こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約書の条項のうち、合意管轄裁判所の条項について解説しています。

業務委託契約の合意管轄裁判所の条項では、業務委託契約に関してトラブルが発生した場合に、第一審の裁判を起こす裁判所を決めます。

このため、いかに自社に近い裁判所を合意管轄裁判所に指定できるかが、ポイントとなります。

一般的な業務委託契約書の合意管轄裁判所条項では、1箇所だけの裁判所を指定する「専属的合意管轄裁判所」とすることがほとんどです。

当然ながら、自社(または自社の顧問弁護士)に最も近い裁判所を指定すると、非常に有利になります。

ただ、「自社に近いほど有利」という単純な条項であるため、よく揉める条項でもあります。

そういう意味では、当事者の交渉上の力関係(バーゲニングパワー)がよく表れる条項です。

このページでは、こうした業務委託契約における合意管轄裁判所について、詳しく解説していきます。

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「合意管轄」とは?

訴訟を扱う裁判所=管轄裁判所は民事訴訟法で決められている

法律上のトラブルがあった場合に、訴訟で解決をするときは、裁判所に訴訟を起こすことになります。

このように、実際に訴訟を扱う裁判所のことを「管轄裁判所」といいます。

管轄裁判所とは?

管轄裁判所とは、提起された訴訟を取り扱うことができる裁判所のこと。

では、実際に訴訟が起こされた場合、どこの裁判所で取扱うのでしょうか?

実は、民事訴訟法第4条以下で、訴訟の内容によって、どこの裁判所が扱うのかは、詳細に決まっています。

業務委託契約に関する訴訟であっても、管轄裁判所は、民事訴訟法であらかじめ決まっています。

契約書で訴訟を起こせる裁判所を決められる

ただ、一定の条件のもとで契約当事者が合意することにより、民事訴訟法で決まっている管轄裁判所以外の裁判所でも、訴訟を起こすことができます(民事訴訟法第11条)。

民事訴訟法第11条(管轄の合意)

1 当事者は、第1審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。

2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。

3 第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

このような、契約当事者の合意によって決まった裁判所の管轄ことを「合意管轄」といいます。

ポイント

  • 裁判所の管轄は、本来は、民事訴訟法で決まっている。
  • 契約書で合意することにより、民事訴訟法で決まっている裁判所とは別の裁判所を管轄に指定できる場合もある。
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必ず「専属的合意管轄裁判所」と規定する

合意管轄裁判所には専属合意と付加合意の2種類がある

合意管轄裁判所には、次のとおり、2種類の合意があります。

裁判管轄の2種類の合意

  • 専属合意:1箇所の裁判所だけを指定する合意のこと。
  • 付加合意:本来の民事訴訟法で決められている裁判管轄に、プラスアルファで裁判管轄を追加する合意のこと。

