- 業務委託契約には労働基準法が適用されるのでしょうか?また、それはどのような場合でしょうか?
- 業務委託契約には労働基準法は適用されませんが、その業務委託契約が実質的に労働契約である場合は、労働基準法が適用されます。
このページでは、主に業務委託契約の委託者向けに、業務委託契約に労働基準法が適用される条件について解説しています。
業務委託契約は企業間取引ですので、労使間に適用される労働基準法は、原則として適用されません。
しかしながら、それはあくまで「適法な業務委託契約」である場合の話です。
業務委託契約の受託者(フリーランス・個人事業者)が労働者とみなされる場合は、適法な業務委託契約ではなく労働契約とみなされ、労働基準法をはじめとした各種労働法が適用されます。
この受託者(フリーランス・個人事業者)が労働者とみなされる条件は、厚生労働省のガイドラインである『労働基準法研究会報告』にもとづいて判断します。
このため、業務委託契約書を作成する際は、労働契約とみなされないよう、このガイドラインに準拠した契約内容を規定する必要があります。
このページでは、こうした業務委託契約に労働契約が適用される条件について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 業務委託契約に労働基準法が適用されるかどうか
- 業務委託契約のフリーランス・個人事業者が労働者とみなされる判断基準
- 業務委託契約に労働基準法が適用される条件のチェックリスト
- 業務委託契約と労働契約の違い
- 業務委託契約に労働基準法が適用された場合のリスク
業務委託契約には労働基準法が適用される場合がある
原則として、業務委託契約には、労働基準法などの各種労働法は適用されません。
これは、業務委託契約が企業間取引であり、労使間の契約ではないからです。
ただし、受託者がフリーランス・個人事業者の場合において、そのフリーランス・個人事業者が実質的に労働者とみなされるときは、労働基準法が適用される可能性があります。
こうしたフリーランス・個人事業者のが実質的には労働者とみなされることを、「偽装フリーランス」ということもあります。
厚生労働省の「『労働者性』の判断」基準とは?
では、どのような場合に、フリーランス・個人事業者が労働者とみなされ、業務委託契約に労働基準法が適用されるのでしょうか?
この点について、厚生労働省(旧労働省)では、フリーランス・個人事業者が労働者に該当するかどうかのガイドラインを出しています。
具体的には、「『労働者性』の判断基準」(労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)昭和60年12月19日)のことです。
この内容は、カッコ書きにあるとおり、「労働基準法」の「労働者」の判定基準を示したものです。
【意味・定義】昭和60年労働基準法研究会報告とは?
昭和60年労働基準法研究会報告とは、旧労働省(現:厚生労働省)の労働基準法研究会によっておこなわれた、労働基準法第9条の「労働者」の定義と、その判定基準をいう。
なお、契約実務上も、この『労働基準法研究会報告』にもとづき、雇用契約・労働契約に該当するかどうかを判断します。
逆にいえば、雇用契約・労働契約に該当しないようにするために、この『労働基準法研究会報告』の判断基準を活用して契約内容を規定することもあります。
この他、『労働基準法研究会報告』につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約に労働基準法が適用される=労働基準法違反となる条件とは?
