このページでは、主に業務委託契約の委託者・受託者の双方向けに、契約書における納期(納入期日・納入期限)の書き方について、解説しています。
一般的な業務委託契約では、納期は、日付を指定する形の書き方で指定することが多いです。
これは、委託者・受託者双方で誤解が生じないようにするためです。
他方で、納期の書き方には、特定の日を起算点として、「●●から起算して●日後」のように相対的な書き方で指定することもあります。
しかし、この書き方は、委託者・受託者双方の誤解を招くリスクがあります。
このページでは、こうした契約書における納期の書き方について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 納期の書き方。
- 絶対的な納期の書き方とメリット。
- 相対的な納期の書き方とリスク。
納期とは?
納期=納入・納品の期日・期限
納期とは、納入期限・納入期日・納品期限・納品期日の略称のことで、一般に、債務の弁済・履行として何らか物品・成果物の納品・納入の期限・期日のことを意味します。
【意味・定義】納期とは?
納期とは、一般に、何らか物品・成果物の納品・納入の期限・期日をいう。
そして、納期には、正確には次の2つがあります。
2つの納期
- 納入期限・納品期限=債務者が納入・納品をしなければならない期限
- 納入期日・納入期日=債務者が納入・納品をしなければならない期日
納入期限・納品期限と納入期日・納品期日の違い
納入期限・納品期限と納入期日・納品期日は、文字どおり、「期限」なのか「期日」なのかの違いがあります。
納入期限・納品期限と納入期日・納品期日の違い
- 納入期限・納品期限は「期限」であり、指定された「日まで」に納入するという意味。
- 納入期日・納品期日は「期日」であり、指定されたピンポイントの「日」に納入するという意味。
よって、契約書に納期を記載する場合は、「納期」と書くのではなく、納入期限・納入期日(または納品期限・納品期日)のいずれかを書くことが、正確な書き方です。
この他、納期に関連する用語の詳細な違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
また、契約条項としての納期のポイントにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 納期とは、納入期限と納入期日の略称に過ぎない。
- 納入期限は「期限」なので、指定された「日まで」に納入するという意味。
- 納入期日は「期日」なので、指定されたピンポイントの「日」に納入するという意味。
- 契約書に「納期」と書くと、納入期限なのか納入期日なのかが判然としない。
納期の書き方は2種類
納期の書き方は、大きく分けて次の2種類です。
2種類の納期の書き方
- 日付等を指定する絶対的な書き方
- 何らかの起算点から計算する相対的な書き方
一般的な納期は、誤解が生じる可能性が低い、絶対的な書き方をします。
特に、日付を指定する書き方は、契約当事者に法律や契約実務の知識が無かったとしても、誤解が生じる可能性が低い書き方です。
一方、相対的な書き方は、民法上の独特の分かりづらい計算方法により、納期が算出されます。
このため、よほど特殊な事情がない限り、相対的な納期の書き方は避けるべきです。
以下、それぞれ詳しく解説します。
絶対的な納期の書き方と具体例
日付を指定する納期の書き方
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期限)
本件製品の納入期限は、2024年1月31日とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例は、スポットの製造請負契約や売買契約における納期の書き方となります。
この日付で納期を指定する書き方の場合、契約当事者によって、日付について誤解が生じる可能性はありません。
このため、日付を指定する納期の書き方は、最も一般的な書き方といえます。
なお、時間まで指定する場合は、日付だけでなく時間も記載します。
継続的契約における毎月特定の日付を指定する納期の書き方
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、毎月25日とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例は、毎月製品が供給される、継続的な製造請負契約や売買契約における納期の書き方となります。
この書き方も、契約当事者によって、日付について誤解が生じる可能性はありません。
なお、このような継続的な契約の場合、毎月特定の日に納入されることが重要であるため、納入期限ではなく納入期日としています。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、毎月31日とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
ただし、毎月特定の日を指定する場合、カレンダーに存在しない可能性のある日を指定してはいけません。
上記の記載例の場合、31日が存在しない月では、納入期日が存在しないこととなります。
この場合は、民法第143条第2項により、31日が存在しない月については、月末が納入期日と解釈されます。
民法第143条(暦による期間の計算)
