このページでは、業務委託契約の契約条項のうち、契約解除条項について、簡単にわかりやすく解説しています。
業務委託契約では、わざわざ契約の解除に関する条項を規定します。
業務委託契約の契約解除権は、一般的な契約と同様に、民法の第541条、第542条、第543条に規定されます。
また、請負型の業務委託契約の解除権は、民法第635条、同第641条、委任型の業務委託契約の解除権は、民法第651条第1項にそれぞれ規定されています(法定解除権)。
ただ、これらの民法上の規定では、極めて限定的な理由でしか、契約解除ができないことになっています。
このため、業務委託契約では、より柔軟に契約の解除ができるようにするため、わざわざ契約解除の条項を規定し、より広い契約解除事由を設定します。
このページでは、こうした業務委託契約の契約解除条項と民法上の契約解除の規定について、詳しく解説します。
原則として契約解除はできない
【意味・定義】解除・解約・取消しとは?
契約の終了には、いくつかの形式がありますが、一般的には、契約の解除、解約、取消しの3パターンがあります。
- 解除とは、契約を当初にさかのぼって終了させること。原状回復義務がある(遡及効あり)。
- 解約とは、契約を将来に向かって終了させること。原状回復義務がない(遡及効なし)。
- 取消しとは、何らかの契約締結の手続きに不備があった場合に、一方の当事者の意思表示により、契約が当初から発効しなかったものとみなすこと。
一般的な契約では、解除または解約について規定します。
厳密には、解除と解約は別の概念ですが、このページでは、特に区別がない場合は、「解除」で統一します。
なお、契約は、契約自体が有効に成立している前提で規定します。
このため、わざわざ契約自体の成立に問題がある場合に行使される取消しについては、契約内容としては規定しません。
契約解除(契約解約)はあくまで例外
契約は、有効に成立した場合、原則として、契約解除はできません。
「Pacta sunt servanda」(ラテン語で「合意は拘束する」)という言葉があるように、合意=契約は守られるのが当然です。
このため、当事者の合意がない限り、一方の当事者が勝手に契約を解除することはできません。
例外として、契約の解除ができるのが、契約解除権にもとづく場合です。
契約解除権(契約解約権)は主に3種類(+1種類)
契約解除権には、次の3種類があります。
- 約定解除権(約定解約権)=契約にもとづく一定の条件つきの契約解除権
- 任意解除権(任意解約権)=契約にもとづく任意の契約解除権
- 法定解除権(法定解約権)=法律にもとづく契約解除権
そして、厳密には契約解除権ではありませんが、当事者の合意がある場合も、契約解除ができます。
これを合意解除(合意解約)といいます。
それぞれ、詳しく解説します。
- 解除とは、契約を当初にさかのぼって終了させること。原状回復義務がある(遡及効あり)。
- 解約とは、契約を将来に向かって終了させること。原状回復義務がない(遡及効なし)。
- 取消しとは、何らかの契約締結の手続きに不備があった場合に、一方の当事者の意思表示により、契約が当初から発効しなかったものとみなすこと。
- 原則として、契約は守られるべきものであり、契約解除・契約解約は、あくまで例外。
- 約定解除権(約定解約権)とは、契約にもとづく一定の条件つきの契約解除権のこと。
- 任意解除権(任意解約権)とは、契約にもとづく任意の契約解除権のこと。
- 法定解除権(法定解約権)とは、法律にもとづく契約解除権のこと。
業務委託契約の契約解除権=約定解除権とは?
【意味・定義】約定解除権・約定解約権とは?
