- 業務委託契約において、受託者が業務を「丸投げ」をすることは、違法になるのでしょうか?
- 業務委託契約において、受託者が業務を「丸投げ」、つまり業務のすべてを再委託・下請負をした場合、契約内容によっては、違法となる場合があります。なお、建設工事請負契約の場合は、「一括下請負」に該当し、原則として違法=建設業法違反となります。
このページでは、主に業務委託契約の受託者の向けに、業務委託契約における業務の「丸投げ」の違法性について解説しています。
いわゆる「丸投げ」は、受託者が業務をすべて再委託することです。
業務のすべてを再委託すると、違法となる場合と、違法にならない場合があります。
また、違法とならない場合であっても、契約違反となる場合もあります。
このページでは、こうした業務の「丸投げ」の違法性・適法性や契約違反について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 業務の「丸投げ」が禁止、法律違反、違法、契約違反となる場合
- 業務の「丸投げ」が適法である場合
- 建設工事請負契約において「一括下請負」が禁止される場合と例外として認められる場合
結論:業務の「丸投げ」の違法性・適法性は?
結論としては、受託者が、受託した業務のすべての再委託(丸投げ)をした 場合、契約内容によって、以下のとおりとなります。
契約ごとの業務の「丸投げ」の違法性・適法性
- 請負契約型の業務委託契約:原則として適法
- 準委任型の業務委託契約:原則として違法(民法違反)
- 再委託の禁止条項がある業務委託契約:契約違反
- 民間工事の建設工事請負契約:原則として違法(建設業法違反)
- 公共工事の建設工事請負契約:違法(建設業法・入札契約適正化法違反)
- 警備業務委託契約:契約内容によっては行政指導の対象(「警備業者に対する警備業務提供委託に関する指針」違反)
それぞれ、詳しく解説します。
請負契約型の業務委託契約の場合:「丸投げ」=再委託は適法
請負契約は、「仕事の完成」を目的とした契約です。
【意味・定義】請負契約とは?
請負契約とは、請負人(受託者)が仕事の完成を約束し、注文者(委託者)が、その仕事の対価として、報酬を支払うことを約束する契約をいう。
請負契約では、仕事を「誰が」完成させたかは重要ではなく、結果として「仕事」の内容が重要となります。
【意味・定義】仕事(請負契約)とは?
請負契約における仕事とは、請負人が労務をすることによって何らかの結果を生じさせることをいう。
このため、民法上は、受託者(請負人)による再委託・下請負自体は、禁止されていません。
よって、請負契約型の業務委託契約では、業務の「丸投げ」=すべての業務を再委託・下請負をしたとしても、違法ではありません。
ただし、建設工事請負契約の場合は、後述の建設業法による規制=「一括下請負の禁止」がありますので、注意が必要です。
準委任契約型の業務委託契約の場合:「丸投げ」=再委託は違法
準委任契約は、契約当事者の信頼関係にもとづき成立している契約です。
【意味・定義】準委任契約とは?
準委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約をいう。
もちろん、他の契約も信頼関係があることが前提となることが多いですが、(準)委任契約は、より当事者の信頼関係が重視されます。
このため、(準)委任契約では、原則として、受託者(受任者)自身が、受託した業務を実施しなければなりません。
また、受託者以外の第三者に対する委託業務の再委託・再委任は、原則としてできません(民法第644条の2第1項)。
民法第644条の2(復受任者の選任等)
1 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
2 (省略)
引用元:民法 | e-Gov法令検索
以上のとおり、「委任者の許諾を得たとき」か「やむを得ない事由があるとき」でなければ、再委託・再委任はできません。
ただし、これは、「委任者(=委託者)の許諾を得たとき」や「やむを得ない事由があるとき」は再委託・再委任ができる、ということでもあります。
以上の点から、準委任契約型の業務委託契約では、業務の「丸投げ」=すべての業務を再委託・下請負をした場合は、違法=民法違反となります。
この場合、受託者による債務不履行=契約違反となります。
再委託が契約書で禁止されている場合:「丸投げ」=契約違反
なお、一般的な業務委託契約では、再委託に関する条項が規定されていることが多いです。
【意味・定義】再委託条項(下請負条項)とは?
