- ソフトウェア・システム・アプリなどの開発業務委託契約書の印紙税はいくらでしょうか?また、そもそも印紙税を貼る必要があるのでしょうか?
- ソフトウェア・システム・アプリなどの開発業務委託契約書は、契約形態が請負契約なのか準委任契約なのかにより、印紙税が変わってきます。
請負契約の場合は、報酬の記載があるものは2号文書(知的財産権の譲渡がある場合は1号文書にも該当)、報酬の記載がないものは契約期間や更新の規定によっては7号文書(印紙税は4,000円)となります。
準委任契約の場合は、不課税文書(印紙税は0円)となりますが、知的財産権の譲渡がある場合は1号文書に該当します。
このページでは、主にソフトウェア・システム・アプリ開発業務委託契約(以下、「システム等開発業務委託契約」といいます)の発注者・受注者向けに、弊所によく寄せられるご質問である、システム等開発業務委託契約書に貼る収入印紙と印紙税の金額について、簡単にわかりやすく解説します。
システム等開発業務委託契約書は、契約形態によって、請負契約の場合は2号文書(場合によっては1号文書にも該当)または7号文書(印紙税は4,000円)、準委任契約の場合は不課税文書(ただし、場合によっては1号文書)のいずれかに該当します。
つまり、ウォーターフォール型開発のシステム等開発業務委託契約書の場合は2号文書または7号文書、アジャイル型開発のシステム等開発業務委託契約書の場合やシステムエンジニアリングサービス契約書(SES契約書)であって、著作権の譲渡がある場合は1号文書となります。
このページでは、こうしたシステム等開発業務委託契約書の印紙税や収入印紙について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページをご覧いただくことで、以下の内容を理解できます。
このページでわかること
- システム等開発業務委託契約書の印紙税の金額。
- システム等開発業務委託契約書が不課税文書となる条件。
- システム等開発業務委託契約の契約形態の違い。
システム等開発業務委託契約書は契約形態によって収入印紙・印紙税の扱いはことなる
システム等開発業務委託契約書は、契約形態や業務内容によって、収入印紙・印紙税の取扱いが異なります。
システム等開発業務委託契約書における収入印紙・印紙税の扱い
- ウォーターフォール型開発=契約形態が請負契約の場合:印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要がある=2号文書
- アジャイル型開発・システムエンジニアリングサービス契約(SES契約)=契約形態が準委任契約の場合:原則として印紙税が発生せず、収入印紙を貼る必要はない=不課税文書
- 知的財産権の譲渡がある場合:印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要がある=1号文書
なお、契約形態の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
請負契約型のシステム等開発業務委託契約とは?
ウォーターフォール型開発のシステム等開発業務委託契約書は請負契約書=2号文書
請負契約型のシステム等開発業務委託契約書のうち、報酬・料金の金額の記載があるものは、2号文書に該当します。
いわゆるウォーターフォール型の開発の場合や、比較的仕様を確定しやすい小規模な開発の場合は、コーディング・プログラミング業務を請負契約型とすることが多いです。
【意味・定義】ウォーターフォール開発とは?
ウォーターフォール開発とは、開発の前に使用や設計を確定させ、原則として開発の途中でこれら変更せず、分割された工程ごとに作業を完了し、落ちた水のように前の工程には戻らずに開発する手法をいう。契約形態は、主に請負契約となる。
請負契約は、印紙税法では2号文書とされます。
【意味・定義】2号文書(印紙税法)とは?
印紙税法における2号文書とは、請負に関する契約書であって、「職業野球の選手、映画の俳優その他これらに類する者で政令で定めるものの役務の提供を約することを内容とする契約を含むもの」をいう。
このため、請負契約型のシステム等開発業務委託契約書は2号文書に該当します。
知的財産権の譲渡があるシステム等開発業務委託契約書は1号文書
なお、システム等開発業務委託契約書により生じた成果物について、知的財産権(主に著作権)=無体財産権を委託者に譲渡する場合は、システム等開発業務委託契約書が1号文書となります。
【意味・定義】1号文書(印紙税法)とは?
