下請法の三条書面と注文書・発注書の違いは何でしょうか?
三条書面は、下請法第3条にもとづき親事業者が下請事業者に対し「交付」しなければならない書面です。これに対し、注文書・発注書は、注文者(委託者)から受注者(受託者)に対する意思表示≒契約の申込みの証拠として交付される書面です。
通常、三条書面の要件を満たした書面は注文書・発注書と同様に扱われますので、両者を兼用する場合が多く、その場合は両者には大きな違いはありません。

このページでは、下請法の親事業者・下請事業者向けに、下請法の三条書面と注文書・発注書の定義とこれらの違いについて解説しています。

下請法の三条書面と注文書・発注書は、理論上はまったく別物ですが、実務上は両者を兼用して運用することが多いです。

つまり、下請法が適用される企業間取引の場合、親事業者は、下請事業者に対し、三条書面の要件を満たした注文書・発注書を交付することで、下請法第3条の規制を遵守しつつ、その取引にかかる契約の申込みをします。

このように、一般的な下請取引においては、「三条書面=注文書・発注書」として扱われますが、細かな違いもあるため、特にイレギュラーが発生した場合は、注意が必要な場面もあります。

このページでは、こうした三条書面と注文書・発注書の違いや実務上の取扱いについて、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 三条書面と注文書・発注書の違い
  • 三条書面の定義
  • 注文書・発注書の定義
  • 三条書面の要件を満たしていない注文書・発注書の民事上の取扱い
  • 三条書面を交付した場合における民事上の効果




三条書面と注文書・発注書の違いとは

三条書面と注文書・発注書は、ともに契約の内容を通知する書面である点で共通しています。

他方で、三条書面と注文書・発注書は、下請法第3条にもとづき交付される通知の書面(三条書面)であるか、または契約の申込みの意思表示を証する書面(注文書・発注書)、つまり民事上の効果の有無に違いがあります。

三条書面と注文書・発注書の違い

三条書面と注文書・発注書は、下請法第3条にもとづき交付される通知の書面(三条書面)であるか、または契約の申込みの意思表示を証する書面(注文書・発注書)=民事上の効果がある書面であるかの点。ただし、実務上は同様となるように運用がされることが多い。

下請法第3条では、特に民事上の効果については、特に明記されていません。

下請法第3条(書面の交付等)

1 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。

ただし、三条書面のみを交付したからといって、民事上の効果がまったく無いわけではなく、三条書面の要件を満たした書面は、事実上は民事上の効果が認められる可能性が非常に高いです。

下請法第3条に「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、」とあるとおり、三条書面は、「製造委託等をした場合」に交付される書面です。

そもそも、三条書面は「親事業者から発注時の取引条件等を明確に記載した書面を発注の都度下請事業者に交付させ、下請取引に係るトラブルを未然に防止するため」に交付されるものです。

● この規定が設けられたねらい

下請取引において口頭による発注は、発注時の取引条件等が不明確でトラブルが生じやすく、トラブルが生じた場合、下請事業者が不利益を受けることが多い。そのため、親事業者から発注時の取引条件等を明確に記載した書面を発注の都度下請事業者に交付させ、下請取引に係るトラブルを未然に防止するためにこの規定が設けられた。

このことから、三条書面が「製造委託等をした場合」の取引条件を明確化した書面であるにもかかわらず、民事上の効果、つまり、契約の申込みや承諾のような意思表示が否定されるとは考えにくいと言えます。

また、「下請代金支払遅延等防止法第3条に規定する書面に係る参考例」には、以下のような記載があります。

(途中省略)親事業者と下請事業者の間で取り交わされる契約書等の内容が,3条規則で定める事項をすべて網羅している場合には,当該契約書等を3条書面とすることが可能であるので,別に書面を作成する必要はない。

こうした背景から、下請法が適用される一般的な下請取引において、注文書・発注書を使用する場合は、三条書面の要件を満たすことにより、注文書・発注書と三条書面を兼用し、わざわざ分けて運用することはありません。

なお、これらの考え方は、いわゆる「フリーランス保護法」でも同様といえます。





【意味・定義】三条書面とは

親事業者が下請事業者に対して交付する義務がある書面

三条書面とは、下請法(正式には「下請代金支払遅延等防止法」)第3条に規定されている書面です。

【意味・定義】三条書面(下請法)とは?