約定解除権・約定解約権とは、契約に規定された、契約当事者が有する契約の解除・解約ができる権利をいう。
約定解除権は、契約当事者が合意のうえ、契約に規定した解除権のことです。
後に詳しく解説しますが、民法では、法定解除権が規定されていますので、この法定解除権を行使しても契約の解除はできます。
しかしながら、こうした法定解除権があっても、一般的な業務委託契約では、あえて約定解除権を規定します。
その理由は、次のとおりです。
【理由1】民法上の法定解除権では不十分だから
民法では、基本的には、債務不履行の状態になっていないと、法定解除権を行使できません。
このため、履行遅滞になるおそれがある状態や、履行不能になるおそれがある状態では、契約の解除はできません。
また、民法では、契約解除の手続きが必ずしも明確でない部分があり、契約解除=トラブルとなっている状態では、実質的に解除権が行使できない可能性があります。
そこで、業務委託契約では、契約の解除ができる条件=要件(契約解除事由)や効果を追加・修正し、手続きを明確に規定します。
こうすることで、状況に応じて、柔軟に業務委託契約を解除できるようになります。
【理由2】協議ができる状態ではないから
また、一般的に、業務委託契約を解除しようとする状態では、信頼関係が破綻している場合が多いです。
このような状態では、契約の解除に向けた協議ができず、事実上、コミュニケーションが取れないことがほとんどです。
こうした場合、業務委託契約で、あらかじめ詳細に契約解除の条件(要件)と手続きを明記しておくことで、わざわざ相手方とコミュニケーションを取ることなく、契約解除ができます。
このように、協議が成立しない状態でこそ、業務委託契約は効果を発揮します。
契約解除事由の11の具体例
一般的な業務委託契約では、次のような契約解除事由を規定します。
- 公租公課・租税の滞納処分
- 支払い停止・不渡り処分
- 営業停止・営業許可取り消し
- 営業譲渡・合併
- 債務不履行による仮差押え・仮処分・強制執行
- 破産手続き開始申立て・民事再生手続き開始申立て・会社更生手続開始申立て
- 解散決議・清算
- 労働争議・災害等の不可抗力
- 財務状態の悪化
- 信用毀損行為
- 契約違反・債務不履行
このような契約解除の条件(要件)のことを、「契約解除事由」といいます。
これらの契約解除事由は、一般的なものですので、契約の実態によっては、適宜加除修正する必要があります。
契約解除の手続きを規定する
【意味・定義】無催告解除・催告解除とは?
業務委託契約の相手方が、以上のような契約解除事由に該当した場合、意思表示をすることによって、契約解除ができます。
この際、催告の有無によって、手続きが変わってきます。
- 無催告解除とは、相手方に対する催告を要せずに、意思表示をすることによる解除をいう。
- 催告解除とは、相手方に対して、一定の期間内に債務の履行を催告し、その期間内に履行がない場合の解除をいう。
一般的に、無催告解除とするのは、緊急度が高い契約解除事由です(催告している時間的な余裕がないため)。
逆に、催告解除とするのは、緊急度が低い契約解除事由です。
催告解除では期間を明記する
なお、催告解除について、特に重要となるのが、催告の期間の決め方です。
この期間は、民法第543条のような「相当の期間」とすると、その期間が経過したかどうかを巡って、相手方とトラブルになります。
このため、業務委託契約で催告解除を規定する場合は、「30日前に催促し…」などの具体的な数字で規定します。
暴力団排除条項にも契約解除権・契約解約権を規定する
なお、暴力団排除条項を規定する場合、その一部として、契約解除権を規定します。
この契約解除権も、一種の約定解除権といえます。
暴力団排除条項の場合は、催告が不要な無催告解除とします。
また、契約を解除する側は、その契約解除による自らの損害賠償の免責と、相手方に対する損害賠償請求権も併せて規定します。
- 約定解除権・約定解約権とは、契約に規定された、契約当事者が有する契約の解除・解約ができる権利のこと。
- 約定解除権・約定解約権を設定する理由のひとつは、民法上の法定解除権では不十分だから。
- 約定解除権・約定解約権を設定する理由のもうひとつは、契約の解除・解約を検討する状態では、協議ができる状態ではないことが多いから。
- 約定解約権では、契約解除事由(契約解除の要件)を明記する。
- 約定解約権では、契約解除の手続き、特に催告解除の場合の催告期間を明記する。
- 暴力団排除条項にも無催告解除の契約解除権を規定する。
自由に契約を解除できる任意解除権
【意味・定義】任意解除権とは?
任意解除権とは、長期間の契約、継続的契約、期間の定めのない契約等において、契約当事者の任意の意思表示により、一定の期間の催告・予告を経たうえで、一方的に契約を終了させることができる権利をいう。
任意解除権は、文字どおり、契約当事者が任意で契約を解除できる権利です。
任意解除権は、厳密には約定解除権の一種ですので、あらかじめ契約で規定しておかないといけません。
通常の任意解除権は、特に理由を必要としないことがほとんどで、せいぜい、催告・予告の期間を設定するくらいです。
場合によっては、この催告・予告すら設定しないこともあります。
一般的な業務委託契約では任意解除権は規定しない
この任意解除権は、解除する側としては、一方的に解除できるため、非常に有利な内容といえます。
他方、解除される側としては、相手方の都合で自由に契約が解除されてしまうた、非常に不利な内容ともいえます。
このため、一般的な業務委託契約では、任意解除権はあまり規定されません。
どうしても任意解除権を規定する場合は、次のような対応をします。
- 自社だけが任意解除権を保有するように規定する。
- 契約解除の催告・予告の期間を長期間確保する。
なお、あまりにも契約解除の催告・予告の期間が短時間の場合は、任意解除権の規定そのものが無効となる場合もあります。
- 任意解除権とは、長期間の契約、継続的契約、期間の定めのない契約等において、契約当事者の任意の意思表示により、一定の期間の催告・予告を経たうえで、一方的に契約を終了させることができる権利をいう。
- 任意解除権は、相手方の都合による契約解除がある、というデメリットがあるため、一般的な業務委託契約で規定しない。
- 任意解除権を規定する場合は、自社だけが任意解除権を保有するように規定する。
- または、契約解除の催告・予告の期間を長期間確保する。
合意解除の条項を規定する必要はない
【意味・定義】合意解除とは?
