
このページでは、従業員を使用する個人事業者・法人の発注担当者(管理職・責任者)向けに、フリーランス保護法における禁止行為の実務対応を解説します。
フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、発注側の事業者にも取引の公正を求める法律です。
特に、受領拒否・報酬の減額・返品・買いたたき・購入/利用強制・不当な経済上の利益の提供要請・不当な給付内容の変更/やり直しという7つの禁止行為が定められています。
このページでは、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、特定業務委託事業者に該当する発注者向けに、適用条件(対象事業者・期間要件「1ヶ月以上」)、各禁止行為のOK/NGの境界、下請法・独占禁止法との関係を整理し、違反リスクを未然に防ぐ実務ポイントを解説します。
このページでわかること
- 7つの禁止行為の内容と判断基準
- 禁止行為が適用される発注事業者と期間要件
- 各禁止行為が例外的に認められるケース
- 違反リスクを防ぐための実務上のチェックポイント
- 法令違反が発覚した場合の行政措置・罰則の内容
フリーランス保護法の7つの禁止行為とは?
フリーランス保護法では、一定の条件を満たした発注事業者に対し、以下の7つの禁止行為が課されています。
| フリーランス保護法における一定の発注事業者(特定業務委託事業者)の禁止行為 | |
|---|---|
| 禁止行為 | 概要 |
| 受領拒否の禁止(本法第5条第1項第1号) | 注文した物品又は情報成果物の受領を拒むこと |
| 報酬の減額の禁止(本法第5条第1項第2号) | あらかじめ定めた報酬を減額すること |
| 返品の禁止(本法第5条第1項第3号) | 受け取った物を返品すること |
| 買いたたきの禁止(本法第5条第1項第4号) | 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること |
| 購入・利用強制の禁止(本法第5条第1項第5号) | 特定業務委託事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること |
| 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(本法第5条第2項第1号) | 特定受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること |
| 不当な給付内容の変更及び不当なや り直しの禁止(本法第5条第2項第2号) | 費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさ せること |
これらの禁止行為が適用されるかどうかの条件は、発注事業者と業務委託の期間によります。
フリーランス保護法の禁止行為が適用される条件とは?
従業員を使用する個人事業者・法人か2名以上の役員がいる法人による1年以上の業務委託が対象
フリーランス保護法の禁止行為が適用されるのは、以下の2つの条件を満たした場合です。
フリーランス保護法の禁止行為の対象となる条件
- 発注事業者が従業員を使用する場合または2名以上の役員がいる法人である場合
- 業務委託の期間が1ヶ月以上である場合
以下、詳しく解説します。
【条件1】禁止行為が適用される発注事業者とは?
フリーランス保護法の禁止行為が適用される条件の1つ目は、発注事業者が特定業務委託事業者であることです。
特定業務委託事業者とは、業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人事業者か、または法人のうち2人以上の役員がいるものもしくは従業員を使用するものです。
【意味・定義】特定業務委託事業者とは?
フリーランス保護法における特定業務委託事業者とは、業務委託事業者のうち、次のいずれかのものをいう。
- 従業員を使用する個人事業者
- 役員が2人以上いる法人
- 従業員を使用する法人
フリーランス保護法第2条(定義)
6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
(1)個人であって、従業員を使用するもの
(2)法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
業務委託事業者とは、特定受託事業者に対し業務委託をする事業者です。
【意味・定義】業務委託事業者とは?
フリーランス保護法における業務委託事業者とは、特定受託事業者(従業員がいない個人事業者・一人法人)に対し業務委託をする事業者をいう。
フリーランス保護法第2条(定義)
5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。
業務委託事業者については、業種、事業規模、資本金の金額、従業員の使用などの他の条件は無く、特定受託事業者に対し業務委託をする事業者はすべて対象となります。
特定受託事業者とは、いわゆる「フリーランス」のことであり、個人事業者だけでなく、役員が1人だけの一人法人も該当します。ただし、いずれも、従業員(後述)を雇っていないことが条件となります。
【意味・定義】特定受託事業者とは?
フリーランス保護法における特定受託事業者とは、個人事業者または一人法人のうち、従業員を使用しないものをいう。
フリーランス保護法第2条(定義)
1 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
(1)個人であって、従業員を使用しないもの
(2)法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの
まとめると、フリーランス保護法の禁止行為が適用され得る事業者は、フリーランス(従業員を使用しない個人事業者または一人法人)に対し業務委託をする事業者のうち、従業員を使用する個人事業者もしくは法人または役員が2人以上の法人となります。
【条件2】禁止行為が適用される業務委託の期間とは?
