このページでは、(準)委任契約の委任者に向けて、(準)委任契約における委任者の権利義務についてわかりやすく解説しています。

(準)委任契約委任者って、お金を払えばあとは義務はないんじゃない?」と思っていませんでしょうか。

確かに、請負人に対して報酬を支払う義務は、委任者の最も重要な義務ですが、実は、報酬の他にも、費用の負担義務委任者には課されています。この他にも、意外な損害賠償責任が課されています。

また、権利のほうでは、損害賠償責任こそ発生しますが、契約途中での解除が認められています。

このページでは、こうした(準)委任契約委任者の権利義務や注意点について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

委任者の方々がこのページを読むことで、(準)委任契約における委任者の権利・義務・責任等の注意点が理解でき、また、トラブルを未然に防ぐことができます。

このページでわかること
  • 報酬や報酬の支払いだけではない、委任者の意外な損害賠償責任
  • 契約期間中でも解約できる委任者の中途解約の条件

なお、(準)委任契約の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

また、受任者の権利義務につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】委任契約・準委任契約における受任者の義務・責任と権利とは?




委任契約(読み方:いにんけいやく)とは?

委任契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第643条(委任)

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

【意味・定義】委任契約とは?

委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。

法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思の表示(=意思表示)をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為のことです。

【意味・定義】法律行為とは?

法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思の表示(=意思表示)をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為をいう。

学術的な用語で、非常にわかりづらいですが、わかりやすい具体例としては、「契約を結ぶこと」が、法律行為のひとつの例です。





準委任契約(読み方:じゅんいにんけいやく)とは

準委任契約は、民法では、以下のように規定されています。

民法第656条(準委任)

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

【意味・定義】準委任契約とは?

準委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。

ここでいう「事務」というのは、一般的な用語としての事務(例:事務を執る、事務所、事務職など)ではなく、もっと広い概念です。

民法上は定義がありませんが、作業、助言、企画、技芸の教授など、「法律行為でない行為」が該当すると考えて差し支えないでしょう。





(準)委任契約における委任者の3つの責任・義務

(準)委任契約の委任者の3つの責任・義務一覧リスト

(準)委任契約の委任者には、以下の3つの責任・義務があります。

(準)委任契約における委任者の3つの責任・義務
  • 【義務・責任1】報酬の支払い義務
  • 【義務・責任2】費用の支払い義務
  • 【義務・責任3】委託業務の実施に伴い受任者に発生した損害の賠償責任

以下、詳しく見ていきましょう。

【義務・責任1】報酬の支払い義務

企業間取引の(準)委任契約では報酬の支払い義務が発生する

受任者の報酬請求権の裏返しになりますが、委任者には、報酬を支払う義務があります。

民法第648条第1項では、委任契約は無報酬となっていますが、一般的な業務委託契約では、特約として、報酬の金額や計算方法が規定されます。

また、仮にそうした特約がない場合であっても、一般的な企業間取引に適用される商法の第512条では、受任者の報酬の請求権が認められています。

商法第512条(報酬請求権)

商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

履行割合型・成果完成型により報酬は異なる

なお、(準)委任契約には、履行割合型と成果完成型があります。

履行割合型の場合、委任者は、受任者はに対し、実施した業務の量に応じて報酬を支払う義務があります。

【意味・定義】履行割合型委任契約(準委任契約)とは?

履行割合型委任契約(準委任契約)とは、法律行為(委任契約の場合)、法律行為以外の事務(準委任契約)の履行の割合(量)に応じて報酬の請求権が生じる委任契約・準委任契約をいう。

これに対し、成果完成型の場合、委任者は、受託者に対し、実施した業務の結果として生じた成果に応じて報酬を支払う義務があります。

【意味・定義】成果完成型委任契約(準委任契約)とは?

成果完成型委任契約(準委任契約)とは、法律行為(委任契約の場合)、法律行為以外の事務(準委任契約)の履行の結果として発生した成果に応じて報酬の請求権が生じる委任契約・準委任契約をいう。

【義務・責任2】費用の支払い義務

委任者は前払いで費用を支払わなければならない

これも受任者の費用の請求権の裏返しになりますが、(準)委任契約では、委任者は、受任者に対して、前払いで費用を支払う義務があります。

民法第649条(受任者による費用の前払請求)

委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

しかも、この費用の支払いをしなければ、委託業務の実施を請求することができません。

委任者は受任者が立替えた費用を支払わなければならない

また、(準)委任契約では、受任者が委託業務の実施に必要な費用を負担した場合は、委任者は、この費用も支払わなければなりません。

民法第650条(受任者による費用等の償還請求等)

1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

2 (以下省略)

費用負担をしたくないのであれば業務委託契約書に明記する

このように、(準)委任型の業務委託契約では、委任者は、想定外の費用の負担を求められる可能性があります。

このため、委任者として、費用負担をしたくないのであれば、委託業務の実施に要する費用は受任者の負担とするように、業務委託契約書で特約を規定する必要があります。

業務委託契約書を作成する理由

(準)委任型の業務委託契約では、民法第649条により、原則として委託者が費用負担をすることとなるため、委託者が費用負担をしたくない場合、特約として受託者が費用負担をする条項を規定した契約書が必要となるから。

最低限、費用が発生する場合は、委任者からの承諾を得るようにするように、受任者に義務を課します。

こうすることで、際限なく費用の負担を求められることがなくなります。

このほか、費用負担につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における費用負担とは?書き方・規定のしかたは?

