このページでは、業務委託契約の契約条項のうち、契約の目的を規定する条項(以下、「目的条項」といいます。)について解説しています。

目的条項では、その業務委託契約の概要を規定します。目的条項は、契約解除や秘密保持義務に関わる、非常に重要な規定です。

業務委託契約のなかには、目的条項として、いわゆる「信義誠実の原則」を規定しているものもありますが、これは法的には意味がありません。

この規定のしかたでは、目的条項が正しく機能しません。

このページでは、正しい目的条項の規定のしかたや書き方と、業務委託契約に与える影響について、解説します。

なお、業務委託契約の定義と基本的な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【2022年最新版】業務委託契約書とは?書き方・注意点についてわかりやすく解説




【意味・定義】目的条項とは?

目的条項では契約当事者のおおまかな権利義務を規定する

目的条項は、一般的には、第1条に規定する条項です。

目的条項では、その契約の全体的な概要、具体的には、契約当事者のおおまかな権利義務について規定します。

【意味・定義】目的条項とは?

目的条項とは、契約の全体的な概要、特に契約当事者のおおまかな権利義務を規定した条項をいう。

おおまかな権利義務であっても、あいまいな記載ではなく、明確な記載とするべきです。

例えば、製造請負業務委託契約の場合は、次のような書き方になります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】目的条項

第1条(目的)

本契約は、次の各号の内容について規定することを目的とする。

(1)注文者が請負人に対し物品の製造請負を発注し、請負人がこれを受注すること。

(2)請負人が前号の物品を製造し、注文者に対し、納入すること。

(3)注文者が請負人に対し前号の物品の製造の報酬を支払い、受注者が受領すること。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

なお、実際の権利・義務の詳細は、個別の条項で規定することになります。

このため、目的条項では、この程度の簡潔なもので結構です。

目的条項は信義誠実の原則を規定する条項ではない

よくあることですが、目的条項に、次のような「信義誠実の原則」を規定することがあります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】目的条項

第○条(目的)

甲および乙は、相互繁栄の理念にもとづき、信義誠実の原則に従って、本契約を履行するものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

このような目的条項は、契約書全体の格調を高め、体裁を整える程度の効果はあるかもしれませんが、法的には、特に意味はありません(規定すること自体が違法というわけではありません)。

というのも、信義誠実の原則は、民法上の大原則であるため、わざわざ契約で規定しなくても、当然に適用されるものだからです。

逆に、信義誠実の原則だけが規定されていて、契約の概要が記載されていない契約書は、そうした事情を理解していない人に起案された可能性があります。

ポイント
  • 目的条項は、契約当事者のおおまかな権利義務を規定する条項。
  • 目的条項に「信義誠実の原則」を規定しても、法的な意味はない。




原則として目的条項は業務委託契約の内容に影響を与えない

目的条項は、あくまで契約の概要を規定したものです。このため、直接的に業務委託契約に影響を与える規定ではありません。

例外として、他の契約条項に規定がないような事態・状況が発生した場合、直接的に契約に影響を与えることがあります。

こうした事態・状況では、契約全体の趣旨や解釈を確認するために、目的条項が確認されます。

もちろん、こうした事態・状況はあってはならないですし、そのような(抜け・漏れがある)契約内容としてはいけません。

ポイント
  • 目的条項は、契約内容に直接影響を与えることはない。




例外として目的条項が契約内容に影響を与える場合とは?

ただし、例外として、以下の場合は、目的条項が契約内容に影響を与える可能性があります。

目的条項が契約内容に影響を与える場合
  • 債務不履行による法定解除権の行使の場合
  • (準)委任契約型の業務委託契約における「委任の本旨」や「善管注意義務」の判断基準となる場合
  • 秘密保持契約の目的外使用の判断基準となる場合

以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。




目的条項は債務不履行による法定解除権に関わる

債務不履行による法定解除権を規定した民法第542条には、次の規定があります。

民法第542条(催告によらない解除)

1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

(1)債務の全部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3)債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

(4)契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

(5)前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

(1)債務の一部の履行が不能であるとき。

(2)債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

以上のように、法定解除権を行使するには、以下の条件を満たす必要があります。

民法第542条にもとづく法定解除権の要件
  • 契約をした目的を達することができないとき。(民法第542条第1項第3号)
  • 契約をした目的を達することができない場合(同第4号)
  • 契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき(同第5号)

この「契約をした目的」は、契約条項だけで判断されるものではなく、契約内容全体で判断されることとなります。

ただ、契約書の記載内容によっては、目的条項も有力な判断材料になる可能性もあります。

ポイント
  • 「契約をした目的」が、法定解除権の要件の判断材料のひとつ。この要件に、目的条項が影響を与える可能性がある。




(準)委任型の業務委託契約では受託者の善管注意義務に関わる

受託者=受任者が善管注意義務を果たしているかどうかの判断基準

業務委託契約の中には、準委任型=準委任契約である業務委託契約があります。

民法第656条(準委任)

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

【改正民法対応】委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

この準委任契約では、受託者=受任者は、業務の実施にあたって、いわゆる「善管注意義務」を果たす義務があります。

民法をはじめ、法律の条文では、善管注意義務の明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、次のような意味となります。

【意味・定義】善管注意義務とは?

