こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約の契約条項のうち、所有権の移転の条項について、簡単にわかりやすく解説しています。

物品・製品・成果物の引渡しがともなう業務委託契約では、所有権の移転の時期を規定します。

物品・製品・成果物の所有権は、報酬・料金・委託料の支払いとの関係で、非常に重要な規定です。

にもかかわらず、民法では、所有権の移転の具体的な時期は、規定がありません。

つまり、契約当事者間で何も決めていないと、いつ所有権が移転するのか、確定しません。

このため、業務委託契約では、所有権の移転の条件や時期について、明確に規定します。

このページでは、こうした所有権の移転に関するポイントについて、解説しています。

スポンサードリンク

なぜわざわざ所有権の移転の時期を規定するのか

物品・製品・成果物の引渡しや納入がある業務委託契約では、通常は、こうした物品・製品・成果物の所有権の移転の時期を規定します。

所有権の移転の時期は、委託者・受託者双方にとって、非常に重要です。

委託者にとっての所有権のポイント

委託者にとっての所有権の移転の時期

  • 請負契約等の物品・製品・成果物の移転がある業務委託契約では、所有権の移転は、委託者にとっては、契約の目的そのもの。
  • 特に、その物品・製品・成果物を自ら使用する場合(例:製品に組込む部品として使用する場合)や、第三者に賃貸や売却をする場合、所有権が委託者に移転しないと、理論上は、委託者は、物品・製品・成果物の使用や売却ができない。
  • このため、委託者にとっては、所有権の移転の時期は、なるべく早いほうがいい。

受託者にとっての所有権のポイント

受託者にとっての所有権の移転の時期

  • 請負契約等の物品・製品・成果物の移転がある業務委託契約では、所有権の移転は、受託者にとっては、業務実施の過程にすぎない。
  • ただ、委託者からの支払いを所有権の移転の条件とする、つまり、委託者からの支払いまで所有権を留保することで、万が一、委託者が報酬・料金・委託料を支払わない場合に、物品・製品・成果物の返還請求ができる。
  • このため、受託者にとっては、所有権の移転の時期は、なるべく遅いほうがいい。
  • ただし、委託者による第三者に対する販売や譲渡が前提の物品・製品・成果物については、即時取得・善意取得(民法第192条)の制度があるため、所有権留保の実効性は低い(後述)。
ポイント

  • 所有権の移転の時期は、委託者・受託者双方にとって、非常に重要となる。
  • 委託者としては、所有権の移転により、納入された物品・製品・成果物を使用し、または第三者に賃貸・売却することができるようになる。
  • 受託者としては、納入した物品・製品・成果物の所有権は、委託者からの報酬・料金・委託料の支払いの担保となるため、支払いがあるまでは所有権を移転させるべきではない。

民法では所有権の移転の時期は決まっていない

所有権は当事者の意思表示のみによって移転する

このように、委託者・受託者双方にとって、所有権移転の時期は、非常に重要な条項です。

ただ、民法では、所有権移転の時期は、明確に規定はされていません。

民法では、所有権の移転について、次のように規定しています。

民法第176条(物権の設定及び移転)