1 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
ただ、実務上は、誤解が生じないよう、契約書において「毎月末日」と記載するか、または2月でも対応できるよう、「毎月28日」とします。
継続的契約における毎月特定の週・曜日を指定する納期の書き方
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、毎月第3水曜日とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例も、毎月製品が供給される、継続的な製造請負契約や売買契約における納期の書き方となります。
この書き方も、契約当事者によって、曜日や日付について誤解が生じる可能性はありません。
また、こちらも同様に、納入期日としています。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、毎月第5金曜日とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
ただし、月内の特定の曜日を指定する場合、存在しない可能性のある週の曜日を指定してはいけません。
上記の記載例の場合、第1月曜日が早い月では、納入期日が存在しない場合があり得ます。
これは、第1週の月曜日から土曜日であっても同様です。
このため、通常は、第2週から第4週のいずれかの曜日を指定するか、または、その日が存在しない場合には直前または直後の同じ曜日を指定します。
委託者・受託者の休業日を避ける納期の書き方
継続的な納入は営業日に要注意
なお、継続的な納期を設定する場合、委託者・受託者双方の営業日に注意してください。
納入や業務の実施をしようとしても、委託者・受託者のいずれかが休業日であった場合、納入や業務の実施ができないことなります。
例えば「毎月末日」を納期等とした場合、必ずしも毎月末日が委託者・受託者の営業日とは限りません。
ある月の末日に休業日であった場合に、納入や業務の実施がないときは、休業日であった当事者は、契約違反となる可能性もあります。
営業日について特約を規定する
このため、業務委託契約において、納期等が委託者・受託者のいずれかの休業日だった場合に、納入や業務の実施を前倒しまたは順延できるような特約を規定しておくべきです。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
受託者による納入期日は、毎月末日(当該日が委託者または受託者の休業日に該当する場合は、その後の最初の営業日)とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例は、納入について順延する規定の例です。
こうした納期の順延の特約を規定しておくことで、納期等に委託者が休業日だったとしても、契約違反とはなりません。
営業日の定義の書き方は?
なお、こうした規定をする際は、必ず、「営業日」を定義づけてください。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】営業日の定義に関する条項
第○条(営業日)
本契約において、「営業日」とは、行政機関の休日に関する法律(昭和63年法律第91号)第1条第1項各号列記に規定する日以外の日をいう。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の記載例は、行政機関の「営業日」と同じ日を営業日とする場合の記載例です。
業務委託契約書を作成する理由
法律上は営業日の定義がないことから、契約内容として営業日を日付の計算で使用したい場合は、特約として営業日の定義を規定した契約書が必要となるから。
この他、契約書における営業日の定義や書き方・規定のしかたにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
民法第142条により翌営業日と解釈される場合もある
なお、上記のような休業日の特約が無かったとしても、民法第142条により、納期が休業日の場合において納期が翌営業日まで延長される可能性もあります。
民法第143条(暦による期間の計算)
1 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
これは、あくまで期間の満了に関する規定ですが、判例(最高裁判例平成11年3月11日)により、債務の履行期日にも類推適用されます。これは、納期についても、同様に考えられます。
ただし、本条は、あくまで、日曜日・祝祭日等の休日に「取引をしない慣習がある場合」に限ります。
このため、納期に関して、日曜日・祝祭日等の休日に「取引をしない慣習」があるとはいえるかどうか、必ずしも明らかでない場合は、特約で、納期と日曜日・祝祭日等の休日の扱いについて、明記しておくべきです。
相対的な納期の書き方と具体例
何らかの起算点から計算する方法
初日不算入の原則とは?
相対的な納期では、納期の計算方法によって実際の納期について発注者と受注者の解釈が割れる可能性があります。
特に、起算日から計算する方法では、その起算日を算入するかどうかによって、1日のズレが生じます。
この点について、民法では、起算日の初日を算入しない、「初日不算入の原則」があります。
【意味・定義】初日不算入の原則とは?
