ある程度規模が大きな業務委託契約では、受託者から第三者への再委託・下請けによって、業務の実施をすることがあります。
こうした再委託・下請けは、特に委託者の側には、意外とリスクやデメリットがあるため、安易に許可してはいけないものです。
このページでは、こうした業務委託契約における再委託・下請けのリスクやメリット・デメリットについて、詳しく解説していきます。
再委託・下請負・再委任・外注とは?
再委託・下請負(下請け)・再委任(再準委任)・外注いずれも、民法では明確に定義が規定されていませんが、一般的には、次のような定義です。
【意味・定義】再委託・下請負(下請け)・再委任(再準委任)・外注とは?
- 再委託とは、業務委託を受けた受託者が、委託業務の全部または一部を第三者に対し再度委託することであって、下請負(下請け)、再委任(再準委任)のいずれかのものをいう。
- 下請負(下請け)とは、請負契約や請負型の業務委託契約において、請負・業務委託を受けた受託者が、仕事の全部または一部を第三者に対し、さらに請負わせることをいう。
- 再委任(再準委任)とは、(準)委任契約や、(準)委任型の業務委託契約において、(準)委任・業務委託を受けた受託者が、委託業務の全部または一部を第三者に対し、さらに(準)委任することをいう。
- 外注とは、「外部の事業者への注文・発注」のであって、一般に、委託・下請負・委任(準委任)のいずれかをいう。
業務委託契約で委託者が再委託・下請けを許可するメリット・デメリット
委託者が再委託・下請けを許可するメリット
委託者が再委託・下請けを許可するメリット
- 【メリット1】大規模・特殊な業務内容であっても受託者が対応しやすい。
- 【メリット2】業務内容によっては、受託者単体で業務を実施するよりも報酬・料金・委託料が安くなることがある。
【メリット1】大規模・特殊な業務内容であっても受託者が対応しやすい
委託者が受託者に対し再委託・下請けを許可するメリットの1つめは、受託者が対応できる業務が広がる点にあります。
例えば、製造請負契約の場合は、受託者単体では生産設備に限りがあるため、生産量も限られます。
そこで、再委託・下請けをすることによって、再委託先や下請け先の生産設備を利用できるため、より多くの製品の生産が見込めます。
また、受託者自体に技術力がない場合であっても、再委託先・下請け先の技術を利用することで、製品を製造できる場合もあります。
【メリット2】受託者単体で業務を実施するよりも報酬・料金・委託料が安くなる
委託者が受託者に対し再委託・下請けを許可するメリットの2つめは、場合によっては、報酬・料金・委託料が安くなる、という点です。
例えば、製造請負契約では、国内の工場ですべての部品・製品を製造するよりも、海外の工場を利用した方が、結果的には単価が安くなることが多いです。
ただ、だからといって、委託者としては、必ずしも海外の工場に直接発注できるわけではありません。
この場合は、委託者は、間に受託者を挟み、再委託・下請けの形式を取ることで、海外の工場に間接的に発注します。
委託者が再委託・下請けを許可するデメリット
委託者が再委託・下請けを許可するデメリット
- 再委託先・下請業者への委託者の技術情報・ノウハウ・顧客情報等の情報漏えいが発生するリスクが高くなる。
- 再委託先・下請業者から、さらに再々委託・二次下請け、さらにその先に再委託・下請けが繰り返されると、取引のコントロールができなくなる。
【デメリット1】情報漏えいのリスクがある
委託者にとって、再委託・下請けの最も大きなデメリット・リスクが、情報漏えいです。
特に、顧客情報等の個人情報の漏えいのリスクが高いため、通常は、個人情報を取扱う契約では、委託先は、再委託・下請けを許可しません。
