フリーランス保護法では、誰が適用対象となるのでしょうか?また、どのような取引が適用対象となるのでしょうか?
フリーランス保護法では、従業員がいないフリーランス(個人事業者)や一人法人が保護対象となり、これらに対する発注事業者が規制対象となります。また、再委託でないものや建設工事も含めて、ほとんどの業務委託契約が適用対象となります。

このページでは、フリーランス・個人事業者やその発注者などの業務委託契約の当事者向けに、フリーランス保護法(フリーランス新法)の適用対象について解説しています。

フリーランス保護法は、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(別名:フリーランス・事業者間取引適正化等法)といいます。

フリーランス保護法では、フリーランス(個人事業者)や役員が1人のいわゆる一人法人が保護対象とされ、これらに業務委託をする発注事業者が規制対象となります。

また、フリーランス保護法は、ほとんどの業務委託契約が適用対象となります。

この適用対象は下請法よりも範囲が広く、再委託でない役務提供委託や、建設工事に関する役務提供委託も適用対象となります。

このページでは、こうしたフリーランス保護法の適用対象となる事業者と取引(業務委託)について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • フリーランス保護法の保護対象となる「特定受託事業者」の定義・範囲
  • フリーランス保護法の規制対象となる「業務委託事業者」・「特定業務委託事業者」の定義・範囲
  • フリーランス保護法の適用対象となる「業務委託」の定義・範囲




フリーランス保護法の適用対象となる事業者とは?

フリーランス保護法の適用対象は3種類

フリーランス保護法では、主に次の3つの事業者を適用対象としています。

フリーランス保護法の適用対象となる3つの事業者
  • 特定受託事業者:個人事業者または役員が1人だけの法人(いずれも従業員を使用しないものに限る)
  • 業務委託事業者:特定受託事業者に対し業務委託をする事業者(三条通知の明示義務の対象者)
  • 特定業務委託事業者:業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人事業者または役員が2人以上いる、もしくは従業員を使用する法人

以下、それぞれについて詳しく説明します。

特定受託事業者とは?

特定受託事業者とは、いわゆる「フリーランス」のことであり、個人事業者だけでなく、役員が1人だけの一人法人も該当します。ただし、いずれも、従業員(後述)を雇っていないことが条件となります。

【意味・定義】特定受託事業者とは?

フリーランス保護法における特定受託事業者とは、個人事業者または一人法人のうち、従業員を使用しないものをいう。

フリーランス保護法第2条(定義)

1 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

(1)個人であって、従業員を使用しないもの

(2)法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

つまり、個人・法人を問わず、組織としての実態がなく、1人で事業活動をしている事業者=フリーランスのことを意味してます。

この点について、一人法人の「代表者」は、自然人のみとされ、法人である代表者は含まれません。

根拠
No.関係項目等意見の概要考え方
1-2-2解釈ガイドライン第1部第1(略)本法上の「代表者」は自然人のみを指し、法人である代表者は含まないことは御理解のとおりですが、条文の記載から明らかであるため、原案どおりとします。

なお、特定受託事業者は、後述の三条通知の保護対象となります。

業務委託事業者とは?

業務委託事業者とは、前述の特定受託事業者に対し業務委託をする事業者です。

【意味・定義】業務委託事業者とは?

フリーランス保護法における業務委託事業者とは、特定受託事業者(従業員がいない個人事業者・一人法人)に対し業務委託をする事業者をいう。

フリーランス保護法第2条(定義)

5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。

業務委託事業者については、業種、事業規模、資本金の金額、従業員の使用などの他の条件は無く、特定受託事業者に対し業務委託をする事業者はすべて対象となります。

ですので、個人事業者や一人法人などのフリーランスであっても、業務委託事業者に該当することはあります。

また、特定受託事業者とは直接の業務委託が無かったとしても、別の事業者が実質的に業務委託をしている場合は、業務委託事業者に該当する場合もあります。

3 業務委託事業者(本法第2条第5項)

(途中省略)ただし、実質的に特定受託事業者に業務委託をしているといえる別の事業者が存在する場合には、当該事業者が「業務委託をする事業者」に該当する。実質的に特定受託事業者に業務委託をしているといえるかは、委託の内容(物品、情報成果物又は役務の内容、相手方事業者の選定、報酬の額の決定等)への関与の状況のほか、必要に応じて反対給付たる金銭債権の内容及び性格、債務不履行時の責任主体等を、契約及び取引実態から総合的に考慮した上で判断される。

これは、下請法のトンネル会社規制に相当する規制です。

下請法のトンネル会社規制や適用される条件についてわかりやすく解説

なお、業務委託事業者は、後述の三条通知の明示義務の対象者となります。

特定業務委託事業者とは?