物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

物権とは、物を直接的に支配して利益を受けられる権利のことで、所有権は、その代表的なものです。

この民法の規定にあるとおり、所有権は、当事者の意思表示のみによって移転することになります。

「当事者の意思表示」=業務委託契約

問題は、何をもって「当事者の意思表示」とするか、という点です。

この点については、さまざまな判例(特に売買契約のもの)・学説があり、取引の状況や契約内容によって結論が異なります。

このような事情があるため、所有権の移転について特に業務委託契約で規定しておかないと、何をもって所有権が移転するのかが、あいまいになります。

このため、物品・製品・成果物の引渡しがある業務委託契約では、所有権が移転する時期と条件を明記することが重要となります。

第三者には所有権の移転が主張できない場合もある

なお、所有権移転の条項は、あくまで委託者と受託者の間の契約でしかありません。

このため、当事者以外の第三者に対しては、所有権の移転の合意だけをもって、委託者に所有権が移転されたことを主張できません。

このように、第三者に対して、何らかの主張ができることを、法律上は「対抗できる」といい、この対抗できる要件を「対抗要件」といいます。

民法では、不動産等の場合と、動産の場合に、それぞれ対抗要件を規定しています。

所有権の対抗要件

  • 不動産等の所有権移転の対抗要件:登記(民法第177条
  • 動産の所有権移転の対抗要件:引渡し(民法第178条

このように、委託者としては、登記や引渡しにより、不動産等や動産が支配下になっていないと、第三者に対しては、その所有権を主張できません。

なお、契約相手である受託者に対しては、当然に主張できます。

ポイント

  • 所有権は、当事者の意思表示のみによって移転する。
  • 当事者の意思表示とは、業務委託契約の「所有権の移転の時期」の条項そのもの。
  • 所有権の移転だけでは、第三者に対して、「所有権が移転したこと」を主張(対抗)できない。
  • 不動産の所有権移転の対抗要件は、登記の手続きをすること。
  • 動産の所有権移転の対抗要件は、動産の引渡しがあること。

所有権の移転の時期は「納入時」か「検査完了時」

所有権の移転の時期は利害が対立する条項

冒頭で触れたとおり、所有権の移転の時期は、委託者にとっては、早いほうが有利であり、受託者にとっては、遅いほうが有利です。

このように、所有権移転の時期は、委託者と受託者の間で、完全に利害が対立します。

このため、業務委託契約では、最も立場の優劣が反映されやすい条項といえます。

一般的な業務委託契約では、所有権移転の時期は、契約当事者の立場の優劣に応じて、納入の時点か、検査完了の時点となることが多いです。

委託者にとって所有権の移転時期は納入時が有利

冒頭で触れたとおり、委託者にとっては、所有権移転の時期は、早ければ早いほうが都合がいいです。

【確認】委託者にとっての所有権移転の時期のポイント

委託者は、納入された物品・製品・成果物の所有権がないと、自らのその物品・製品・成果物を使用したり、第三者に対して、その物品・製品・成果物を売却したり、貸したりすることができない。だから所有権移転の時期は、早いほうがいい。

理論上は、業務委託契約の目的となる物品・製品・成果物が完成次第、その所有権を委託者に移転させることもできます。

ただ、そもそも、所有権移転の時期が早いほうが都合がいいのは、物品・製品・成果物を何らかの形で使用や売却をするからです。

逆にいえば、手元にない状態で所有権を移転させることには、メリットはありません。

このため、委託者が優位な場合の業務委託契約では、物品・製品・成果物が委託者の手元に引渡された時点、つまり、納入の時点を所有権移転の時期とすることが多いです。

受託者にとっては所有権の移転時期は支払完了時が多い

理想的には支払完了時の所有権移転

冒頭で触れたとおり、受託者にとっては、所有権移転の時期は、遅ければ遅いほうが都合がいいです。

【確認】受託者にとっての所有権移転の時期のポイント

受託者にとって、納入する物品・製品・成果物の所有権は、一種の委託者からの報酬・料金・委託料の担保。所有権が移転されていなければ、報酬・料金・委託料の支払いがない場合も、物品・製品・成果物の返還請求ができる。このため、本来であれば、支払いが完了するまで、所有権は移転させずに留保させるべき。だから所有権移転の時期は遅いほうがいい。