偽装フリーランス(労働基準法違反)とならないチェックリスト
さて、この「『労働者性』の判断基準」の具体的な内容についてリスト化したチェックリストが、以下のものとなります。
偽装請負(労働基準法違反)とならないチェックリスト
「使用従属性」に関する判断基準のチェックリスト
- 1.受託者が委託者の「指揮監督下の労働」を提供していない
- 1-1.受託者に「仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由」がある
- 1-2.委託者による「業務遂行上の指揮監督」がない
- 1-2-1.委託者による「業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令」がない
- 1-2-2.予定外の業務がない
- 1-3.拘束性がない
- 1-4.代替性がある(受託者による再委託等ができる)
- 2.報酬に労務対償性がある
- 2-1.報酬が「労働の結果による」計算となっている
- 2-2.欠勤した場合であっても「応分の報酬が控除」されない
- 2-3.残業をした場合であっても「通常の報酬とは別の手当が支給」されない
「労働者性」の判断を補強する要素のチェックリスト
- 3.事業者性の有無
- 3-1.受託者が機械・器具の所有している
- 3-2.高額な報酬である
- 3-3.その他
- 3-3-1.受託者が損害賠償責任を負う
- 3-3-2.受託者による独自の商号使用が認められている
- 4.専属性の程度
- 4-1.「他社の業務に従事することが制度上制約」されていない
- 4-2.他社の業務に従事する時間的余裕がある
- 4-3.報酬に固定給部分がない
- 4-4.「業務の配分等により事実上固定給」となっていない
- 4-5.報酬の額が「生計を維持しうる程度のもの」でない
- 5.その他
- 5-1.「採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様」ではない
- 5-2.報酬について「給与所得」としては源泉徴収をおこなっていない
- 5-3.労働保険の適用対象としていない
- 5-4.服務規律を適用していない
- 5-5.退職金制度、福利厚生を適用していない
「使用従属性に関する判断基準」→「労働者性の判断を補強する要素」の順に判断される
この「『労働者性』の判断基準」は、以下の2つに分かれています。
2つの「労働者性」の判断基準
- 「使用従属性」に関する判断基準
- 「労働者性」の判断を補強する要素
この2点の判断基準ですが、まずは「使用従属性」について判断し、雇用契約・労働契約に該当するかどうかが決定されます。
この際、明らかに雇用契約・労働契約に該当すると判断される場合や、該当しないと判断される場合は、「労働者性」については考慮されることはありません。
そのうえで、「使用従属性」の判断だけでは、雇用契約・労働契約に該当するかどうかの判断ができない場合は、「『労働者性』の判断を補強する要素」も勘案して総合的に判断されることとなります。
つまり、まずは「使用従属性に関する判断基準」で判断して、それでも労働者かそうでないか判断がつかない場合は、「『労働者性』の判断を補強する要素」を勘案して、労働者かどうかを総合的に判断します。
この他、労働者性のチェックリストにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約と労働契約の違いは?
なお、業務委託契約と労働契約には、以下の違いがあります。
業務委託契約と雇用契約・労働契約の違い一覧表 | ||
---|---|---|
業務委託契約 | 雇用契約・労働契約 | |
委託者・使用者に提供されるもの | 請負契約:仕事の完成 (準)委任契約:委託業務の実施 | 労働力 |
受託者・労働者に提供されるもの | 金銭(報酬・料金・委託料)+消費税 | 金銭(報酬・賃金) |
契約当事者の関係 | 企業間の取引関係(理屈のうえでは対等) | 労使関係 |
適用される法律 | 商法・会社法・独占禁止法・下請法・家内労働法・特定商取引法・各種業法 | 各種労働法(労働基準法・労働契約法等) |
報酬・賃金等の金銭に対する規制 | 原則としてなし(ただし下請法等の規制あり) | 最低賃金法・労働基準法(特に残業代)などの規制あり |
報酬・賃金の金額 | 一般的には労働者の賃金に比べて報酬・料金・委託料は高い | 一般的には個人事業者・フリーランスの報酬・料金・委託料に比べて賃金は低い |
報酬・賃金等の金銭に対する源泉徴収義務 | 原則として委託者に源泉徴収義務はなし (ただし例外に該当する場合が多い) | 使用者に源泉徴収義務あり |
報酬・賃金等が消費税の仕入税額控除の対象となるか | 対象となる | 対象とならない |
社会保険料等の負担 | 受託者である個人事業者・フリーランス | 労使双方の負担 |
仕事の諾否の自由 | あり | なし |
指揮命令の有無 | なし | あり |
場所・時間の拘束性の有無 | なし | あり |
業務の代替性の有無 | 請負契約:あり (準)委任契約:なし | なし |
業務遂行に必要な機械・器具等・費用の負担 | 受託者である個人事業者・フリーランスの負担 | 使用者の負担 |
業務遂行にもとづく損害の負担 | 原則として受託者である個人事業者・フリーランスの負担 | 原則として使用者の負担 |
これらの業務委託契約と労働契約の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
偽装フリーランス(各種労働法違反)のリスクは?