合意解除とは、当事者の合意による契約の解除をいう。
合意解除は、契約当事者が新たに合意することによって、その契約を解除することです。
これは、契約自由の原則により、当然に有効なるものです。
ですから、わざわざ業務委託契約に合意解除に関して規定しておく必要はありません。
もっとも、規定があっても問題があるわけでもありません。
解除の書面では清算条項を規定する
なお、実際に契約を解除する際は、その契約の解除によって、どのような効果が発生するのか、また、当事者の権利・義務について合意します。
このような、契約解除によって生じる効果や契約当事者の権利・義務のことを、清算条項といいます。
この清算条項は、具体的には、次のようなものがあります。
- 契約の終了日
- 契約終了時の未履行債務の履行
- 原状回復義務
- 保証金がある場合における保証金の返還
- 秘密保持義務
- 競業避止義務
- 債務不存在の確認
また、合意した内容は、覚書や合意書などの書面に残しておきます。
- 合意解除は契約自由の原則により、当然に有効となる。このため、わざわざ業務委託契約に規定する必要はない。
- 契約解除に合意した場合は、清算条項が規定された書面を取り交わす。
民法上の契約解除権=法定解除権とは?
【意味・定義】法定解除権・法定解約権とは?
法定解除権・法定解約権とは、法律に規定された、契約当事者が有する契約の解除・解約ができる権利をいう。主に民法に規定されるもののほか、民法以外でも規定されている。
法定解除権は、文字どおり、法律に規定された解除権のことです。
一般的に、法定解除権といえば、民法に規定された解除権を意味しますが、他の法律に規定された解除権もあります。
このページでは、民法に規定された法定解除権について解説します。
なお、法定解除権を行使できるのは、通常は債務不履行の場合に限られますので、債務不履行と併せて解説します。
【意味・定義】債務不履行とは?
債務不履行とは、債務者が、契約等にもとづく債務を履行しなかった場合における責任のことです。
「債務不履行」とは、債務者が債務の履行をしないことにより負う責任であって、履行遅滞・履行不能・不完全履行のいずれかをいう。
いわゆる「契約違反」は、法律的には、この債務不履行のことをいいます。
債務不履行は、民法上、履行遅滞・履行不能・不完全履行の3種類があります。
契約解除ができるのは債務不履行がある場合
【債務不履行1】履行遅滞(民法第541条)
履行遅滞とは、契約当事者が、契約の履行期が到来しても、契約を履行しないことをいう。
履行遅滞とは、文字どおり、契約の履行が遅れることをいいます。
業務委託契約における履行遅滞の主な具体例は、委託者・受託者のそれぞれについて、以下のとおりです。
- 委託者:支払期限が到来しても報酬・料金・委託料の支払いがないこと。
- 受託者:納期または業務実施の期日・期限が到来しても、納入または業務の実施がないこと。
また、履行遅滞は、次の3つの条件(要件)を満たした場合に発生します。
- 履行期の経過:債務者が履行期に債務を履行しないこと。
- 違法性:履行遅滞が違法であること。
- 解除手続き:債権者が解除の手続き(民法第541条)を履践していること。
なお、民法第541条は、次のとおりです。
民法第541条(履行遅滞等による解除権)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
要件の3点目の解除の手続きは、この「相当の期間」を定めた履行の催告のことです。
なお、ここでいう「相当の期間」には、画一的な基準があるわけではありません。
【債務不履行2】履行不能(民法第543条)
履行不能とは、後発的な事由によって、契約当事者による債務の履行ができなくなることをいう。
履行不能は、契約成立時には履行が可能であった債務が、後発的な事由によって、履行期には履行が不能となることをいいます。
また、このような後発的事由による不能のことを「後発的不能」といいます。
業務委託契約における履行不能の主な具体例は、委託者・受託者のそれぞれについて、以下のとおりです。
- 委託者:(報酬・料金・委託料の支払い=金銭債務は履行不能とはならない)
- 受託者:受託者の責任により、契約の目的物が完全に消失してしまい、再度の材料の調達もできなくなったこと。
委託者の債務、特に報酬・料金・委託料の支払い=金銭債務は、履行遅滞とはなっても、履行不能とはならないとされています。
これは、理論上はお金の調達が不可能になることが、原理的にあり得ないからです。
また、履行不能は、次の4つの条件(要件)を満たした場合に発生します。
- 履行不能:債務の履行期に後発的事由により履行が不能であること。