特定業務委託事業者とは、前述の業務委託事業者の一部であり、業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人事業者か、または法人のうち2人以上の役員がいるものもしくは従業員を使用するものです。

【意味・定義】特定業務委託事業者とは?

フリーランス保護法における特定業務委託事業者とは、業務委託事業者のうち、従業員を使用する個人事業者または役員が2人以上いる、もしくは従業員を使用する法人をいう。

フリーランス保護法第2条(定義)

6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

(1)個人であって、従業員を使用するもの

(2)法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの

なお、特定業務委託事業者は、後述の支払期日の60日ルール、禁止行為、予告解除の規制対象者となります。

従業員とは?

従業員とは、いわゆる「労働者」のことを意味します。

より正確には、労働基準法上の労働者または派遣労働者のうち、一定の所定労働時間と雇用期間(役務提供期間)が見込まれるもののことです。

【意味・定義】従業員(フリーランス保護法)とは?

フリーランス保護法における従業員とは、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、継続して31日以上雇用または労働者派遣の役務の提供があることが見込まれる労働基準法上の労働者または派遣労働者のことをいう。

3 従業員を使用

「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。)を雇用することをいう。ただし、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条第4号に規定する派遣先として、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上労働者派遣の役務の提供を受けることが見込まれる派遣労働者を受け入れる場合には、当該派遣労働者を雇用していないものの、「従業員を使用」に該当する。
なお、事業に同居親族のみを使用している場合には、「従業員を使用」に該当しない。

ただし、「同居家族のみ」を使用する場合は、ここでいう「従業員を使用」には該当しません。

また、労働者は、あくまで労働基準法上の労働者に限定されており、家内労働法上の「家内労働者」はここでいう従業員には該当しません。





フリーランス保護法の適用対象となる取引=「業務委託」とは?

業務委託=物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供

フリーランス保護法の対象となる取引には、あらゆる取引が該当するわけではありませんが、ほとんどの業務委託が該当します。

ここでいう、業務委託とは、物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供のいずれかの委託を意味します。

【意味・定義】業務委託(フリーランス保護法)とは?

フリーランス保護法における業務委託とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む)、情報成果物の作成、役務の提供(自らに役務の提供をさせることを含む)を委託することをいう。

フリーランス保護法第2条(定義)

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

以下、それぞれ詳しく解説します。

物品の製造・加工

物品の製造・加工とは、文字どおり、物品(不動産は含まない)の製造や加工を意味します。

製造とは「原材料たる物品に一定の工作を加えて新たな物品を作り出すこと」、加工とは「原材料たる物品に一定の工作を加えることによって、一定の価値を付加すること」をそれぞれ意味します(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第1部第1の3(2)ア)。

物品の製造・加工の具体例としては、製造業における製造請負契約や製造業務委託契約などが該当します。

この物品の製造・加工を委託することが、フリーランス保護法の「業務委託」に該当します。

なお、不動産に関する製造や加工、下請法の「修理委託」は、後述の役務の提供に該当します。

情報成果物の作成

情報成果物には、以下の4つが該当します。

フリーランス保護法の4つの情報成果物
  • プログラム:ゲームソフト、会計ソフト、家電製品の制御プログラム、顧客管理システム等
  • 映像・音声コンテンツ:テレビ番組、テレビCM、ラジオ番組、映画、アニメーション等
  • グラフィック等のデザイン等:設計図、ポスターのデザイン、商品・容器のデザイン、コンサルティングレポート、雑誌広告、漫画、イラスト等
  • で政令で定めるもの:該当なし

フリーランス保護法第2条(定義)