個人事業者・フリーランスとの業務委託契約等が労働契約とみなされ、労働基準法等が適用された場合、以下のリスクがあります。
業務委託契約が雇用契約・労働契約とみなされた場合のリスク
- 報酬・料金・委託料が従業員の残業代と比較して少ない場合は、残業代を請求される。
- 極端に報酬・料金・委託料が少ない場合は、最低賃金以上の給料を請求される。
- 「個人事業者・フリーランス」が業務実施中に事故に遭うと「労災」を主張される。
- 日本年金機構(悪質な場合は国税庁)に社会保険料の負担を求められる。
- 税務調査の際に「給与所得」としての源泉所得税(しかも追徴課税つき)の支払いを求められる。
こうした様々なリスクがあるため、委託者の立場として、適法な業務委託契約とするには、受託者・日本年金機構・税務署からの「実態は雇用契約・労働契約だ」という主張に堪えうるような業務委託契約書を作成する必要があります。
ポイント
- 業務委託契約が雇用契約・労働契約とみなされると、残業代・最低賃金の支払い、社会保険料の負担、源泉所得税の追徴課税が求められる。
偽装請負・偽装フリーランス(雇用契約・労働契約)とみなされない契約書を作成しよう
弊所では、偽装請負・偽装フリーランス(雇用契約・労働契約)とみなされない、適法な業務委託契約書を作成しております。
個人事業者・フリーランスとの契約をご検討中の場合は、ぜひ作成をご検討ください。
お見積りは完全無料となっていますので、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。
業務委託契約への労働基準法の適用に関連するQ&A
- 業務委託の適用法令は?
- 業務委託契約には、労働基準法のほか、民法、商法、独占禁止法、下請法、フリーランス保護法、特定商取引法、個人情報保護法などの法令が適用されます。また、業界によっては、建設業法、警備業法などの業法が適用される場合もあります。
- 業務委託では命令・指示ができないのはなぜですか?また、業務委託の指揮命令の範囲はどこまでですか?
- 業務委託契約の委託者と受託者には労使関係が無いため、委託者は、受託者に対し、原則として指揮命令や指示ができません。ただし、一部の例外として、極めて範囲ですが、指揮命令や指示ができる場合もあります。
- 業務委託で勤怠管理をするのは違法ですか?
- 受託者がフリーランス・個人事業者・一人親方である業務委託では、指揮命令を目的とした勤怠管理をすると、労働基準法違反となる可能性があります。
- 業務委託契約なのに指揮・命令・指示があるのは違法ですか?
- 業務委託契約で受託者から委託者に対する指揮・命令・指示がある場合、労働基準法違反や労働者派遣法違反となり、違法となる可能性があります。
- 業務委託で勤怠管理をするのは違法ですか?
- 受託者がフリーランス・個人事業者・一人親方である業務委託では、指揮命令を目的とした勤怠管理をすると、労働基準法違反となる可能性があります。
- 業務委託で勤務場所の指定はできますか?
- 業務委託では、「業務の遂行を指揮命令する必要による」作業場所の指定はできませんが、「業務の性質上」「安全を確保する必要上」の作業場所の指定はできます。
- 業務委託を丸投げするのは違法ですか?
- 業務委託契約において、受託者が業務を「丸投げ」、つまり業務のすべてを再委託・下請負をした場合、契約内容によっては、違法となる場合があります。なお、建設工事請負契約の場合は、「一括下請負」に該当し、原則として違法=建設業法違反となります。