【義務・責任3】委託業務の実施に伴い受任者に発生した損害の賠償責任

受任者による委託業務の実施に伴い、受任者の過失ではない損害を受けた場合、委任者は、その損害の賠償しなければなりません。

民法第650条(受任者による費用等の償還請求等)

(第1項および第2項省略)

3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。

重要なポイントは、賠償をしなければならないのが、「自己(=受任者)に過失のない損害」である、という点です。

つまり、委任者に過失がある場合は当然として、第三者の過失による場合や、そもそも誰にも過失がない場合であっても、損害が発生した場合は、委任者は、受任者に対して、損害賠償責任を負う、ということです。

ポイント

(準)委任契約において、委任者には、以下の義務・責任がある。

  • 報酬の支払い義務
  • 費用の支払い義務
  • 委託業務の実施に伴い受任者に発生した損害の賠償責任





(準)委任契約における委任者の権利

(準)委任契約の委任者の3つの権利一覧リスト

(準)委任契約の委任者には、以下の3つの権利があります。

(準)委任契約における委任者の3つの権利
  • 【権利1】「委託業務の実施」を請求できる権利
  • 【権利2】報告の請求権
  • 【権利3】契約解除権・中途解約権

以下、詳しく見ていきましょう。

【権利1】「委託業務の実施」を請求できる権利

受任者の「委託業務の実施」の義務の裏返しになりますが、委任者は、受任者に対して、委託業務の実施を請求できる権利があります。

ただ、「法律行為・法律行為以外の事務」=委託業務の実施を目的とした(準)委任契約では、何をもって「実施」といえるのかが、非常にわかりづらい、という特徴があります。

理論上は、善管注意義務を果たしていれば「実施」している、といえるのですが、結局、善管注意義務を果たしているかどうかは、裁判を起こしてみるまではわかりません。

【意味・定義】善管注意義務とは?

善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。

善管注意義務につきましては、詳しく、以下のページをご覧ください。

準委任型業務委託契約における善管注意義務とは?定義・具体例と5つのポイントもわかりやすく解説

こうした事情があるため、(準)委任型の業務委託契約書では業務内容の明記が、特に重要となります。

【権利2】報告の請求権

これも受任者の「報告義務」の裏返しになりますが、委任者は、受任者に対し、報告を求めることができます。

民法第645条(受任者による報告)

受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

具体的に報告を求めることができるのは、「委任者の請求があるとき」「委任が終了した後」です。

また、報告事項も、「委任事務の処理の状況」と、委任事務の「経過及び結果」という漠然とした規定となっています。

このため、一般的な(準)委任型の業務委託契約で報告を求める場合は、より詳細な内容にすることがほとんどです。

業務委託契約書を作成する理由

(準)委任型の業務委託契約では、民法台645条において受託者に対し報告義務が課されているものの、詳細な内容が規定されていないため、委託者が詳細な報告を求めるのであれば、特約を規定した契約書が必要となるから。

【権利3】契約解除権・中途解約権

委任者は無条件で(準)委任契約を解除できる

委任者は、いつでも(準)委任契約を契約解除できます。

民法第651条(委任の解除)

1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

(1)相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

(2)委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

ここでいう、「いつでも」というのは、時期に限らず、特別な理由が必要がない、という意味です。

ただし、上記の民法第651条第2項第1号にあるとおり、委任者に不利な時期に解除した場合は、損害賠償責任が発生します。

「受任者の利益をも目的とする委任」とは?

同様に、第2項第2号にあるとおり、「委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任」契約を解除した場合にも、損害賠償責任が発生します。

これは、例えば、債務者である会社Aが、債権者である会社Bの代表取締役CをAの代表取締役として委任する契約が考えられます。

この委任契約の場合、CによるAの経営再建が達成されることにより、Bの債権が回収されることとなり、結果的には、Cの利益にもつながります。

こうした委任契約の場合は、「いつでも」解除できるわけではありません。

ポイント

(準)委任契約において、委任者には、以下の権利がある。

  • 「委託業務の実施」を請求できる権利
  • 随時報告・終了時報告の請求権
  • 契約解除権・中途解約権





(準)委任契約の委任者の権利義務に関してよくある質問

 

(準)委任契約の委任者の権利には、どのようなものがありますか?
(準)委任契約の委任者には、「委託業務の実施」を請求できる権利、随時報告・委任終了時の報告の請求権、「いつでも」契約を解除できる権利の3つの権利があります。
(準)委任契約の委任者の義務・責任には、どのようなものがありますか?
委任契約の委任者には、報酬の支払い義務、費用の支払い義務、委託業務の実施に伴い受任者に発生した損害の賠償責任の3つの義務・責任があります。特に、費用負担の義務について、(準)委任型の業務委託契約において、委託者(委任者)が費用を負担したくない場合は、契約書を作成し、特約で受託者(受任者)が費用を負担するように規定しなければなりません。
(準)委任契約の委任者の権利には、どのようなものがありますか?
(準)委任契約の委任者には、「委託業務の実施」を請求できる権利、随時報告・委任終了時の報告の請求権、「いつでも」契約を解除できる権利の3つの権利があります。
(準)委任契約の委任者による復委任の要件は何ですか?
(準)委任契約の委任者による復委任の要件は、「委任者の許諾を得たとき」または「やむを得ない事由があるとき」のいずれかです。この要件に該当しないと、復委任ができません(民法第644条の2)。このため、(準)委任型の業務委託契約において、受託者(受任者)が再委託(復委任)をしたい場合は、契約書を作成し、特約で再委託ができるように規定しなければなりません。





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