受託者にとって、最も有利な契約条件は、支払が完了した時点を所有権の移転の時期とすることです。

一般的な業務委託契約では、支払期限は、後払いとなり、契約の行程の中では最も遅い時期になります。

その意味で、受託者にとっては、遅ければ遅いほうがいい、ということになります。

現実的には検査完了時の所有権移転

ただ、受託者の都合として、支払完了時に所有権移転の時期を設定した場合、委託者からの反発を招くことになります。

委託者からしてみれば、支払完了時に所有権移転の時期を設定されると、支払の完了まで、納入された物品・製品・成果物を使用、賃貸、売却などをできない状態となります。

納入から支払期限までの期間が短い場合は、それでも問題ありませんが、通常は、1か月程度の期間があります。

この1ヶ月程度の期間、委託者として、納入された物品・製品・成果物について何もできない以上、反発を招くことは当然といえます。

このため、現実的には、受託者が優位な場合の業務委託契約であっても、せいぜい、納入された物品・製品・成果物の検査完了時に所有権が移転することが多いです。

ポイント

  • 所有権の移転の時期は、「委託者=早いほうが有利」「受託者=遅いほうが有利」であるため、利害が対立する。
  • 委託者にとっては、所有権の移転時期は、納入時が有利。
  • 受託者にとっては、所有権の移転時期は、理想的には支払完了時だが、現実的には支払完了時が多い。

所有権留保の問題となる即時取得・善意取得とは

委託者が所有権の移転前に売却した場合の返還請求は?

さて、受託者にとって、所有権移転の時期が遅いほうが都合がいい、という点については、すでに触れました。

その理由のひとつが、万が一、委託者からの支払いがない場合、納入した物品・製品・成果物の返還請求ができるからです。

この場合、物品・製品・成果物を売却することで、未払いとなった報酬・料金・委託料を回収できます。

しかしながら、物品・製品・成果物が売却を目的としている場合、所有権の移転前に、委託者が、第三者に対し、物品・製品・成果物を売却してしまうことがあります。

この場合、受託者は、その第三者に対し、物品・製品・成果物の返還請求ができるかどうかが、問題となります。

【意味・定義】即時取得・善意取得とは?

そこでポイントとなるのが、民法第192条に規定されている、即時取得です。

民法第192条(即時取得)

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

ちなみに、学術的には、善意での取得という意味で、「善意取得」という表現をすることもあります。

即時取得・善意取得の定義

即時取得・善意取得とは、平穏かつ公然と取引をした者が、取引の相手が取引の対象となった動産について占有はしているものの権利がないことを知らず、かつ、その知らなかったことについて過失がない場合(=善意)は、その動産について完全な権利を取得させる制度をいう。

委託者による第三者に対する物品・製品・成果物の売却が、この即時取得に該当する場合、その第三者は、「その動産ついて講師する権利」=所有権を取得します。

このため、委託者による物品・製品・成果物の売却が即時取得に該当する場合、受託者は、売却を受けた第三者に対して、物品・製品・成果物の返還請求はできません。

ただし、当然ながら、委託者に対する受託者の報酬・料金・委託料の支払いの請求権は、残ったままです。

即時取得・善意取得の要件は?

では、実際には、どのような場合に即時取得・善意取得となるのでしょうか?

即時取得・善意取得には、次の6つの要件があります。

即時取得・善意取得の要件

  1. 取引の目的物が動産であること。
  2. 有効な取引によって、目的物の占有が移転すること。
  3. 取得者が平穏かつ公然に目的物を占有すること。
  4. 前主が目的物を処分する権利がないこと。
  5. 前主が目的物を処分する権利がないことについて、取得者が善意(=知らない)であり、かつ、善意であることについて過失がないこと。
  6. 取得者が前主の占有を信頼して占有を開始すること。

この6つの要件をすべて満たした場合、即時取得・善意取得が成立します。

すでに触れたとおり、委託者が納入された物品・製品・成果物を第三者に売却した場合において、即時取得・善意取得が成立したときは、その第三者は、適法に物品・製品・成果物を取得したことになります。

このため、受託者は、その第三者に対し、物品・製品・成果物の返還請求はできません。

即時取得・善意取得に該当しない場合も返還請求は難しい

即時取得・善意取得が不成立の場合はむしろ第三者は返還に応じない

また、仮に即時取得・善意取得に該当しない場合であっても、現実的には、受託者にによる、第三者に対する物品・製品・成果物の返還請求は難しいといえます。

というのも、仮に委託者と受託者の間の所有権の移転について、その第三者が事情を知っていた(=悪意)場合であっても、素直に即時取得・善意取得の不成立を認めることは、まずないと思われます。

これは、第三者としては、何らかの目的があって物品・製品・成果物の取引に応じた以上、受託者に返還する動機がないからです。

第三者が即時取得・善意取得の不成立を認めるか?