三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者に対し交付しなければならない書面をいう。

公正取引委員会規則=「下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則」

下請法第3条に規定する「公正取引委員会規則」とは、「下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則」のことです。

この規則は、正式名称が非常に長いので、「下請法三条規則」、「三条書面規則」、「三条規則」と省略されます。

実際に三条書面を作成する際には、下請法第3条とともに、下請法三条規則も併せて確認しながら作成します。

親事業者が下請事業者に対し、下請法第3条と下請法三条規則に適合した書面を交付して、はじめて三条書面を交付したことになります。

逆にいえば、下請法第3条と下請法三条規則に適合していない書面を交付しても、三条書面を交付したことにはなりません。

三条書面の記載事項一覧

下請法第3条と下請法三条規則では、以下の内容が、三条書面の記載事項とされています。

三条書面の必須記載事項

  1. 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
  2. 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  3. 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)
  4. 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
  5. 下請事業者の給付を受領する場所(役務提供委託の場合は、役務が提供される場所)
  6. 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)について検査をする場合は、その検査を完了する期日
  7. 下請代金の額
  8. 下請代金の支払期日
  9. 下請代金の全部又は一部の支払につき、手形を交付する場合は、その手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
  10. 下請代金の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払を受けることができることとする額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  11. 下請代金の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
  12. 原材料等を有償支給する場合は、その品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日及び決済方法

この他、三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項について解説





【意味・定義】注文書・発注書とは

注文書・発注書=両者とも契約の申込みを証する書面

注文書・発注書とは、ともに委託者・発注者からの何らかの契約の申込みを証する書面です。

【意味・定義】注文書・発注書とは?

注文書・発注書とは、一方の契約当事者(委託者・発注者)から他方の契約当事者(受託者・受注者)に対する、何らかの契約の申込みの意思表示をするための書面をいう。

このため、注文書と発注書の違いは、特にありません。

あくまで「契約の申込みを証する書面」でしかない

このように、注文書・発注書は、あくまで「契約の申込みを証する書面」にすぎません。

契約は、申込みと承諾があって成立するものです(民法第522条第1項)。

民法第522条(契約の成立と方式)

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

つまり、注文書・発注書を交付したとしても、それだけでは、一般的には契約は成立しません。

契約の成立には注文請書・受注書が必要

このため、下請取引の実務では、通常は、注文書・発注書を単体で使いません。

通常は、少なくとも、「契約の申込みに対する承諾を証する書面」=注文請書・受注書をセットで使うことで、下請取引を成立させます。

ただ、少額な下請取引など、リスクが少ない場合は、わざわざ注文請書・受注書を使わず、口頭や電子メール等で承諾を伝えることもあります。

なお、いわゆる取引基本契約等で、注文書・発注書の交付だけで自動的に(個別)契約を成立させることもできます。

【意味・定義】基本契約(取引基本契約)とは?

基本契約とは、継続的な売買契約、請負契約、準委任契約の取引の基本となる、個々の取引に共通して適用される契約条項を規定した契約をいう。取引基本契約ともいう。

この他、注文書・発注書の使い方につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

注文書と発注書の違いは?業務委託契約における使い方についても解説





補足1:三条書面の要件を満たしていない場合は契約は成立しない?

それでは、親事業者が下請事業者に交付した注文書・発注書に不備があり、三条書面の要件を満たしていない場合は、契約は成立するのでしょうか?

