- 建設工事下請基本契約書には収入印紙が必要なのでしょうか?また、必要な場合は、印紙税の金額はいくらでしょうか?
- 建設工事下請基本契約書は、契約形態が請負契約の場合は課税文書に該当しますので、収入印紙を貼る必要があります。また、印紙税の金額は4,000円となります。なお、単に建設工事の作業を委託する基本契約書で、契約形態を準委任契約とした場合は、課税文書に該当せず、印紙税は発生しません。
このページでは、弊所によく寄せられるご質問である、建設工事下請基本契約書に貼る収入印紙と印紙税の金額について、簡単にわかりやすく解説します。
印紙税法では、請負契約書は、なんらかの課税対象として規定されています(いわゆる「課税文書」)。
一般的に、建設工事下請基本契約は契約形態が請負契約であることから、その契約書は、継続的取引きの基本となる契約書(いわゆる7号文書)に該当し、印紙税の金額は4,000円となります。
ただ、名称は「建設工事下請基本契約書」であっても、単に建設工事の作業を委託する契約書の場合、契約形態が準委任契約であることが明記されていれば、課税文書に該当せず、印紙税は発生しません。
このページでは、建設工事の下請契約の元請事業者・下請事業者の双方向けに、建設工事下請基本契約書の収入印紙と印紙税について、厚生労働省の公式の資料にもとづき、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 建設工事下請基本契約書の印紙税・収入印紙の金額・該当する条件。
- 建設工事下請基本契約書が不課税文書となる条件。
なお、一般的な建設工事請負契約書の印紙税・収入印紙の金額につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
原則として建設工事下請基本契約書は7号文書・印紙税は4,000円
建設工事下請基本契約書とは?
建設工事下請基本契約書の4つの条件
建設工事下請基本契約書は、以下の4つの条件を満たした契約書となります。
建設工事下請基本契約書の条件
- 建設工事に関する契約であること。
- 下請負の契約であること。
- 契約形態が請負契約であること。
- 基本契約であること。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
【条件1】建設工事とは?
建設工事下請基本契約書は、文字どおり建設工事の下請負契約にかかる基本契約書です。
ここでいう「建設工事」とは、建設業法第2条第1項に規定する建設工事のことです。
建設業法第2条(定義)
1 この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
(以下省略)
引用元:建設業法 | e-Gov法令検索
【意味・定義】建設工事とは?
建設工事とは、土木建築に関する工事のうち、建設業法別表第一の上欄に掲げるものをいう。
このように、およそ「工事」と名前がつくものは、建設業法では建設工事に該当します。
これらの詳細につきましては、国土交通省が定める「業種区分、建設工事の内容、例示、区分の考え方(H29.11.10改正)」をご覧ください。
また、建設工事や建設工事請負契約の定義につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【条件2】下請とは?
下請けとは、「なんらかの請負等の仕事についての再度の請負」を意味します。
【意味・定義】下請けとは?
下請けとは、なんらかの仕事を請負った請負人が、第三者である外部の請負人(下請負人)に対し、再度請負を注文することをいう。なお、再度請負う請負人(下請負人)の立場で下請負することを意味することもある。
「請」という文字から、一般的には、契約形態が請負契約の場合について使用する用語です。
ただし、慣例として、請負契約でない契約形態の場合や、契約形態が不明な場合にも使われることがあります。
なお、建設業法では、「下請契約」は、以下のとおり定義づけられています。
第2条(定義)
(第1項~第3項まで省略)
4 この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
引用元:建設業法 | e-Gov法令検索
【条件3】請負契約とは?
請負契約は、民法では、以下のように規定されています。
民法第632条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
【意味・定義】請負契約とは?
請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。
また、建設業法第24条には、以下の規定があります。
建設業法第24条(請負契約とみなす場合)
委託その他いかなる名義をもつてするかを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する。
引用元:建設業法 | e-Gov法令検索
よって、「報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約」は、名義を問わず、建設業法上は請負契約とみなされ、建設業法の規制対象となります。
なお、請負契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
建設工事の下請けの契約の場合、実態としては(下請け部分の)工事の完成を目的としておらず、作業の提供を目的としていることがあります。
この場合、契約形態は、請負契約ではなく準委任契約であるといえます。
契約形態が準委任契約であれば、後述のとおり、契約書は課税文書に該当せず、印紙税は発生しません。
【条件4】基本契約とは?
基本契約は、民法上の定義がある契約ではありませんが、一般的に、次の意味で使われます。
【意味・定義】基本契約(取引基本契約)とは?
