独占禁止法は、事業者による「私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法」の3つの行為を禁止している法律です。
これらのうち、契約実務上、特に重要なものは、「不公正な取引方法」です。
業務委託契約書の作成にあたっては、契約内容が不公正な取引方法に該当しないように注意します。
また、実際の契約実務では、法律だけでなく、公正取引委員会の不公正な取引方法の指定やガイドラインなどを参照する必要があります。
このページでは、こうした独占禁止法の基本について、詳しく解説していきます。
独占禁止法とは?
独占禁止法は、正式には、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。
独占禁止法第1条には、その目的として、次のとおり規定されています。
独占禁止法第1条(目的)
この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
非常に長いので、分解してみましょう。
独占禁止法の禁止・防止・排除の内容
- 私的独占の禁止
- 不当な取引(カルテル)の禁止
- 不公正な取引方法の禁止
- 事業支配力の過度の集中の防止
- 結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限の排除
- 不当な拘束の排除
このうち、業務委託契約の実務では、主に不公正な取引方法が重要となります。
独占禁止法の禁止・規制・排除による効果
独占禁止法の禁止・規制・排除によって、「公正且つ自由な競争を促進」することにより、以下の3つの効果が期待される。
- 事業者の創意の発揮
- 事業活動の活発化
- 雇傭及び国民実所得の水準の向上
そして、独占禁止法が最終的に目指す目的は、次の2つです。
独占禁止法の最終目標
- 一般消費者の利益の確保
- 国民経済の民主的で健全な発達の促進
ポイント
- 業務委託契約の実務では、独占禁止法の規制のうち、特に不公正な取引方法が重要。
独占禁止法における規制の概要
すでに触れたとおり、独占禁止法第1条では、独占禁止法における禁止・防止・排除について規定されています。
これらは、次の6つの規制として、独占禁止法に規定されています。
独占禁止法の規制 | 概要 |
---|---|
私的独占の禁止 | 市場を独占し、または支配する行為を禁止するもの(独占禁止法第3条前段)。「排除型私的独占」と「支配型私的独占」がある。 |
不当な取引制限の禁止 | 事業者間で協議することにより、本来は各事業者が自由に決めるべき取引内容について、不当に制限をすること(独占禁止法第3条後段)。「カルテル」と「入札談合」がある。 |
事業者団体の規制 | いわゆる「業界団体」による、一定の行為を規制すること(独占禁止法第8条以下)。 |
企業結合の規制 | 株式の保有、役員の兼任、合併、分割、株式移転、事業の譲受けにより、市場の占有率・シェアが高くなることによる、実質的な競争の制限の規制(独占禁止法第9条以下)。 |
独占的状態の規制 | 市場の占有率・シェアが50%を超える事業者等に対する規制(独占禁止法第8条の4)。 |
不公正な取引方法の禁止 | 公正な競争を阻害するおそれがある取引方法の禁止(独占禁止法第19条)。 |
私的独占の禁止(独占禁止法第3条)
私的独占は、独占禁止法第3条の前段で禁止されている行為であり、その定義は、独占禁止法第2条第5項に規定されています。
【意味・定義】私的独占とは?
私的独占とは、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」
私的独占には、「排除型私的独占」と「支配型私的独占」があります。
私的独占の類型
- 排除型私的独占:事業者が単独又は他の事業者と共同して,不当な低価格販売などの手段を用いて,競争相手を市場から排除したり,新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為。
- 支配型私的独占:事業者が単独又は他の事業者と共同して,株式取得などにより,他の事業者の事業活動に制約を与えて,市場を支配しようとする行為。
ポイント
- 市場を支配し、または独占する行為は、私的独占として禁止されている。
不当な取引制限の禁止(独占禁止法第3条)
不当な取引制限は、独占禁止法第3条の後段で禁止されている行為であり、その定義は、独占禁止法第2条第6項に規定されています。
【意味・定義】不当な取引制限とは?