善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。

善管注意義務は、民法第644条で、次のとおり規定されています。

民法第644条(受任者の注意義務)

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

この「委任の本旨に従い」とは、次のような意味です。

【意味・定義】「委任の本旨に従い」とは?
    民法第644条における「委任の本旨に従い」とは、(準)委任契約の目的に適した事務処理をすることをいう。

この「目的に適した事務処理」をしているかどうかは、必ずしも目的条項だけで判断されるわけではあませんが、ひとつの重要な判断材料となります。

業務委託契約書を作成する理由・目的

委任契約・準委任契約である業務委託契約では、目的を明確にすることにより、「委任の本旨」を明らかにした契約書が必要となるから。

善管注意義務違反=債務不履行=契約違反

善管注意義務を果たしているかどうかは、受託者=受任者の債務不履行=契約違反を判断するポイントとなります。

善管注意義務違反=債務不履行=契約違反

受託者=受任者が善管注意義務を果たしていない場合は債務不履行=契約違反となり、委託者=委任者は契約解除ができる。

このため、特に委託者=委任者の側は、準委任型の業務委託契約では、受託者=受任者にいい加減な仕事をされないようにするためにも、契約書で契約の目的を詳細に規定するべきです。

このほか、善管注意義務につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】準委任型業務委託契約における善管注意義務とは?定義・具体例と5つのポイントもわかりやすく解説

ポイント
  • 「契約をした目的」が、法定解除権の要件の判断材料のひとつ。この要件に、目的条項が影響を与える可能性がある。




業務委託契約の目的条項は秘密保持義務(目的外使用の禁止)に影響する

秘密保持義務と併せて目的外使用の禁止を規定する

機密性が高く、有用な秘密情報を開示する業務委託契約では、目的条項が別の意味で重要となります。

一般的に、このような秘密情報を開示する業務委託契約では、秘密情報について、秘密保持義務を課します。

また、契約の履行に伴い、秘密情報の使用を許諾する場合は、同時に、その秘密情報について、目的外の使用を禁止します。

業務委託契約における秘密保持義務・守秘義務に関する条項のまとめ

目的条項は、この秘密情報の目的外使用の禁止に影響を与えます。

機密性が高い秘密情報を開示する場合は契約の目的を明記する

秘密情報の目的外の使用を禁止した条項における「目的」とは、目的について明記された条項がない限り、一般的には目的条項に記載された「契約の目的」とされます。

このため、目的条項で契約の目的が明確になっていないと、「契約の目的」が拡大解釈されてしまう原因となります。

その結果、本来想定していた目的以外の目的で、秘密情報が使用されてしまう可能性があります。

こうしたリスクを防ぐためにも、委託者の側であれ、受託者の側であれ、秘密情報を開示する場合は、秘密情報の使用について意識しながら、目的条項を規定する必要があります。

業務委託契約書を作成する理由・目的

目的条項において目的を明確にすることにより、秘密情報の使用目的を限定する契約書が必要となるから。

「目的外使用の禁止」の目的は契約全体で判断される

もっとも、「目的外使用の禁止」条項の目的は、目的条項だけで判断されるべきものではなく、契約書全体の記載や契約の実態によって判断されるべきものです。

このため、目的条項の記載があいまいだからといって、拡大解釈して秘密情報を使用していい、というわけではありません。

このように、意図的に「契約の目的」を拡大解釈して、恣意的に秘密情報を使用した場合、違法行為とみなされる可能性があります。

特に、秘密情報が営業秘密に該当する場合は、営業秘密の不正使用として、不正競争防止法違反となる可能性もあります。

【意味・定義】営業秘密とは?

営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう(不正競争防止法第2条第6項)。

営業秘密の定義・要件・具体例とは?

このほか、秘密保持義務につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における秘密保持義務・守秘義務に関する条項のまとめ

ポイント
  • 秘密保持義務の条項では、秘密情報の目的外使用の禁止を規定する。
  • 目的条項は、秘密情報の目的外使用があったどうかの判定における、「目的」の解釈に影響を与える。
  • 目的条項が不明確だからといって、秘密情報を開示者の許可なく使用した場合は、不正競争防止法違反となる可能性がある。




目的条項に関するよくある質問

目的条項とは何ですか?
目的条項とは、契約の全体的な概要、特に契約当事者のおおまかな権利義務を規定した条項のことです。いわゆる信義誠実の原則(信義則)を規定する条項ではありません。
目的条項は、契約内容にどのような影響を与えますか?
目的条項は、原則として契約内容には影響を与えません。ただし、例外として、次の場合は契約内容に影響を与えます。

  • 債務不履行による法定解除権の行使の場合
  • (準)委任契約型の業務委託契約における「委任の本旨」や「善管注意義務」の判断基準となる場合
  • 秘密保持契約の目的外使用の判断基準となる場合