このページでは、偽装請負=労働者派遣法違反とならない、適法な業務委託契約とするためのチェックリストについて提示し、くわしく解説しています。

偽装請負=労働者派遣法違反とならない適法な業務委託契約とするためには、いわゆる「37号告示」に適合した契約内容としなければなりません。

37号告示とは?(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準 )

37号告示では、適法な業務委託契約となる10の条件を示しています。

業務委託契約の契約内容が、その条件のすべて(正確には9つの条件と、2つの条件のうちの1つの都合10の条件)を満たしていないと、偽装請負=労働者派遣法となります。

そこで、このページでは、偽装請負=労働者派遣法違反とならないための10ポイントのチェックリストを提示し、それぞれ、解説していきます。

このページでわかること
  • 業務委託契約等の企業間契約が偽装請負(労働者派遣契約・労働者派遣法違反)に該当するのかどうかの判断基準やチェックポイント。
  • 偽装請負(労働者派遣契約・労働者派遣法違反)に該当した場合のリスク。

なお、このページでは、あくまで業務委託契約等の企業間契約に関する偽装請負(労働者派遣法関係)のチェックリストについて取り扱っています。

個人事業者・フリーランスとの契約に関する偽装請負(労働基準法等の労働法関係)につきましては、以下のページをご覧ください。

労働者性のチェックリスト―フリーランスと労働者との21の判断基準を解説




偽装請負(労働者派遣法違反)とならないチェックリスト

業務委託契約等の企業間契約が偽装請負(労働者派遣契約・労働者派遣法違反)とみなされるかどうかは、いわゆる「37号告示」(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号))の基準にもとづき判断されます。

この「37号告示」をリスト化したチェックリストが、以下のものとなります。

偽装請負(労働者派遣法違反)とならないチェックリスト
  • 1.「業務の遂行方法に関する指示その他の管理」を受託者が自らおこなっている。
  • 2.「業務の遂行に関する評価等に係る指示」を受託者が自らおこなっている。
  • 3.「労働時間の指示」を受託者が自らおこなっている。
  • 4.「残業・休日出勤の指示」を受託者が自らおこなっている。
  • 5.「服務規律の指示」を受託者が自らおこなっている。
  • 6.「労働者の配置の決定・変更」を受託者が自らおこなっている。
  • 7.受託者が運転資金などの自己資金を自ら調達し、使用している。
  • 8.受託者が事業主としての民法・商法等の法律に基づく責任の負担している。
  • 9.業務内容が単に肉体的な労働力を提供するものでない。
  • 10.受託者が自らの責任・負担での機械・設備・器材・材料・資材の調達している。
  • 11.受託者自身の企画・専門的技術・専門的経験によって業務を処理している。

※ただし、10.と11.はいずれかを満たせばよい。




注意点としては、これらの10項目は、すべて(10.と11.はいずれか)を満たしている必要があります。

逆にいえば、この10項目のうち、いずれか満たしていない項目(10.と11.は両方)がある場合は、偽装請負とみなされます。

それでは、それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。





ポイント1:「業務の遂行方法に関する指示その他の管理」を受託者が自らおこなっている

「労働者に対する仕事の割り付け、順序、緩急の調整等」がポイント

37号告示第2条第1号イ(1)には、次のとおり規定されています。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。

(2)(以下省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件の判断は、当該労働者に対する仕事の割り付け、順序、緩急の調整等につき、当該事業主が自ら行うものであるか否かを総合的に勘案して行う。

「総合的に勘案して行う」とは、これらのうちいずれかの事項を事業主が自ら行わない場合であっても、これについて特段の合理的な理由が認められる場合は、直ちに当該要件に該当しないとは判断しない(以下同様)という趣旨である。

つまり、受託者が、自らの労働者に対する「労働者に対する仕事の割り付け、順序、緩急の調整等」をおこなっていることが、偽装請負=労働者派遣法でない、適法な業務委託契約と判断されるポイントとなります。

逆に言えば、委託者は、受託者の労働者に対して、指揮命令や「業務の遂行方法に関する指示」(以下、「指示」とします。)をしてはいけません。

「総合的に勘案して行う」が重要

なお、この(具体的判断基準)に規定されている「総合的に勘案して行う」という表現は、非常に重要となります。

【意味・定義】「総合的に勘案して行う」とは?

「総合的に勘案して行う」とは、37号告示の規定のうち、いずれかの事項を事業主が自ら行わない場合であっても、これについて特段の合理的な理由が認められる場合は、直ちに当該要件に該当しないとは判断しない、ということ。

このように、このチェックポイントのすべての判断にあたっては、受託者が37号告示に規定する事項について自らおこなわないからといて、直ちに偽装請負=労働者派遣法違反となるわけではありません。

このような場合であっても、「合理的な理由が認められる場合は」適法な業務委託契約と判断されます。

業務委託契約において例外として委託者がしてもいい指揮命令・指示は?

