業務委託(委任・準委任・請負)の報酬は給与扱いですか?
業務委託の報酬は、事業者としての報酬(事業所得または雑所得)となり、給与扱い(給与所得)にはなりません。ただし、業務委託が実質的に労働契約・雇用契約とみなされる場合は、給与扱いとなる可能性もあります。

このページでは、業務委託契約(委任・準委任・請負)の当事者向けに、業務委託の報酬の法的な性質について解説しています。

業務委託契約は、企業間取引の契約です。

このため、業務委託の報酬は、給与扱いとはならず、文字どおり、事業上の報酬となります。

ですので、所得としても、原則として事業所得(例外として雑所得)となり、給与所得とはなりません。

ただし、業務委託契約が労働契約・雇用契約とみなされた場合は、報酬ではなく、給与扱いとなる可能性があります。

このページでは、このような業務委託の報酬の法的性質について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 業務委託の対価が報酬であるか給与であるか。
  • 業務委託の対価が給与扱いとなる場合。




業務委託の報酬は給与扱いではなくあくまで企業間取引の報酬

業務委託契約とは、企業間で締結される契約の一種で、ある企業から別の企業に対して、自社でおこなうべき業務の全部または一部を委託する契約のことをいいます。

【意味・定義】業務委託契約とは?

業務委託契約とは、企業間取引の一種で、ある事業者が、相手方の事業者に対して、自社の業務の一部または全部を委託し、相手方がこれを受託する契約をいう。

業務委託契約書とは?作成・書き方・注意点についてわかりやすく解説

このため、業務委託の対価としての報酬は、給与扱いにはなりません。

これは、法人同士の業務委託は当然として、個人事業者・フリーランスが受託者となる業務委託でも同様です。

つまり、受託者が個人事業者・フリーランスという個人であっても、その報酬は給与扱いにはなりません。





業務委託契約が実質的に労働契約・雇用契約とみなされた場合は給与扱い

ただし、受託者が個人事業者・フリーランスの場合、契約内容や契約の実態によっては、業務委託契約が労働契約・雇用契約とみなされる場合もあります。

このように、業務委託契約が労働契約・雇用契約とみなされた場合は、業務実施(実質的には労働)の対価は報酬ではなく給与扱いとなります。

この点について、厚生労働省(旧労働省)では、フリーランス・個人事業者が労働者に該当するかどうかのガイドラインを出しています。

具体的には、「『労働者性』の判断基準」(労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)昭和60年12月19日のことです。

この内容は、カッコ書きにあるとおり、「労働基準法」の「労働者」の判定基準を示したものです。

【意味・定義】昭和60年労働基準法研究会報告とは?

昭和60年労働基準法研究会報告とは、旧労働省(現:厚生労働省)の労働基準法研究会によっておこなわれた、労働基準法第9条の「労働者」の定義と、その判定基準をいう。

なお、契約実務上も、この『労働基準法研究会報告』にもとづき、雇用契約・労働契約に該当するかどうかを判断します。

逆にいえば、雇用契約・労働契約に該当しないようにするために、この『労働基準法研究会報告』の判断基準を活用して契約内容を規定することもあります。

この他、『労働基準法研究会報告』につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

『労働基準法研究会報告』とは?労働基準法の労働者の判断基準について解説





業務委託契約に労働基準法が適用される=労働基準法違反となる条件とは?

偽装フリーランス(労働基準法違反)とならないチェックリスト

さて、この「『労働者性』の判断基準」の具体的な内容についてリスト化したチェックリストが、以下のものとなります。

偽装請負(労働基準法違反)とならないチェックリスト

「使用従属性」に関する判断基準のチェックリスト

  • 1.受託者が委託者の「指揮監督下の労働」を提供していない
    • 1-1.受託者に「仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由」がある
    • 1-2.委託者による「業務遂行上の指揮監督」がない
      • 1-2-1.委託者による「業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令」がない
      • 1-2-2.予定外の業務がない
    • 1-3.拘束性がない
    • 1-4.代替性がある(受託者による再委託等ができる)
  • 2.報酬に労務対償性がある
    • 2-1.報酬が「労働の結果による」計算となっている
    • 2-2.欠勤した場合であっても「応分の報酬が控除」されない
    • 2-3.残業をした場合であっても「通常の報酬とは別の手当が支給」されない

「労働者性」の判断を補強する要素のチェックリスト

  • 3.事業者性の有無
    • 3-1.受託者が機械・器具の所有している
    • 3-2.高額な報酬である
    • 3-3.その他
      • 3-3-1.受託者が損害賠償責任を負う
      • 3-3-2.受託者による独自の商号使用が認められている
  • 4.専属性の程度
    • 4-1.「他社の業務に従事することが制度上制約」されていない
    • 4-2.他社の業務に従事する時間的余裕がある
    • 4-3.報酬に固定給部分がない
    • 4-4.「業務の配分等により事実上固定給」となっていない
    • 4-5.報酬の額が「生計を維持しうる程度のもの」でない
  • 5.その他
    • 5-1.「採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様」ではない
    • 5-2.報酬について「給与所得」としては源泉徴収をおこなっていない
    • 5-3.労働保険の適用対象としていない
    • 5-4.服務規律を適用していない
    • 5-5.退職金制度、福利厚生を適用していない




「使用従属性に関する判断基準」→「労働者性の判断を補強する要素」の順に判断される

この「『労働者性』の判断基準」は、以下の2つに分かれています。

2つの「労働者性」の判断基準
  • 「使用従属性」に関する判断基準
  • 「労働者性」の判断を補強する要素

この2点の判断基準ですが、まずは「使用従属性」について判断し、雇用契約・労働契約に該当するかどうかが決定されます。

この際、明らかに雇用契約・労働契約に該当すると判断される場合や、該当しないと判断される場合は、「労働者性」については考慮されることはありません。

そのうえで、「使用従属性」の判断だけでは、雇用契約・労働契約に該当するかどうかの判断ができない場合は、「『労働者性』の判断を補強する要素」も勘案して総合的に判断されることとなります。

つまり、まずは「使用従属性に関する判断基準」で判断して、それでも労働者かそうでないか判断がつかない場合は、「『労働者性』の判断を補強する要素」を勘案して、労働者かどうかを総合的に判断します。

この他、労働者性のチェックリストにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

労働者性のチェックリスト―フリーランスと労働者との21の判断基準を解説





業務委託の報酬に関連するQ&A

業務委託の報酬は確定申告が必要ですか?
報酬の金額にもよりますが、原則として確定申告が必要となります。
業務委託で働くと何収入になりますか?また、業務委託で働いている場合、確定申告は雑所得になりますか?
報酬の金額にもよりますが、原則として事業所得となります。例外として、雑所得となる場合もあります。
業務委託で給与明細がもらえないのはなぜですか?
業務委託の対価は報酬であり給与扱いではないため、委託者には給与明細の発行義務がないからです。なお、報酬から事業所得の源泉徴収がある場合は、支払調書の発行がある場合もあります。