印紙税法における1号文書とは、以下のいずれかの契約書をいう。
- 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書
- 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
- 消費貸借に関する契約書
- 運送に関する契約書(傭よう船契約書を含む。)
このため、請負契約型であり、かつ知的財産権の譲渡があるシステム等開発業務委託契約書は、2号文書であり、かつ1号文書となります。
1号文書かつ2号文書の印紙税・収入印紙の金額と計算につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
報酬・料金の金額の記載がないシステム等開発業務委託契約書は7号文書になることも
ウォーターフォール開発の取引基本契約書等は7号文書
なお、2号文書は、あくまで金額の記載があるものに限ります。
金額の記載がない請負契約型のシステム等開発業務委託契約書は、契約期間が3ヶ月を越えるの場合や、3ヶ月以内であっても更新の定めがある場合は、7号文書に該当する可能性があります。
例えば、大規模なシステム等開発業務委託契約において、多段階契約の基本となる取引基本契約書などが該当します。
システム等開発業務委託契約書が7号文書に該当する場合、4,000円の印紙税が発生します。
7号文書に該当するかどうかの判断は?
7号文書に該当するかどうかにつきましては、以下のフローチャートでかんたんに判断できます。
委託者が営業者でない場合は2号文書
なお、システム等の開発の委託者が「営業者」(印紙税法施行令第26条第1号)に該当しない場合、こうした請負契約型のシステム等開発業務委託基本契約書は、7号文書ではなく2号文書となります。
取引基本契約書が7号文書に該当する条件のひとつに、契約当事者の双方が営業者であることがあります。
契約当事者の一方でもこの営業者に該当しない場合は、システム等開発業務委託基本契約書は、7号文書ではなく2号文書となります。
このため、例えば委託者が医療法人等である場合は、システム等開発業務委託基本契約書は、7号文書ではなく2号文書(著作権の譲渡がある場合はさらに1号文書)となります。
この他、7号文書の営業者の定義や例外につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
7号文書の印紙税の金額 | ||
---|---|---|
号 | 文書の種類 | 印紙税額(1通または1冊につき) |
7 | 継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。) | 4千円 |
ポイント
- ウォーターフォール型開発≒請負契約型のシステム等開発業務委託契約書は2号文書となり、印紙税が発生する。
- 知的財産権の譲渡があるシステム等開発業務委託契約書は1号文書となり、印紙税が発生する。
- 大規模システムの開発等で利用される多段階契約の基本となる請負契約型のシステム等開発業務委託契約書は7号文書になることもある。
準委任契約型のシステム等開発業務委託契約とは?
アジャイル開発型のシステム等開発業務委託契約書=不課税文書
準委任契約型のシステム等開発業務委託契約書は、課税文書には該当せず、不課税文書となり、印紙税は発生しません。
アジャイル型開発のシステム等開発業務委託契約書は、一般的には準委任契約型とされています。
【意味・定義】アジャイル開発とは?
アジャイル開発とは、「開発の途中で仕様や設計の変更があるとの前提に立って、最初から厳密な仕様を決めずにおおよその仕様だけで開発に着手し、小単位での『実装→テスト実行』を繰り返しながら、徐々に開発を進めていく手法を指す。」契約形態は、主に準委任契約となる。
また、システムエンジニアリングサービス契約(SES契約)も、通常は準委任契約型となります。
【意味・定義】システムエンジニアリングサービス契約・SES契約とは?