このように、本来、委託者が受託者の労働者に対し指揮命令や指示をした場合は、偽装請負・労働者派遣法違反となります。

ただし、この指揮命令や指示には、次の2パターン例外があります。

業務委託契約における指揮命令・指示の例外2パターン
  • 【指揮命令・指示の例外1】4の適法な指揮命令・指示
  • 【指揮命令・指示の例外2】10の指揮命令・指示ではない行為

それぞれ、具体的には、次のとおりです。

適法な指揮命令・指示の具体例
  • 災害時等の緊急時における受託者の労働者に対する指示(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者側で緊急に別の用務先に行く必要が生じた場合における受託者の労働者に対する指示(同上)
  • 法令遵守のために必要な指示(同上)
  • 業務手順等の指示(同上)
指揮命令・指示ではない行為の具体例
  • 委託者と受託者の労働者との日常的な会話(疑義応答集第1集)
  • (通信回線の営業代行契約・代理店契約等の場合)委託者から受託者の労働者に対する回線工事のスケジュール等の情報提供(疑義応答集第2集)
  • (車両管理業務委託契約の場合)委託者から受託者の労働者に対する用務先での停車位置や待機場所、用務先からの出発時間の伝達(同上)
  • 打ち合わせへの受託者の労働者の同席(同上)
  • 委託者による受託者の管理責任者に対する電子メールを送信した場合にける受託者の労働者に対する(CC等による)電子メールの送信(同上)
  • 委託者側の開発責任者と受託者側の開発担当者間のコミュニケーション(疑義応答集第3集)
  • (アジャイル開発型のシステム・アプリ等開発契約の場合)開発チーム内のコミュニケーション(同上)
  • (同上)会議や打ち合わせ等への参加(同上)
  • (同上)委託者による受託者の開発担当者の技術・技能の確認・スキルシートの提出を求める行為(同上)

なお、これらは、一部を除いて詳細で厳しい前提や例外があるため、これらに該当しそうな指揮命令・指示であっても、安易におこなってはなりません。

この指揮命令・指示の例外の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託の指揮命令・指示は違法?偽装請負?例外は?どこまでできる?請負・準委任の場合は?

委託者は作業工程の指示をしてはならない

委託者が、受託者による作業の工程について、仕事の順序・方法等を指示したり、受託者の労働者の配置、仕事の割付等をおこなう場合は、偽装請負と判断されるます。

それだけでなく、これらの指示は、口頭に限らず、文書による場合も含みます。

7. 作業工程の指示

 発注者が、請負業務の作業工程に関して、仕事の順序の指示を行ったり、請負労働者の配置の決定を行ったりしてもいいですか。また、発注者が直接請負労働者に指示を行わないのですが、発注者が作成した作業指示書を請負事業主に渡してそのとおりに作業を行わせてもいいですか。
 適切な請負と判断されるためには、業務の遂行に関する指示その他の管理を請負事業主が自ら行っていること、請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して処理することなどが必要です。
したがって、発注者が請負業務の作業工程に関して、仕事の順序・方法等の指示を行ったり、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定したりすることは、請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っていないので、偽装請負と判断されることになります。
また、こうした指示は口頭に限らず、発注者が作業の内容、順序、方法等に関して文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合も、発注者による指示その他の管理を行わせていると判断され、偽装請負と判断されることになります。

この疑義応答のポイントは、文書等で「詳細に」示している点と、「そのとおりに」受託者が作業をおこなっている点です。

このような状態では、受託者が指揮命令・指示をしていることにならず、委託者が指揮命令・指示をしていることとなり、偽装請負・労働者派遣法違反と判断されることとなります。

ポイント
  • 「労働者に対する仕事の割り付け、順序、緩急の調整等」を受注者自身がおこなっているかがポイントとなる。
  • 「総合的に勘案して行う」=合理的な理由があればチェックポイントをクリアしていなくてもいい場合がある。
  • 指揮命令・指示には、多くの例外がある。
  • 指揮命令・指示の例外には、一部を除いて厳しい前提条件や例外がある。
  • 「やり直しのクレーム」は、偽装請負にはならない。ただし、委託者の側は、下請法違反に注意。





ポイント2:「業務の遂行に関する評価等に係る指示」を受託者が自らおこなっている

「技術的な指導、勤惰点検、出来高査定等」がポイント

37号告示第2条第1号イ(2)には、次のとおり規定されています。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)(省略)

(2)労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。

(以下省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件の判断は、当該労働者の業務の遂行に関する技術的な指導、勤惰点検、出来高査定等につき、当該事業主が自ら行うものであるか否かを総合的に勘案して行う。

つまり、受託者が、自らの労働者に対して、「業務の遂行に関する技術的な指導、勤惰点検、出来高査定等」をおこなっていることが、偽装請負=労働者派遣法でない、適法な業務委託契約と判断されるポイントとなります。

