このページでは、労働者派遣法で問題となる、いわゆる「偽装請負」について解説しています。

偽装請負とは、一般に「実態が労働者派遣契約であるにもかかわらず、請負契約(やその他の契約)に偽装された状態」のことをいいます。

契約内容が偽装請負と判断された場合、委託者だけでなく、受託者も、労働者派遣法違反となります。

このため、業務委託契約書を作成する場合、偽装請負に該当しないように、常に注意する必要があります。

特に、かつて社会問題となった構内作業型の製造業務委託契約は、偽装請負とみなされやすい典型例のひとつです。

また、客先常駐型のソフトウェア(プログラム・システム・アプリケーション)開発業務委託契約(いわゆるシステムエンジニアリング契約・SES契約)もまた、偽装請負とみなされやすい典型例です。

なお、製造業などの構内作業の労働者派遣契約を請負契約・(準)委任契約・業務委託契約に切り替える場合にも、偽装請負とみなされやすいため、一層注意が必要となります。

このページでは、偽装請負とは何なのか、という偽装請負の意味・定義から、偽装請負が違法な理由や、なぜいけない・何が悪いのか、というリスクや問題点について、解説しています。




【意味・定義】偽装請負とは?

実態が労働者派遣契約であるが形式的に別名目の契約としている状態

一般に、いわゆる「偽装請負」とは、次の定義で使われています。

【意味・定義】偽装請負(労働者派遣法・労働者派遣契約)とは?

労働者派遣法・労働者派遣契約における偽装請負とは、実態は労働者派遣契約なのに、労働者派遣法等の法律の規制を免れる目的で、請負その他労働者派遣契約以外の名目で契約が締結され、労働者が派遣されている状態をいう。

ここで、「一般に」・「いわゆる」という表現をしたのは、理由があります。

実は、「偽装請負」という言葉は、法令用語ではなく、法律上の定義はありません。

厚生労働省が説明する「偽装請負」

ただ、通常、偽装請負という表現は、「労働者派遣契約を請負契約その他の契約に偽装していること」という文脈で使います。

厚生労働省のウェブサイトや各種資料においては、偽装請負は、次のような表現となっています。

「偽装請負」とは・・・

書類上、形式的には請負(委託)契約ですが、実態としては労働者派遣であるものを言い、違法です。

偽装請負とは、どのようなことをいいますか。
…請負契約の形式を取っていたとしても、実質的に労働者派遣事業に該当しているものが、一般に偽装請負と呼ばれています。

偽装請負とは、請負、業務委託と称して、労働者派遣契約を締結しないまま、労働者派遣を行うこと。

労働者派遣法又は労働者派遣法の規定により適用される労働基準法(省略)等(省略)の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、必要とされる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること(以下「いわゆる偽装請負等」という。)

「請負」以外の契約であっても「偽装請負」に該当する

なお、「偽装”請負”」という表記であるためか、一部には「(準)委任契約」や「業務委託契約」であれば「偽装請負」に該当しない、という誤解があります。

しかし、すでに提示した厚生労働省の表現でもあるとおり、必ずしも「請負契約」に偽装したものだけが、偽装請負として違法となるわけではありません。

「請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し」とあるとおり、請負であろうと、委任・準委任であろうと、その他の名目の契約であっても、偽装請負とみなされるリスク・問題点があります。

このため、単に契約書のタイトルや契約内容を「請負契約」以外の「(準)委任契約」や「業務委託契約」としても、労働者派遣法規制を免れることはできません。

ポイント
  • 「偽装請負」は法的な定義がない。
  • 一般的な「偽装請負」の定義は、「請負契約等の名目の契約に偽装した労働者派遣契約」。
  • 「請負」以外の契約(委任契約・準委任契約など)に偽装している場合も偽装請負に該当する。





業務委託契約における典型的な偽装請負の4つの事例・パターン

次に、典型的な偽装請負の事例・パターンを見てみましょう。

<代表型>

請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。偽装請負によく見られるパターンです。

<形式だけ責任者型>

現場には形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。単純な業務に多いパターンです。

<使用者不明型>

業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。一体誰に雇われているのかよく分からないというパターンです。