1箇所の裁判所を特定する「専属合意」

専属合意は、1箇所の裁判所(または1箇所の地方裁判所と簡易裁判所)を特定して指定する合意です。

言い方を変えれば、民事訴訟法であらかじめ決まった裁判所を含めて、他の裁判所での裁判を排除する合意です。

例えば、埼玉県の企業と神奈川県の企業が業務委託契約を結んだ場合に、東京地方裁判所を管轄裁判所とするように「専属合意」をしたとします。

この場合、専属合意ですので、さいたま地裁や横浜地裁を含めて、他の裁判所では訴訟を起こせなくなります(一部例外があります)。

この事例では、どちらの企業も、東京地方裁判所でしか訴訟を起こすことはできません。

プラスアルファを規定するにすぎない「付加合意」

これに対し、付加合意は、本来の民事訴訟法で規定された裁判管轄の他に、訴訟を起こせる裁判所を追加する合意です。

これは、単に、民事訴訟法で規定された裁判管轄の他に、別の選択肢として裁判所を追加するだけに過ぎません。

先ほどの例と同じように、埼玉県の企業と神奈川県の企業が業務委託契約を結んだ場合に、東京地方裁判所を管轄裁判所とするように「付加合意」をしたとします。

この場合、付加合意ですので、東京地裁で訴訟を起こせますし、従来どおり、民事訴訟法で規定された、さいたま地裁や横浜地裁で訴訟を起こせます。

専属合意と付加合意の違い

以上の点をまとめると、以下のとおりです。

合意した管轄裁判所への提訴 民事訴訟法に規定された管轄裁判所への提訴
専属合意 提訴できる 提訴できない
付加合意 提訴できる 提訴できる

業務委託契約書ではほとんどが「専属合意」

業務委託契約書では、ほとんどの場合は、専属合意、つまり、訴訟を起こす裁判所を1箇所の裁判所を指定するために規定します。

合意管轄裁判所の条項は、訴訟を扱う裁判所を固定化することが目的です。

こうした管轄裁判所を固定するためには、専属合意でないと意味がありません。

付加合意とする場合は、単に訴訟をおこせる裁判所が増えてしまい、契約内容が不安定になるだけで、ほとんどメリットがありません。

ですから、業務委託契約の実務では、専属合意の合意管轄裁判所を規定するか、または、そもそも合意管轄裁判所の条項を規定しない、という対応がほとんどです。

業務委託契約書で、わざわざ付加合意の合意管轄裁判所の条項を規定するのは、単なるミスの可能性があります。

ポイント

  • 合意管轄裁判所には専属合意と付加合意の2種類がある。
  • 専属合意は、1箇所の裁判所を特定する合意のこと。
  • 付加合意は、本来の民事訴訟法で決められている裁判管轄に、プラスアルファで裁判管轄を追加する合意のこと。
  • 一般的な業務委託契約では、ほとんどが専属合意。
  • 「1箇所だけの裁判所の合意=専属合意」を決めるためには、必ず「専属的合意管轄裁判所」と契約書に書く。
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合意管轄裁判所を決めておくメリット・デメリット

メリット1:自社に近い合意管轄裁判所は訴訟費用が安くなる

業務委託契約書において、合意管轄裁判所を規定するメリットは、何といっても、自社に近い(有利な)裁判所を合意管轄裁判所として指定することで、訴訟の費用が安くなる、という点です。

裁判にはさまざまな費用がかかりますが、主な費用は、やはり弁護士の費用です。

そこで、合意管轄裁判所を決める際には、顧問弁護士がその裁判所に行きやすいかどうか、つまり出張費がかからないかどうかが、ひとつの判断基準となります。

一般的な企業では、本社(本店)に近い弁護士を顧問に選ぶものと思われます。

ですから、自社にとって有利な合意管轄裁判所の条項では、本社(本店)の所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所として規定します。