不当な取引制限とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」
不当な取引制限には、「カルテル」と「入札談合」があります。
【意味・定義】カルテルとは?
複数の企業が連絡を取り合い、本来、各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める行為を「カルテル」といいます。
【意味・定義】入札談合とは?
国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札の際、入札に参加する企業同士が事前に相談して、受注する企業や金額などを決めて、競争をやめてしまうことを「入札談合」といいます。
ポイント
- カルテルや入札談合等、事業者間で協議することにより、本来は各事業者が自由に決めるべき取引内容について、不当に制限をする行為は禁止されている。
事業者団体の規制(独占禁止法第8条以下)
事業者団体は、独占禁止法第2条第2項で定義づけられています。
独占禁止法第2条(定義)
1 (省略)
2 この法律において「事業者団体」とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体又はその連合体をいい、次に掲げる形態のものを含む。ただし、2以上の事業者の結合体又はその連合体であつて、資本又は構成事業者の出資を有し、営利を目的として商業、工業、金融業その他の事業を営むことを主たる目的とし、かつ、現にその事業を営んでいるものを含まないものとする。
(1)2以上の事業者が社員(社員に準ずるものを含む。)である社団法人その他の社団
(2)2以上の事業者が理事又は管理人の任免、業務の執行又はその存立を支配している財団法人その他の財団
(3)2以上の事業者を組合員とする組合又は契約による2以上の事業者の結合体
3 (以下省略)
いわゆる「業界団体」は、この事業者団体に該当する場合が多いです。
事業者団体による一定の行為は、独占禁止法第8条以下で規制されています。
独占禁止法第8条(事業者団体)
事業者団体は、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。
(1)一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
(2)第6条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること。
(3)一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること。
(4)構成事業者(事業者団体の構成員である事業者をいう。以下同じ。)の機能又は活動を不当に制限すること。
(5)事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること。
ポイント
- 業界団体の行為は、場合によっては独占禁止法に違反する行為となる。
企業結合の規制(独占禁止法第9条以下)
企業結合は、独占禁止法第9条以下で規制されています。
企業結合の規制は、単に結合したことそのものを規制するものではありません。
結合により、実質的に競争を制限するほど市場の占有率・シェアが拡大する場合、その企業結合は、規制されます。
なお、規制される結合の方法は、株式保有や合併だけでなく、役員の兼任、会社の分割、共同株式移転、事業の譲受けなども該当します。
ポイント
- 実質的に競争が制限されることになる企業結合は、規制される。
独占的状態の規制(独占禁止法第8条の4)
独占的状態は、独占禁止法第8条の4で規制されています。
【意味・定義】独占的状態とは?
独占的状態とは、商品または役務(サービス)について、価格を基準として、1社の事業分野占拠率が50パーセントを超えるか、または2社の事業分野占拠率の合計が75パーセントを超えることをいう。
ここでいう商品や役務の価格の計算方式については、公正取引委員会により、独占的状態の定義規定のうち事業分野に関する考え方についてにおいて、詳細に定義や計算方式が規定されています。
ポイント
- 商品または役務(サービス)について、価格を基準として、1社の事業分野占拠率が50パーセントを超えるか、または2社の事業分野占拠率の合計が75パーセントを超える状態は、独占的状態として規制される。
不公正な取引方法の禁止(独占禁止法第19条以下)
独占禁止法による不公正な取引方法の指定
不公正な取引方法は、独占禁止法第19条で禁止されています。
独占禁止法第19条(不公正な取引方法)
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
そして、不公正な取引方法の具体的な定義は、独占禁止法第2条第9項に規定されています。
独占禁止法第2条(定義)
(第1項から第8項まで省略)
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
(1)正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