<一人請負型>

実態として、業者Aから業者Bで働くように労働者を斡旋します。ところが、Bはその労働者と労働契約は結ばず、個人事業主として請負契約を結び業務の指示、命令をして働かせるというパターンです。

上記の事例・パターンのうち、代表型と形式だけ責任者型が、よくありがちな偽装請負です。

また、使用者不明型の偽装請負は、いわゆる「二重請負」「二重業務委託」(これ自体は法令用語ではありません)などと呼ばれるものです。

なお、使用者不明型と一人請負型については、労働者派遣ではなく、労働者供給として、職安法違反となるパターンもあります。





偽装請負のリスク・問題点一覧

偽装請負には、さまざまなリスク・問題点がありますが、まず、委託者・受託者双方のリスク・問題点についてリストアップしましたので、ご覧ください。

委託者の偽装請負のリスク・問題点一覧

受託者の偽装請負のリスク・問題点一覧

委託者・受託者共通のリスク・問題点一覧





偽装請負の委託者のリスク・問題点

【委託者のリスク・問題点1】「派遣先」とみなされる

偽装請負では委託者ではなく「派遣先」とみなされる

偽装請負とみなされた場合、実態としては、業務委託契約ではなく労働者派遣契約を結んでいるものとされます。

このため、業務委託契約では「委託者」とされていた契約当事者は、実態としては、労働者派遣法でいう「派遣先」となります。

こうなると、派遣先は、労働者派遣法にもとづき、派遣先が遵守するべき各種の義務を負います。

よく誤解されがちですが、偽装請負とみなされた場合、労働者派遣法違反に問われるのは、受託者(=実態は派遣元)だけではありません。

委託者(=実態は派遣先)にも、一定の労働者派遣法にもとづく義務があるのですから、当然、委託者も労働者派遣法違反となります。

最初から労働者派遣法違反

注意しなければいけないのは、偽装請負とみなされてから労働者派遣法に規定されている派遣先の義務を負うのではありません。

実際には、実態として偽装請負となった時点から、派遣先としての義務を負います。

取引きの実態によっても異なりますが、通常は、実態としては労働者派遣契約である業務委託契約を結んだ時点で、偽装請負となります。

つまり、最初から労働者派遣法違反となっている可能性が高いのです。

【委託者のリスク・問題点2】労働者派遣法違反となる

労働者派遣法に規定されている、派遣先が負うべき義務の一例は、以下のとおりです。

派遣先の義務の例

ここで上げた具体例は、あくまで、一例に過ぎません。この具体例は、違反した場合は、直ちに罰則が課される、比較的重大な義務です。

この他、「派遣先の講ずべき措置等」として、労働者派遣法第3章第3節第39条以下)に、さまざまな義務が規定されています。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