委託者が技術指導をしてもよい場合がある

このように、受託者の労働者に対する技術指導については、委託者がおこなわなければ、偽装請負と判断される可能性があります。

ただし、例外として、次の場合は、委託者による技術指導があっても、偽装請負とは判断されません。

10. 請負業務において発注者が行う技術指導

 請負労働者に対して、発注者は指揮命令を行ってはならないと聞きましたが、技術指導等を行うと、偽装請負となりますか。
 適切な請負と判断されるためには、請負事業主が、自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること、業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することなどの要件を満たすことが必要となります。
発注者が、これらの要件を逸脱して労働者に対して技術指導等を行うことはできませんが、一般的には、発注者が請負労働者に対して行う技術指導等とされるもののうち次の例に該当するものについては、当該行為が行われたことをもって、偽装請負と判断されるものではありません。
[例]
ア 請負事業主が、発注者から新たな設備を借り受けた後初めて使用する場合、借り受けている設備に発注者による改修が加えられた後初めて使用する場合等において、請負事業主による業務処理の開始に先立って、当該設備の貸主としての立場にある発注者が、借り手としての立場にある請負事業主に対して、当該設備の操作方法等について説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者に当該説明(操作方法等の理解に特に必要となる実習を含みます)を受けさせる場合のもの
イ 新製品の製造着手時において、発注者が、請負事業主に対して、請負契約の内容である仕様等について補足的な説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者に当該説明(資料等を用いて行う説明のみでは十分な仕様等の理解が困難な場合に特に必要となる実習を含みます)を受けさせる場合のもの
ウ 発注者が、安全衛生上緊急に対処する必要のある事項について、労働者に対して指示を行う場合のもの

11. 請負業務の内容が変更した場合の技術指導

 製品開発が頻繁にあり、それに応じて請負業務の内容が変わる場合に、その都度、発注者からの技術指導が必要となりますが、どの程度まで認められますか。
 請負業務の内容等については日常的に軽微な変更が発生することも予想されますが、その場合に直接発注者から請負労働者に対して変更指示をすることは偽装請負にあたります。一方、発注者から請負事業主に対して、変更に関する説明、指示等が行われていれば、特に問題はありません。
ただし、新しい製品の製造や、新しい機械の導入により、従来どおりの作業方法等では処理ができない場合で、発注者から請負事業主に対しての説明、指示等だけでは処理できないときには、Q10ア又はイに準じて、変更に際して、発注者による技術指導を受けることは、特に問題はありません。
ポイント
  • 「技術的な指導、勤惰点検、出来高査定等」の指示を受託者がおこなっているかどうかがポイント。
  • 契約開始時における委託者の設備の初使用、新製品の製造等の場合は、委託者から受託者の労働者に対して、直接技術指導をしていい場合もある。





ポイント3:「労働時間の指示」を受託者が自らおこなっている

37号告示第2条第1号ロ(1)には、次のとおり規定されています。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

イ (省略)

ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

(以下省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件の判断は、受託業務の実施日時(始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等)について、事前に事業主が注文主と打ち合わせているか、業務中は注文主から直接指示を受けることのないよう書面が作成されているか、それに基づいて事業主側の責任者を通じて具体的に指示が行われているか、事業主自らが業務時間の実績把握を行っているか否かを総合的に勘案して行う。

このように、労働時間の指示についての判断基準は、主に次の4点となります。

労働時間の指示の判断基準
  • 1.受託業務の実施日時(始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等)について、事前に受託者が委託者と打ち合わせているか
  • 2.業務中は委託者から直接指示を受けることのないよう書面が作成されているか
  • 3.それ(書面)に基づいて受託者側の責任者を通じて具体的に指示が行われているか
  • 4.受託者自らが業務時間の実績把握を行っているか

この3.にあるとおり、業務中の指示について書面=業務委託契約書が作成されているかと、書面=業務委託契約書にもとづき委託者と受託者の双方の責任者により指示のやり取りがおこなわれているかがポイントとなります。

業務委託契約書を作成する理由

偽装請負=労働者派遣法違反とならず適正な業務委託契約とするためには、「業務中は注文主から直接指示を受けることのないよう書面が作成されている」ことが必要となるから。





ポイント4:「残業・休日出勤の指示」を受託者が自らおこなっている

37号告示第2条第1号ロ(2)には、次のとおり規定されています。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

イ (省略)

ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)(省略)

(2)労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

(以下省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件の判断は、労働者の時間外、休日労働は事業主側の責任者が業務の進捗状況等をみて自ら決定しているか、業務量の増減がある場合には事前に注文主から連絡を受ける体制としているか否かを総合的に勘案して行う。





ポイント5:「服務規律の指示」を受託者が自らおこなっている

「規律、服装、職場秩序の保持、風紀維持のための規律等」がポイント

37号告示第2条第1号ハ(1)には、次のとおり規定されています。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

(イおよびロ省略)

ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。

(以下省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件の判断は、当該労働者に係る事業所への入退場に関する規律、服装、職場秩序の保持、風紀維持のための規律等の決定、管理につき、当該事業主が自ら行うものであるか否かを総合的に勘案して行う。