初日不算入の原則とは、日、週、月または年によって期間を定めた場合、期間の初日は算入しない原則をいう。
民法第140条(初日不算入の原則)
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
このように、民法上の計算方法にもとづく場合、原則として、初日は参入しません。
日で計算する場合
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、本契約の成立の日から起算して10日後とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例で、例えば、契約成立の日が2024年2月29日だった場合、納期は、以下のとおりとなります。
日による計算の場合の納期
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合:2024年3月10日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合において、日曜日に「取引をしない慣習がある」とき:2024年3月11日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ午前零時に成立した場合:2024年3月9日
- 契約成立の日が契約締結の日よりも後である場合:2024年3月9日
このように、日によって計算する相対的な納期の書き方は、起算点と日曜日・休日における慣習によって、計算の結果が大きく異なります。
この点から、なるべく相対的な納期の設定は、避けるべきです。
週で計算する場合
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、本契約の成立の日から起算して3週後とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例で、例えば、契約成立の日が2024年3月3日だった場合、納期は、以下のとおりとなります。
週による計算の場合の納期
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合:2024年3月24日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合において、日曜日に「取引をしない慣習がある」とき:2024年3月25日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ午前零時に成立した場合:2024年3月24日
- 契約成立の日が契約締結の日よりも後である場合:2024年3月24日
週、月、年での計算は、初日を参入しない場合は、民法第143条第2項により、「起算日に応当する日の前日に満了する」こととなります。
これにより、上記の例では、2.以外は結論は同じこととなります。
これは、日による計算とは異なる点です。
つまり、同じ日を起算点とした場合であっても、「21日後」と「3週間後」では、計算の結果=納期が変わる場合もあります。
この点からも、なるべく相対的な納期の設定は、避けるべきです。
月で計算する場合
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、本契約の成立の日から起算して1月後とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例で、例えば、契約成立の日が2024年5月30日だった場合、納期は、以下のとおりとなります。
週による計算の場合の納期
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合:2024年6月30日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合において、日曜日に「取引をしない慣習がある」とき:2024年7月1日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ午前零時に成立した場合:2024年6月30日
- 契約成立の日が契約締結の日よりも後である場合:2024年6月30日
また、例えば、契約成立の日が2024年5月31日だった場合、納期は、以下のとおりとなります。
週による計算の場合の納期
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合:2024年6月30日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合において、日曜日に「取引をしない慣習がある」とき:2024年7月1日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ午前零時に成立した場合:2024年6月30日
- 契約成立の日が契約締結の日よりも後である場合:2024年6月30日
契約成立の日が5月31日の場合、1ヶ月後の6月31日は存在しません。
このため、民法第143条第2項ただし書きにより、「その月の末日に満了する」こととなり、6月30日が納期となります。
このため、5月30日・5月31日のどちらを起算点にしても、結論は同じこととなります。
年で計算する場合
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期日)
本件製品の納入期日は、本契約の成立の日から起算して1年後とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
上記の書き方の記載例で、例えば、契約成立の日が2024年2月29日だった場合、納期は、以下のとおりとなります。
週による計算の場合の納期
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ日中に成立した場合:2025年2月28日
- 契約成立の日が契約締結の日であり、かつ午前零時に成立した場合:2024年2月28日
- 契約成立の日が契約締結の日よりも後である場合:2024年2月28日
閏年の2月29日を起算点として1年後の納期を設定した場合、1年後の2月29日は存在しません。
このため、民法第143条第2項ただし書きにより、「その月の末日に満了する」こととなり、2月28日が納期となります。
起算点は必ず条件ではなく時期を指定する
なお、起算点は、必ず確定した「時期」を指定し、「条件」で指定しないようにします。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】納期に関する条項
第○条(納入期限)
本件成果物の納入期限は、委託者の承認により要件定義が確定した日から2月後とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
例えば、上記の記載例の場合、委託者の承認により「要件定義」が確定しない限り、納期が定まらないこととなります。
これでは、納期が確定したとは言えません。
納期等は下請法の三条書面の必須記載事項
なお、下請法が適用される業務委託契約の場合、納期等は、いわゆる「三条書面」の必須記載事項です。
三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
下請法が適用されるかどうかにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
契約書の納期の書き方に関するよくある質問
- 契約書の納期には、どのような書き方がありますか?
- 契約書の納期には、以下の2種類の書き方あります。
- 日付等を指定する絶対的な書き方
- 何らかの起算点から計算する相対的な書き方
- 一般的な契約書では、納期はどのように書きますか?
- 一般的な契約書では、契約当事者の双方の解釈が一致するように、日付を指定した絶対的な書き方で納期を書きます。