労働者派遣法とは?業務委託契約との関係や偽装請負についても解説

【委託者のリスク・問題点3】偽装請負には罰則が科される

偽装請負は、本来は労働者派遣法が適用される労働者派遣契約です。

ですから、本来の労働者派遣法にもとづき、派遣先として果たすべき義務を果たしていなければ、労働者派遣法違反となります。

そして、労働者派遣法では、一部の規定に違反した場合は、罰則が科されます。以下のものは、その一例です。

委託者(派遣先)に対する偽装請負の罰則

6月以下の懲役又は30万円以下の罰金労働者派遣法第60条


30万円以下の罰金労働者派遣契約第61条

ポイント

偽装請負の委託者のリスク・問題点は次の3つ

  • 「派遣先」とみなされる
  • 労働者派遣法違反となる
  • 各種罰則が科される





偽装請負の受託者のリスク・問題点

【受託者のリスク・問題点1】「派遣先」とみなされる

偽装請負では委託者ではなく「派遣先」とみなされる

偽装請負とみなされた場合、実態としては、業務委託契約ではなく、労働者派遣契約を結んでいるものとされます。

このため、業務委託契約では「受託者」とされていた契約当事者は、実態としては、労働者派遣法でいう「派遣元」となります。

こうなると、派遣元は、労働者派遣法にもとづき、派遣元が遵守するべき各種の義務を負います。

これらの派遣元に課される義務は、派遣先に対して課される義務よりも、遥かに厳しい義務となっています。

最初から労働者派遣法違反

注意しなければいけないのは、偽装請負とみなされてから、労働者派遣法に規定されている派遣元の義務を負うのではありません。

実際には、実態として偽装請負となった時点から派遣元としての義務を負います。

取引きの実態によっても異なりますが、通常は、実態としては労働者派遣契約である業務委託契約を結んだ時点で、偽装請負となります。

つまり、最初から労働者派遣法違反となっている可能性が高いのです。

【受託者のリスク・問題点2】労働者派遣法違反となる

労働者派遣法に規定されている、派遣先が負うべき義務の一例は、以下のとおりです。

派遣先の義務の例

ここで上げた具体例は、あくまで、一例に過ぎません。この具体例は、違反した場合は、直ちに罰則が課される、比較的重大な義務です。

この他、「派遣元事業主の講ずべき措置等」として、労働者派遣法第3章第2節第30条以下)に、さまざまな義務が規定されています。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

労働者派遣法とは?業務委託契約との関係や偽装請負についても解説

【受託者のリスク・問題点3】偽装請負には罰則が科される

偽装請負は、本来は労働者派遣法が適用される労働者派遣契約です。

ですから、本来の労働者派遣法にもとづき、派遣元として果たすべき義務を果たしていなければ、労働者派遣法違反となります。

そして、労働者派遣法では、一部の規定に違反した場合は、罰則が科されます。以下のものは、その一例です。

受託者(派遣元)に対する偽装請負の罰則

1年以下の懲役又は100万円以下の罰金労働者派遣法第59条


6月以下の懲役又は30万円以下の罰金労働者派遣法第60条


30万円以下の罰金労働者派遣契約第61条

ポイント

偽装請負の受託者のリスク・問題点は次の3つ

  • 派遣元=無許可の派遣業者とみなされる
  • 労働者派遣法違反となる
  • 各種罰則が科される





委託者・受託者共通のリスク・問題点

【委託者・受託者共通のリスク・問題点1】行政指導・行政処分を受ける

刑事告発の前に行政指導・行政処分がある

委託者・受託者の双方に言えることですが、偽装請負が発覚した場合、即座に刑事告発されることはまずありません(よほど悪質な場合は別です)。

その代わり、厚生労働省から、指導・助言・勧告などの、比較的軽い行政指導から、処分・命令などの行政処分を受けることになります。

通常、このような行政指導や行政処分に対して、対処しなければ、刑事告発を受けることになります。

ただ、このような、行政指導・行政処分が前提だからといって、甘く見てはいけません。

企業名と労働者派遣法違反の事実が公表される

というのも、刑事告発以外の制裁措置として、企業名と労働者派遣法に違反した旨について、厚生労働省が公表することができるのです(労働者派遣法第49条の2)。

当然ながら、企業名・労働者派遣法の事実が公表されてしまうと、メディアによる報道がされ、社会的制裁を受けることになります。

もちろん、インターネット上にその報道内容が残り、企業のブランド価値は、著しく低下します。

実は、偽装請負のリスク・問題点には、こうした意外に軽視できない、レピュテーションリスク・問題点(評価・信用・ブランド価値の低下のリスク・問題点)があるのです。

【委託者・受託者共通のリスク・問題点2】労働契約申込みみなし制度

【意味・定義】「労働契約申込みみなし制度」とは

委託者・受託者の双方にとって、大きなリスク・問題点となるのが、いわゆる「労働契約申込みみなし制度」です。

労働契約申込みみなし制度とは、次の制度です。

労働契約申込みみなし制度とは

偽装請負その他の労働者派遣法に違反した派遣先が、派遣労働者に対して、労働契約を申し込んだと「みなす」制度のこと。

具体的には、労働者派遣法第40条の6第1項に規定されています。

労働者派遣法第40条の6

1 労働者派遣の役務の提供を受ける者(途中省略)が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかつたことにつき過失がなかつたときは、この限りでない。

(第1号から第4号まで省略)

(5)この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。

2 (以下省略)

【意味・定義】「みなす」とは

ここで、この「労働契約申込みみなし制度」が、いかに委託者・派遣先としてリスク・問題点が高いのか、ということを理解するためには、法令用語としての「みなす」の意味を理解しなければなりません。

法令用語としての「みなす」とは、以下の意味になります。

【意味・定義】みなすとは?

