労働者派遣法は、正式には「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といい、労働者派遣業者=派遣元と派遣先を規制し、派遣労働者を保護する法律です。
かつては、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」という名称でした。
業務委託契約を扱っているこのサイトで労働者派遣法の解説をする理由は、業務委託契約と労働者派遣法が密接に関わっているからです。
特に、いわゆる「偽装請負」との関係で、適法な業務委託契約とするには、労働者派遣法のことを知らなければ対処できません。
このページでは、そうした業務委託契約との関係性も含めて、労働者派遣法について解説します。
労働者派遣法とは?
労働者派遣法の目的は派遣労働者の雇用の安定・福祉の増進
労働者派遣法第1条では、労働者派遣法の目的を次のように規定しています。
労働者派遣法第1条(目的)
この法律は、職業安定法(昭和22年法律第141号)と相まつて労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。
【意味・定義】労働者派遣法とは?
労働者派遣法とは、労働者派遣事業の適正な運営の確保による派遣労働者の保護により、派遣労働者の雇用の安定等を目的とした法律をいう。
労働者派遣法はあくまで「派遣労働者を保護する法律」
労働者派遣法第1条にあるとおり、そもそも労働者派遣法は、派遣労働者を保護するための法律です。
労働者派遣法では、労働者派遣業者=派遣元は規制される立場にあります。
また、よく誤解されがちですが、派遣先の事業者が規制されないわけではありません。
派遣先の事業者も、派遣元ほどではありませんが、労働者派遣法によって規制される立場です。
ポイント
- 労働者派遣法は、あくまで派遣労働者を保護する法律。
- 労働者派遣法では、派遣元のみならず、派遣先も規制される立場。
労働者派遣法の規制内容とは?
労働者派遣業は原則として禁止=許可制
もともと、労働者派遣業は、原則として禁止されていました。
例外として、労働者派遣法で許可制として解禁することで、民間企業でも労働者派遣事業ができるようになりました。
労働者派遣事業をおこなう場合、現行法では、厚生労働大臣から労働者派遣事業の許可を受けなければなりません(労働者派遣法第5条)。
かつては、一般派労働者派遣事業(いわゆる「一般派遣業」=許可制)・特定労働者派遣事業(いわゆる「特定派遣業」=届出制)の2種類の派遣業があり、特に、後者の特定派遣業は、比較的手続きが簡単でした。
現在では、非常に厳しい要件をクリアしなければ、労働者派遣事業の許可を取得することはできません。
参考までに、『労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-』をご覧になれば、いかにハードルが高いか、よくおわかりになると思います。
許可があってもできない「禁止業務」とは?
また、労働者派遣事業の許可があっても、現在では取扱いが禁止されている業務もあります。
労働者派遣事業での取扱い禁止業務
- 港湾運送業務(労働者派遣法第4条第1項第1号)
- 建設業務(労働者派遣法第4条第1項第2号)
- 警備業務(労働者派遣法第4条第1項第3号)
- 医療関連業務(ただし様々な例外あり。労働者派遣法第4条第1項第3号・同施行令第2条)
- 人事労務管理関係のうち、派遣先において団体交渉又は労働基準法に規定する協定の締結等のための労使協議の際に使用者側の直接当事者として行う業務(「労働者派遣事業関係業務取扱要領」第2 3 p.30)
- 弁護士、外国法事務弁護士、司法書士及び土地家屋調査士の業務(そもそも労働者派遣の対象とならない。「労働者派遣事業関係業務取扱要領」第2 3 p.31)
- 公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士及び行政書士の業務(例外的に労働者派遣ができる場合あり。「労働者派遣事業関係業務取扱要領」第2 3 p.31))
- 管理建築士の業務(「労働者派遣事業関係業務取扱要領」第2 3 p.32)
無許可の労働者派遣事業は罰則が科される
なお、無許可で労働者派遣業をおこなった者は、次のとおり、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」の罰則が科されます。
労働者派遣法第59条
次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(1) (省略)
(2) 第5条第1項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者
(以下省略)
無許可の派遣元からの派遣労働者の受け入れは禁止
また、派遣先が無許可で労働者派遣業をおこなっている者から派遣労働者を受け入れることは、禁止されています。
労働者派遣法第24条の2(派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主からの労働者派遣の受入れの禁止)
労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。
ポイント
- 無許可での労働者派遣事業は禁止。
- 無許可の派遣業者から派遣労働者を受入れるも禁止。
労働者派遣契約とは?
【意味・定義】労働者派遣契約とは
労働者派遣契約は、労働者派遣法では、次のとおり規定されています。
労働者派遣法第26条(契約の内容等)
1 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)(以下省略)
そして、労働者派遣法では、労働者派遣を次のように定義づけています。
労働者派遣法第2条(用語の定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
(以下省略)
つまり、これらを合わせると、労働者派遣契約の定義は、以下のようになります。
【意味・定義】労働者派遣契約とは?