フリーランス保護法の禁止行為が適用される条件の2つ目は、業務委託の期間が1ヶ月以上であることです。
より具体的には、業務委託の期間が継続して1ヶ月以上の場合に禁止行為が適用されます。
また、この「1ヶ月」は、当初の契約における業務委託の期間だけでなく、契約更新によって1ヶ月以上となった場合も含まれます。
なお、業務委託の期間が1ヶ月未満であっても、下請法が重畳適用される場合は、別途下請法の禁止行為が適用される可能性があります。
また、下請法が適用されない場合であっても、独占禁止法の優越的地位の濫用が適用される可能性もあります。
【禁止行為1】受領拒否
フリーランス保護法における禁止行為の1つ目が、受領拒否です。
これは「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと」(フリーランス保護法第5条第1項第1号)とされています。
つまり、受領拒否は、フリーランス側に責任が無いのに、納入や役務提供を拒否することが該当します。
【意味・定義】受領拒否(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における受領拒否とは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと」をいう。
受領拒否のポイントは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」があるかどうかです。
この「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」は、以下のものに限られます(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)ア(ウ))。
受領拒否における「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」
- 特定受託事業者の給付の内容が委託内容と適合しないこと等がある場合
- 特定受託事業者の給付が3条通知に記載された納期までに行われなかったため、そのものが不要になった場合
.つまり、以下の2パターンに限り、受領拒否が認められます。
受領拒否が認められる場合
- フリーランスから納入・提供された業務(物品・役務等)が、委託時の業務内容と適合しない場合
- 納期遅れがあったことにより、業務が不要となった場合
【禁止行為2】報酬の減額(本法第5条第1項第2号)
フリーランス保護法における禁止行為の2つ目が、報酬の減額です。
これは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること」(フリーランス保護法第5条第1項第2号)とされています。
つまり、報酬の減額は、フリーランス側に責任が無いのに、当初予定していた報酬を減額することが該当します。
なお、最初から低い報酬で発注することは、報酬の減額ではなく「買いたたき」に該当します(後述)。
【意味・定義】報酬の減額(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における報酬の減額とは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること」をいう。
報酬の減額のポイントは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」があるかどうかです。
この「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」は、以下のものに限られます(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)イ(ウ))。
報酬の減額における「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」
- 適法に受領拒否または返品ができる場合に、受領拒否または返品をして、その給付に係る報酬の額を減ずるとき
- 適法に受領拒否または返品ができる場合に、受領拒否または返品をせずに、特定業務委託事業者自ら手直しをした場合に、手直しに要した費用等客観的に相当と認められる額を報酬の額から減ずるとき。
- 適法に受領拒否または返品ができる場合に、委託内容と適合しないこと等または納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に、客観的に相当と認められる額を報酬の額から減ずるとき。
つまり、以下の3パターンに限り、報酬の減額が認められます。
報酬の減額が認められる場合
- フリーランス側に責任があった場合に、発注事業者が受領拒否・返品をしたとき
- フリーランス側に責任があった場合に、発注事業者が手直しをしたとき
- フリーランス側に責任があった場合に、業務の欠陥・不適合や納期遅れで価値が低下したとき
【禁止行為3】返品(本法第5条第1項第3号)
フリーランス保護法における禁止行為の3つ目が、返品です。
これは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること」(フリーランス保護法第5条第1項第3号)とされています。
つまり、返品は、フリーランス側に責任が無いのに、納入された成果物を返品することが該当します。
【意味・定義】返品(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における返品とは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること」をいう。
返品のポイントは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」があるかどうかです。
この「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」は、以下のものに限られます(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)ウ(ア))。
返品における「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」
- 特定受託事業者の給付の内容に委託内容と適合しないこと等がある場合で、かつ、特定受託事業者の給付の内容に、直ちに発
見することができる委託内容と適合しないことがある場合(ただし、この場合であっても、特定業務委託事業者が意図的に検査期間を延ばし、その後に返品することは認められない) - 特定受託事業者の給付の内容に委託内容と適合しないこと等がある場合で、かつ、特定受託事業者の給付の内容に、直ちに発見することができない委託内容と適合しないことがある場合において、給付の受領後6か月以内に返品するとき(ただし、6か月を超えた後に返品することは本法違反となるが、特定受託事業者の給付を使用した特定業務委託事業者の商品について一般消費者に6か月を超えて保証期間を定めている場合には、その保証期間に応じて最長1年以内であれば返品することが認められる)
つまり、以下の3パターンに限り、返品が認められます。
返品が認められる場合
- 納入後の受入検査において直ちに発見できる業務内容の不適合があった場合(この場合でも、意図的に検査期間を伸ばした場合は、返品できない)
- 納入後の受入検査において直ちに発見できない業務内容の不適合があった場合(ただし、納入・役務提供後6ヶ月以内。6ヶ月を超えた返品できない)
- 6ヶ月を超えた場合であっても、発注事業者がフリーランスの業務(商品・役務)を使用した商品について、一般消費者に6ヶ月を超えた保証期間を設定しているのであれば、その保証期間に応じて、最長で1年以内であれば返品できる
