企業間の取引で、業務委託契約書を作成しないと、さまざまなリスク・デメリットがあります。
こうしたリスク・デメリットを回避するためには、当然ながら、業務委託契約書を作成する必要があります。業務委託契約書の作成には手間がかかります。
ただ、それ以上に、大きな目的・メリットがあります。
具体的には、次の4つの目的・メリットです。
業務委託契約書作成の4つの目的・メリット
- 取引内容を可視化・記録できる
- 業務プロセスを明確化できる
- 違法行為を予防できる
- 収入印紙を節約できる
このページでは、こうした業務委託契約書の作成のメリットについて、わかりやすく解説していきます。
【目的・メリット1】取引内容の「見える化」と記録ができる
業務委託契約書の作成過程での取引内容を可視化する
業務委託契約書作成の1点目の目的・メリットは、契約書の作成の過程で取引内容を可視化できる、という点です。
業務委託契約書を作成する場合、取引の全体像を明らかにする必要があります。この際、契約実務の専門家が関与することで、曖昧だった取引の内容が明確になります。
業務委託契約書の作成の作業は、取引内容を言語化する作業です。つまり、言語化できていない取引内容を明確にして言語化していくことになります。
契約内容は思った以上に決まっていない
同じように、「決まっていないこと」も決めていきながら、言語化していきます。
専門家の立場で業務委託契約書の作成に関与していると、ほとんどの案件で、「決まっていない契約内容」が非常に多いです。
自社の取引内容に関することなので、社長や担当者は「何でも知っている・決めている」と思ってしまいがちです。
ところが、契約実務・法律実務の観点からいろいろと質問をすると、かなりの部分があいまいだったり、決まっていなかったりすることが多いのです。
取引内容は決まっている?
契約実務・法律実務の観点では、意外と取引内容は決まっていない。
このように、あいまいな取引内容や決まっていない取引内容を明確化し、言語化できる、というのが、業務委託契約書の作成で得られるメリットです。
もちろん、雛形・テンプレートの契約書を使う場合は、こうしたメリットは享受できません。
税務調査の際に取引の記録として提示できる
また、業務委託契約書は、過去の取引の最も重要な記録となります。このため、業務委託契約書は、会計証憑としても非常に重要となります。
特に、税務調査に入られた際は、業務委託契約書がない場合、たとえ請求書があったとしても、不透明な会計処理とみなされかねません。
また、内容が不明確な業務委託契約書や、実態を反映していない業務委託契約書の場合も、同様に不透明な会計処理とみなされる可能性もあります。
これに対し、明確な内容の業務委託契約書を作成していた場合、会計証憑・取引の記録として提示できます。
ポイント
- 業務委託契約書の作成は、作成過程での契約内容の「見える化」が大きなメリット。
- 業務委託契約書の作成過程での取引内容を言語化・形式知化することができる。
- 企業間の取引では、取引内容は思った以上に決まっていないもの。
- 業務委託契約書は会計証憑や取引の記録としても機能する。
【目的・メリット2】企業間取引の業務プロセスを明確化できる
業務委託契約書には時系列で取引内容を記載する
業務委託契約書作成の2点目の目的・メリットは、いわゆる「業務プロセス」を明確化できる、という点です。
業務委託契約書の作成では、取引内容を明確化していく過程と並行して、業務委託契約書に記載するべき契約内容を検討していきます。
この際、取引に関する内容、特に権利義務に関するものは、なるべく多く記載するようにします。
このときにポイントになるのは、時系列に沿って、誰が何をできるのか(権利)・誰が何をしなければならないのか(義務)を記載します。
業務委託契約書の権利義務の書き方
業務委託契約書では、時系列に沿って、契約当事者の権利と義務について記載する。
これは、いわゆる「業務プロセス」の確定の作業です。
そして、イレギュラーが発生せずに、順調に取引が終わる場合に、最初から最後までどのようなプロセスで取引が進むのかを記載します。
イレギュラーが発生した場合の対処も書いておく
もちろん、毎回イレギュラーが発生することなく取引きができるのであれば、業務委託契約書を作るメリットはほとんどありません。
