- データの成果物を納入する業務委託契約において、契約書・発注書でのデータ・成果物の納品場所・納入場所の書き方はどうするべきでしょうか?
- 契約書・発注書でのデータの成果物の納品場所・納入場所の書き方は、電子メールアドレスやURLでの指定となります。なお、データを何らかの記録媒体に記録して納入する場合は、その記録媒体の送付先の住所を記載します。
このページでは、業務委託契約の委託者・受託者向けに、契約書や発注書におけるデータの成果物の納品場所・納入場所について解説しています。
データ形式の成果物を送信して納入する場合、物理的な有体物を送付する場合とは異なり、契約書や発注書には、住所ではなく電子メールアドレスやURLで納品場所・納入場所を書きます。
ただし、データをCD-R、DVD-R、USBメモリ、HDDなどの何らかの記録媒体に記録したうえで納入・納品をする場合は、その記録媒体の納入先となる住所を書きます。
なお、下請法やフリーランス保護法が適用される取引きの場合、納品場所・納入場所を正確に記載しないと、法律違反となります。
このページでは、こうしたデータ形式の成果物の納入場所・納品場所・納品先について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 契約書・発注書等におけるデータ形式の成果物の納品場所・納入場所の書き方
- 下請法やフリーランス保護法における納品場所・納入場所の規制
データ形式の成果物の納品場所・納入場所・納品先の書き方は電子メールアドレスやURL
データはURLへのアップロードや電子メールアドレスへの送信で納入する
データ形式の成果物は、物質(=有体物)ではなく、記録媒体上に存在する無体物であるため、物理的な納品・納入がありません。
このため、そもそも「データの納品場所・納入場所」という概念自体が、正確な表現ではないことになります。
ただ、一般的な契約実務では、データは、以下のいずれかのオンラインによる方法によって納入することとなります。
データの納入方法
- 電子メールアドレスへの送信
- 特定のURLへのアップロード
- 特定のファイル送信サービスの利用
- データを編集できる権限の移譲(特定のウェブサービスを利用した開発等の場合。後述)
このため、実際の契約実務では、契約書・発注書・受注書の書き方としては、データの納品場所・納入場所は、電子メールアドレスや(開発プラットフォームやファイル送信サービスの)URLを記載することが慣例となっています。
または、納品場所・納入場所としてではなく、納入方法として記載します。
納品場所・納入場所・納品先や納入方法の書き方は?
具体的なデータ形式の成果物の納品場所・納入場所・納入先に関する契約書・発注書の書き方は、以下のとおりです。
電子メールアドレスの場合
データの納入方法として、電子メールアドレスに送信する場合の契約書・発注書等の書き方は、以下のとおりとなります。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納品場所・納入場所・納入先に関する条項(電子メールアドレス1)
第○条(納入方法および納入場所)
1 本件成果物の納入方法は、当該本件成果物のファイルが添付された電子メールの送信とする。
2 本件成果物の納入場所は、委託者の電子メールアドレスである●●@●●.co.jpとする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記をより簡略化したものが、以下のものとなります。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納品場所・納入場所・納入先に関する条項(電子メールアドレス2)
第○条(納入方法)
本件成果物の納入方法は、●●@●●.co.jpに対する当該本件成果物のファイルが添付された電子メールの送信とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
URLの場合
特定のURLにアップロードする場合
データの納入方法として、特定のURLにアップロードする場合の契約書・発注書等の書き方は、以下のとおりとなります。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納品場所・納入場所・納入先に関する条項(URL1)
第○条(納入方法および納入場所)
1 本件成果物の納入方法は、当該本件成果物のファイルのアップロードとする。
2 本件成果物の納入場所は、https://www.●●.com/●●とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の例は、あくまでそのURLにおいて、何らかのアップロードできる仕組みがある場合を想定したものとなります。
なんらかのツールを使用する場合
また、特定のウェブサービスやシステムなどのツールの利用が前提である場合は、その名称を明記します。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納品場所・納入場所・納入先に関する条項(URL2)
第○条(納入方法および納入場所)
1 本件成果物の納入方法は、WordPressを使用した当該本件成果物の投稿とする。
2 本件成果物の納入場所は、https://www.●●.com/●●に存在する投稿ページとする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の例は、WordPressを利用したライティング業務委託契約の場合の例です。
ファイル送信サービスを使用する場合
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納品場所・納入場所・納入先に関する条項(URL3)
第○条(納入方法および納入場所)
1 本件成果物の納入方法は、ファイル送信サービスである●●を使用した当該本件成果物のファイルの送信とする。
2 本件成果物の納入場所は、https://www.●●.com/とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記をより簡略化したものが、以下のものとなります。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納品場所・納入場所・納入先に関する条項(URL3)
第○条(納入方法)
本件成果物の納入方法は、ファイル送信サービスである●●(https://www.●●.com/)に対する当該本件成果物のファイルの送信とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
有体物である記録媒体を納入する場合の書き方は納品場所・納入場所の住所
なお、ごくまれに、データ形式の成果物であっても、オンラインでの納入ではなく、CD-R、DVD-R、USBメモリ、HDDなどの何らかの記録媒体に記録したうえで納入・納品をすることもあります。
これは、セキュリティの都合がある場合や、実質的なマスターデータのバックアップとする場合などが該当します。
このような記録媒体を納入する場合は、通常の有体物の納入と同様、その記録媒体の納入先となる住所を書きます。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納品場所・納入場所・納入先に関する条項(住所のみ)
第○条(納入場所)
本件製品の納入場所は、東京都●●区●●町●丁目●番地●号に所在する委託者の営業所とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
開発プラットフォームによる開発の場合の納品場所・納入場所の書き方は?