労働者派遣契約とは、当事者の一方が相手方に対し、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、相手方の指揮命令を受けて、当該相手方のために労働に従事させることを約する契約。
労働者派遣契約の記載事項
労働者派遣の派遣元と派遣先が労働者派遣契約を結ぶ場合、次の事項を労働者派遣契約書に記載しなければなりません(労働者派遣契約第26条第1項)。
労働者派遣契約書の記載事項
- 派遣労働者が従事する業務の内容
- 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
- 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所並びに組織単位
- 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
- 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
- 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
- 安全及び衛生に関する事項
- 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
- 派遣労働者の新たな就業の機会の確保、派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担に関する措置その他の労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
- 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合にあつては、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項
- 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
- 労働者派遣の役務の提供を受ける者が⑤の派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は6.の派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合には、当該派遣就業をさせることができる日又は延長することができ
る時間数 - 派遣元事業主及び派遣先との間で、派遣先が当該派遣労働者に対し、派遣先が設置及び運営する物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設等の施設であって現に派遣先に雇用される労働者が通常利用しているもの(給食施設、休憩室及び更衣室を除く。)の利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与、教育訓練その他の派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合には、当該便宜の供与に関する事項
- 労働者派遣の役務の提供を受ける者が、労働者派遣の終了後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者を雇用する場合に、その雇用意思を事前に労働者派遣をする者に対し示すこと、当該者が職業紹介を行うことが可能な場合は職業紹介により紹介手数料を支払うことその他の
労働者派遣の終了後に労働者派遣契約の当事者間の紛争を防止するために講ずる措置 - 派遣労働者を協定対象派遣労働者に限定するか否かの別
- 派遣労働者を無期雇用派遣労働者又は60歳以上の者に限定するか否かの別
- 派遣可能期間の制限を受けない業務に係る労働者派遣に関する事項
詳細につきましては、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」p.125以下をご参照ください。
ポイント
- 労働者派遣契約は、労働者派遣法において、記載事項が詳細に決められている。
労働者派遣法において派遣元事業主の講ずべき措置等
労働者派遣法では、派遣元が講ずべき措置等として、第3章第2節(労働者派遣法第30条以下)において、次のような内容が規定されています。
派遣元事業主の講ずべき措置等
- 特定有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等のための措置(労働者派遣法第30条)
- 段階的かつ体系的な教育訓練等(労働者派遣法第30条の2)
- 派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保のための措置(労働者派遣法第30条の3)
- 一定の要件を満たす労使協定に基づく待遇の確保のための措置(労働者派遣法第30条の4)
- 職務の内容等を勘案した賃金の決定(労働者派遣法第30条の5)
- 就業規則の作成等における派遣労働者の過半数を代表する者への意見聴取(労働者派遣法第30条の6)
- 派遣労働者等の福祉の増進のための措置(労働者派遣法第30条の7)
- 適正な派遣就業の確保のための措置(労働者派遣法第31条)
- 待遇に関する事項等の説明(労働者派遣法第31条の2)
- 派遣労働者であることの明示等(労働者派遣法第32条)
- 派遣労働者に係る雇用制限の禁止(労働者派遣法第33条)
- 就業条件等の明示(労働者派遣法第34条)
- 労働者派遣に関する料金の額の明示(労働者派遣法第34条の2)
- 派遣先への通知(労働者派遣法第35条)
- 派遣可能期間の適切な運用(労働者派遣法第35条の2・労働者派遣法第35条の3)
- 日雇労働者についての労働者派遣の原則禁止(労働者派遣法第35条の4)
- 離職した労働者についての労働者派遣の禁止(労働者派遣法第35条の5)
- 派遣元責任者の選任(労働者派遣法第36条)
- 派遣元管理台帳の作成、記載及び保存(労働者派遣法第37条)
詳細につきましては、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」p.159以下をご参照ください。
ポイント
- 労働者派遣法による許可が必要な派遣元には、労働者派遣法で多くの義務が課される。
労働者派遣法において派遣先が講ずべき措置等
他方、労働者派遣法では、派遣先が講ずべき措置等として、第3章第3節(労働者派遣法第39条以下)において、次のような内容が規定されています。
派遣先事業主の講ずべき措置等
- 労働者派遣契約に関する措置(労働者派遣法第39条)
- 適正な派遣就業の確保等のための措置(労働者派遣法第40条第1項)
- 派遣先による均衡待遇の確保(労働者派遣法第40条第2項〜第6項)
- 派遣先の事業所単位の派遣期間の制限の適切な運用(労働者派遣法第40条の2)
- 派遣労働者個人単位の期間制限の適切な運用(労働者派遣法第40条の3)
- 派遣労働者の雇用の努力義務(労働者派遣法第40条の4)
- 派遣先での常用労働者(いわゆる「正社員」)化の推進(労働者派遣法第40条の5)
- 離職した労働者についての労働者派遣の役務の提供の受入れの禁止(労働者派遣法第40条の9)
- 派遣先責任者の選任(労働者派遣法第41条)
- 派遣先管理台帳の作成、記載、保存及び記載事項の通知(労働者派遣法第42条)
詳細につきましては、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」p.273以下をご参照ください。
ポイント
- 労働者派遣法では、特に許可が必要でない派遣労働者の受け入れ先=派遣先にも多くの義務が課される。
労働者派遣法と業務委託契約(請負契約・委任契約・準委任契約)との関係・違いとは?