なお、安全衛生、機密の保持等を目的とする等の合理的な理由に基づいて相手方が労働者の服務上の規律に関与することがあっても、直ちに当該要件に該当しないと判断されるものではない。

つまり、受託者が、自らの労働者に関する「事業所への入退場に関する規律、服装、職場秩序の保持、風紀維持のための規律等」をおこなっていることが、偽装請負=労働者派遣法でない、適法な業務委託契約と判断されるポイントとなります。

また、(具体的判断基準)の、なお以下にあるとおり、安全衛生や、機密保持等を目的とする合理的な理由にもとづき、委託者が、受託者の服務規律に関与することは、直ちに偽装請負を判断されることにはなりません。

原則として同一の作業服の使用は偽装請負

委託者の労働者と受託者の労働者が、同一の作業服を着用する場合、原則として、偽装請負に該当します。

ただし、次のような合理的な理由がある場合は、偽装請負とは判断されません。

偽装請負ではない同一の作業服の理由
  • 製品の製造に関する制約のため
  • 事業所内への部外者の侵入を防止し企業機密を守るため
  • 労働者の安全衛生のため

9. 請負労働者の作業服

 請負労働者の作業服について、発注者からの指示があった場合は、偽装請負となりますか。また、発注者と請負事業主のそれぞれの労働者が着用する作業服が同一であった場合は偽装請負となりますか。
 適切な請負と判断されるためには、請負事業主が、自己の労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと、業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することなどが必要です。
請負労働者に対して発注者が直接作業服の指示を行ったり、請負事業主を通じた関与を行ったりすることは、請負事業主が自己の労働者の服務上の規律に関する指示その他の管理を自ら行っていないこととなり、偽装請負と判断されることになります。
ただし、例えば、製品の製造に関する制約のため、事業所内への部外者の侵入を防止し企業機密を守るため、労働者の安全衛生のため等の特段の合理的な理由により、特定の作業服の着用について、双方合意の上、予め請負契約で定めていることのみをもって、偽装請負と判断されるものではありません。

合理的な理由があれば委託者と同じ服務規律でも偽装請負ではない

なお、「請負事業主の業務の効率化、各種法令等による施設管理や安全衛生管理の必要性等合理的な理由がある場合」では、結果的に、委託者と受託者の服務規律等が同様となったとしても、次のとおり、偽装請負=労働者派遣法違反とはなりません。

●請負事業主の就業規則・服務規律

問11 請負業務の実施に当たり、発注者側の作業効率化や施設管理の必要上、発注者の就業時間・休日、服務規律、安全衛生規律と同等の内容で、請負事業主が自己の労働者を指揮命令することは、請負業務として問題がありますか。
 請負業務では、請負事業主は自己の就業規則、服務規律等に基づき、労働者を指揮命令して業務を遂行する必要があります。
ただし、例えば、請負事業主の業務の効率化、各種法令等による施設管理や安全衛生管理の必要性等合理的な理由がある場合に、結果的に発注者と同様の就業時間・休日、服務規律、安全衛生規律等となったとしても、それのみをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはありません。
ポイント
  • 「規律、服装、職場秩序の保持、風紀維持のための規律等」の決定・管理を受託者がおこなっているかどうかがポイント。
  • 原則として、同一の作業服の使用は偽装請負=労働者派遣法違反。
  • ただし、製品の製造に関する制約のため、事業所内への部外者の侵入を防止し企業機密を守るため、労働者の安全衛生のため等の合理的な理由があれば、同一の作業服でもよい。
  • 合理的な理由があれば、受託者の服務規律が、結果として委託者と同じであっても偽装請負ではない。





ポイント6:「労働者の配置の決定・変更」を受託者が自らおこなっている

37号告示第2条第1号ハ(2)には、次のとおり規定されています。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

(イおよびロ省略)

ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。

(1)(省略)

(2)労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

(以下省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件の判断は、当該労働者に係る勤務場所、直接指揮命令する者等の決定及び変更につき、当該事業主が自ら行うものであるか否かを総合的に勘案して行う。

なお、勤務場所については、当該業務の性格上、実際に就業することとなる場所が移動すること等により、個々具体的な現実の勤務場所を当該事業主が決定又は変更できない場合は当該業務の性格に応じて合理的な範囲でこれが特定されれば足りるものである。

なお、(準)委任契約、請負契約その他の業務委託契約における「作業者の指名」問題につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

作業者・人の指定・指名は違法?偽装請負?業務委託契約(準委任・請負)の場合は?