基本契約とは、継続的な売買契約、請負契約、準委任契約の取引の基本となる、個々の取引に共通して適用される契約条項を規定した契約をいう。取引基本契約ともいう。
そして、この基本契約の契約書は、印紙税法上では、いわゆる「継続的取引きの基本となる契約書」(7号文書)と扱われます。
【意味・定義】売買型・請負型の「継続的取引の基本となる契約書」とは?
「継続的取引の基本となる契約書」とは、特定の相手方との間において継続的に生じる取引の基本となる契約書であって、売買取引基本契約書や貨物運送基本契約書、下請基本契約書などのように、営業者間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する複数取引を継続的に行うため、その取引に共通する基本的な取引条件のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうち1以上の事項を定める契約書をいう。
建設工事下請基本契約書は、契約形態が請負契約であれば、上記の「請負に関する複数取引を継続的に行うため、その取引に共通する基本的な取引条件のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうち1以上の事項を定める契約書」に該当します。
建設工事下請基本契約書は7号文書・印紙税は4,000円
以上のように、一般的な建設工事下請基本契約書は、7号文書に該当します。
7号文書の印紙税は、一律で4,000円とされています。
7号文書の印紙税の金額 | ||
---|---|---|
号 | 文書の種類 | 印紙税額(1通または1冊につき) |
7 | 継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。) | 4千円 |
このため、建設工事下請基本契約書の印紙税は、4,000円となります。
7号文書に該当するかどうかの判断は?
7号文書に該当するかどうかにつきましては、以下のフローチャートでかんたんに判断できます。
例外として印紙税が発生しない建設工事下請基本契約書とは?
準委任契約である建設工事下請基本契約とは?
手間請けの下請契約=準委任契約
以上のように、一般的な建設工事下請基本契約書は契約形態が請負契約であることから、7号文書に該当し、4,000円の印紙税が発生します。
ただ、建設工事の下請契約の場合、(下請け部分の)工事の完成を目的とせず、単に作業の提供を目的とした契約であることもあります。
例えば、いわゆる「手間請け」といわれる、建設業者(多くの場合はいわゆる「一人親方」)が、作業のみをおこなう形態の契約があります。
このような一人親方の手間請けの契約は、請負契約ではなく、準委任契約と考えられます。
準委任契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
さく井工事は請負契約・準委任契約の両者があり得る
また、建設工事のなかには、予定どおりに施工したとしても、「仕事の完成」がないものがあります。
典型的な例としては、「さく井工事」があります。
さく井工事の具体例としては、「さく井工事、観測井工事、還元井工事、温泉掘削工事、井戸築造工事、さく孔工事、石油掘削工事、天然ガス掘削工事、揚水設備工事」などがあります(国土交通省「建設業許可事務ガイドライン」p.50)。
これらの工事のうち、さく井工事、温泉掘削工事、石油掘削工事、天然ガス掘削工事などは、さく井工事を施工したとしても、必ずしも、水、温泉、石油、天然ガスが出てくるとは限りません。
よって、これらの工事の場合は、請負契約・準委任契約の両者が該当し得ます。
契約形態が準委任契約であれば建設工事下請基本契約書は不課税
準委任契約は、原則として課税文書に該当しません。
よって、契約内容として、契約形態が準委任契約である旨が明記されていれば、建設工事下請基本契約書は課税文書に該当しません。
また、一般的な建設工事下請基本契約書(正確には建設工事業務再委託基本契約書)は、例外である課税文書となる準委任契約書にも該当しません。
このため、契約形態が準委任契約である建設工事下請基本契約書・建設工事業務再委託基本契約書には、印紙税が発生せず、0円となります。
なお、(準)委任契約書の収入印紙につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足1:必要な収入印紙を貼っていない場合はどうなる?契約は無効?過怠税は?
収入印紙が貼られていなくても契約は無効にはならない
建設工事下請基本契約書に収入印紙を貼っていない場合、どうなるのでしょうか?