再委託条項(下請負条項)とは、委託者が、受託者に対し、受託者による第三者に対する再委託・下請負を許可するか、または禁止する条項をいう。
この再委託条項(下請負条項)で再委託・下請負が禁止されている場合は、当然ながら、業務の「丸投げ」は契約違反=債務不履行となります。
この他、再委託条項(下請負条項)につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
建設工事の一括下請負は違法
一括下請負の禁止とは?
請負契約のうち、建設工事請負契約の場合は、業務の「丸投げ」のことを「一括下請負」といいます。
【意味・定義】一括下請負(建設業法)とは?
建設業法における一括下請負とは、建設業者が、その請負った建設工事(全部、主要部分、独立して機能する一部分のいずれか)を一括して他人に請け負わせることをいう。
この一括下請負は、建設業法第22条により、原則として禁止されています。
建設業法第第22条(一括下請負の禁止)
1 建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。
3 前2項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。
4 (省略)
引用元:建設業法 | e-Gov法令検索
なお、一括下請負は、営業停止命令や建設業許可の取り消しの原因となります(建設業法第28条、同第29条)。
共同住宅の新築工事以外の工事は一括下請負が可能
ただし、建設業法第22条第3項により、例外的に一括下請負が認められる場合があります。
その条件は、以下のとおりです。
民間工事において一括下請負が認められる例外の条件
- 工事が「多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である」であること。
- 発注者(いわゆる「施工主・施主」)からの書面による承諾があること。
一点目の「多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの」とは、「共同住宅を新築する建設工事」のことです(建設業法施行令第6条の3)。
つまり、「共同住宅を新築する建設工事」は一括下請負が認められませんが、「共同住宅を新築する建設工事」以外の工事の場合は、施工主・施主からの書面による承諾があれば、一括下請負が認められます。
公共工事は例外なく一括下請負は禁止
なお、公共工事は、入札契約適正化法により、一律で一括下請負が禁止されています。
入札契約適正化法第14条(一括下請負の禁止)
公共工事については、建設業法第22条第3項の規定は、適用しない。
このため、公共工事においては、一括下請負はできません。
この他、一括下請負の定義・条件・例外等につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
警備業務委託契約の丸投げ:行政指導の対象
警備業者が、委託を受けた警備業務の提供行為の全部または一部を他の警備業者に委託すること(以下、「警備業務提供委託」といいます。)については、警備業法では、特に規制されていません、
しかしながら、この「警備業務提供委託」は、「警備業者に対する警備業務提供委託に関する指針」により、事実上の規制が課されています。
具体的には、「丸投げ」を含めて、警備業者が他の警備業者に対して業務を再委託する場合は、契約内容として、以下の規定をしなければなりません。
(1) 利用者と親事業者との契約
利用者と親事業者の間の警備業務の提供行為に関する契約(以下「基本契約」という。)に係る契約書に親事業者が自ら行う警備業務と下請事業者が行う警備業務を明確に区分するため、次の事項を記載することとする。
① 請事業者の氏名又は名称及び所在地並びに法人にあってはその代表者の氏名
② 警備業務提供委託に係る警備業務の内容
③ 警備業務提供委託契約に係る警備業務の利用者に対する責任は親事業者が負う旨
④ その他親事業者と下請事業者の責任関係の明確化に必要な事項引用元:警備業者に対する警備業務提供委託に関する指針2(1)
なお、この他にも、細かな指針が定められています。
この指針はあくまで警備業法による明確な法的な根拠があるわけではありませんので、この指針に違反したことをもって、警備業法違反になるわけではありません。
ただし、行政指導の対象になる可能性はあります。
業務委託における「丸投げ」に関するよくある質問
- 業務委託契約において、受託者が業務を丸投げした場合は、違法となるのでしょうか?
- 業務委託契約において、受託者が業務を「丸投げ」、つまり業務のすべてを再委託・下請負をした場合、契約内容によっては、違法となる場合があります。
- 建設工事請負契約において、工事の「丸投げ」=一括下請負をした場合、違法となりますか?
- 建設工事請負契約では、民間工事の場合は、共同住宅の新築工事以外の工事では、施主・施工主から書面による承諾を受けていれば、一括下請負ができます。なお、公共工事においては、入札契約適正化法により、一括下請負は、一律で禁止されています。
- 丸投げを禁止している法律は?
- 丸投げを禁止している法律は、民法第644条の2、建設業法第22条、入札契約適正化法第14条、警備業法などがあります。