みなすとは、当事者の取決め、反証の有無、事実とは関係なく、本来は違う事象であっても、法律上は一定の事象として扱うことをいう。

非常に抽象的な表現となっていますが、わかりやすく表現すれば、当事者がどう決めても、反証があっても、事実とは別であっても、法律の規定どおりに効果が生じる、ということです。

強制的に「委託者・派遣先が労働契約の申込みをした」ものとされる

ですから、労働契約申込みみなし制度のもとでは、委託者・派遣先の「当社は受託者の労働者(実態は派遣労働者)に対して労働契約の申込みなんてしてません」という主張は通用しません。

繰り返しになりますが、「労働契約の申込み」をしたものと「みなされる」のです。

事実として、そのような申込みがなくても、反証があっても、受託者の労働者(実態は派遣労働者)となんらかの合意があったとしても、関係がないのです。

ですから、受託者の労働者(実態は派遣労働者)が、その申込みに対して、「承諾」をすれば、その労働者を直接雇用しなければなりません。

委託者にとっては直接雇用・受託者にとっては労働者の転職(退職)のリスク・問題点

このように、偽装請負をしてしまうと、委託者(実態は派遣先)は、受託者の労働者(実態は派遣労働者)に対して、直接雇用の雇用契約・労働契約の申込みをした状態に、強制的になってしまいます。

この申込みに対して、受託者の労働者(実態は派遣労働者)が、承諾するかどうかは、受託者の労働者(実態は派遣労働者)の自由です。

ですから、受託者の労働者(実態は派遣労働者)が委託者(実態は派遣先)に直接雇用されて働きたいと希望すれば、委託者(実態は派遣先)は、これを断ることができません。

つまり、偽装請負をすると、委託者(実態は派遣労働者)には、受託者の労働者(実態は派遣労働者)を直接雇用しなければならないリスク・問題点があります。

また、受託者(実態は派遣元)には、自己の労働者(実態は派遣労働者)が委託者(実態は派遣先)に転職してしまうリスク・問題点があります。

【委託者・受託者共通のリスク・問題点3】罰則は法人だけでなく個人にも科される

なお、労働者派遣法に違反して罰則が科される場合、単に法人に罰則が科されるだけではなく、個人にも罰則が科されます。

労働者派遣法第62条

法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第58条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

