委託とは、一般的には、何らかの事柄(主に事業における業務の一部または全部)を他人に任せることを意味します。
ただ、この委託の意味・定義は、あくまでビジネス用語や契約実務の慣例として使われる用語としてのものです。
法律的には、民法では「委託」の定義がありません。
このため、契約当事者の間で、委託に関して、誤解が生じるリスクがあります。
特に、業務委託契約では、「委託」を安易に使ってしまうと、その業務委託契約が請負契約なのか(準)委任契約なのかを巡って、トラブルになることがあります。
このページでは、こうした「委託」の用語の意味・定義について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページを読むことで、「委託」の意味・定義や、契約書で「委託」を使うことのリスクについて理解できます。
このページでわかること
- ビジネス用語としての「委託」の意味や定義。
- 契約交渉や契約書で「委託」を使うことのリスクとその回避方法。
なお、法律用語としての「委託」の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【意味・定義】委託とは
【意味・定義】委託とは?
委託とは、一般的には、何らかの行為(主に事業における業務の一部または全部や作業等)を他人に依頼することや任せることをいう。
このため、安易に「委託」という表現を使うと、相手方とのコミュニケーションに行き違いが生じる可能性があります。
特に、契約交渉の場では、必ず意味を確認して使うべきです。
民法では「委託」の定義はない
民法では委任契約の規定で「委託」の表現がある
「委託」という表現自体は、民法のいくつかの条文で使用されています。例えば、委任契約が規定されている、民法第643条に使われています。 民法第643条(委任) 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。 引用元:民法 | e-Gov法令検索
もっとも、民法では、「委託」の定義そのものは規定されていません。
ですから、「委託」は法令用語とはいえません。
「業務委託契約=委任契約」とは限らない
なお、「委託」という表現が使われているからといって、必ずしも「業務委託契約=委任契約」とは限りません。
「委託」という表現が使われた契約(例:業務委託契約など)がどのような契約に該当するのかは、あくまで契約形態が規定された条項により判断されます。
また、契約形態の規定がない場合は、契約書の記載内容や契約の実態などから総合的に判断されます。
ポイント
- 民法では、委任契約の規定で「委託」が使われているものの、定義は明らかでない。
- 「委託」が使われた契約であったとしても、必ずしも委任契約と解釈されるとは限らない。
業務委託契約では「委託」を使うとリスクがある
「委託」を使う業務委託契約では契約形態を必ず明記する
以上のように、「委託」という表現を業務委託契約において安易に使うと、その業務委託契約が民法上のどの契約に該当するのかが、分からなくなります。
業務委託契約は、一般的には、民法上の請負契約か準委任契約のいずれかに該当します。
しかし、業務委託契約が請負契約か準委任契約のどちらに該当するのかは、自動的に決まるのではなく、契約書の内容によって決まります。
この業務委託契約が請負契約や準委任契約などの民法上のどの契約に該当するのかを規定する条項が、契約形態の条項です。
【意味・定義】契約形態条項とは?
契約形態条項とは、その契約が(主に)民法上のどの契約に該当するのかを規定した条項をいう。
業務委託契約書において「委託」という表現を使いたい場合は、必ず契約形態条項を設定して、その業務委託契約が請負契約・準委任契約のどちらに該当するのかを明記します。
契約形態条項の条項の記載例・例文
契約形態条項は、次のように規定します。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】契約形態に関する条項(アジャイル型開発の場合)
第○条(契約形態)
1 本契約の契約形態は、発注者を委任者、受注者を受任者とした、民法第656条に規定する準委任契約とする。
2 発注者およぶ受注者は、本契約を民法第632条に規定する請負契約と解釈してはならない。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
この契約形態の記載例は、アジャイル型開発のシステム・アプリ・ソフトウェア開発の契約書のものです。
第1項では、準委任契約であることを明記しています。
通常は、第1項だけで問題ないのですが、第2項で請負契約ではないことを強く否定しています。
これは、アジャイル型開発の契約の場合は、開発対象となるシステム・アプリ・ソフトウェアの完成を巡ってトラブルとなることが多いため、受注者に完成の義務がないことを明確にする目的があります。
契約形態が不明な場合のリスクとは?
契約形態が不明であることは、非常に大きなリスクにつながります。
具体的には、以下の2点が問題となります。
契約形態が不明な場合のリスク
- 【リスク1】業務の結果が失敗した場合にその責任を巡ってトラブルとなる
- 【リスク2】不要な印紙税を負担させられる
これらの契約形態が不明な場合におけるリスクにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 業務委託契約は、一般的には、民法上の請負契約か準委任契約のいずれかに該当する。
- 業務委託契約が請負契約か準委任契約のどちらに該当するのかは、自動的に決まるのではなく、契約書の内容によって決まる。
- 契約形態が不明な場合は、業務の結果が失敗した際にその責任を巡ってトラブルとなる。
- 契約形態が不明な場合は、不要な印紙税を負担させられることとなる。
「委託」の法律での定義は?
なお、民法以外の法律でも、「委託」という用語が使われてます。
そのうち、最も重要なものは、下請法における定義です。
【意味・定義】下請法とは?
下請法とは、正式には「下請代金支払遅延等防止法」といい、親事業者に対し義務・禁止行為を課すことにより、下請代金の支払遅延等を防止するなど、下請事業者を保護することを目的とした法律をいう。
また、家内労働法という法律でも、「委託」という用語が使われています。
【意味・定義】家内労働法とは?
家内労働法とは、「家内労働者の労働条件の向上を図り、家内労働者の生活の安定に資するため、家内労働手帳、工賃支払いの確保、最低工賃、安全衛生の措置など家内労働者に関する最も基本的な事項について定めた法律」をいう。
なお、2024年秋までには施行される予定のフリーランス保護法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、「業務委託」という用語が使われています。
【意味・定義】フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)とは?
フリーランス保護法とは、正式には特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律といい、委託者である事業者に対し、受託者の給付の内容その他の事項(契約内容)の明示を義務づけるなど、受託者を保護することを目的とした法律をいう。
これらの法律における委託の定義につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
法律以外の委託の意味・定義や使用上の注意・リスクに関するよくある質問
- 委託とはどういう意味ですか?
- 委託とは、一般的には、何らかの事柄(主に事業における業務の一部または全部)を他人に任せることです。
- 法律における委託の定義はどのようになっていますか?
- 民法では、委託の定義はありません。他の法律では、下請法や家内労働法において委託が定義づけられています。これらの法律における委託の定義につきましては、詳しくは、「委託とは?法律における定義・意味について簡単にわかりやすく解説」をご覧ください。
- 業務委託契約書で委託という表現を使うとどのようなリスクがありますか?
- 業務委託契約では、契約形態を明記せずに委託の表現を使うと、その契約が請負契約なのか準委任契約なのかが不明となり、業務の実施結果が失敗した場合に、その責任を巡ってトラブルとなる可能性があります。
- 契約形態とは何ですか?
- 契約形態とは、一般に、その契約や契約書に記載された内容が該当する、法律により定義づけられた契約のことをいいます。
- 契約形態条項とな何ですか?
- 契約形態条項とは、その契約が(主に)民法上のどの契約に該当するのかを規定した条項をいいます。詳しくは、「契約形態とは?その種類や契約条項の規定のしかた・書き方についても解説」をご覧ください。