ポイント7:受託者が運転資金などの自己資金を自ら調達し、使用している

37号告示第2条第2号イには、次のとおり規定されています。

二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。

(以下省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件の判断に当たり、資金についての調達、支弁の方法は特に問わないが、事業運転資金等はすべて自らの責任で調達し、かつ、支弁していることが必要である。





ポイント8:受託者が事業主としての民法・商法等の法律に基づく責任の負担している

37号告示第2条第2号ロには、次のとおり規定されています。

二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

イ (省略)

ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。

(以下省略)





ポイント9:業務内容が単に肉体的な労働力を提供するものでない

単なる肉体労働の業務委託契約は偽装請負の可能性が高い

37号告示第2条第2号ハには、次のとおり規定されています。

二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

(イおよびロ省略)

ハ 次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

(以下省略)

このため、単なる肉体的な労働力の提供は、偽装請負=労働者派遣法違反となります。

人数×単価の報酬・料金・委託料は偽装請負

なお、人数に単価を積算する報酬・料金・委託料の場合は、偽装請負となる可能性があります。

8. 発注量が変動する場合の取扱

 発注する製品の量や作業量が、日ごと月ごとに変動が激しく、一定量の発注が困難な場合に、包括的な業務請負契約を締結しておき、毎日必要量を発注した上で、出来高での精算とすることは、偽装請負となりますか。また、完成した製品の量等に応じた出来高精算ではなく、当該請負業務に投入した請負労働者の人数により精算することは、偽装請負となりますか。
 請負事業主が発注者から独立して業務を処理しているとともに、発注される製品や作業の量に応じて、請負事業主が自ら業務の遂行方法に関する指示(順序、緩急の調整等)労働者の配置や労働時間の管理等を行うことにより、自己の雇用する労働者を請負事業主が直接利用しているのであれば、包括的な業務請負契約を締結し、発注量は毎日変更することだけをもって、偽装請負と判断されるものではありません。
また、このように発注量が変動し、請負料金が一定しない場合に、完成した製品の個数等に基づき出来高で精算することだけをもって、偽装請負と判断されるものではありません。
ただし、製品や作業の完成を目的として業務を受発注しているのではなく、業務を処理するために費やす労働力(労働者の人数)に関して受発注を行い、投入した労働力の単価を基に請負料金を精算している場合は、発注者に対して単なる労働力の提供を行われているにすぎず、その場合には偽装請負と判断されることになります。

つまり、発注量に変動があるとしても、労働者の単価で報酬・料金・委託料を決めるのではなく、必要量を発注して都度精算することが、偽装請負=労働者派遣法でない、適法な業務委託契約と判断されるポイントとなります。

(準)委任型の業務委託契約では人数×単価で問題ない場合もある

もっとも、報酬・料金・委託料を総額で計算しにくい(準)委任型の業務委託契約の場合は、次のとおり、人数×単価での計算であっても、偽装請負=労働者派遣法違反とならない場合もあります。

●発注・精算の形態

問8 マネキン(商品実演販売)の業務請負に当たり、請負事業主に対して日時、場所、労働時間、人数等が指定されて発注され、料金は労働者の人数に比例する形で決定されています。このような発注や精算の形態は、請負業務として問題がありますか。
 労働者派遣事業又は労働者供給事業と判断されないためには、請負事業主が労働者の配置等の決定を自ら行わなければなりません。
一方で、マネキンを含め、販売、サービス又は保安等、「仕事を完成させ目的物を引き渡す」形態ではない請負業務では、当該請負業務の性格により、請負業務を実施する日時、場所、標準的な必要人数等を指定して発注したり、労働者の人数や労働時間に比例する形で料金決定したりすることに合理的な理由がある場合もあります。このような場合には、契約・精算の形態のみによって発注者が請負労働者の配置決定に関与しているとは言えず、労働者派遣事業又は労働者供給事業と直ちに判断されることはありません。
なお、上記の判断の前提として、請負事業主が自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するとともに、契約の相手方から独立して業務を処理していることが必要となります。

もちろん、なお以下にあるとおり、受託者は、自己の労働者を直接利用し、委託者から独立して業務を処理することが必要です。

ポイント
  • 受託者が単なる肉体労働を提供するだけの業務委託契約は、偽装請負の可能性が高い。
  • 人数×単価で算出する報酬・料金・委託料の業務委託契約は、偽装請負の可能性が高い。
  • ただし、成果物が発生しない請負型の業務委託契約や、(準)委任型の業務委託契約では、人数×単価の報酬・料金・委託料でも問題ない場合もある。





ポイント10-1:受託者が自らの責任・負担で機械・設備・器材・材料・資材の調達している

委託者からの提供は「正当な双務契約」がポイント

37号告示第2条第2号ハ(1)には、次のとおり規定されています。

二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

(イおよびロ省略)

ハ 次のいずれかに(注)該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

(1)自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。

(2)(省略)

また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。

(具体的判断基準)

 当該要件は、機械、設備、資材等の所有関係、購入経路等の如何を問うものではないが、機械、資材等が相手方から借り入れ又は購入されたものについては、別個の双務契約(契約当事者双方に相互に対価的関係をなす法的義務を課する契約)による正当なものであることが必要である。なお機械、設備、器材等の提供の度合については、単に名目的に軽微な部分のみを提供するにとどまるものでない限り、請負により行われる事業における一般的な社会通念に照らし通常提供すべきものが業務処理の進捗状況に応じて随時提供使用されていればよいものである。