【禁止行為4】買いたたき(本法第5条第1項第4号)
フリーランス保護法における禁止行為の4つ目が、買いたたきです。
これは、「特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること」(フリーランス保護法第5条第1項第4号)とされています。
つまり、買いたたきは、同種・類似の業務内容に対して一般的・標準的な金額よりも低い報酬の金額で発注することが該当します。
なお、買いたたきに該当しない報酬の金額で発注したとしても、後で報酬を減額した場合は、「報酬の減額」に該当します(前述)。
【意味・定義】買いたたき(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における買いたたきとは、「特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること」をいう。
買いたたきのポイントは、「通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額」に該当するかどうかです。
この「通常支払われる対価」は、以下の意味となります(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)エ(ア))。
買いたたきにおける「通常支払われる対価」
- 特定受託事業者の給付と同種又は類似の給付について当該特定受託事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(通常の対価)
- (上記の通常の対価が把握できないまたは困難である場合に限る)例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合は、①従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い報酬の額または、②当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた報酬の額
つまり、以下の3パターンは、買いたたきに該当する可能性があります。
買いたたきに該当する場合
- 報酬が「フリーランスの地域における相場」(通常の対価)よりも著しく低い場合
- 上記の「相場」が把握できない場合や把握が困難な場合は、従前の給付と同種・同類のものであれば、報酬が「従前の対価」よりも著しく低い場合
- 上記の「相場」が把握できない場合や把握が困難な場合は、著しい物価高を把握できるのであれば、報酬を据え置いた場合
なお、買いたたきの判断基準の要素は、以下のとおりです。(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)エ(イ))。
買いたたきの判断基準の要素
- 報酬の額の決定に当たり、特定受託事業者と十分な協議が行われたかどうかなど対価の決定方法
- 差別的であるかどうかなど対価の決定内容
- 「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離状況
- 当該給付に必要な原材料等の価格動向
買いたたきに該当するかは、上記の4点の要素を勘案して総合的に判断されます。
【禁止行為5】購入・利用強制(本法第5条第1項第5号)
フリーランス保護法における禁止行為の5つ目が、購入・利用強制です。
これは、「特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること」(フリーランス保護法第5条第1項第5号)とされています。
つまり、購入・利用強制は、正当な理由がないのに、物品の購入や役務の利用を強制することが該当します。
【意味・定義】購入・利用強制(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における購入・利用強制とは、「特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること」をいう。
購入・利用強制のポイントは、「強制して」に該当するかどうかです。
この「強制して」は、以下の3パターンが該当する可能性があります(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)オ(イ))。
購入・利用強制における「強制して」
- 物の購入又は役務の利用を取引の条件とする場合
- 購入又は利用しないことに対して不利益を与える場合
- 取引関係を利用して、事実上、購入又は利用を余儀なくさせていると認められる場合
ただし、「特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合」は除外されます。
【禁止行為6】不当な経済上の利益の提供要請(本法第5条第2項第1号)
フリーランス保護法における禁止行為の6つ目が、不当な経済上の利益の提供要請です。
これは、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」(フリーランス保護法第5条第2項第1号)によって「特定受託事業者の利益を不当に害」することとされています。
つまり、不当な経済上の利益の提供要請は、発注事業者が自己のためにフリーランスに対し経済上の利益を提供させることでフリーランスの利益を不当に害することが該当します。
【意味・定義】不当な経済上の利益の提供要請(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における不当な経済上の利益の提供要請とは、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」によって、「特定受託事業者の利益を不当に害」することをいう。
不当な経済上の利益の提供要請のポイントは、「特定受託事業者の利益を不当に害すること」に該当するかどうかです。
この「特定受託事業者の利益を不当に害すること」は、以下の4パターンが該当し、問題となる可能性があります(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)カ(イ))。
不当な経済上の利益の提供要請における「特定受託事業者の利益を不当に害すること」
- 特定業務委託事業者の決算対策等を理由とした協賛金の要請等、特定受託事業者の直接の利益とならない場合
- 特定受託事業者が「経済上の利益」を提供することと、特定受託事業者の利益との関係を特定業務委託事業者が明確にしないで提供させる場合
- 負担額及び算出根拠、使途、提供の条件等について明確になっていない場合
- 虚偽の数字を示して提供させる場合
【禁止行為7】不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(本法第5条第2項第2号)
フリーランス保護法における禁止行為の7つ目が、不当な給付内容の変更及び不当なや り直しです。
これは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること」(フリーランス保護法第5条第2項第2号)によって「特定受託事業者の利益を不当に害」することとされています。
つまり、不当な給付内容の変更及び不当なやり直しは、フリーランス側に責任が無いのに、業務内容を変更し、またはやり直しをさせることでフリーランスの利益を不当に害することが該当します。
【意味・定義】不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(フリーランス保護法)とは?
