下請法が適用される取引きで、親事業者が契約書・注文書・発注書なしでメールのみで発注した場合は違法になるのでしょうか?また、どのような罰則となるのでしょうか?
下請法が適用される場合、親事業者が契約書・注文書・発注書などを交付せずにメールのみで発注した場合、原則として違法となり、最大で50万円の罰金が科されます。

このページでは、下請法の親事業者向けに、メール発注の違法性と罰則について解説しています。

下請法が適用される場合において、親事業者がメール発注をしたときは、原則として下請法第3条違反となります。

下請法第3条により、親事業者は、下請事業者に対し、発注後、直ちに取引きの内容が記載された書面(三条書面)を交付する義務があります。

ただし、一定の条件を満たすことにより、電子メールであっても三条書面として扱われる場合があります。

この場合は、メール発注でも違法となることはありません。

このページでは、こうした下請法におけるメール発注の違法性と、電子メールを適法な三条書面とできる条件について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 下請法が適用される取引でのメール発注の違法性
  • メール発注の罰則
  • 電子メールが三条書面として扱われる条件




下請法が適用される場合はメール発注は原則として違法

メール発注=三条書面の不交付=違法

下請法が適用される場合、発注者である親事業者が受注者である下請事業者に対し電子メールのみで発注したときは、原則として、下請法第3条に違反することとなります。

【意味・定義】三条書面(下請法)とは?

三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者に対し交付しなければならない書面をいう。

上記のとおり、下請法第3条では、親事業者に対し、発注後、直ちに、取引内容を記載した書面を下請事業者に交付する義務を課しています。

この下請法第3条の書面のことを、「三条書面」といいます。

下請法第3条(書面の交付等)

1 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。

電子メールは「書面」ではない

この三条書面は、文字通り「書面」でないといけません。

このため、単に電子メールだけを送信して発注しただけでは、親事業者は、下請法第3条に違反することとなります。

ただし、一定の条件(後述)を満たした場合、電子メールを含めた「電磁的方法」による三条書面の交付も認められています。

なお、この場合は、あらかじめ下請事業者からの承諾(後述)を得る必要があります。

三条書面の記載事項一覧

下請法第3条と下請法三条規則では、以下の内容が、三条書面の記載事項とされています。

三条書面の必須記載事項

  1. 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
  2. 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  3. 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)
  4. 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
  5. 下請事業者の給付を受領する場所(役務提供委託の場合は、役務が提供される場所)
  6. 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)について検査をする場合は、その検査を完了する期日
  7. 下請代金の額
  8. 下請代金の支払期日
  9. 下請代金の全部又は一部の支払につき、手形を交付する場合は、その手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
  10. 下請代金の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払を受けることができることとする額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  11. 下請代金の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
  12. 原材料等を有償支給する場合は、その品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日及び決済方法

この他、三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項について解説





メール発注の下請法違反の罰則は50万円以下の罰金

親事業者が下請業者に対し三条書面を交付せずにメール発注をした場合は、50万円以下の罰金が科されます。

下請法第10条(罰則)

次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処する。

(1)(省略)

(2)第5条の規定による書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。

ポイントは、親事業者である法人だけに罰金が科されるのではなく、「その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」にも罰金が科される、ということです。

つまり、会社で50万円を払えばいい、というものではないのです。しかも、50万円とはいえ、いわゆる「前科」がつきます。

なお、親事業者である法人にも、罰金は科されます。

下請法第12条(罰則)

法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。

ポイント
  • 三条書面を交付しないことは犯罪行為。
  • しかも法人だけでなく個人にも罰金が科される。





下請法の対象かどうかの条件とは?

下請法が適用される対象かどうかの条件は、以下のパターンのいずれかとなります。

パターン1
親事業者下請事業者
資本金の区分3億1円以上3億円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る
  4. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理に限る
パターン2
親事業者下請事業者
資本金の区分1千万1円以上3億円以下1千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る
  4. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理に限る
パターン3
親事業者下請事業者
資本金の区分5千万1円以上5千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 情報成果物の作成(プログラムの作成以外のもの)
  2. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理以外のもの)
パターン4
親事業者下請事業者
資本金の区分1千万1円以上5千万円以下1千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 情報成果物の作成(プログラムの作成以外のもの)
  2. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理以外のもの)

これらのパターンのいずれかに該当する場合は、下請法の適用対象となり、親事業者は、下請事業者に対し、三条書面を交付しなければなりません。

これらの下請法が適用されるかどうかの条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?





下請法に違反しないメール発注とするための条件とは?