4 前項第一号の「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。

(1)プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)

(2)映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの

(3)文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの

(4)前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの

情報成果物の作成の具体例としては、システム開発、アプリ開発、SES(システムエンジニアリングサービス)、アニメーションの作成、グラフィックデザイン、ライティングなどが該当します。

これらの情報成果物の作成を委託することが、フリーランス保護法の「業務委託」に該当します。

役務の提供

役務の提供とは、「いわゆるサービス全般について労務又は便益を提供することをいう」とされています(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第1部第1の3(2)ウ(ア))。

このため業種や提供の方法を問わず、あらゆる事業用に提供されるサービスが、役務の提供に該当します。

この役務の提供を委託することが、フリーランス保護法の「業務委託」に該当します。

建設工事の役務の提供も適用対象

このように、フリーランス保護法における「役務の提供」には、あらゆるサービスの提供が該当します。

特に、下請法とは異なり、建設工事の委託についても、フリーランス保護法の適用対象となります。

このため、下請法の適用対象外である建設業者としては、建設業法第19条と併せて、いわゆる一人親方に対する業務委託がフリーランス保護法の対象となることに注意が必要です。

No.関係項目等意見の概要考え方
4-6本法と建設業法が重畳して適用されるかについても明示されたい。

理由
本法第 2 条第 3 項第 2 号に規定する「役務の提供」については、下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)第 2 条第 4 項に規定する「役務提供委託」と異なり、建設業法(昭和 24 年法律第 100号)第 2 条第 2 項に規定する建設業を営む者が業として請け負う建設工事を除くことの明示がなく、本法と建設業法の関係性が明らかではないため。

本法の「業務委託」(本法第2条第2項)には、建設工事の委託も含まれるため、本法と建設業法が重複して適用される場合も想定されます。

フリーランス保護法の「業務委託」は契約形態を問わない

なお、「『委託』に該当するかどうかは、取引の実態に基づき判断するものであり、契約の形態は問わない。とされています(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第1部第1の3(2)ア)。

このため、契約形態が請負契約か準委任契約かそれ以外の契約かは、「業務委託」に該当するかどうかの判断には影響を与えません。

この他、業務委託契約における契約形態につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約形態とは?その種類・一覧や書き方・規定のしかたについても解説





フリーランス保護法の業務委託は下請法の製造委託等よりも範囲が広い

フリーランス保護法の「業務委託」と下請法の「製造委託等」の違いとは

フリーランス保護法の「業務委託」は、下請法とは異なり、再委託のものや自家消費・自家使用のものに限らず、事業用の委託はすべて該当します。

また、すでに述べたとおり、建設工事の委託については、下請法とは異なり、フリーランス保護法の「業務委託」に該当します。

このため、フリーランス保護法の「業務委託」は、下請法の製造委託等よりも極めて広い取引が該当することとなります。

フリーランス保護法の「業務委託」と下請法の「製造委託等」の違い

フリーランス保護法の「業務委託」は、あらゆる業種の事業用の業務委託が対象となるのに対し、下請法の「製造委託等」は、建設工事の役務提供委託は対象外であり、また、再委託や自家消費・自家使用のものに限る。

「その事業のため」=事業用のため

フリーランス保護法では、業務委託について、「事業者がその事業のために」となっています。

フリーランス保護法第2条(定義)

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

これは、「当該事業者が行う事業の用に供するために委託すること」とされています。

(2)業務委託(本法第2条第3項)

(途中省略)「その事業のため」に委託するとは、当該事業者が行う事業の用に供するために委託することをいう。

これに対し、下請法の製造委託等は、いずれも「事業者が業として行う」「事業者が業として請け負う」「事業者が業として提供」といった再委託や自家使用・自家消費の場合に限っています。

この点から、フリーランス保護法の「業務委託」は、再委託や自家使用・自家消費に限らず、事業用の委託はすべて該当します。

「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む」とは?

