このページでは、業務委託契約において著作権が発生した場合の処理方法のうち、著作権の譲渡による処理について、わかりやすく解説しています。
一般的な業務委託契約では、委託業務の実施によって、受託者が著作物を創作した場合、その著作権は、受託者から委託者に譲渡されます。
この際、業務委託契約書には、単に著作権が譲渡される旨だけを規定していればいい、というわけではなく、様々なポイントがあります。
このページでは、そうしたポイントについて、簡単に、わかりやすく解説しています。
なお、著作権そのものにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約で発生する著作権とは?
業務委託契約では著作物が創作される場合がある
業務委託契約の中には、委託業務を実施することで、著作権が発生することがあります。
こうした業務委託契約は、委託者による著作物の創作そのものを目的とした業務委託契約であることが多いです。
例えば、ソフトウェア・システム・アプリなど、プログラムの開発の業務委託契約が代表的な例です。
この他、委託者による著作権の創作が主な目的ではなくても、著作権が発生する業務委託契約もあります。
この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約での著作権の処理は「買取り方式」と「ライセンス方式」
こうした業務委託契約において受託者に発生した著作権は、何らかの形で権利処理をおこないます。
著作権の権利処理の方法は、次の2種類のうちのいずれかの方式です。
- 【買取り方式】受託者から委託者に著作権を移転・譲渡させる方式。
- 【ライセンス方式】著作権自体は受託者に留保しつつ、委託者に著作権の使用を許諾する方式。
一般的な業務委託契約では、買取り方式にすることが多いです。
このページでは、買取り方式について、簡単にわかりやすく解説していきます。
なお、ライセンス方式については、次のページをご覧ください。
- 業務委託契約では受託者に著作権が発生する場合がある。
- 一般的な業務委託契約では、著作権は買取り方式により、受託者から委託者に譲渡されることが多い。
【ポイント1】買取り方式=受託者から委託者への著作権の移転
著作権の買取り方式は、業務委託契約で発生した著作権を、受託者から委託者に譲渡・移転する方式です。
一般的な(特に小規模な)業務委託契約では、この買取り方式によって、著作権を受託者から委託者に譲渡・移転させます。
移転の対価は、報酬・料金・委託料に含まれるか、これらとは別に区分したうえで、固定価格での買取りが多いです。
余談ですが、童謡の「およげたいやきくん」(あちらは著作隣接権ですが)も買取り方式です。
買取り方式は、著作権を固定価格で買い切る「およげたいやきくん」方式。
【ポイント2】必ず「著作権法第27条および第28条の権利」の移転も明記する
なお、特に委託者の立場としては、単に著作権の譲渡・移転を明記するだけでは不十分です。
著作権を移転・譲渡とする場合、特約として、「著作権法第27条および第28条の権利」の移転も明記しなければなりません。
著作権法第27条および第28条の権利とは、「翻訳権、翻案権等」(第27条)と「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」(第28条)のことです。
これらの権利は、特約がない限り、譲渡した者=受託者に留保されたものと推定されます(著作権法第61条第2項)。
著作権法第61条(著作権の譲渡)
1 (省略)
2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
ただし、「推定」であるため、仮に特約がない場合であっても、反証を挙げて覆すことはできます。
買取り方式の場合は、必ず「著作権法第27条および第28条に規定する権利」の移転・譲渡も明記する。
【ポイント3】著作権の移転・譲渡の対価の書き方次第で収入印紙の金額が変わる
著作権が発生する業務委託契約書は1号文書かつ2号文書
著作権の移転・譲渡の契約内容が記載された業務委託契約書は、いわゆる「1号文書」に該当します。
また、著作権が発生する業務委託契約は、一般的には請負契約に該当する場合が多いです(すべてが請負契約とは限りません)。
このような請負型の業務委託契約書は、いわゆる「2号文書」に該当します。
つまり、多くの著作権の移転・譲渡がともなう請負型の業務委託契約書は、1号文書であり、同時に2号文書でもあるわけです。
「請負の報酬・料金・委託料>著作権移転・譲渡の対価」の場合は2号文書
このように、1号文書かつ2号文書の業務委託契約書をどちらの文書として取扱うのかは、以下のとおりです。
- 1号文書と2号文書とに該当する文書:【1号文書】
- ただし、1号文書と2号文書とに該当する文書で、それぞれの課税事項ごとの契約金額を区分することができ、かつ、2号文書についての契約金額が1号文書についての契約金額を超えるもの:【2号文書】
参考:2以上の号に該当する文書の所属の決定|国税庁((5)および(6)を参照)
契約金額にもよりますが、通常は、2号文書よりも1号文書のほうが印紙税が高くなります。
このため、2号文書となるように契約金額を記載したほうが、印紙税の節税になります。
印紙税額が安くなる著作権の譲渡・移転の金額・契約条項の書き方
それでは、具体的に契約条項の書き方を見てみましょう。
第○条(報酬)
1 本件請負の報酬は、金162,000円(うち消費税等金12,000円)とする。
2 前項の報酬には、本件請負により生じた知的財産権の譲渡の対価を含む。
このような規定の請負契約書の場合は、1号文書に該当しますので、400円です。
よく誤解されがちですが、2号文書には該当しませんので、印紙税額は200円ではありません。
第○条(報酬)
1 本件請負の報酬は、金86,400円(うち消費税等金6,400円)とする。
2 本件請負により生じた知的財産権の譲渡の対価は、金75,600円(うち消費税等金5,600円)とする。
このような規定の請負契約書の場合は、2号文書に該当します。
そして、複数の契約金額が記載された場合は、該当する課税文書の契約金額だけで印紙税額を計算します。
上記の例であれば、2号文書の契約金額=8万円(消費税別)で計算しますので、印紙税額は、200円です。
このように、同じ合計15万円(消費税別)の契約金額の業務委託契約書であっても、金額の書き方次第で、印紙税額が違ってきます。
この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
請負の報酬・料金・委託料と著作権の譲渡・移転の対価を区分して業務委託契約書に記載すると、印紙税額が安くなる場合もある。
【ポイント4】著作権買取り方式のメリット・デメリット
委託者側のメリット・デメリット
【メリット】
- 特殊な取引条件がない限り、移転した著作権を自由に使うことができる。
- 固定金額での買取りの場合は、商品化等により、著作物によって長期的に多くの収益が発生した場合は、費用対効果が高くなる。
【デメリット】
- 契約交渉が難航する場合が多い。
- 契約内容によっては報酬・料金・委託料が高くなる。
- 著作権者として著作権を管理する必要がある。
受託者側のメリット・デメリット
【メリット】
- 著作権移転の対価以外の契約交渉は比較的スムーズに済む。
- 固定金額での買取りの場合は、比較的短期間で現金化できる。
- 著作権を管理する必要がない。
【デメリット】
- 権利を「手放す」ことになるため、著作権は一切行使できなくなる(著作者人格権は別)。
- 著作物によって多くの収益が発生した場合であっても、著作権者=委託者に対して、著作権にもとづく請求が一切できない。