つまり、受託者が、委託者から有償で機械、資材等の借入れや購入をする場合は、正当な双務契約を締結していることが、偽装請負=労働者派遣法でない、適法な業務委託契約と判断されるポイントとなります。

玄関・食堂等の使用は偽装請負とはならない

ここでいう双務契約ですが、受託者が委託者から提供を受けるものについて、すべて双務契約を締結しなければならないわけではありません。

例えば、玄関や食堂の使用については、わざわざ双務契約を締結する必要はありません。

12. 玄関、食堂等の使用

 発注者の建物内において請負業務の作業をしていますが、当該建物の玄関、食堂、化粧室等を発注者と請負事業主が共同で使用することは違法となりますか。また、別個の双務契約を締結する必要はありますか。
 食堂、化粧室等のように業務処理に直接必要とはされない福利厚生施設や、建物の玄関、エレベーターのように不特定多数の者が使用可能な場所・設備を、発注者と請負事業主が共同で使用することは差し支えありません。また、使用に当たって、別個の双務契約までは必ずしも要するものではありません。

委託者による間接費用の負担は偽装請負とはならない

同様に、請負業務をおこなう場所の賃貸料や光熱費の負担、更衣室やロッカーの使用についても、わざわざ双務契約を締結する必要はありません。

13. 作業場所等の使用料

 発注者の建物内において請負業務の作業をしていますが、当該建物内の作業場所の賃貸料や光熱費、請負労働者のために発注者から提供を受けている更衣室やロッカーの賃借料についても、別個の双務契約が必要ですか。
 適正な請負と判断されるためには、請負事業主が請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することなどが必要であり、単に肉体的な労働力を提供するものではないことが必要です。そのためには、①請負事業主の責任と負担で、機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除きます)又は材料若しくは資材を準備し、業務の処理を行うか、②企画又は専門的な技術若しくは経験で業務を処理するか、いずれかであることが必要です。
①の場合に、請負業務の処理自体に直接必要とされる機械、資材等を発注者から借り入れたり、購入したりする場合は請負契約とは別個の双務契約が必要です。
他方、請負業務の処理に間接的に必要とされるもの(例えば、請負業務を行う場所の賃貸料や、光熱費)、請負業務の処理自体には直接必要とされないが、請負業務の処理に伴い、発注者から請負事業主に提供されるもの(例えば、更衣室やロッカー)については、別個の双務契約までは必要なく、その利用を認めること等について請負契約中に包括的に規定されているのであれば特に問題にないものです。

半製品・完成品の買取りは必要ない

また、特に製造業での業務委託契約では、半製品の組込みや、完成品の梱包などの業務があります。

こうした業務委託契約の場合であっても、受託者が、委託者から、半製品や完成品をいったん買取る必要まではありません。

14. 双務契約が必要な範囲

 発注者から、製造の業務を請け負った場合、請負事業主の責任と負担で、機械、設備若しくは器材又は材料若しくは資材を準備し、業務処理を行うことが必要であり、機械、資材等を発注者から借り入れ又は購入するのであれば、別個の双務契約が必要とのことですが、半製品への部品の組み込みや塗装、完成品の梱包の業務を請け負っている場合に、発注者から提供された部品、塗料、梱包材等について、一旦発注者から購入することが必要ですか。
 発注者から、①半製品とそれに組み込む部品や仕上げのための塗料等を提供された上で半製品に部品を取り付けたり、塗装したりする業務を請け負っている場合、②完成品と梱包材を提供された上で完成品を梱包する業務を請け負っている場合に、半製品と部品や塗料、完成品と梱包材を、一旦発注者から請負事業主が「購入」し、取付・塗装や梱包の業務の完了後に、加工後の半製品や梱包後の完成品を請負事業主から発注者に「売却」するための双務契約までは必要ありません。
ただし、このような塗装、梱包等の業務であっても、当該組み込み、塗装、梱包等の業務に必要な機械、設備又は機材は、請負事業主の責任で準備するか、発注者から借り入れる又は購入するのであれば、別個の双務契約を締結することが必要になります。

有償原材料の実費積算は下請法違反に注意

委託者が有償原材料を供給する場合に、その原材料を請負代金とは別に計算することは、次のとおり問題とはなりません。

15. 資材等の調達費用

 製造の業務を請け負っていますが、請負事業主が調達する原材料の価格が日々変動したり、発注量によって原材料の量も変動したりすることから、請負経費の中に原材料の費用を含めて一括の契約を締結することは困難です。原材料について、請負代金とは別に実費精算とした場合、偽装請負となりますか。
 請負業務の処理に必要な資材等については、請負事業主の責任により調達することが必要ですが、必要となる資材等の価格が不明確な場合で、予め契約を締結することが困難な場合は、請負業務にかかる対価とは別に、精算することとしても特に問題はありません。

ただし、「実費精算」、つまり、発生しただけの原材料の費用を後日精算する場合、下請法違反となる可能性があります。

下請法が適用される業務委託契約の場合、委託者は、受託者に対し、いわゆる「三条書面」を交付しなければなりません。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項について解説

この三条書面には、「原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日及び決済方法」を記載しなければなりません。

委託者、受託者に対し、「製造委託等をした場合は、直ちに」受託者の対し、三条書面を交付しなければなりません。

このため、下請法が適用される業務委託契約では、有償原材料を実費精算とした場合、委託者は、労働者派遣法には違反しませんが、下請法に違反する可能性があります。

下請法が適用される業務委託契約につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?