どうしても必要な場合であっても、再委託・下請けには厳しい条件をつけ、情報管理に関して義務を課すなどの対策は必須です。
もちろん、個人情報だけではなく、技術情報やノウハウなども、再委託先・下請け先から流出することがあります。
【デメリット2】再委託先・下請け先から先の取引がコントロールできなくなる
委託者にとっての再委託・下請けのデメリットの2点目は、取引についてコントロールができなくなる点です。
業務委託契約に限らず、契約は、委託者と受託者を直接拘束するものです。逆にいえば、当事者以外を契約で拘束することはできません。
このため、委託者としては、受託者については、契約で拘束することはできます。
しかし、再委託先や下請け先、ましてやさらにその先の再々委託先や二次下請け先(孫請け)・三次下請け先などは、契約によるコントロールが及びません。
業務委託契約で委託者が再委託・下請けを禁止するメリット・デメリット
委託者が再委託・下請けを禁止するメリット
委託者が再委託・下請けを禁止するメリット
- 技術情報・ノウハウ・顧客情報等を取扱うのが受託者だけであるため、情報漏えいが発生するリスクが低くなる。
- 業務を実施するのが受託者だけであるため、取引のコントロールがしやすい。
【メリット1】情報漏えいのリスクが低い
委託者が再委託・下請けを禁止するメリットの1点目は、情報漏えいのリスクが低くなる、という点です。
どのような情報であっても、情報の保有者の数が多いほど、情報漏えいのリスクは大きくなります。
この点について、再委託・下請けを禁止し、情報を開示する当事者が受託者だけになった場合は、比較的、情報漏えいのリスクが低くなります。
ただし、これは、あくまで再委託・下請けを許可した場合との比較の話です。当然ながら、受託者自体の情報管理がいい加減な場合は、受託者から情報が漏えいする可能性があります。
【メリット2】取引のコントロールがしやすい
委託者が再委託・下請けを禁止するメリットの2点目は、取引がコントロールしやすくなる、という点です。
これは、デメリットの裏返しになります。
すでに触れたとおり、委託者が業務委託契約で法的に拘束できるのは、あくまで受託者のみであり、再委託先や下請け先は、法的にはコントロールできません。
このため、委託者として、コントロールしやすい取引とするためには、再委託・下請けを禁止します。
委託者が再委託・下請けを禁止するデメリット
委託者が再委託・下請けを禁止するデメリット
- 業務内容によっては、そもそも受託者単独で実施できない場合が多い。
- 受託者単独で実施できる業務内容であっても、報酬・料金・委託料が高くなる可能性もある。
【デメリット1】受託者単独で業務を実施できない
委託者が再委託・下請けを禁止するデメリットの1つ目は、受託者単独で対処できる業務しか委託できない、という点です。
通常の企業間取引では、規模が小さい取引や、比較的単純な取引でない限り、受託者がすべての業務を内製化して実施することはありません。
このため、再委託・下請けを禁止することが前提となると、委託できる業務や受託者が限られてしまいます。
こうした点から、特に大規模な企業間取引や、特殊な業務に関する契約の場合は、再委託・下請けを禁止することは、めったにありません。
【デメリット2】委託料が割高になる
委託者が再委託・下請けを禁止するデメリットの2つ目は、報酬・料金・委託料が高くなる可能性がある、ということです。
業務内容にもよりますが、一部の業務委託契約では、受託者が、第三者に再委託・下請けをすることで、コストが抑えられる場合があります。
こうした業務委託契約では、再委託・下請けが前提となる委託料となっています。
このため、受託者に対し、再委託・下請けを禁止すると、委託料が高くなります。
業務委託契約で委託者が再委託・下請けを禁止する理由は?