労働者派遣法違反は、罰金刑としては、多くても100万円程度ではありますので、そのくらいなら会社で負担すれば問題ない、と思われがちです。

しかし、この労働者派遣法第62条により、役員や従業員などの、実際の労働者派遣法違反の行為者個人にも刑罰が科されます。

また、金額は大きくなかったとしても、罰金刑ですので、いわゆる「前科」がつきます。

【委託者・受託者共通のリスク・問題点4】労働者派遣法・適法な業務委託契約にするコストがかかる

取引きを「継続する・やめる」の選択を迫られる

ある意味で、委託者・受託者の両者にとって、偽装請負による事業経営上の最も大きなリスク・問題点は、適法に取引きを継続する体制に「変える」ことです。

何らかの形で、偽装請負が発覚した場合、よほど悪質な場合を除いて、厚生労働省からの行政指導があります。

この際、適法な労働者派遣契約・業務委託契約とすることで、取引きを継続するか、または取引きをやめるか、という選択を迫られます。

当然ながら、厚生労働省の行政指導に従わない場合は、最終的には刑事告発され、取引きの継続どころではなくなります。

取引きを継続する場合は業務処理の体制を大幅に変える必要がある

労働者派遣契約か適法な業務委託契約かいずれか選択する

この際、取引きを継続するのであれば、大きく分けて、2つの方法があります。

ひとつは、労働者派遣法に従った、労働者派遣契約にする方法です。

もうひとつは、偽装請負に該当しない、適法な業務委託契約にする方法です。

いずれの方法を取るにせよ、非常に大きなコストがかかります。

労働者派遣事業の許可はハードルが高い

労働者派遣契約に切り替えるのであれば、受託者(実態は派遣元)が労働者派遣事業の許可を取得しなければなりません。

この労働者派遣事業の許可ですが、かつてのように、簡単に取得できるようなものではありません。

平成27年の改正労働者派遣法により、非常に厳しい要件をクリアしなければ、労働者派遣事業の許可は取得できなくなりました。

参考までに、『労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-』をご覧になれば、いかにハードルが高いか、よくおわかりになると思います。

しかも、申請から許可の取得まで(事前の相談期間を含めずに)3ヶ月以上かかります。

適法な業務委託契約は現場のオペレーションを完全に変える必要がある

他方、適用な業務委託契約にする場合は、受託者が労働者派遣事業の許可を取得する必要はありませんので、その意味でのハードルは高くはありません。

しかしながら、今までと同じようなオペレーションで取引きを継続することは、諦めなければなりません。

適法な業務委託契約とするためには、それまでの違法な業務委託契約の内容を改めて、適法な内容の業務委託契約書を作成しなければなりません。

また、それだけでは不十分で、取引きの実態としても、労働者派遣契約ではなく、適法な業務委託契約としなければなりません。

特に、それまでは、委託者が受託者の労働者に対して気軽に指揮命令をしていたものが、今後は、まったくできなくなります。

このほか、細かなオペレーションの変更、現場の設備の調整・変更、社員教育などを考えると、こちらもそう簡単な方法ではありません。

ポイント

偽装請負の委託者・受託者共通のリスク・問題点は次の4つ

  • 行政指導・行政処分を受ける
  • 労働契約申込みみなし制度
  • 罰則は法人だけでなく個人にも科される
  • 労働者派遣法・適法な業務委託契約にするコストがかかる





【補足1】「37号告示」=偽装請負か適法な業務委託契約の判断基準

では、実際に労働者派遣事業と請負その他の事業とは、どのように区分されるのかというと、厚生労働省から出ているガイドラインに準拠して判断します。

これが、いわゆる「37号告示」で、正式名称を「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」といいます。

この37号告示により、9つの条件をすべて満たしていない限り、実態としては労働者派遣事業(=偽装請負)に該当する、と判断されます。

37号告示につきましては、詳しくは、次のページをごらんください。

37号告示とは?(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 )





【補足2】個人事業者・フリーランスとの「偽装請負」?

個人事業者・フリーランスとの契約関係において「偽装請負」は成り立たない

すでに述べたとおり、「偽装請負」とは、企業間取引きにおいて、実態としては、労働者を派遣する労働者派遣契約なのに、請負その他の契約に偽装することです。

このため、個人事業者・フリーランスとの業務委託契約では、(その個人事業者・フリーランスが労働者を雇用していない限り)原理的に偽装請負は成立しません。

一部では、「実態としては雇用契約・労働契約であるにもかかわらず、個人事業者・フリーランスとの契約関係を請負契約その他の契約としている」ことを偽装請負を表現しているようですが、本来は、そのような意味では使われていません。

ただし、近年では、請負契約や準委任契約で偽装した雇用契約・労働契約のことを、「偽装請負」と表現することも増えてきています。

「一人請負」は禁止されていない

「一人の個人事業者」が請負契約を結ぶのは適法

最近では、「一人請負」という言葉も使われているようですが、あたかも、この一人請負が禁止されているかのようなイメージがあります。

ここでいう「一人請負」の意味が必ずしも明らかではありませんが、いわゆる「一人親方」のような、ひとりの個人事業者・フリーランスが請負契約を結ぶこと自体は、原則として違法行為ではありません。