メリット2:自社に近い合意管轄裁判所は訴訟の抑止になる

自社に近い(有利な)場所の裁判所を合意管轄裁判所として指定すると、相手方にとっては、訴訟を起こすのにも、多額の費用がかかることになります。

こうした場合、相手方は、よほど多額の損害賠償金が見込めるような状況でもない限り、費用倒れとなる可能性が非常に高くなります。

このため、業務委託契約で自社に近い裁判所を合意管轄裁判所として指定できた場合、相手方が訴訟を起こしづらくなります。

結果として、自社に近い(有利な)合意管轄裁判所の条項は、訴訟そのものの抑止につながります。

デメリット1:自社にとって遠い合意管轄裁判所は訴訟費用が高い

逆に、自社にとって遠い裁判所を合意管轄として指定されてしまった場合、訴訟の費用は高くなってしまいます。

特に、弁護士の費用は、(弁護士事務所の方針や移動距離・宿泊の有無にもよりますが)出張費が1日あたりで10万円単位で発生します。

これだけの費用がかかるとなると、なんらかのトラブルがあったとしても、簡単には訴訟を起こせません。

ですから、トラブルがあったとしても、泣き寝入りしなければならないリスクがあります。

デメリット2:契約交渉が難航する可能性がある

合意管轄裁判所を専属合意とする場合は、「近いか遠いか」という点だけが交渉のテーマになります。

よほど近い場所にある企業同士でない限り、一方にとって近い裁判所は、相手にとっては遠い裁判所になるわけです。

このため、離れた企業同士で合意管轄裁判所を決める際には、完全に利害が対立します。

この点から、合意管轄裁判所の条項は、契約交渉が難航する可能性があります。

ポイント

合意管轄裁判所を決めておくメリット・デメリットは次のとおり。

  • メリット:自社にとって近い専属的合意管轄裁判所=訴訟費用が安く、訴訟の抑止にもなる。
  • デメリット:自社にとって遠い専属的合意管轄裁判所=訴訟費用が高い。また、そもそも専属的合意管轄裁判所を決定するための契約交渉が難航する。
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合意管轄裁判所が有効となる4つの条件とは?

合意管轄裁判所が認められるには一定の条件がある

民事訴訟法では、一定の条件のもとで、合意管轄裁判所を認めています。

ですから、業務委託契約書では、この一定の条件が満たされた書き方で合意管轄裁判所を決める必要があります。

では、その条件が規定された民事訴訟法第11条を見てみましょう。

民事訴訟法第11条(管轄の合意)

1 当事者は、第1審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。

2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。

3 第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

合意管轄が成立する4条件

  • 【条件1】「第一審」の訴訟に関する合意であること
  • 【条件2】「一定の法律関係に基づく訴え」であること
  • 【条件3】「書面で」合意すること(電子メールも可)
  • 【条件4】特定の裁判所を指定すること

以下、具体的にご説明します。

【条件1】「第一審」の訴訟に関する合意であること

民事訴訟法第11条第1項にあるとおり、合意管轄裁判所は、あくまで「第一審に限り、」決めることができます。

第二審(控訴審)や第三審(上告審)については、合意管轄裁判所として決めることはできません。

ちなみに、第一審は、地方裁判所または簡易裁判所でおこなわれます。

このため、契約書の合意管轄裁判所の条項では、当然、地方裁判所または簡易裁判所を指定することになります。

逆に、高等裁判所や最高裁を第一審の合意管轄裁判所としては、指定できません。

【条件2】「一定の法律関係に基づく訴え」であること

民事訴訟法第11条第2項にあるとおり、合意管轄裁判所で取扱う訴訟は、「一定の法律関係に基づく訴えに関し」たものだけです。

このため、契約書の規定としては、「本契約に関する紛争に関しする紛争については、」というような表記をします。

この点について、ありがちなミスとしては、「甲乙間に生じた一切の紛争について、」というような表記です。

このような表記は、「一定の法律関係に基づく訴え」ではないため、無効となります。

【条件3】「書面で」合意すること(電子メールも可)

民事訴訟法第11条第2項にあるとおり、裁判管轄の合意は、「書面でしなければ」なりません。

この点からも、有効な合意管轄裁判所を決めるためには、契約書の作成は必須です。

なお、民事訴訟法第11条第3項により、「電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみな」します。

このため、電磁的記録、つまり電子メールでの合意などの証拠があれば、必ずしも契約書などの書面での合意でなくても、裁判管轄の合意は有効となります。

もっとも、実務上は、裁判管轄だけを電子メールで合意することは、現実的ではありません。

このため、ここでいう「電磁的記録」というのは、電子商取引サービスや、クラウド上での契約締結サービスなどの利用を想定したものです。

【条件4】特定の裁判所を指定すること

具体的な裁判所を指定するか「本店所在地」とする

合意管轄裁判所は、特定の裁判所を指定しないと無効となる可能性があります。

具体的な書き方としては、2種類あります。

1つ目は、「東京地方裁判所」のように、絶対的な書き方で裁判所を指定する方法です。

2つ目は、「甲の本店所在地を管轄する地方裁判所」のように、相対的な書き方で裁判所を指定する方法です。

ちなみに、ふたつ目の書き方だと、本店を移転するようなことがあっても、対処できます。

ただ、顧問弁護士の事務所も一緒に移転するわけではないでしょうから、この書き方がメリットがある、とは言い切れません。

地方裁判所と簡易裁判所を指定できる

合意管轄裁判所は、すでに述べたとおり、第一審に限り、決めることができます。

第一審ということは、具体的には、地方裁判所と簡易裁判所を指定できます。

このため、以下の3種類の決め方で裁判所を決めます。

合意管轄裁判所の3種類の決め方

  • 地方裁判所と簡易裁判所の両方
  • 地方裁判所だけ(簡易裁判所を排除)
  • 簡易裁判所だけ(地方裁判所を排除)

