契約書に正本と副本がある場合、正副のどちらを相手に渡すべきでしょうか?
正副両方がある契約書は、正本のほうが証拠能力が高いので、なるべく正本を手元に残しておき、副本の方を相手方に渡すようにします。

このページでは、契約書の作成者向けに、正副がある契約書の取扱いについて解説しています。

契約書の正本は、「原本」ともいい、契約書の原文が書かれた書類です。

これに対し、副本は、いわゆるコピーのことです。

正副の契約書は、当然ながら原本の証拠能力のほうが高いとされています。

このため、一般的には、正本を手元に残し、副本を相手方に渡すことが多いです。

このページでは、こうした正副の契約書の証拠能力や取扱いについて、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 正本の契約書の証拠能力の高さ。
  • 正本の契約書を手元に残し、副本の契約書を相手方に渡すべき理由。
  • 法律によっては、副本の契約書に押印をして正本と同等とする必要があること。
  • 押印がある副本は印紙税法上の課税文書となること。




正副の契約書とは?

契約書の正本とは?

契約書の中には、正副両方を作成する場合があります。

契約書の正本は、いわゆる「原本」のことであり、契約書の原文が書かれた元々の文書となります。

【意味・定義】正本(契約書)とは?

契約書の正本とは、契約書の原文が書かれた元々の文書をいい、「原本」ともいう。

正本は、主に副本に対する表現として使われます。

契約書の副本とは?

契約書の副本は、いわゆる「写し」のことであり、正本・原本をコピーした文書となります。

【意味・定義】副本(契約書)とは?

契約書の副本とは、原本を複写・コピーした文書をいい、「写し」ともいう。

副本は、主に正本に対する表現として使われます。





正副の契約書は副本を渡すべき

正本の契約書のほうが証拠能力は高い

これらの正副の契約書は、署名・記名押印がある正本(原本)の方が証拠能力が高いとされています。

これに対し、副本(写し・コピー)は、署名・記名押印がコピーであるため、正本に比べて証拠能力が低いとされます。

このため、正副の契約書がある場合は、一般的には、正本(原本)の方を手元に残し、副本(写し・コピー)の方を相手方に渡します。

これにより、何らかのトラブルがあった場合に、証拠能力が高い正本の契約書にもとづき、優位に交渉ができます。

ただし、副本(写し・コピー)の契約書も、まったく証拠能力が無いわけでないないので、注意が必要です。

法律にもとづき副本(写し・コピー)への署名・記名押印が必要な場合もある

なお、法律によっては、署名または記名押印がされた契約書の交付が義務づけられている場合もあります。

例えば、建設業法第19条が該当します。

建設業法第19条(建設工事の請負契約の内容)

1 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従って、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

(1)工事内容

(2)請負代金の額

(3)工事着手の時期及び工事完成の時期

(4)工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容

(5)請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

(6)当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

(7)天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

(8)価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

(9)工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

(10)注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

(11)注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

(12)工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

(13)工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

(14)各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

(15)契約に関する紛争の解決方法

(16)その他国土交通省令で定める事項

2(以下省略)

この場合は、副本(写し・コピー)の方にも署名や記名押印をするようにします。

こうすることで、正副ではなく、原本が2部の契約書となります。

なお、署名欄がコピーだったとしても、印鑑登録証明書と実印による押印がある場合は、署名と同等以上の証拠能力があります。

このため、印鑑登録証明書と実印による押印がある場合は、正本(原本)を相手方に渡しても構いません。

まとめ
  • 正副の契約書は、署名・記名押印がある正本(原本)の方が証拠能力が高い。
  • 一般的に、正副の契約書は、証拠能力が高い正本(原本)を手元に残し、副本(写し)を相手方に渡す。
  • 法律によっては、副本(写し)のほうに押印する必要がある。





押印がある副本(写し)は印紙税法上の課税文書となる

ただし、副本(写し・コピー)に押印した場合は、副本(写し・コピー)も正本(原本)と同じ契約書と扱われ、課税文書となりますので注意しましょう。

具体的には、以下の条件を満たした場合は、副本(写し・コピー)であっても、課税文書として扱われます。

収入印紙を貼る必要のある契約書のコピー

次のような契約書は、コピー・写しであっても、収入印紙を貼る必要がある。

  • (1)契約当事者の双方又は文書の所持者以外の一方の署名又は押印があるもの
  • (2)正本などと相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明のあるもの

参考:No.7120 契約書を複数作成した場合の課税関係|国税庁

まとめ
  • 押印がある契約書の副本(写し・コピー)は課税文書となることもある。





正副の契約書に関連するよくある質問

契約書が複写式の場合は、原本(1枚目)と写し(2枚目)のどちらを相手に渡すべきでしょうか?
複写式の契約書は、原本(1枚目)のほうが証拠能力が高いので、なるべく原本(1枚目)を手元に残しておき、写し(2枚目)の方を相手方に渡すようにします。

契約書が複写の場合は原本(1枚目)と写し・控え(2枚目)のどちらを渡すべき?