まず、契約が有効か無効かということですが、仮に必要な収入印紙が貼られていなくても、契約自体は、そのことで無効になることはありません。
収入印紙を貼っていないことは、税法上問題となるだけであって、民事上の契約内容の判断には、なんら影響を与えません。
ですから、契約自体は、有効といえます(他の理由で無効になる可能性はありますが)。
収入印紙を貼らずに税務調査で発覚したら3倍の負担(印紙税+2倍の過怠税)
次に、印紙税法上の問題ですが、税務調査で請負契約書に貼る必要がある収入印紙が貼られていないことが発覚した場合、本来必要な印紙税に加えて、その2倍の金額の過怠税を負担しなければなりません(印紙税法第20条第1項)。
ただし、一定の条件のもとで、税務署長に対して自己申告した場合は、この過怠税は、印紙税の10%まで減額されます(同第2項)。
また、収入印紙を貼っているにもかかわらず、消印を押していない場合は、本来必要な税額に加えて、同額の過怠税を負担しなければなりません(同第3項)。
なお、この過怠税は、必要経費に算入できませんので、ご注意ください。
ポイント
- 建設工事下請基本契約書に収入印紙が貼られていなくても、その契約は無効にはならない。
- 収入印紙が貼られてないことが税務調査で発覚した場合は、本来の印紙税に加えて2倍の金額の過怠税が課される。
- 収入印紙が貼られていても、消印が押されていない場合は、本来の印紙税に加えて同額の過怠税が課される。
- 過怠税は経費算入できない。
補足2:印紙税は契約当事者のどちらが負担するの?
印紙税は、印紙税法では、課税文書の作成者が納税義務者となっています(印紙税法第3条)。
他方で、民法上は、契約の締結に要する費用は、当事者の双方が折半して負担することとされています(民法第558条、第559条)。
このため、一般的な企業間取引で、契約書を2部作成した場合、収入印紙は、それぞれの当事者が折半して負担することが多いです。
ただ、1部しか契約書を作成しない場合の印紙税の負担や、注文請書の印紙税の負担については、どちらの契約当事者が負担するべきなのか、という問題点もあります。
こうした収入印紙の負担につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
補足3:収入印紙への消印(≠割印)の押し方
なお、収入印紙に消印を押す場合、以下の図のように押します。
この他、収入印紙への消印(≠割印)の押し方の詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足4:契約書の収入印紙にはいつ消印を押す?
契約書の収入印紙に消印を押印するタイミングは、通常は、契約成立の時期=契約書に当事者すべての署名、記名押印等をした時点です。
具体的には、対面・郵送によって、以下の時期になります。
2つ契約成立の時期
- 対面での契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインが完了した時点
- 郵送で契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインがなされた契約書が当事者に到達した時点
この他、契約書の収入印紙にはいつ消印を押すかにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
印紙税の節税は電子契約サービスがおすすめ
印紙税の節税には、電子契約サービスの利用がおすすめです。
というのも、電子契約サービスは、他の方法に比べて、デメリットがほとんど無いからです。
印紙税を節税する方法は、さまざまあります。
具体的には、以下のものが考えられます。
印紙税を節税する方法
- コピーを作成する:原本を1部のみ作成し、一方の当事者のみが保有し、他方の当事者はコピーを保有する。
- 契約形態を変更する:節税のために準委任契約のような非課税の契約にする。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:取引基本契約に初回の注文書・注文請書や個別契約を綴じ込むことで7号文書から2号文書・1号文書に変える。
しかし、これらの方法には、以下のデメリットがあります。
印紙税の節税のデメリット
- コピーを作成する:契約書のコピーは、原本に比べて証拠能力が低い。
- 契約形態を変更する:節税のために契約形態を変えるのは本末転倒であり、節税の効果以上のデメリットが発生するリスクがある。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:7号文書よりも印紙税の金額が減ることはあるものの、結局2号文書・1号文書として課税される。
これに対し、電子契約サービスは、有料ではあるものの、その料金を上回る節税効果があり、上記のようなデメリットがありません。
電子契約サービスのメリット
- 電子契約サービスを利用した場合、双方に証拠として電子署名がなされた契約書のデータが残るため、コピーの契約書よりも証拠能力が高い。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、印紙税を考慮した契約形態にする必要がない。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、7号文書に2号文書や1号文書を同轍する必要はなく、そもそも契約書を製本する必要すらない。
このように、印紙税の節税には、電子契約サービスの利用が、最もおすすめです。
建設工事下請基本契約書の印紙税に関するよくある質問
- 建設工事下請基本契約書には印紙税が発生しますか?その金額はいくらですか?
- 建設工事下請基本契約書には印紙税が発生し、収入印紙の金額は4,000円となります?
- 印紙税が発生しない建設工事下請基本契約書には、どのようなものがありますか?
- 単に建設工事の作業を提供するだけの下請契約(手間請けの契約)や、工事の完成を目的としていない契約(完成が保証できないさく井工事等の契約)の場合において、準委任契約であることが明記されている建設工事下請基本契約書であれば、印紙税が発生しません。