ロ 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。
(2)不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
(3)正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
(4)自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。
(5)自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
(6)前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
ロ 不当な対価をもつて取引すること。
ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。
これらのうち、第1項から第5項までが、いわゆる課徴金の対象となる行為です。
一般指定の不公正な取引方法
上記の独占禁止法第2条第9項第6号の「公正取引委員会が指定するもの」とは、不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)のことです。
このガイドラインでは、次の15項目を「不公正な取引方法」として指定しています(これらを、「一般指定」といいます)。
不公正な取引方法(一般指定)
- 共同の取引拒絶
- その他の取引拒絶
- 差別対価
- 取引条件等の差別取扱い
- 事業者団体における差別取扱い等
- 不当廉売
- 不当高価購入
- ぎまん的顧客誘引
- 不当な利益による顧客誘引
- 抱き合わせ販売等
- 排他条件付取引
- 拘束条件付取引
- 取引の相手方の役員選任への不当干渉
- 競争者に対する取引妨害
- 競争会社に対する内部干渉
特殊指定の不公正な取引方法
このほか、特定の業界に適用される不公正な取引方法として、次の指定があります(これらを、「特殊指定」といいます)。
ポイント
- 不公正な取引方法には、3種類ある。
- 第1に、独占禁止法第2条第9項第1号から第5号までの不公正な取引方法。
- 第2に、独占禁止法第2項第9項第6号にもとづき、業界を問わず公正取引委員会が指定する不公正な取引方法(一般指定)。
- 第3に、独占禁止法第2項第9項第6号にもとづき、特定の業界について公正取引委員会が指定する不公正な取引方法(特殊指定)。
独占禁止法の特別法としての下請法
不公正な取引方法のうちの、「優越的地位の濫用」(独占禁止法第2条第9項第5号)について、より具体化したものが、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)です。
下請法は、独占禁止法の特別法として、特定の条件を満たした場合に、独占禁止法よりも優先して適用されます。
【意味・定義】特別法とは?
特別法とは、ある法律(=一般法)が適用される場合において、特定の条件を満たしたときに、一般法よりも優先的に適用される法律をいう。
下請法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 下請法は、独占禁止法の優越的地位の濫用に関する特別法。
独占禁止法に関するよくある質問
- 独占禁止法とはどのような法律ですか?
- 独占禁止法とは、以下の規制をしている法律です。
- 私的独占の禁止:市場を独占し、または支配する行為を禁止するもの(独占禁止法第3条前段)。「排除型私的独占」と「支配型私的独占」がある。
- 不当な取引制限の禁止:事業者間で協議することにより、本来は各事業者が自由に決めるべき取引内容について、不当に制限をすること(独占禁止法第3条後段)。「カルテル」と「入札談合」がある。
- 事業者団体の規制:いわゆる「業界団体」による、一定の行為を規制すること(独占禁止法第8条以下)。
- 企業結合の規制:株式の保有、役員の兼任、合併、分割、株式移転、事業の譲受けにより、市場の占有率・シェアが高くなることによる、実質的な競争の制限の規制(独占禁止法第9条以下)。
- 独占的状態の規制:市場の占有率・シェアが50%を超える事業者等に対する規制(独占禁止法第8条の4)。
- 不公正な取引方法の禁止 公正な競争を阻害するおそれがある取引方法の禁止(独占禁止法第19条)。
- 業務委託契約において、気をつけるべき独占禁止法の規制は何ですか?
- 業務委託契約では、独占禁止法の規制のうち、「不公正な取引方法」について注意する必要があります。この点について、公正取引委員化は、ガイドラインで以下の行為について、不公正な取引方法として指定しています。
- 共同の取引拒絶
- その他の取引拒絶
- 差別対価
- 取引条件等の差別取扱い
- 事業者団体における差別取扱い等
- 不当廉売
- 不当高価購入
- ぎまん的顧客誘引
- 不当な利益による顧客誘引
- 抱き合わせ販売等
- 排他条件付取引
- 拘束条件付取引
- 取引の相手方の役員選任への不当干渉
- 競争者に対する取引妨害
- 競争会社に対する内部干渉