このページでは、業務委託契約の契約条項のうち、契約形態の条項について、簡単にわかりやすく解説しています。
契約形態の条項では、その業務委託契約が、民法上のどの契約(主に請負契約か準委任契約)に該当するのかを規定します。
この契約形態の条項は、民法上の定義がない業務委託契約においては、契約の全体に関わる、非常に重要な規定です。
このページでは、契約形態の条項の規定のしかたや書き方と、業務委託契約に与える影響について、解説します。
なお、業務委託契約の定義と基本的な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
契約形態では民法のどの契約なのかを規定する
契約形態の条項では業務委託契約の法的性質を規定する
契約形態の条項では、その業務委託契約が、民法上のどの契約に該当するのかを規定します。
実は、「業務委託契約」という名前の契約は、そもそも法律上の定義がない契約です。
「契約」にはいろんな種類がありますが、その多くは、民法で明確に規定されています(いわゆる「典型契約」)。
「典型契約」とは、売買契約、請負契約、委任契約などの、民法に規定されている13種類の契約をいう。
また、民法以外の法律によって規定されている契約もあります(例:労働者派遣法に規定する労働者派遣契約など)。
ところが、「業務委託契約」は、民法でも、その他の契約でも、定義が規定されていません。
つまり、業務委託契約は、「法的には存在しない契約」である、ということです。
契約内容として業務委託契約が「何の契約」かを規定する
そこで、業務委託契約では、契約形態の条項で、その業務委託契約が、民法上は何の契約に該当するのかを規定します。
多くの業務委託契約は、すでに触れた請負契約か準委任契約のどちらかになります。
このため、実際に受託者が提供する業務内容から、請負契約か準委任契約のどちらに該当するのかを検討して、契約条項として決定します。
請負契約と(準)委任契約の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
- 業務委託契約は、法的定義・民法上の定義がない契約。
- 多くの業務委託契約は、民法上の請負契約か準委任契約。
- 業務委託契約書では、必ず契約形態を規定する。
契約形態を明確に決めないことのリスクは?
意外に契約形態は明記されていない
一般的な業務委託契約書には、契約形態が明記されていない場合もあります。
というよりも、業務委託契約書で契約形態が明記されていることは、意外にありません。
実は、こうした契約形態が不明である、というのは、非常に大きなリスクがあります。
以下、詳しく解説していきます。
【リスク1】業務の結果が失敗した場合にトラブルとなる
結果についての責任に大きな違いがある
最も大きなリスクは、業務の実施そのもののがトラブルになる可能性がある、という点です。
請負契約と準委任契約は、「何かの業務を実施する」という、外形的には非常によく似た契約です。
しかし、実は、その業務の実施の性質は大きくことなります。
特に、業務を実施した結果についての責任の有無が、決定的に違います。
- 請負契約:受託者が【仕事の結果】に責任を負う契約。仕事の過程の責任は問われない。仕事が完成しないと報酬・料金・委託料の支払いはない。
- 準委任契約:受託者が【仕事の過程】に責任を負う契約。仕事の結果の責任は問われない。仕事が完成しなくても業務の実施があれば報酬・料金・委託料の支払いがある。
業務の結果が失敗した場合に主張が対立する
このため、契約形態を決めていないと、業務を実施した結果が失敗した場合に、委託者・受託者の双方が、自分にとって都合のいい契約形態を主張します。
これは、特にシステム等開発業務委託契約では、よくあるトラブルです。
システム等開発業務委託契約では、システム等の開発が頓挫したり、完成度が著しく低い場合、裁判まで発展するケースもあります。
こうした裁判では、ソフトウェア・プログラム・システム・アプリの完成度と契約形態を巡って、ユーザとベンダが、次のとおり主張します。
- ユーザの主張:契約形態は請負契約。よって、ソフトウェア・プログラム・システム・アプリが完成しないと報酬・料金・委託料は支払義務はない。
- ベンダの主張:契約形態は準委任契約。よって、ソフトウェア・プログラム・システム・アプリが完成しなかったとしても報酬・料金・委託料の請求権がある。
こうしたトラブルがないように、業務委託契約、特にシステム等開発業務委託契約では、契約形態を契約書に明記して作成するべきです。
【リスク2】不要な印紙税を負担させられる
また、それほど大きなリスクというわけではありませんが、契約形態を決めておかないと、払う必要のない印紙税を負担させられることになります。
請負契約と準委任契約の違いのひとつとして、契約書での印紙税の負担の有無があります。
請負契約 | 準委任契約 | |
---|---|---|
収入印紙 | 必要(1号文書、2号文書、7号文書に該当する可能性あり) | 原則として不要(ただし、1号文書、7号文書に該当する可能性あり) |
原則として、準委任契約書は不課税文書であるため、準委任契約書を作成した場合、印紙税を負担する必要はありません。
このため、準委任型の業務委託契約書の場合は、わざわざ契約形態を明記することにより、不必要な印紙税を負担するリスクもなくなります。
逆に、業務委託契約書に準委任契約であることが規定されていなければ、税務調査の際、税務署・国税庁の担当官から、請負契約と解釈される可能性があります。
こうなると、不必要な印紙税に加えて、過怠税を負担しなければならなくなります。
なお、準委任契約の印紙税については、詳しくは、以下のページをご覧ください。
- 業務の実施の結果が失敗であった場合、契約形態を決めていないと、双方が自分にとって都合のいい契約形態を主張し、トラブルとなる。
- 契約形態を契約書に明記していないと、払わなくてもいい印紙税を負担させられる可能性がある。
契約形態の条項は目的条項と同じ条項にすることも
契約形態の条項は、目的条項と同じ条項(多くは第1条)にすることもあります。
契約形態が第1条に規定されているほうが、契約全体を早く理解するためには便利ではあります。
ただ、だからといって、契約形態の記載が必ず第1条でなければならない、というわけではありません。
第1条よりも後でもかまいませんし、契約の構成によっては、個別契約で規定する場合もあります(システム等開発業務委託契約の場合など)。
このほか、目的条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
請負契約が準委任契約かは当事者が決める
当事務所によく寄せられるご質問ですが、すでに締結している業務委託契約について、「請負契約でしょうか?それとも準委任契約でしょうか?」というお問合わせをいただくことがあります。
これは、(たとえ専門家であっても)第三者が決めることではなく、当事者が決めるべきものです(もちろん、専門家としては、客観的に見て、請負契約か準委任契約かの見解を述べることはできます)。
このため、これから締結する業務委託契約であれば、相手方と協議のうえ、請負契約が準委任契約かを決めるべきです。
また、すでに締結した業務委託契約であっても、後から追加で合意することはできますので、こちらも相手方と協議のうえ、請負契約が準委任契約かを決めるべきです。
請負契約か準委任契約かは、当事者が決める。たとえ専門家であっても、第三者が決めることではない。