建設工事の業務委託契約でも、委託者の保有する特許権=施工方法の使用許諾を受けて、受託者が建設工事を施工する、ということがあります。

第三者から委託者または受託者への知的財産権のライセンスがある場合

この他、第三者の知的財産権の使用許諾=ライセンスを受ける業務委託契約が問題となる場合もあります。

これは、特に、ソフトウェア・システム・アプリの開発や、ウェブサイト・ウェブデザインの作成など、IT関係の業務委託契約で問題となります。

IT関係の業務委託契約では、既存のプログラムや素材を使わずに開発すること(いわゆる「フルスクラッチ開発」)は、滅多にありません。

通常は、既存のプログラム・素材、具体的には、ライブラリ・モジュール・APIなどのコード類や、写真・画像などの素材を使用します。

こうしたプログラム・素材について、第三者が知的財産権を保有している場合は、その第三者との知的財産権の使用許諾=ライセンスが問題となることがあります。

委託者からのライセンスがある場合のポイント

委託者の知的財産権の使用許諾=ライセンス契約

委託者から受託者に対して、知的財産権の使用許諾=ライセンスがある業務委託契約の場合、その契約は、一種のライセンス契約であるともいえます。

知的財産権のライセンスについては、それぞれの知的財産権に関する法律に、おおまかな内容が規定されています。

このため、知的財産権の使用許諾=ライセンスが含まれる業務委託契約書を作成する場合は、業務委託契約に関する専門知識に加えて、ライセンス契約や知的財産権に関する法律の専門知識も必要となります。

ライセンス契約は、契約実務の中でも、高度な専門知識が必要な契約です。このため、委託者・受託者双方(特に委託者の側)とも、業務委託契約の締結にあたっては、慎重に対応しなけれなりません。

知的財産権のライセンスのしかたは5種類

知的財産権の種類にもよりますが、使用許諾・ライセンスのしかたは、通常は5種類あります。

まず、特許権・実用新案権・意匠権における「専用実施権」・商標権における「専用使用権」が1つです。

そして、特許権・実用新案権・意匠権における「通常実施権」・商標権における「通常使用権」と、営業秘密の使用許諾、著作権の使用(利用)許諾が、4種類あります。

以下は、特許権に関して、これらの5つのパターンを簡単にわかりやすくまとめた表です。

完全・非完全 独占的・非独占的
専用実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。
完全独占的通常実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。
非完全独占的通常実施権 【非完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができる。
【独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができない。
完全非独占的通常実施権 【完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができない。
【非独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の設定・許諾ができる。
非完全非独占的通常実施権 【非完全】
ライセンサー=委託者は自己実施ができる。
【非独占的】
ライセンサー=委託者はライセンシー=受託者以外の第三者に対して、実施権の許諾ができる。

これらの、都合5種類の使用許諾=ライセンスのうちから、業務委託契約の内容に応じて、適切なものを選んで規定します。

なお、特許権に関する使用許諾=ライセンスのしかたについては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における特許権の5つライセンスのしかた

委託者からのライセンスがある場合のポイント

IT関連の開発業務委託契約では特に重要

他方、第三者の知的財産権に関する使用許諾=ライセンスがある場合もまた、その第三者との契約関係はライセンス契約であるといえます。

特にありがちなのが、ソフトウェア・プログラム・システム・アプリなどの、IT関連の業務委託契約における、第三者ソフトウェア、オープンソースソフトウェア、フリーソフトウェアが第三者の著作権です。

また、ホームページ作成業務委託契約における画像などの各種データ・素材も第三者の著作権といえます。

業務委託契約では、こうした第三者が保有する著作権に関して、委託業務を実施するために、その第三者と著作権に関するするライセンス契約を結ぶことがあります。

第三者の著作権の利用にはライセンスが必要

こうしたライセンス契約では、主に次のような問題があります。

第三者の著作物を利用する場合の問題

  • 第三者の著作物の利用を決定する権利があるのは委託者・受託者のどちらか。
  • 委託者と受託者のどちらが第三者とのライセンス契約の当事者となるのか。
  • 著作物の利用にライセンス料(ロイヤリティ)が発生する場合は委託者・受託者のどちらが負担するのか。
  • 第三者の著作物に問題があった場合に、その問題が原因で委託者に損害が出た場合は、委託者・受託者のどちらがその損害を負担するのか。

こうした点を業務委託契約で明らかにしておかないと、成果物の作成の際や、完成した成果物を巡って、トラブルになります。

特に、IT関連の開発契約の場合は、使用する第三者ソフトウェア、オープンソースソフトウェア、フリーソフトウェアの内容によって、成果物や仕様に大きな影響を与えます。

このため、こうした第三者の著作物を採用する際は、業務委託契約の内容とは別に、慎重に協議を重ねたうえで採用を決定するべきです。

画像・素材の使用や肖像権の処理が問題になることも

このように、業務委託契約で第三者の著作物の利用について決めておかないと、受託者が、(故意に、あるいは意図せずに)第三者の著作権等を侵害することがあります。

特に、画像、イラスト、人物の写真の無断使用などが該当します。

これらは、著作権の侵害になりますしますし、人物の写真については、肖像権(有名人の場合はパブリシティ権も)の侵害になります。

ですから、このような画像・イラスト・人物の写真などを使った成果物の作成に関する業務委託契約の場合は、こうした素材関係の取扱いについても、契約内容として規定しておきます。

この他、業務委託契約における著作権の取扱いについては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

著作権・著作者人格権の帰属・使用許諾・使用制限の問題点とは?