3つ目の、高等裁判所を排除し、簡易裁判所のみを専属的合意管轄裁判所とする規定は、実務上は滅多に使いません。

もっとも、こうした規定を有効と認めた判例はあります。

地方裁判所にその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟が提起され,被告から同簡易裁判所への移送の申立てがあった場合において,同申立てを却下する旨の判断は,民訴法16条2項の規定の趣旨にかんがみ,広く当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当であるかどうかという観点からされるべきであり,地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられる。このことは,簡易裁判所の管轄が専属的管轄の合意によって生じた場合であっても異ならない。

地方裁判所の支部は指定できない

地方裁判所には、地裁本体の「本庁」と「支部」がありますが、合意管轄裁判所として、支部を指定することはできません。

あくあまで、合意管轄裁判所として指定できるのは、「本庁」だけです。

支部は、外部に対しては、本庁と一体とされています。このため、支部の管轄は、あくまで裁判所内部の基準に過ぎません。

このため、ある訴訟を本庁で扱うか、支部で扱うかは、裁判所が決めることであり、契約当事者は、そこまでは決めることができません。

参考: 最高裁判決昭和44年3月25日

ポイント

合意管轄裁判所が有効となる条件は以下の4つ。

  1. 「第一審」の訴訟に関する合意であること
  2. 一定の法律関係に基づく訴え」であること
  3. 「書面で」合意すること(電子メールも可)
  4. 特定の裁判所を指定すること
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合意管轄裁判所条項の記載例・書き方・決め方

具体的な合意管轄裁判所条項の記載例・書き方

それでは、具体的な合意管轄裁判所の記載例・書き方を見てみましょう。

典型的な専属的合意管轄裁判所の契約書の記載例・書き方その1

記載例・書き方

第○条(専属的合意管轄裁判所)

甲および乙は、本契約にもとづく紛争に関し、東京地方裁判所または東京簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

これは、東京地方裁判所と東京地方裁判所という具体的な裁判所を指定している合意管轄裁判所条項の記載例・書き方です。

こちらの記載例・書き方は、東京都に近い契約当事者、または東京都に顧問弁護士の事務所がある契約当事者にとって有利なものです。

典型的な専属的合意管轄裁判所の契約書の記載例・書き方その2

記載例・書き方

第○条(専属的合意管轄裁判所)

甲および乙は、本契約にもとづく紛争に関し、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

これは、一方の契約当事者である甲の本店所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所を指定しています。

「その1」とは違って、個別具体的な裁判所を指定しておらず、相対的な記載例・書き方になっています。

このため、甲の本店所在地が移転した場合は、同様に、合意管轄裁判所もまた、移転後の地方裁判所または簡易裁判所となります。

この記載例・書き方は、甲にとって、一方的に有利となります。

もっとも、乙側としては、「この合意管轄裁判所は、あくまで『契約締結当時の裁判所』を意味するのであって、本店移転後であろうと、契約締結当時の裁判所が合意管轄裁判所である」という主張も考えられます。

間違った記載例・書き方

専属合意とならず付加合意となる契約書の記載例・書き方

記載例・書き方

第○条(合意管轄)

甲の本店所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所とする。

この記載例・書き方では、「専属的合意管轄裁判所」ではなく「合意管轄裁判所」としているため、専属合意としては認められません(東京高裁判決昭和58年1月19日)。

記載例・書き方

第○条(合意管轄)

本件に関する訴訟は債権者の甲の本店所在地の管轄裁判所の審判を受くべき旨合意する。

この記載例・書き方では、「専属的合意管轄裁判所」ではなく、「管轄裁判所」としているため、専属合意としては認められません(大阪高裁判決平成2年2月21日)。

専属的合意管轄裁判所が無効になる契約書の規定

記載例・書き方

第○条(合意管轄)