労働者派遣契約と業務委託契約との関係とは?
労働者派遣契約は客先常駐型の業務委託契約とよく似ている
労働者派遣法が業務委託契約に関わる理由は、業務委託契約が実質的には労働者派遣契約であることがあるからです。
ここでもう一度、労働者派遣契約の定義を確認しておきましょう。
【意味・定義】労働者派遣契約とは?
労働者派遣契約とは、当事者の一方が相手方に対し、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、相手方の指揮命令を受けて、当該相手方のために労働に従事させることを約する契約。
このような契約形態は、客先常駐型の業務委託契約と非常によく似ています。
SES契約・建設工事請負契約・製造業務委託契約などが要注意
具体的には、以下のような契約によくあるパターンです。
労働者派遣契約によく似た業務委託契約
実質的に労働者派遣契約とみなされやすい契約
- 客先常駐型のソフトウェア(プログラム・システム・アプリケーション)開発の業務委託契約(いわゆるシステムエンジニアリング契約・SES契約)
- 建設工事の現場での下請け工事の建設工事下請負契約
- 委託者の工場・事業所でおこなわれる製造業務委託契約
これらの契約は、労働者派遣契約とみなされる可能性があります。
なお、適法な業務委託契約と労働者派遣法の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
業務委託契約が労働者派遣契約とみなされると労働者派遣法違反
これらの業務委託契約が労働者派遣契約とみなされた場合、委託者は派遣元、受託者は派遣先とみなされます。
こうなると、すでに述べたような、派遣先・派遣元としての様々な義務を果たしていなければなりません。
注意しなければいけないのは、業務委託契約が労働者派遣契約とみなされた時点から、派遣先・派遣元としての義務を果たさなければならないのではありません。
実質的には、労働者派遣契約となった時点から「果たしていなければ」ならないのです。
ですから、実際には、業務委託契約が労働者派遣契約とみなされたら、労働者派遣法の義務を免れることは不可能です。
偽装請負とは?
このような、労働者派遣契約とみなされる業務委託契約のことを、一般的に「偽装請負」といいます。
偽装請負とは、次の定義で使われる言葉です。
【意味・定義】偽装請負(労働者派遣法・労働者派遣契約)とは?
労働者派遣法・労働者派遣契約における偽装請負とは、実態は労働者派遣契約なのに、労働者派遣法等の法律の規制を免れる目的で、請負その他労働者派遣契約以外の名目で契約が締結され、労働者が派遣されている状態をいう。
偽装請負につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
37号告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準)とは?
では、労働者派遣契約ではなく、また、偽装請負でもなく、適法な業務委託契約とするにはどうしたらいいのか。
この点につきましては、厚生労働省がガイドラインを出しています。
このガイドラインが、いわゆる「37号告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準)」です。
【意味・定義】37号告示とは?
37号告示とは、労働者派遣事業と請負等の労働者派遣契約にもとづく事業との区分を明らかにすることを目的とした厚生労働省のガイドラインである「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」をいう。
適法な業務委託契約とするには、この37号告示に準拠して、9つの条件を満たした業務委託契約書を作成しなければなりません。
業務委託契約書を作成する理由
偽装請負(=労働者派遣契約・労働者派遣法違反)ではなく、適法な業務委託契約とするためには、37号告示に準拠した適法な業務委託契約書が必要となるから。
また、実態としても、適法な業務委託契約となるようなオペレーションとします。
37号告示につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 一部の客先常駐型の業務委託契約は労働者派遣契約に酷似している。
- 業務委託契約が労働者派遣契約とみなされると労働者派遣法違反
- 偽装請負=実質的に労働者派遣契約の業務委託契約。
- 適法な業務委託契約とするには37号告示に準拠した業務委託契約書の作成が必要。
労働者派遣法に関するよくある質問
- 労働者派遣法とはどのような法律ですか?
- 労働者派遣法とは、労働者派遣事業の適正な運営の確保による派遣労働者の保護により、派遣労働者の雇用の安定等を目的とした法律のことです。誤解されがちですが、労働者派遣法の保護を受けるのは派遣労働者のみであり、許可制の派遣元はもとより、派遣先も各種の規制を受ける立場にあります。
- 労働者派遣法と業務委託契約(請負契約・委任契約・準委任契約)との関係・違いとは?
- 労働者派遣法において規定されている労働者派遣契約は、外形的には業務委託契約に非常によく似ています。このため、実質的には労働者派遣契約であるにもかかわらず、形式的には業務委託契約の契約形態となっている、いわゆる「偽装請負」が問題となります。