また、役務提供委託に関しては、下請法とは異なり、再委託の場合のみならず「自らに役務の提供をさせる」場合も含ます。

フリーランス保護法第2条(定義)

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。

(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

(ア)役務の提供

(途中省略)下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号)第2条第4項の「提供の目的たる役務」とは、委託事業者が他者に提供する役務のことをいい、委託事業者が自ら用いる役務は含まれない。一方、本法第2条第3項第2号における「役務」は、「他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。」と定めているとおり、委託事業者が他者に提供する役務に限らず、委託事業者が自ら用いる役務を含むものである。

下請法が適用される条件とは?

これに対し、下請法が適用される条件は、以下の4パターンです。

パターン1
親事業者下請事業者
資本金の区分3億1円以上3億円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る
  4. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理に限る
パターン2
親事業者下請事業者
資本金の区分1千万1円以上3億円以下1千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る
  4. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理に限る
パターン3
親事業者下請事業者
資本金の区分5千万1円以上5千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 情報成果物の作成(プログラムの作成以外のもの)
  2. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理以外のもの)
パターン4
親事業者下請事業者
資本金の区分1千万1円以上5千万円以下1千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 情報成果物の作成(プログラムの作成以外のもの)
  2. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理以外のもの)

この他、業務委託契約に下請法が適用される条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?





フリーランス保護法の主な規制1:三条通知

三条通知とは?

フリーランス保護法が適用される場合、業務委託事業者には、特定受託事業者に対する委託内容の明示義務が課されます(フリーランス保護法第3条)。

この明示義務による通知のことを三条通知といいます。

フリーランス保護法第3条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

1 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。

【意味・定義】三条通知(フリーランス保護法)とは?

三条通知(フリーランス保護法)とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対し明示しなければならない通知をいう。

三条通知の明示事項とは?

フリーランス保護法第3条と関連する施行規則では、以下の内容が、三条通知の明示事項とされています。

三条通知の必須明示事項

  1. 業務委託事業者および特定受託事業者の商号、氏名もしくは名称または事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者および特定受託事業者を識別できるもの(施行規則第1条第1項第1号)
  2. 業務委託をした日(施行規則第1条第1項第2号)
  3. 特定受託事業者の給付の内容(施行規則第1条第1項第3号)
  4. 特定受託事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける期日等(施行規則第1条第1項第4号)
  5. 特定受託事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける場所(施行規則第1条第1項第5号)
  6. 特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日(施行規則第1条第1項第6号)
  7. 報酬の額(施行規則第1条第1項第7号)
  8. 報酬の支払期日(施行規則第1条第1項第7号および同条第3項)
  9. 報酬の全部または一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額および満期(施行規則第1条第1項第8号)
  10. 報酬の全部または一部の支払につき一括決済方式(債権譲渡担保方式またはファクタリング方式もしくは併存的債務引受方式)により金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の賃付けまたは支払を受けることができることとする場合は、当該金融機関の名称、当該金融機関から貸付けまたは支払を受けることができることとする額、および当該報酬債権または当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日(施行規則第1条第1項第9号)
  11. 報酬の全部または一部の支払につき、業務委託事業者および特定受託事業者が電子記録債権の発生記録をし、または譲渡記録をする場合は、当該電子記録債権の額および当該電子記録債権の支払期日(施行規則第1条第1項第10号)
  12. 報酬の全部または一部の支払につき、業務委託事業者が、資金決済に関する法律第36条の2第1項に規定する第一種資金移動業を営む同法第2条第3項に規定する資金移動業者(以下、単に「資金移動業者」という。)の第一種資金移動業に係る口座、同法第36条の2第2項に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者の第二種資金移動業に係る口座または同条第3項に規定する第三種資金移動業を営む資金移動業者の第三種資金移動業に係るロ座への資金移動を行う場合は、当該資金移動業者の名称および当該資金移動に係る額(施行規則第1条第1項第11号)

これらをより分かりやすく表現すると、以下のとおりとなります。

三条通知の必須明示事項
  1. 発注事業者およびフリーランスの名称(番号・記号等による記載も可)
  2. 業務委託をした日(業務委託をすることについて合意した日)
  3. 業務内容
  4. 納期等(成果物の納期または役務提供の期日・期間)
  5. 納入場所等
  6. 検査完了日(検査をおこなう場合)
  7. 報酬の額
  8. 報酬の支払期日
  9. 手形を交付する場合はその金額および満期
  10. 一括決済方式で支払う場合は、以下のもの
    • 金融機関名
    • 貸付けまたは支払を受けることができることとする額
    • 報酬債権または報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日
  11. 電子記録債権で支払う場合はその額および支払期日
  12. 電子マネー等の資金移動業者を通じてで支払う場合はその資金移動業の事業者の名称および金額