本契約に関する訴訟は、甲の本社または甲の選択する裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。

この記載例・書き方では、相手方の実質的な防御の機会を一方的に奪うものとして、無効となります(東京高裁判決平成16年2月3日)。

ただし、この判例は、あくまで自動車リースに関する契約の条項であり、企業間取引である業務委託契約書の条項ではありません。この点につきましては、ご注意ください。

記載例・書き方

第○条(合意管轄)

本契約に関する訴訟は、原告の本支店の所在地を管轄する裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。

この記載例・書き方では、被告から実質的な防御の機会を一方的に奪うものとして、無効となります(横浜地裁判決平成15年7月7日)。

ただし、この判例は、あくまで商工ローンの定型契約書の条項であり、企業間取引である業務委託契約書の条項ではありません。この点につきましては、ご注意ください。

ポイント

必ず合意管轄が認められる4条件を満たした書き方とする。

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合意管轄裁判所で訴訟ができない場合もある

【意味・定義】合意管轄よりも優先される「専属管轄」とは?

契約書で有効な書き方で合意管轄裁判所を規定したとしても、特定の訴訟では、合意管轄よりも優先される管轄があります。

このように、合意管轄より優先される裁判管轄を「専属管轄」といいます。

専属管轄の定義

専属管轄とは、民事訴訟法によって規定される裁判管轄であって、合意管轄よりも優先されるものをいう。

民事訴訟法で専属管轄が決まっている場合は、合意管轄裁判所では訴訟を起こせません。

この点について、業務委託契約書において特に注意しなければならないのが、特許権に関する訴訟です。

特許権等の訴訟では合意管轄は適用されない

特許権等の訴訟は東京地裁または大阪地裁の専属管轄

「特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え」では、契約書に合意管轄裁判所が規定されていても、民事訴訟法第6条による専属管轄が優先されます。

民事訴訟法第6条(特許権等に関する訴え等の管轄)

1 特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前2条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。

(1)東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 東京地方裁判所

(2)大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 大阪地方裁判所

2 (以下省略)

具体的な裁判所について、民事訴訟法では非常にわかりづらい表現ですが、わかりやすい表現をすれば、次のとおりです。

民事訴訟法第6条の内容

  • 本来の土地に準拠した土地管轄が名古屋高裁(を含む)東側に所在する地方裁判所が管轄の場合=東京地裁が専属管轄
  • 本来の土地に準拠した土地管轄が大阪高裁(を含む)西側に所在する地方裁判所が管轄の場合=大阪地裁が専属管轄

つまり、東日本の地方裁判所が管轄の場合は東京地裁、西日本の地方裁判所が管轄の場合は大阪地裁が、特許権等の裁判の専属管轄ということです。

契約書で東京地裁か大阪地裁を指定することはできる

ただ、民事訴訟法第13条第2項により、契約書で合意することによって、東京地裁か大阪地裁のいずれかを指定することはできます。

民事訴訟法第13条(専属管轄の場合の適用除外等)

1 (省略)

2 特許権等に関する訴えについて、第6条又は前2条の規定によれば第6条第1項各号に定める裁判所が管轄権を有すべき場合には、前項の規定にかかわらず、第7条又は前2条の規定により、その裁判所は、管轄権を有する。

ここでいう「前2条」には、合意管轄について記載された民事訴訟法第11条も含まれます。

これも非常にわかりづらい表現ですが、わかりやすく言えば、特許権等に関する訴えは、合意管轄によって指定された民事訴訟法第6条第1項各号、つまり東京地裁か大阪地裁が管轄権を有する、ということです。