要件を満たしていないことによる即時取得・善意取得の不成立が疑われる場合であっても、取得者である第三者は、即時取得・善意取得の不成立を認めない。

なお、この点は、他の要件を満たしていない場合も同様です。

訴訟で即時取得・善意取得を否定するのはコストがかかる

となると、受託者としては、その第三者に対し、訴訟を起こして物品・製品・成果物の返還請求をしなければならなくなります。

当然ながら、訴訟で物品・製品・成果物の返還請求をする場合は、非常にコストがかかりますし、必ずしも勝訴できるとは限りません。

このように、仮に即時取得・善意取得が成立しない場合であっても、返還請求は、難しくなります。

このため、受託者にとっては、第三者への売却が前提となる物品・製品・成果物に関する業務委託契約において、所有権の移転時期が遅かったとしても、その効果は薄いといえます。

ポイント

  • 委託者が所有権の移転前に納入された物品・製品・成果物を第三者に売却した場合、受託者は、その第三者に対し、返還請求ができない場合がある。
  • 即時取得・善意取得とは、平穏かつ公然と取引をした者が、取引の相手が取引の対象となった動産について占有はしているものの権利がないことを知らず、かつ、その知らなかったことについて過失がない場合(=善意)は、その動産について完全な権利を取得させる制度をいう。
  • 即時取得・善意取得には、6つの要件があり、これらを満たした場合、受託者は、即時取得・善意取得によって、納入があった物品・製品・成果物を取得した第三者に対し、その返還請求ができない。
  • 仮に即時取得・善意取得の要件を満たしていない場合であっても、受託者が、第三者から納入した物品・製品・成果物を返還を受けるのは、難しい。
  • 即時取得・善意取得の制度により、第三者への売却が前提となる物品・製品・成果物に関する業務委託契約において、所有権の移転時期を遅くすることは、受託者にとって、それほど効果はない。

所有権の移転と知的財産権の移転は別物

なお、納入される物品・製品・成果物がなんらかの知的財産の記録媒体である場合、その所有権と知的財産権とは、別々の権利です。

例えば、システム等開発業務委託契約において、開発されたシステム等が記録されたDVD-RやHDDは、動産として所有権の移転について規定する必要があります。

同時に、これに記録されているシステム等の知的財産権(主に著作権)の取扱いについても、規定する必要があります。

これだけは押さえておきたい!ソフトウェア・プログラム・システム・アプリ開発業務委託契約書の作成の35のポイント

DVD-RやHDDの所有権が受託者から委託者に移転したとしても、これに記録されている知的財産の知的財産権は、当然には、委託者から受託者には移転しません。

このため、知的財産権が発生する業務委託契約では、記録媒体の所有権の移転とは別に、知的財産権の取扱いについても規定する必要があります。

業務委託契約における知的財産権の取扱いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書で問題となる知的財産権の権利処理・使用許諾・改良発明とは?

ポイント

  • 知的財産の記録媒体の所有権と、その知的財産の知的財産権は、別々の権利。
  • 所有権の移転と知的財産権の取扱いは、別途の規定でそれぞれ規定する。

【補足】「所有者は危険を負担する」

法律の世界には、「所有者は危険を負担する」という法理があります。

この点から、一般的には、所有権の移転とともに、危険負担も移転します。

危険負担の移転の時期につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約の危険負担の移転の時期とは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?