これらの三条通知に関する詳しい解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

三条通知(フリーランス保護法(新法))とは?三条書面(下請法)との違いについても解説





フリーランス保護法の主な規制2:支払期日の60日ルール

60日ルールとは?

フリーランス保護法が適用される場合、特定業務委託事業者から特定受託事業者に対する報酬の支払期日は、「給付を受領した日」や「役務の提供を受けた日」から起算して最長でも60日となっています。

フリーランス保護法による支払期日の制限

フリーランス保護法が適用される業務委託契約における支払期日は、発注事業者(特定業務委託事業者)による検査の有無にかかわらず、発注事業者がフリーランスからの給付を受領した日・役務の提供を受けた日、つまり納入があった日または業務が終了した日(初日を算入する)から起算して60日以内が最長。

この制限のことを、「60日ルール」といいます。

【意味・定義】60日ルール(フリーランス保護法)とは?

60日ルールとは、フリーランス保護法が適用される業務委託契約における支払代金の支払期日について、検査の有無にかかわらず、特定業務委託事業者が特定受託事業者からの給付を受領した日・役務の提供を受けた日(初日を算入する)から起算して60日以内を最長とするルールをいう。

なお、下請法同様、60日ルールには、「初日不算入の原則」は適用されず、初日を算入しますので、注意してください。

【意味・定義】初日不算入の原則とは?

初日不算入の原則とは、日、週、月または年によって期間を定めた場合、期間の初日は算入しない原則をいう。

民法第140条(初日不算入の原則)

日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

再委託の場合の60日ルールの特例(30日ルール)とは?

なお、特定委託事業者から特定受託事業者に対する業務委託が他の事業者(=元委託者)からの業務委託(=元委託業務)の再委託である場合、一定の条件を満たすことで、60日ルールの特例が適用されます(フリーランス保護法第4条第3項)。

その条件とは、以下の3つの事項を明示することです。

再委託の場合における60日ルールの例外のが適用される明示事項
  • 再委託である旨(再委託であることを把握し得る程度のもの)
  • 元委託者の商号、氏名もしくは名称または事業者別に付された番号、記号その他の符号であって元委託者を識別できるもの
  • 元委託業務の対価の支払期日(=元委託支払期日)

特定業務委託事業者が特定受託事業者に対しこれらの内容を明示した場合、元委託支払期日から起算して最長で30日(初日を算入する)の期間内に報酬の支払期日を定めることができます。

この他、支払期限につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における支払期限・支払期日とは?契約条項について解説?





フリーランス保護法の主な規制3:禁止行為

フリーランス保護法が適用される場合、特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し、以下の行為をおこなってはなりません(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第2部第2の2(2))。

特定業務委託事業者の禁止行為
禁止行為概要
受領拒否の禁止(本法第5条第1項第1号)注文した物品又は情報成果物の受領を拒むこと
報酬の減額の禁止(本法第5条第1項第2号)あらかじめ定めた報酬を減額すること
返品の禁止(本法第5条第1項第3号)受け取った物を返品すること
買いたたきの禁止(本法第5条第1項第4号)類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること
購入・利用強制の禁止(本法第5条第1項第5号)特定業務委託事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること
不当な経済上の利益の提供要請の禁止(本法第5条第2項第1号)特定受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること
不当な給付内容の変更及び不当なや り直しの禁止(本法第5条第2項第2号)費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさ
せること
根拠条文

フリーランス保護法第5条(特定業務委託事業者の遵守事項)

1 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。

(1)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。

(2)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。

(3)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。

(4)特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。

(5)特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。

2 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、次に掲げる行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。

(1)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

(2)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。

これらの禁止行為は、業務委託の期間が継続して1ヶ月(契約更新の場合を含む。)以上の場合に適用されます。

なお、1ヶ月未満の業務委託の期間が1ヶ月未満であっても、下請法が重畳適用されるは下請法の禁止行為が適用される可能性があります。

また、下請法が適用されない場合であっても、独占禁止法の優越的地位の濫用が適用される可能性もあります。





フリーランス保護法の主な規制3:30日前の予告解除・不更新

30日前の事前予告が必要な契約解除・不更新と例外とは?