システムエンジニアリングサービス契約(SES契約)とは、プログラムのコーディング・プログラミングの作業のみを提供する準委任契約型の契約をいう。
このため、アジャイル型開発のシステム等開発業務委託契約書やシステムエンジニアリングサービス契約(SES契約)は、不課税文書となります。
ただし、これらのうち、知的財産権の譲渡があるものは、別途1号文書に該当します(次項にて解説)。
知的財産権の譲渡があるコンサルティング契約書は1号文書
コーディング・プログラミングによって無体財産権権(=知的財産権)が発生した場合において、その無体財産権(主に著作権)を委託者に譲渡するときは、アジャイル型のシステム等開発業務委託契約書やシステムエンジニアリングサービス契約書(SES契約書)が1号文書となります。
つまり、コーディング・プログラミングによって発生した著作権を利用許諾ではなく、一部であっても譲渡する契約内容である場合は、その契約書は1号文書となります。
特に、SES契約では、著作権は受託者から委託者に譲渡されることが一般的であるため、SES契約書は、通常は1号文書に該当します。
逆に、コーディング・プログラミングによって発生した著作権を利用許諾だけとし、譲渡はしない、準委任契約型のシステム等開発業務委託契約書の場合は、不課税文書となります。
ポイント
- 準委任契約型のシステム等開発業務委託契約書やシステムエンジニアリングサービス契約書(SES契約書)は、原則として不課税文書となり、印紙税は発生しない。
- 知的財産権の譲渡があるシステム等開発業務委託契約書やシステムエンジニアリングサービス(SES契約書)は、準委任契約型であっても1号文書となり、印紙税が発生する。
請負契約と準委任契約の違いは?
なお、請負契約と(準)委任契約については、次の14の違いがあります。
請負契約と(準)委任契約の違い | ||
---|---|---|
請負契約 | (準)委任契約 | |
業務内容 | 仕事の完成 | 法律行為・法律行為以外の事務などの一定の作業・行為の実施 |
報酬請求の根拠 | 仕事の完成 | 履行割合型=法律行為・法律行為以外の事務の実施、成果完成型=成果の完成 |
受託者の業務の責任 | 仕事の結果に対する責任 (完成義務・契約不適合責任) | 仕事の過程に対する責任 (善管注意義務) |
報告義務 | なし | あり |
業務の実施による成果物 | 原則として発生する(発生しない場合もある) | 原則として発生しない(発生する場合もある) |
業務の実施に要する費用負担 | 受託者の負担 | 委託者の負担 |
受託者による再委託 | できる | できない |
再委託先の責任 | 受託者が負う | 原則として受託者が直接負う (一部例外として再委託先が直接負う) |
委託者の契約解除権 | 仕事が完成するまでは、いつでも損害を賠償して契約解除ができる | いつでも契約解除ができる。ただし、次のいずれかの場合は、損害賠償責任が発生する
|
受託者の契約解除権 | 委託者が破産手続開始の決定を受けたときは、契約解除ができる | いつでも契約解除ができる。ただし、委託者の不利な時期に契約解除をしたときは損害賠償責任が発生する |
印紙(印紙税・収入印紙) | 必要(1号文書、2号文書、7号文書に該当する可能性あり) | 原則として不要(ただし、1号文書、7号文書に該当する可能性あり) |
下請法違反のリスク | 高い | 高い |
労働者派遣法違反=偽装請負のリスク | 低い(ただし常駐型は高い) | 高い(常駐型は特に高い) |
労働法違反のリスク | 低い | 高い |
この他、請負契約と(準)委任契約の違いの解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
システム等開発業務委託契約書の印紙税・収入印紙の金額は?