これについては、すでに述べたとおり、下請法第3条には民事上の効果は規定されていません。

このため、親事業者から下請事業者に交付した注文書・発注書が三条書面の要件を満たしていなかったとしても、契約の成立については別途判断されます。

つまり、三条書面の要件を満たしていない注文書・発注書であっても、受注者(受託者)からの承諾があれば、契約として成立する可能性は十分にあり得ます。

この場合、不備があった事項については、下請法や民法・商法などにもとづき判断されます。





補足2:「三条書面の交付=契約の成立」ではない

下請事業者からの「受託」「承諾」があって契約は成立する

また、三条書面は、あくまで親事業者が下請事業者に対し「製造委託等をした場合」に交付される書面です。

通常、三条書面は、親事業者から下請事業者に対する「契約の申込み」を証する書面として交付されます。

よって、下請事業者からの製造委託等の「受託」=「契約の申込みに対する承諾」がなければ、契約としては成立しません。

ただし、レアケースではありますが、先に下請事業者からの「契約の申込み」があり、それに対する承諾として三条書面が交付されることがあります。

この場合は、三条書面の交付をもって契約が成立することとなります。





補足3:「三条書面の交付=契約の成立」とすることもできる

三条書面の交付をもって自動的に契約の成立とすることもできるがリスクも多い

なお、三条書面の交付をもって、自動的に下請取引に関する契約を成立させることもできます。

この場合であっても、三条書面の要件を満たしていれば、下請法第3条そのものには違反しません。

ただし、三条書面の表現として問題がなかったとしても、契約条項の内容として問題があった場合は、以下の親事業者の禁止事項のいずれかに該当します。

親事業者の禁止事項概要
【禁止行為1】受領拒否の禁止
下請法第4条第1項第1号
注文した物品等の受領を拒むこと。
【禁止行為2】支払拒絶・支払遅延の禁止
下請法第4条第1項第2号
物品等を受領した日から起算して 60 日以内に定められた支払期日までに下請代金を支払わないこと。
【禁止行為3】下請代金の減額の禁止
下請法第4条第1項第3号
あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
【禁止行為4】受領後の返品の禁止
下請法第4条第1項第4号
受け取った物を返品すること。
【禁止行為5】買いたたきの禁止
下請法第4条第1項第5号
類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
【禁止行為6】強制購入・強制利用の禁止
下請法第4条第1項第6号
親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
【禁止行為7】報復措置の禁止
下請法第4条第1項第7号
下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
【禁止行為8】有償支給原材料等の代金の早期決済の禁止
下請法第4条第2項第1号
有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり、支払わせたりすること。
【禁止行為9】割引困難な手形の交付の禁止
下請法第4条第2項第2号
一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
【禁止行為10】不当な経済上の利益の提供の要請の禁止
下請法第4条第2項第3号
下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること。
【禁止行為11】不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止
下請法第4条第2項第4号
費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること。

特に、価格交渉を一切せずに、不当に低い下請代金を設定したうえで、三条書面の交付のみで下請取引にかかる契約を成立させた場合は、下請代金の減額や買いたたきに該当する可能性が高いです。

フリーランス・個人事業者相手で契約を自動成立とした場合は労働者扱いになる

また、下請事業者がフリーランス・個人事業者である場合において、契約を自動成立としたときは、下請取引かかる業務委託契約ではなく、労働契約・雇用契約とみなされるリスクがあります。

下請事業者がフリーランス・個人事業者である場合に、適法な業務委託契約か労働契約・雇用契約とみなされるかの判断基準は、「労働基準法研究会報告」において示されています。

『労働基準法研究会報告』とは?労働基準法の労働者の判断基準について解説

この「労働基準法研究会報告」の1(1)イには、次のとおり、「仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無」が規定されています。

1 「使用従属性」に関する判断基準

(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準

労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち他人に従属して労務を提供しているかどうかに関する判断基準としては、種々の分類があり得るが、次のように整理することができよう。

イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

「使用者」の具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由を有していれば、他人に従属して労務を提供するとは言えず、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係を否定する重要な要素となる。これに対して、具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して拒否する自由を有しない場合は、一応、指揮監督関係を推認させる重要な要素となる。なお、当事者間の契約によっては、一定の包括的な仕事の依頼を受諾した以上、当該包括的な仕事の一部である個々具体的な仕事の依頼については拒否する自由が当然制限される場合があり、また、専属下請のように事実上、仕事の依頼を拒否することができないという場合もあり、このような場合には、直ちに指揮監督関係を肯定することはできず、その事実関係だけでなく、契約内容等も勘案する必要がある。

つまり、個々の下請取引関する業務委託契約の注文・発注に対して、下請事業者の諾否の自由がある場合は、指揮命令関係が否定され、適法な業務委託契約とみなされる可能性が高くなります。

他方で、これらの注文・発注について、下請事業者の諾否の自由がない場合は、指揮命令関係が推認され、雇用契約・労働契約とみなされる可能性が高くなります。





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