フリーランス保護法における報酬の減額とは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること」によって、「特定受託事業者の利益を不当に害」することをいう。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しのポイントは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」と、「特定受託事業者の利益を不当に害すること」に該当するかどうかです。
この「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」は、以下のものに限られます(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)キ(エ))。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しにおける「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」
- 給付を受領する前に特定受託事業者の要請により給付の内容を変更する場合
- 給付を受領する前に特定受託事業者の給付の内容を確認したところ、給付の内容が3条通知に記載された「給付の内容」と適合しないこと等があることが合理的に判断され、給付の内容を変更させる場合
- 特定受託事業者の給付の受領後、特定受託事業者の給付の内容が3条通知に記載された「給付の内容」と適合しないこと等があるため、やり直しをさせる場合
つまり、以下の場合に限り、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」があるものとされ、発注事業者による費用負担なしに、給付内容の変更ややり直しが認められます。
給付内容の変更・やり直しが認められる場合
- 納入・提供の前に、フリーランス側の要請により委託内容を変更する場合
- 納入・提供の前に、中間検査等で委託内容と実施されている業務(物品・役務)の内容が適合しないこと等があり、委託内容を変更する場合
- 納入・提供の後で、納入・提供された業務(物品・役務)の内容が適合しないこと等があり、やり直しをさせる場合
この「特特定受託事業者の利益を不当に害すること」は、以下のものが該当します(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2 2(2)キ(ウ))。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しにおける「特特定受託事業者の利益を不当に害すること」
- 給付内容の変更ややり直しによって、特定受託事業者がそれまでに行った作業が無駄になり、又は特定受託事業者にとって当初委託された内容にはない追加的な作業が必要となった場合に、特定業務委託事業者がその費用を負担しないこと(費用負担がある場合等は該当しない可能性もある)
このように、給付内容の変更ややり直しでは、発注事業者の費用負担があるかどうかがポイントとなります。
禁止行為に違反した場合はどうなる?行政指導・勧告・命令・罰則は?
フリーランス保護法違反の行政指導・助言とは?
発注事業者がこれらの禁止行為に違反した場合、直ちに罰則が科されるわけではありません。
通常、まずは公正取引委員会や中小企業庁からの指導や助言があります(フリーランス保護法第22条)。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第22条(指導及び助言)
公正取引委員会及び中小企業庁長官並びに厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、業務委託事業者に対し、指導及び助言をすることができる。
フリーランス保護法違反の勧告とは?
この指導や助言に従わない場合や悪質な場合は勧告があります(フリーランス保護法第8条)。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第8条(勧告)
1 公正取引委員会は、業務委託事業者が第三条の規定に違反したと認めるときは、当該業務委託事業者に対し、速やかに同条第一項の規定による明示又は同条第二項の規定による書面の交付をすべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第四条第五項の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに報酬を支払うべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第五条第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定に違反していると認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに特定受託事業者の給付を受領すべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
4 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第五条第一項(第一号に係る部分を除く。)の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかにその報酬の額から減じた額を支払い、特定受託事業者の給付に係る物を再び引き取り、その報酬の額を引き上げ、又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
5 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第五条第二項の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに当該特定受託事業者の利益を保護するため必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
フリーランス保護法違反の命令とは?
この勧告の措置を取らなかった場合は、命令が課されます(フリーランス保護法第9条)。
フリーランス保護法第9条(命令)
1 公正取引委員会は、前条の規定による勧告を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、当該勧告を受けた者に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
2 公正取引委員会は、前項の規定による命令をした場合には、その旨を公表することができる。
この命令が課された場合は、命令があった旨を公表されます(同上第2項)。
このため、一般的な企業は、遅くとも勧告の段階で対応することがほとんどです。
フリーランス保護法違反の罰則とは?
そして、この命令に違反した場合は、罰則(最大50万円の罰金)が科されます(フリーランス保護法第24条)。
フリーランス保護法第24条
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、50万円以下の罰金に処する。
(1)第9条第1項又は第19条第1項の規定による命令に違反したとき。
(2)第11条第1項若しくは第2項又は第20条第1項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
なお、この罰則ですが、発注事業者である法人だけに罰金が科されるのではなく、「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者」にも罰金が科される、ということです(フリーランス保護法第25条)。
フリーランス保護法第25条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。
つまり、会社で50万円を払えばいい、というものではないのです。しかも、50万円とはいえ、いわゆる「前科」がつきます。



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