開発プラットフォームやノーコード・ローコード開発の場合は権限等の移譲
また、近年では、開発プラットフォームを利用した開発や、ノーコードツール・ローコードツールを利用した開発もあります。
このような開発の場合は、物理的にコード類を引渡す納入は現実的ではありません。
開発プラットフォームやノーコードツールの機能にもよりますが、一般的には、委託者から受託者に対しアカウントなどの権限を移譲することで、納入とすることが多いです。
ただし、これは、開発プラットフォームやノーコードツールの利用規約に抵触しないように注意が必要です。
開発プラットフォームやノーコード・ローコード開発の場合は納品場所・納入場所は不要
このような、開発プラットフォームを利用した開発やノーコードツール・ローコードツールを利用した開発の場合は、納品場所や納入場所をわざわざ契約書や発注書に記載はしません。
その代わりに、納入方法として、権限の移譲について明記します。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納入方法に関する条項(開発プラットフォームの場合)
第○条(納入方法)
本件成果物の納入方法は、受託者から委託者に対する●●(注:開発プラットフォームの名称)における本件成果物および本件業務に関する一切の権限の譲渡とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
なお、上記の記載例では、極めて抽象的な記載となっていますが、実際の契約書・発注書等には、より詳細な書き方をします。
下請法・フリーランス保護法が適用される場合は正確に納品場所・納入場所を記載する
納品場所・納入場所は下請法の三条書面の必須記載事項
原則として納品場所・納入場所を記載する必要がある
なお、下請法が適用される場合は、納品場所・納入場所は、「下請事業者の給付を受領する場所」として、三条書面の必須記載事項とされています。
【意味・定義】三条書面(下請法)とは?
三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者に対し交付しなければならない書面をいう。
このため、親事業者には、下請事業者に対し、履行場所・納入場所を明らかにして書面で通知する義務があります。
納品場所・納入場所が特定できない場合は記載は不要
ただし、「下請代金支払遅延等防止法第3条に規定する書面に係る参考例」(p.14)によると、「また、委託内容から場所の特定が不可能な委託内容の場合には、場所の記載は要しない。」とされています。
また、委託内容から場所の特定が不可能な委託内容の場合には、場所の記載は要しない。
引用元:下請代金支払遅延等防止法第3条に規定する書面に係る参考例p.14
このため、データ形式の成果物について、特に納品場所・納入場所がない場合は、無理に場所を記載する必要まではありません。
ただし、電子メールアドレス、URL、納入に使用するツールやシステムなどについては、納入方法としてそれらを記載しないと、「下請事業者の給付を受領する場所」とは別に、「下請事業者の給付の内容」の記載が不十分であるとみなされる可能性があります。
このため、後述のフリーランス保護法と同様に、納品場所・納入場所として、電子メールアドレスやURL等を記載しても問題ありません。
この他、三条書面につきましては、につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
フリーランス保護法では「特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所」は三条通知の必須記載事項
原則として納品場所・納入場所を記載する必要がある
下請法同様、フリーランス保護法が適用される場合は、納品場所・納入場所は、「特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所」として、三条通知の必須記載事項とされています。
【意味・定義】三条通知(フリーランス保護法)とは?
三条通知(フリーランス保護法)とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対し明示しなければならない通知をいう。
このため、発注事業者には、フリーランスに対し、履行場所・納入場所を明示する義務があります。
例外として納品場所・納入場所を記載しなくてもいい場合とは?
ただし、以下の2点の場合は、納品場所・納入場所について明示する必要はありません。
納品場所・納入場所について明示しなくてもいい場合
- 委託内容=業務内容に給付を受領する場所等が明示されている場合
- 給付を受領する場所等の特定が不可能な委託内容の場合
オ 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所(本法規則第1条第1項第5号)
(途中省略)
ただし、主に役務の提供委託において、委託内容に給付を受領する場所等が明示されている場合や、給付を受領する場所等の特定が不可能な委託内容の場合には、場所の明示は要しない。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)オ
このため、データ形式の成果物について、特に納品場所・納入場所がない場合は、無理に場所を記載する必要まではありません。
フリーランス保護法の場合は納品場所・納入場所として電子メールアドレス等を記載できる
また、下請法とは異なり、データそのものを電子メール等に添付して納入する場合、納品場所・納入場所を明示するのではなく、納入先である電子メールアドレス等を明示することも認められています。
オ 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所(本法規則第1条第1項第5号)
(途中省略)
また、給付を受領する場所等について、主に情報成果物の作成委託において、電子メール等を用いて給付を受領する場合には、情報成果物の提出先として電子メールアドレス等を明示すれば足りる。
引用元:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第1 1(1)オ
このため、フリーランス保護法が適用される業務委託契約において、データ形式の成果物がある場合は、納品場所・納入場所として、電子メールアドレスやURL等の記載でも差し支えありません。
なお、この場合であっても、詳細な納入方法を規定しないと、「特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所」とば別に、「特定受託事業者の給付の内容」の記載が不十分であるとみなされる可能性があります。
この他、三条通知につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 納品場所・納入場所は、下請法の三条書面・フリーランス保護法の三条通知の必須記載事項。
- いずれの場合も、無理に納品場所・納入場所を記載する必要はないものの、電子メールアドレス・URLの記載や具体的な納入方法の明記が重要となる。