メール、オンライン、電子契約サービスでの三条書面の交付も可能

すでに述べたとおり、三条書面は、原則として「書面」でなければなりません。

しかしながら、下請法では、一定の条件(下請事業者の事前の承諾等)を満たすことにより、電磁的な方法とファックスによる送信による交付も認めています。

この電磁的方法は、電子メールの送信を含めて、以下の3つの方法が認められています。

イ 書面の交付に代えることができる電磁的方法

下請取引において書面の交付に代えることができる電磁的方法は以下のとおりであり、いずれの方法を用いる場合であっても、下請事業者が電磁的記録を出力して書面を作成できることが必要となる(3条規則第2条)。

○ 電気通信回線を通じて送信し、下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下「下請事業者のファイル」という。)に記録する方法(例えば、電子メール、EDI等)

○ 電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し、当該下請事業者のファイルに記録する方法(例えば、ウェブの利用等)

○ 下請事業者に磁気ディスク、CD-ROM等を交付する方法

下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則第2条

下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則第2条

1 法第3条第2項の公正取引委員会規則で定める方法は、次に掲げる方法とする。

(1)電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの

イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法

ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し、当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法(法第3条第2項前段に規定する方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては、親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)

(2)電磁的記録媒体(電磁的記録に係る記録媒体をいう。)をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法

2 前項に掲げる方法は、下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。

3 第1項第1号の「電子情報処理組織」とは、親事業者の使用に係る電子計算機と、下請事業者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。

メール発注は下請事業者の事前の承諾が必須

ただし、メール発注を含めた上記の3つの電磁的方法による三条書面の交付は、下請事業者の事前の承諾が必須です。

しかも、その承諾についても、細かな条件があります。

下請事業者の事前承諾の条件

電磁的方法による三条書面の交付に必要な下請事業者の事前承諾の条件

このように、適法にメール発注をする場合、単に下請事業者からメール発注=電子メールを三条書面とすることについて承諾を得るだけでなく、電子メールであることや、ファイルへの記録の方法などを明示する必要があります。

なお、これらの事前承諾の条件や注意点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法で三条書面をメールで送信する場合の事前承諾と注意点とは?





補足:ファックスの送信は書面扱い

ファックスでの送信に関しては、「受信と同時に書面により出力されるファックスへ送信する方法は、書面の交付に該当する」となっています(下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項 第1-1-(1)の注1)。

この点について、委託者(注文者)として注意するべき点は、紙出力でないファックスへの送信する場合です。

このような場合は、電磁的方法と同じ扱いとなります。

受信と同時に書面により出力されるファックスへ送信する方法は,書面の交付に該当するが,電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックスに送信する場合には,電磁的方法による提供に該当する(留意事項第 1-1-(1))。

第1 電磁的記録の提供の方法に関する留意事項

1 電磁的記録の提供の方法

下請法第3条第1項の書面の交付に代えて行うことができる電磁的記録の提供の方法は,以下のいずれかの方法であって,下請事業者がファイルへの記録を出力することによって書面を作成することができるものをいう。

(1) 電気通信回線を通じて送信し,下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下「下請事業者のファイル」という。)に記録する方法(例えば,電子メール,取引データをまとめてファイルとして一括送信する方法(EDI等),電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックス等に送信する方法等)

(注1)受信と同時に書面により出力されるファックスへ送信する方法は,書面の交付に該当する。

(注2)電子計算機とは,内部にCPU(中央演算装置)やメモリーを有し,電気通信回線を通じて電磁的記録を受信できるものをいう。

(以下省略)

このため、すでに述べたような、下請事業者からの承諾がない場合は、下請法違反となります。

なお、紙に出力する従来のFAXは、(注1)にあるとおり、「書面の交付」に該当します。

このため、この場合は、特に下請事業者からの承諾は不要です。





関連:フリーランス保護法にも同様の規制・罰則がある

なお、下請法と同様の法律として、フリーランス保護法(新法)があります。

【意味・定義】フリーランス保護法(フリーランス新法)とは?

フリーランス保護法・フリーランス新法とは、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(別名:フリーランス・事業者間取引適正化等法)といい、フリーランスに係る取引の適正化、就業環境の整備等を図る法律をいう。

このフリーランス保護法は、従業員を雇っていないフリーランス・個人事業者や、一人法人に対する業務委託契約に適用される法律です。

こうしたフリーランス等に対し業務委託をする場合、発注事業者には、フリーランス保護法第3条により、下請法同様、フリーランス等に対し取引内容を通知する義務があります。

フリーランス保護法第3条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

1 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。

この通知のことを、三条通知といいます。

【意味・定義】三条通知(フリーランス保護法)とは?

三条通知(フリーランス保護法)とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対し明示しなければならない通知をいう。

このため、下請法が適用されない場合であっても、フリーランス保護法により、メール発注が違法となることもあります。

この他、三条通知につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

フリーランス保護法(新法)の三条通知とは?





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