ポイント
  • 本来、受託者が自ら調達するべき機械、設備、器材、材料、資材等を委託者から提供を受ける場合は、「正当な双務契約」が締結されているかどうかがポイント。
  • 受託者の労働者による、玄関・食堂等の使用は、偽装請負とはならない。
  • 委託者が作業場所・更衣室・ロッカーを無償で提供したり、光熱費を負担したりする場合であっても、偽装請負とはならない。
  • 半製品の部品組込み、完成品の梱包等の業務委託契約であっても、半製品や完成品の買取りは、必要ない。
  • 有償原材料の実費積算をしても、そのことで偽装請負とはならない。
  • ただし、委託者としては、有償原材料の「品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日及び決済方法」は、三条書面の記載事項であるため、下請法違反に注意。





ポイント10-2:受託者自身の企画・専門的技術・専門的経験によって業務を処理している

「事業主が企業体として有する」ことがポイント

37号告示第2条第2号ハ(2)には、次のとおり規定されています。

二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

(イおよびロ省略)

ハ 次のいずれかに(注)該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

(1)(省略)

(2)自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。

(具体的判断基準)

 当該要件は、事業主が企業体として有する技術、技能等に関するものであり、業務を処理する個々の労働者が有する技術、技能等に関するものではない。

(準)委任型の業務委託契約では社内のノウハウの蓄積が重要

このチェックポイントに該当するためには、次のとおり、社内にノウハウを蓄積し、マニュアル化するなど、企業体としての技術・技能が重要となります。

●請負事業主の就業規則・服務規律

問14  デパートや美術館等の受付案内業務は、37号告示にいう「自らの企画又は自己の有する専門的な技術・経験に基づく業務処理」と言えますか。
 請負業務では、請負事業主が契約の相手方から独立して業務を処理することなどが必要であり、①自己の責任と負担で準備し、調達する機械・設備、材料・資材により業務を処理するか、②自ら行う企画又は自己の有する専門的技術・経験に基づき業務を処理するか、いずれかであることが必要です。
デパートや美術館などの受付案内業務のように、「仕事を完成させ目的物を引き渡す」形態ではない請負業務は、①のような自己負担すべき設備や材料等がなく、②に該当する場合もあると考えられます。これに関しては、例えば、様々な場所の受付における来客対応、案内の方法、様々な客層に対する接遇手法やトラブル発生時の対応等のノウハウを蓄積し、これを基に業務対応マニュアル等を自ら作成した上で、労働者に対する教育訓練を自ら実施し、かつ、当該業務が的確に行われるよう自ら遂行状況の管理を行っているような場合は、請負事業主が自らの企画又は専門的技術・経験に基づいて業務処理を行っていると判断できます。
一方、例えば、発注者から、来客への対応マナーや応答ぶり等をすべて事前に文書等で詳細な指示を受けており、トラブルが発生した場合にはその都度発注者に対応方針の指示を仰ぐこととされているなど、契約上の業務内容に請負事業主の裁量の余地がない場合は、単なる労働力の提供と認められ、労働者派遣事業と判断される可能性が高まります。

つまり、単に委託者から提供を受けたマニュアル等にもとづく業務の実施は、偽装請負=労働者派遣法違反となる可能性があります。

ポイント
  • 受託者が、専門的な技術・経験を企業体として有しているかがポイント。
  • 受託者の個々の労働者の専門的な技術・経験があっても、このポイントをクリアしていることにはならない。
  • 成果物が発生しない請負型の業務委託契約や、(準)委任型の業務委託契約では、社内のノウハウの蓄積による業務の実施が重要。
  • 単に委託者から提供を受けたマニュアル等による業務の実施は、偽装請負=労働者派遣法違反となる可能性がある。





補足1:ひとつでも条件をクリアしないと偽装請負

適法な業務委託契約は全部の条件のクリアする必要あり

さて、これらのチェックポイントですが、実は、全部クリアしていないと、偽装請負=労働者派遣法違反と判断される可能性が高いです。

というのも、このチェックポイントの根拠となっている37号告示の第2条では、次のとおり規定されています。

37号告示第2条

1 (省略)

2 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。

3 (以下省略)

ここでいう「次の各号」が、チェックポイントとなります。

この規定は、いわゆるホワイトリスト方式で、例外の条件のすべてに該当する場合にのみ、適法な業務委託契約であり、そうでない場合は労働者派遣契約である、という形式となっています。

「合理的な理由」があればクリアしていない条件がってもいい

ただし、すでに触れたとおり、このチェックポイントをクリアしているかどうかは、「総合的に勘案して行う」とされています。

ここで、もう一度、「総合的に勘案して行う」の定義を確認しましょう。

「総合的に勘案して行う」とは?