フリーランス保護法が適用される場合、特定業務委託事業者から特定受託事業者に対する継続的業務委託の契約解除(不更新を含む)については、原則として、少なくとも30日前に予告しなければなりません。

ここでいう契約解除は、「特定業務委託事業者からの一方的な意思表示に基づく契約の解除」特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方第3部4(2))とされており、特定受託事業者からの解除や、いわゆる合意解除の場合は該当しません。

例外として、以下の場合は、事前予告は必要とされません(フリーランス保護法施行規則第4条各号列記)。

例外として事前予告が不要となる契約解除・不更新とは?
  • 災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合
  • 業務委託契約が再委託である場合に、元委託者と業務委託事業者との契約が解除されたことにより、特定受託事業者の業務の大部分が不要となった場合
  • 基本契約を締結している場合において、30日以下の個別契約を解除する場合
  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由により直ちに契約の解除をすることが必要であると認められる場合
  • 基本契約を締結している場合であって、特定受託事業者の事情により、相当な期間(概ね6か月以上)、当該基本契約に基づく業務委託をしていない場合

契約解除・不更新の事前予告の方法とは?

この場合の事前予告は、次の方法でなければなりません(フリーランス保護法施行規則第3条)。

契約解除・不更新の事前予告の方法
  • 書面の交付
  • ファクシミリの送信
  • 電子メール等(電子メール、SMS、SNSのDM等)の送信

また、この場合における電子メール等は、以下のものでなければなりません。

 

 

電子メール等の要件
  • 予告解除・不更新の内容を記録したファイルを添付すること。
  • 添付ファイルを出力することにより書面を作成できること。

契約解除・不更新の理由開示とその例外とは?

また、特定受託事業者から契約解除の理由を請求された場合、原則として、特定業務委託事業者は、その特定受託事業者に対し、遅滞なくその理由を開示しなければなりません。

また、理由開示の方法は、契約解除・不更新の予告通知と同様に、書面の交付、ファクシミリの送信、電子メール等(電子メール、SMS、SNSのDM等)の送信(書面に出力できるファイルが添付されたもの)のいずれかとなります。

例外として、以下の場合は、事前予告は必要とされません(フリーランス保護法第16条第2項および同法施行規則第6条)。

例外として契約解除・不更新の理由開示が不要となる場合とは?
  • 第三者の利益を害するおそれがある場合
  • 他の法令に違反することとなる場合





フリーランス保護法のその他の規制

この他、特定業務委託事業者には、以下の規制や義務が課されます。

フリーランス保護法のその他の規制
  • フリーランスの募集広告における募集情報の的確表示義務
  • フリーランスの妊娠・出産・育児・介護に対する発注事業者の配慮義務
  • フリーランスに対するセクハラ・マタハラ・パワハラに関する発注事業者の配慮義務





補足:フリーランス保護法の施行日(施行期日)は?

フリーランス保護法の施行日(施行期日)は、2024年(令和6年)11月1日となっています。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の施行期日を定める政令

内閣は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)附則第一項の規
定に基づき、この政令を制定する。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の施行期日は、令和六年十一月一日とする。

このため、施行日(施行期日)以前に締結された業務委託契約につきましては、フリーランス保護法は適用されません。

ただし、施行日(施行期日)以前に締結された業務委託契約であっても、施行日(施行期日)以後に更新された場合、更新後の業務委託契約については、フリーランス保護法が適用されます。

なお、当然ながら、施行日(施行期日)以後に締結された業務委託契約については、フリーランス保護法が適用されます。

この他、フリーランス保護法の施行日(施行期日)と既存の業務委託契約との関係につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

フリーランス保護法(新法)の施行日は?いつから適用?施行前の契約にも適用される?