ただ、実際のビジネスでは、イレギュラーはつきものです。こうしたイレギュラーそのものの定義と、これが発生した場合にどのように対処するのかも、業務委託契約書で決めておきます。
業務委託契約書をはじめ、契約書は、イレギュラーに対処するために作るものなのです。
こうしたイレギュラーをどれだけ想定できるかが、契約書の作成のポイントとなります。
ポイント
- 業務委託契約書は、時系列の企業間取引の内容・業務プロセスを明記する。
- 業務委託契約書は、イレギュラーの定義とその対処も明記する。
【目的・メリット3】法律違反を予防できる
法律は知らなければ対処できない
業務委託契約書作成の3点目の目的・メリットは、専門家に作成してもらった場合は、違法行為を予防できる、という点です。
実は、業務委託契約は、さまざまな違法行為の温床になります。
業務委託契約は違法となることが多い
業務委託契約は、下請法、独占禁止法、労働者派遣法、労働基準法、労働契約法、建設業法など、各種法律による規制があるため、知らず知らずのうちに、契約内容が違法行為となることが多い。
こうした違法行為は、業務委託契約に適用される法律を知らないと、対処できません。
法律の世界には、「法の不知はこれを許さず」ということわざ(法諺)があります。
本来は刑法の故意に関することわざですが、他の法律も同じことがいえます。
つまり、法律の世界では、「そんな法律は知らなかった」では(本当に知らなかったとしても)済まされません。
適法な業務委託契約書を作ることで法律違反を回避できる
このように、業務委託契約では、意図していない法律違反が発生するリスクがあります。
こうした法律違反を回避するには、法律そのものをよく理解したうえで、政府のガイドラインや判例にもとづき、しっかりとした業務委託契約書を作成する必要があります。
もちろん、こうした業務委託契約書を作成するには、どのような法律が適用されるか、という前提知識が必要となります。
そのうえで、法律違反にならないようにするにはどのような契約書の書き方をするのか、ということまで配慮します。
当然ながら、雛形の業務委託契約書では、法律違反を回避できない可能性が高いです。
ポイント
- 業務委託契約は意外と違法行為となることが多い。
- 法律は、知らなければ対処できない。
- 適法な業務委託契約書を作成することにより、法律違反を防ぐことができる。
【目的・メリット4】余計な印紙税を払わずに済む
業務委託契約書では意外とムダに印紙税を払っていることが多い
業務委託契約書作成の4点目の目的・メリットは、印紙税を節税できる、という点です。
本来の業務委託契約書を作成するメリットや目的とはかけ離れますが、正確な業務委託契約書を作成していれば、印紙税を節税できる場合があります。
業務委託契約書を作り替える案件などでよく目にするのですが、取引きの実態が契約書に反映されていないばかりに、余計な印紙税を負担しているお客さまが、よくいらっしゃいます。
例えば、原則として、業務委託契約が(準)委任契約の場合は、印紙税を負担する必要はありません。
ところが、契約内容が明らかに準委任契約であり、印紙税を負担する必要がないのに、それまで使っていた契約書には準委任契約と書かれていないために、印紙税を負担していた、ということがあります。
また、ひどい場合だと、契約内容が準委任契約であるにもかかわらず、請負契約と業務委託契約書に書いていたばかりに、ムダに印紙税を払い続けていた、というケースもあります。
印紙税の節税目的で業務委託契約書の書き方を変えるのは論外
もちろん、「印紙税を払いたくないから」という理由で、本来の取引きの実態を反映していない契約書を使うのは、本末転倒です。
例えば、明らかに請負契約である取引に、準委任契約の業務委託契約書を使うと、確かに印紙税は節税できるかもしれません。ただ、取引きでトラブルがあった場合に、業務委託契約書がまったく機能しません。
ですから、あくまで、取引の実態を反映した業務委託契約書にするのが鉄則です。
このほか、業務委託契約書の収入印紙につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 適切な業務委託契約書を作成することにより、不要な印紙税を払う必要がなくなる。
- ただし、印紙税の節税を最優先の目的とした契約内容は、本末転倒。