「総合的に勘案して行う」とは、37号告示の規定のうち、いずれかの事項を事業主が自ら行わない場合であっても、これについて特段の合理的な理由が認められる場合は、直ちに当該要件に該当しないとは判断しない、ということ。

このように、「合理的な理由が認められる場合は」適法な業務委託契約と判断されます。

ポイント
  • 偽装請負=労働者派遣法違反とならないようにするためには、原則として、すべてのチェックポイントをクリアする必要がある。
  • ただし、合理的な理由がある場合は、一部のチェックポイントをクリアしなくてもいい場合もある。





補足2:形式的に条件を満たしても故意の偽装は労働者派遣法違反

また、37号告示第3条には、次のとおり規定されています。

37号第三条

(途中省略)

三 前条各号のいずれにも該当する事業主であつても、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が法第2条第1号に規定する労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることができない。

(ここでいう「法第2条第1号」とは労働者派遣法第2条第1号のことです)

つまり、チェックポイントをすべてクリアしていたとしても、それが形式的なもので、真の目的が労働者派遣業をおこなうものである場合は、脱法行為・法の潜脱行為です。

こうした場合は、チェックポイントをクリアしていても、偽装請負=労働者派遣法違反とみなされる、ということです。

ポイント
  • チェックポイントをすべてクリアした場合であっても、単に形式だけ整えただけでは、偽装請負=労働者派遣法違反とみなされる。





偽装請負(労働者派遣法違反)のリスクは?

実際に、業務委託契約が偽装請負と判断された場合は、様々なリスクが発生します。

わかりやすい例としては、受託者の側は、無許可での労働者派遣事業をおこなっていたことになります。

勘違いされがちですが、委託者の側は、偽装請負で何の問題がないわけではなく、派遣先としての義務に違反することになります。

このほか、具体的なリスク・問題点は、次のとおりです。

委託者の偽装請負のリスク・問題点一覧

偽装請負の委託者のリスク・問題点
  • 「派遣先」とみなされる
  • 労働者派遣法違反となる
  • 各種罰則が科される

受託者の偽装請負のリスク・問題点一覧

偽装請負の受託者のリスク・問題点
  • 派遣元=無許可の派遣業者とみなされる
  • 労働者派遣法違反となる
  • 各種罰則が科される

委託者・受託者共通のリスク・問題点一覧

委託者・受託者共通のリスク・問題点
  • 行政指導・行政処分を受ける
  • 労働契約申込みみなし制度
  • 罰則は法人だけでなく個人にも科される
  • 労働者派遣法・適法な業務委託契約にするコストがかかる

これらのリスク・問題点につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

偽装請負とは?判断基準・違法性・罰則・リスクとその対策は?

ポイント
  • 偽装請負は、受託者はもとより、委託者も労働者派遣法違反となる。





偽装請負(労働者派遣法違反)に関するよくある質問

業務委託契約等で偽装請負にならないためには、何に気をつけるべきですか?
業務委託契約等が労働者派遣法違反とみなされないようにするには、いわゆる「37号告示」にもとづき、以下のチェックリストをすべて満たす必要があります。

  1. 「業務の遂行方法に関する指示その他の管理」を受託者が自らおこなっている。
  2. 「業務の遂行に関する評価等に係る指示」を受託者が自らおこなっている。
  3. 「労働時間の指示」を受託者が自らおこなっている。
  4. 「残業・休日出勤の指示」を受託者が自らおこなっている。
  5. 「服務規律の指示」を受託者が自らおこなっている。
  6. 「労働者の配置の決定・変更」を受託者が自らおこなっている。
  7. 受託者が運転資金などの自己資金を自ら調達し、使用している。
  8. 受託者が事業主としての民法・商法等の法律に基づく責任の負担している。
  9. 業務内容が単に肉体的な労働力を提供するものでない。
  10. 受託者が自らの責任・負担での機械・設備・器材・材料・資材の調達している。
  11. 受託者自身の企画・専門的技術・専門的経験によって業務を処理している。

※ただし、10.と11.はいずれかを満たせばよい。

業務委託契約等が偽装請負にならないためには、「37号告示」の基準をすべてクリアしなければいけませんか?
37号告示の内容をすべてクリアしなくても、「合理的な理由が認められる場合は」、適法な業務委託契約とみなされます。
逆に、37号告示の内容をすべてクリアしていたとしても、それが形式的なもので、真の目的が労働者派遣業をおこなうものである場合は、脱法行為・法の潜脱行為となり、偽装請負=労働者派遣法違反となります。





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