ポイント

  • 業務委託契約では、委託者からの知的財産権のライセンスと第三者からの知的財産権のライセンスがある。
  • 委託者からのライセンスでは、知的財産権のライセンスのしかたは5種類ある。
  • IT関連の開発業務委託契約では、特に第三者からの知的財産権のライセンスに注意する
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業務委託契約における改良発明が問題とは?

改良発明は主に特許発明の改良のこと

改良発明とは、特許権等のライセンス契約、または特許権等のライセンスがともなう製造請負契約・業務委託契約・取引基本契約で、受託者=ライセンシーが、その特許発明の改良する問題のことをいいます。

ただし、これはあくまで一般的な意味であり、法的には、「改良発明」や「改良技術」は定義づけられていません。

改良発明の何が問題になるのかといえば、その改良発明になんらかの権利、特に「特許を受ける権利」が発生した場合、委託者=ライセンサーの権利になるのか、受託者=ライセンシーの権利となるのかが明らかでない、ということです。

また、特に委託者=ライセンサーの側が、ヘタにライセンス契約・業務委託契約の内容として、この権利の帰属を規定してしまうと、独占禁止法違反となるリスクもあります(後で解説します)。

そもそも改良発明が認められるのは2パターンしかない

【パターン1】ライセンス契約等の「技術の利用」における改良発明

よく誤解されがちですが、そもそも、改良発明が認められる、あくまでライセンス契約などの「技術の利用」に関する場合に限定された話です。

より正確には、委託者=ライセンサーによる改良発明の禁止が独占禁止法違反となるのが、ライセンス契約などの「技術の利用」に関する場合です。

ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンス技術又はその競争技術に関し、ライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを禁止するなど、ライセンシーの自由な研究開発活動を制限する行為は、一般に研究開発をめぐる競争への影響を通じて将来の技術市場又は製品市場における競争を減殺するおそれがあり、公正競争阻害性を有する(注18)。したがって、このような制限は原則として不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

(注18)プログラム著作物については、当該プログラムの改変を禁止することは、一般的に著作権法上の権利の行使とみられる行為である。しかしながら、著作権法上も、ライセンシーが当該ソフトウェアを効果的に利用するために行う改変は認められており(著作権法第20条第2項第3号、第47条の2)、このような行為まで制限することは権利の行使とは認められない。

本指針は、知的財産のうち技術に関するものを対象とし、技術の利用に係る制限行為に対する独占禁止法の適用に関する考え方を包括的に明らかにするものである。

【パターン2】共同研究開発における研究成果の改良発明

また、ライセンス契約と同様に、共同研究開発契約においても、研究成果の改良発明の制限・禁止は、「不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項」とされています。

イ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項

[1] 成果を利用した研究開発を制限すること

○ このような事項は、参加者の研究開発活動を不当に拘束するものであって、公正競争阻害性が強いものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

勝手に改良発明をするのは不正競争防止法違反

逆にいえば、ライセンス契約におけるライセンスの対象となった技術や、共同研究開発契約の成果物の改良以外では、受託者=ライセンシーは、勝手に委託者=ライセンサーの技術を改良してはいけません。

例えば、業務委託契約を結ぶ前の段階で、秘密保持契約を結んだうえで、委託者=ライセンサーから受託者=ライセンシーに対して、技術情報が開示されることがあります。

この技術情報を受託者=ライセンシーが勝手に改良すると、営業秘密を不正に使用したことになり、不正競争防止法違反となる可能性があります。

ただし、すでに特許が取得されている特許発明などの改良発明は、問題ありません(特許法第69条第1項等)。

なお、改良発明につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

改良発明とは?特許権のライセンスでの問題点について解説

改良発明の権利処理を間違えれば独占禁止法違反

また、改良発明の権利処理については、独占禁止法の適用対象となっています。

特に、委託者=ライセンサーによる、改良発明によって発生した権利を一方的に譲渡・移転させる行為(いわゆるアサインバック)は、独占禁止法違反(不公正な取引方法)となります。

同様に、委託者=ライセンサーによる、改良発明によって発生した権利を一方的に独占的ライセンスをさせる行為(いわゆるグランドバック)もまた、独占禁止法違反(不公正な取引方法)となります。

このため、特に委託者の側は、改良発明により発生した権利と取扱いについては、慎重に対処しなければなりません。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

独占禁止法で問題となる改良発明とアサインバック・グランドバックとは?

ポイント

  • 改良発明とは、主に特許権のライセンスにおける特許発明の改良のこと。
  • 改良発明が認められるのは「技術の利用」の場合と共同研究開発における「成果の改良」の2パターンのみ。
  • 特許権等の出願公開されている知的財産権以外を勝手に改良発明をするのは、原則として不正競争防止法違反となる可能性も。
  • 改良発明によって発生した知的財産権は、独占禁止法の適用対象。このため、ヘタに処理すると、委託者=ライセンサーは独占禁止法違反となる。