もちろん、下請法や各種業法など、受発注双方の契約当事者が守るべき法律がある場合があります。

また、実態としては雇用契約・労働契約の場合は、委託者の側が、各種労働法に違反することになります(最近では、これを「偽装委託」と表現することもあります)。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

個人事業者・フリーランスとの業務委託契約と雇用契約・労働契約の15の違い

業務委託契約で「一人の労働者」を業務に従事させる請負契約は偽装請負=違法の可能性も

これに対し、(特に客先常駐型の)業務委託契約では、「一人の労働者」を委託者の事業所に常駐させて、業務に従事させている場合は、偽装請負となる可能性が高いです。

この点について、「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集」では、以下のようなQ&Aがあります。

Q4. 管理責任者の兼任

請負事業主の管理責任者が作業者を兼任する場合、管理責任者が不在になる場合も発生しますが、請負業務として問題がありますか。
(途中省略)請負作業場に、作業者が1人しかいない場合で当該作業者が管理責任者を兼任している場合、実態的には発注者から管理責任者への注文が、発注者から請負労働者への指揮命令となることから、偽装請負と判断されることになります。

このように、「作業者が1人しかいない場合で当該作業者が管理責任者を兼任している場合」は、一人常駐は、偽装請負となる可能性が高いです。

「一人の労働者が業務に従事する請負契約」でも偽装請負にならない場合もある

ただし、「一人の労働者が業務に従事する請負契約」だからといって、ただちに偽装請負になるわけではありません。

「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集(第2集)」では、以下のようなQ&Aがあります。

管理責任者の不在等

Q8. 請負労働者が発注者の事業所で1人で請負業務を処理しています。そこには、請負事業主の管理責任者は常駐しておらず、請負労働者や発注者との連絡調整のため、必要に応じて巡回して業務上の指示を行っていますが、請負業務として問題がありますか。
 請負業務を行う労働者が1人しかいない場合、当該労働者が管理責任者を兼任することはできず、当該労働者以外の管理責任者又は請負事業主が、作業の遂行に関する指示、請負労働者の管理、発注者との注文に関する交渉等を行う必要があります。しかし、当該管理責任者が業務遂行に関する指示、労働者の管理等を自ら的確に行っている場合には、多くの場合、管理責任者が発注者の事業所に常駐していないことだけをもって、直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。
なお、労働者派遣事業と判断されないためには、管理責任者の不在時であっても、請負事業主が自己の雇用する労働者の労働力を自ら利用するものであること及び請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して処理するものであることが担保される必要があり、例えば、発注者と請負事業主の管理責任者との確実な連絡体制をあらかじめ確立しておくことや、請負労働者の出退勤管理を含む労働時間管理等労働者の管理や業務遂行に関する指示等を請負事業主自らが確実に行えるようにしておくことが必要です。

このため、たとえ一人常駐・一人請負であったとしても、条件さえ満たして、受託者が労働者の管理等を的確におこなっていれば、ただちに偽装請負とみなされることはありません。

この他、一人常駐・一人準委任・一人請負に関する偽装請負・労働者派遣法違反や適法な業務委託契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

一人請負・一人準委任・一人常駐は違法?偽装請負?適法なケースは? 





偽装請負に関するよくある質問

偽装請負とは何ですか?
労働者派遣法・労働者派遣契約における偽装請負とは、実態は労働者派遣契約なのに、労働者派遣法等の法律の規制を免れる目的で、請負その他労働者派遣契約以外の名目で契約が締結され、労働者が派遣されている状態のことです。
偽装請負には、具体的にはどのようなパターンがありますか?
偽装請負には、主に次の4パターンがあります。(「あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ? | 東京労働局」より)

  • 【代表型】請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。偽装請負によく見られるパターンです。
  • 【形式だけ責任者型】現場には形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。単純な業務に多いパターンです。
  • 【使用者不明型】業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。一体誰に雇われているのかよく分からないというパターンです。
  • 【一人請負型】実態として、業者Aから業者Bで働くように労働者を斡旋します。ところが、Bはその労働者と労働契約は結ばず、個人事業主として請負契約を結び業務の指示、命令をして働かせるというパターンです。