2号文書の印紙税・収入印紙の金額
システム等開発業務委託契約書が2号文書に該当する場合(請負契約型の場合)、料金・報酬によって、次の印紙税が発生します。
2号文書の印紙税の金額(不動産譲渡契約書・建設工事請負契約書の軽減税率を除く) | |
---|---|
記載された契約金額 | 印紙税額(1通又は1冊につき) |
1万円未満(※) | 非課税 ※ 第2号文書と第3号文書から第17号文書とに該当する文書で第2号文書に所属が決定されるものは、記載された契約金額が1万円未満であっても非課税文書となりません。 |
100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1千円 |
300万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
1号文書の印紙税・収入印紙の金額
システム等開発業務委託契約書が1号文書に該当する場合(著作権等の譲渡がある場合)、料金・報酬によって、次の印紙税が発生します。
1号文書の印紙税の金額 | |
---|---|
記載された契約金額 | 印紙税額(1通又は1冊につき) |
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
補足1:収入印紙への消印(≠割印)の押し方
なお、収入印紙に消印を押す場合、以下の図のように押します。
この他、収入印紙への消印(≠割印)の押し方の詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足4:契約書の収入印紙にはいつ消印を押す?
契約書の収入印紙に消印を押印するタイミングは、通常は、契約成立の時期=契約書に当事者すべての署名、記名押印等をした時点です。
具体的には、対面・郵送によって、以下の時期になります。
2つ契約成立の時期
- 対面での契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインが完了した時点
- 郵送で契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインがなされた契約書が当事者に到達した時点
この他、契約書の収入印紙にはいつ消印を押すかにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
関連ページ
SES契約書(システムエンジニアリングサービス契約書)の印紙税・収入印紙につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
アプリ・システム・ソフトウェア等の保守契約書の印紙税・収入印紙につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
印紙税の節税は電子契約サービスがおすすめ
印紙税の節税には、電子契約サービスの利用がおすすめです。
というのも、電子契約サービスは、他の方法に比べて、デメリットがほとんど無いからです。
印紙税を節税する方法は、さまざまあります。
具体的には、以下のものが考えられます。
印紙税を節税する方法
- コピーを作成する:原本を1部のみ作成し、一方の当事者のみが保有し、他方の当事者はコピーを保有する。
- 契約形態を変更する:節税のために準委任契約のような非課税の契約にする。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:取引基本契約に初回の注文書・注文請書や個別契約を綴じ込むことで7号文書から2号文書・1号文書に変える。
しかし、これらの方法には、以下のデメリットがあります。
印紙税の節税のデメリット
- コピーを作成する:契約書のコピーは、原本に比べて証拠能力が低い。
- 契約形態を変更する:節税のために契約形態を変えるのは本末転倒であり、節税の効果以上のデメリットが発生するリスクがある。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:7号文書よりも印紙税の金額が減ることはあるものの、結局2号文書・1号文書として課税される。
これに対し、電子契約サービスは、有料ではあるものの、その料金を上回る節税効果があり、上記のようなデメリットがありません。
電子契約サービスのメリット
- 電子契約サービスを利用した場合、双方に証拠として電子署名がなされた契約書のデータが残るため、コピーの契約書よりも証拠能力が高い。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、印紙税を考慮した契約形態にする必要がない。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、7号文書に2号文書や1号文書を同轍する必要はなく、そもそも契約書を製本する必要すらない。
このように、印紙税の節税には、電子契約サービスの利用が、最もおすすめです。
システム等開発業務委託契約書の収入印紙・印紙税に関するよくある質問
- システム等開発業務委託契約書の印紙税はいくらでしょうか?
- システム等開発業務委託契約書の収入印紙は、契約形態・契約内容に応じて、以下のとおりです。
- ウォーターフォール型開発=契約形態が請負契約の場合:印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要がある=2号文書
- アジャイル型開発・システムエンジニアリングサービス契約(SES契約)=契約形態が準委任契約の場合:原則として印紙税が発生せず、収入印紙を貼る必要はない=不課税文書
- 知的財産権の譲渡がある場合:印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要がある=1号文書
- 準委任契約型のシステム等開発業務委託契約書であっても、印紙税が発生し、収入印紙を貼る必要がありますか?
- 準委任契約型のシステム等開発業務委託契約書やシステムエンジニアリングサービス契約書(SES契約書)であっても、無体財産権=知的財産権(主に著作権)の譲渡が発生する場合は、1号文書に該当し、印紙税が課税される可能性があります。