このため、東京地裁か大阪地裁のいずれかであれば、契約書に合意管轄裁判所を規定することで、選ぶことができます。

例えば、名古屋に本社がある会社の場合、東京地裁を選ぶよりも大阪地裁を選んだほうが有利が場合もあります。

こうした場合は、特許権等に関する訴えについては、契約書で専属的合意管轄裁判所を大阪地裁とすることも可能です。

特許の契約では「譲歩をしている」ように見せかける常套手段

このような専属管轄は、契約交渉の場において、譲歩しているように見せかける手法としても使われます。

これは、主に、特許権の扱いがメインの契約(例えば特許権のライセンス契約)での契約交渉などで使われる手法です。

例えば、札幌の会社と東京の会社とのライセンス契約では、特許権に関する訴えは、東京地裁が専属管轄となります。

こうした場合、東京の会社としては、「専属的合意管轄裁判所は札幌にしてもいいですよ。その代わり、こちらの条件は…」という風に提案します。

もちろん、専属的合意管轄裁判所を札幌にしたところで、特許権の訴えに関しては、専属管轄である東京地裁が第一審の裁判所となります。

このため、札幌の会社の側の担当者が、特許権等の専属管轄について知らなければ、うっかり東京の会社の提案に乗ってしまうことになりかねません。

「移送」により合意管轄裁判所以外で訴訟がおこなわれることも

合意管轄は裁判所が認めないこともある

さて、ここまでは、業務委託契約書に合意管轄裁判所の規定を記載し、専属的合意管轄裁判所を決定する意味や理由について説明してきました。

改めてわかりやすく説味しますと、専属的合意管轄裁判所を決めておくことで、原則としては、その合意された裁判所だけで訴訟を提起することができます。

例外として、特許権等の一部の知的財産権の訴訟については、専属管轄により、民事訴訟法で定める裁判所(東京地裁か大阪地裁)でしか訴訟を提起できません。

実は、この他にも、裁判所の判断で、合意管轄を認めない場合もあります。それが、「移送」という手続きです。

【意味・定義】移送とは

移送とは、裁判所が、申立てまたは職権により、他の裁判所に訴訟を移すことです。これは、民事訴訟法第17条以下に規定されています。

移送は、合意管轄よりも優先します。これは、民事訴訟法第20条に規定されています。

民事訴訟法第20条(専属管轄の場合の移送の制限)

1 前3条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄(当事者が第11条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない。

2 (省略)

優先度は「専属管轄>移送>合意管轄」

非常にややこしい表現ですが、民事訴訟法第20条第1項は、まず「前3条の規定」、つまり「『移送の規定』は、専属管轄の場合は適用しない」という内容になっています。

この時点で、優先度は、「専属管轄>移送」ということです。

そのうえで、カッコ書きで、「専属管轄(『当事者が第11条の規定により合意で定めたもの』=合意管轄を除く。)」となっています。

これは、合意管轄は移送される、ということです。

つまり、最終的な優先度は、「専属管轄>移送>合意管轄」ということです。

このように、いくら専属的合意管轄裁判所を契約書で決めたからといって、完全に認められるとは限りません。

企業間取引きでは専属的合意管轄裁判所が移送されることは滅多にない

ただし、一般的な企業間の取引きでは、当事者が業務委託契約書で専属的合意管轄裁判所を決めている場合は、滅多に移送されることはありません。

通常、裁判管轄が移送されるのは、消費者と企業(特に金融関係の業種)との契約のように、立場に著しい差がある場合がほとんどです。

企業間の業務委託契約では、(実態はさておいて)対等な立場で契約を結んでいあるため、裁判管轄が移送されることはまずありません。

例外的に、フランチャイズ契約における、フランチャイザー(フランチャイズ本部)と、フランチャイジー(フランチャイズ加盟店)のように、立場に著しい差がある場合は、移送がされることもあります。

ポイント

  • 民事訴訟法により専属管轄が規定されている場合は、契約書に合意管轄の記載があっても、専属管轄が優先される。
  • 特許権等の訴訟は、合意管轄の規定があっても、東京地裁か大阪地裁のどちらかが専属管轄。
  • ただし、合意管轄として、東京地裁か大阪地裁のどちらかを選ぶことはできる。
  • 裁判所の判断による「移送」により、合意管轄裁判所以外の裁判所で訴訟がおこなわれることもある。
  • 一般的な企業間取引としての業務委託契約では、移送されることはほとんどない。