- 債務者の帰責性:履行不能が債務者の責任によるものであること。
- 違法性:履行不能が違法であること。
- 意思表示:債権者が解除の意思表示をすること。
なお、履行不能が規定されている民法第543条は、次のとおりです。
民法第543条(履行不能による解除権)
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
ただし書きにあるとおり、履行不能が債務者の責任でない場合は、債務者は、責任を負いません。
この場合は、危険負担の問題となります。
【債務不履行3】不完全履行
不完全履行とは、債務者による債務の履行のうち、債務の本旨に従っていない、不完全なものをいう。
不完全履行とは、一応は債務者による債務の履行があったものの、その履行が本来予定されていた債務の内容とは異なる不完全なものをいいます。
業務委託契約における不完全履行の主な具体例は、委託者・受託者のそれぞれについて、以下のとおりです。
- 委託者:(報酬・料金・委託料の支払い=金銭債務は不完全履行とはならない)
- 受託者:受託者の責任により、納入された契約の目的物が業務内容で定める基準を下回った場合。
委託者の債務、特に報酬・料金・委託料の支払い=金銭債務は、一部だけ支払った場合は、履行遅滞であり、不完全履行ではありません。
このため、金銭債務は、不完全履行になることはありません。
また、不完全履行は、次の5つの条件(要件)を満たした場合に発生します。
- 履行:債務の履行があったこと。
- 不完全性:履行された債務が不完全であること。
- 債務者の帰責性:不完全履行が債務者の責任によるものであること。
- 違法性:履行不能が違法であること。
- 意思表示:債権者が解除の意思表示をすること。
なお、不完全履行については、民法上は明確な規定がありません。
特定の契約限定の法定解除権・法定解約権
業務委託契約では請負契約・(準)委任契約の法定解除権が重要
民法では、以上の3つの法定解除権(履行遅滞・履行不能・不完全履行)の他に、契約の種類によっては、その契約独自の解除権を規定している場合があります。
このような、契約独自の法定解除権のなかで、業務委託契約において特に重要となるの、請負契約における法定解除権と、(準)委任契約における法定解除権です。
請負契約の法定解除権は委託者に有利・受託者に不利
請負契約では、次のとおり、注文者(委託者)の法定解除権が規定されています。
民法上の注文者(委託者)の法定解除権は次の2つ
- 仕事の目的物に瑕疵がある場合の解除権(民法第635条)
- 仕事が完成するまでの間に行使できる、損害賠償責任付きの解除権(民法第641条)
また、同様に、次のとおり、請負人(受託者)の法定解除権が規定されています。
民法上の請負人(受託者)の法定解除権は次の1つ
- 注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の解除権(民法第642条)
このように、請負契約においては、法定解除権は、比較的、注文者(委託者)には有利に規定されており、請負人(受託者)には不利に規定されています。
このほか、請負契約の法定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
(準)委任契約では委託者・受託者ともに「いつでも」契約解除ができる
(準)委任契約では、次のとおり、委任者(委託者)・受任者(受託者)ともに、いつでも契約解除ができます。
民法第651条(委任の解除)
1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
ここでいう「いつでも」というのは、「特別な理由がなくても」という意味であり、時間の制約がない、という意味ではありません。
つまり、委任者(委託者)・受任者(受託者)の両者とも、特別な理由がなくても、(準)委任契約を解除できる、ということです。
このほか、(準)委任契約の法定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
- 法定解除権・法定解約権とは、法律に規定された、契約当事者が有する契約の解除・解約ができる権利のこと。
- 履行遅滞とは、契約当事者が、契約の履行期が到来しても、契約を履行しないこと。
- 履行不能とは、後発的な事由によって、契約当事者による債務の履行ができなくなること。
- 不完全履行とは、債務者による債務の履行のうち、債務の本旨に従っていない、不完全なもの。
- 特定の契約、特に請負契約・(準)委任契約では、民法で独自の法定解除権が規定されている。