以上のとおり、委託者としては、受託者による再委託・下請けは、デメリットが多く、リスクも大きいため、禁止することが多いです。
委託者が再委託・下請けを禁止する理由
委託者が再委託・下請けを禁止する理由は、再委託や下請先からの情報漏えいがある、再委託先や下請け先のコントロールができなくなるなど、デメリットが多いから。
そもそも、委託者の立場としては、受託者を信頼して業務委託契約を結んだ以上、第三者への再委託・下請けは、その信頼が裏切られることになります。
ただ、例外として、再委託・下請けをしたほうが、受託者が単体で業務を実施するよりも、結果としては、メリットとなることがあります。
このため、信頼関係ができている企業間取引の場合は、あえて再委託・下請けを許可することもあります。
業務委託契約で受託者が再委託・下請けを許可されるメリット・デメリット
受託者が再委託・下請けを許可されるメリット
受託者が再委託・下請けを許可されるメリット
- 自社のみでは実施できない規模の業務も受託できる。
- 自社のみでは実施できない特殊な業務も受託できる。
- 第三者に再委託・下請けをすることで、よりコストを抑えて業務を実施できることがある。
【メリット1】生産量や業務処理の量を増やせる
受託者が委託者から再委託・下請けを許可されるメリットの1つめは、生産量・業務処理量の拡張ができる、という点です。
これは、ある意味では、委託者の側にとってのメリットとなります。
自社だけでは対応できる業務量には限界がありますが、再委託先や下請け先に再委託・下請けをすることで、業務量を増やすことができます。
このため、規模が大きな契約になるほど、再委託・下請けが許可されることが多いです。
【メリット2】自社では対応できない業務にも対応できる
受託者が委託者から再委託・下請けを許可されるメリットの2つめは、自社では対応ができない特殊な業務でも対応できる、という点です。
これも、ある意味では、委託者にとってのメリットとなります。
一般的に、企業間取引では、規模が小さな契約でない限り、受託者がすべての業務を内製化し、自前で完結することは、まずできません。
再委託・下請けが許可されていれば、こうした内製化できておらず、自前ではできない業務についても、再委託先・下請け先に対応してもらうことができます。
【メリット3】コストを抑えられる
受託者が委託者から再委託・下請けを許可されるメリットの3点目は、コストを抑えられる、という点です。
業務内容によっては、業務のすべてを自社で完結した場合よりも、外部の業者に再委託・下請けをしたほうが、結果的に安くなることがあります。
特に、人件費がコストの大半を占めるような、製造請負契約の場合は、海外の工場に再委託・下請けをしたほうが、コストを抑えられます。
その結果、自前の国内の工場で生産するよりも、利益が多くなります。
受託者が再委託・下請けを許可されるデメリット
受託者が再委託・下請けを許可されるデメリット
- 再委託先・下請業者によっては、委託者から開示された情報の漏えいがあるリスクがある。
- 再委託先・下請業者から、さらに再々委託・二次下請けがあった場合、取引のコントロールができなくなる。
【デメリット1】情報漏えいのリスクがある
受託者が再委託・下請けを許可されるデメリットの1つ目は、再委託先・下請け先から情報が漏えいするリスクがある、という点です。
これは、ある意味では、委託者にとってのデメリットであるともいえます。
業務内容によって、受託者から再委託先・下請け先に対して、なんらかの情報の開示が必要となる場合もあります。
こうした場合に、再委託先・下請け先の情報管理がいい加減であれば、その情報が漏えいしてしまうことがあります。
【デメリット2】取引のコントロールができなくなる
受託者が再委託・下請けを許可されるデメリットの2つ目は、再委託先・下請け先からさらに先の取引のコントロールができなくなる、という点です。
もっともこれは、あくまで再委託先・下請け先が、さらに再々委託先や二次下請け(孫請け)まで再々委託・孫請けをした場合に限ったデメリットです。
このため、受託者が、再委託先・下請け先によるさらなる委託・下請けを禁止すれば、問題とはなりません。
また、委託者としても、再委託・下請けを許可したとしても、再々委託や二次下請け・孫請けまでは禁止することもできます。
業務委託契約で受託者が再委託・下請けを禁止されるメリット・デメリット
受託者が再委託・下請けを禁止されるメリット
受託者が再委託・下請けを禁止されるメリット
- 特になし。
【メリット】特になし
受託者としては、再委託・下請けを禁止されるメリットは、まったくありません。
受託者が再委託・下請けを禁止されるデメリット
受託者が再委託・下請けを禁止されるデメリット
- 規模的・技術的な制約により、自社のみで実施できる業務に限りがある
- 業務内容によっては、コストが割高になり、利益が少なくなる場合がある。
【デメリット1】業務実施に制約がかかる
受託者が再委託・下請けを禁止されるデメリットの1つ目は、業務の実施に、量的・技術的な制約がかかる、という点です。
再委託・下請けが禁止された場合、すべての業務を自社内で完結させる必要があります。
このため、規模が小さな取引や単純な業務でない限り、対応が難しくなります。
また、大手企業でもない限り、生産量なども、自ずと限られてきます。
【デメリット2】コストが割高になる
受託者が再委託・下請けを禁止されるデメリットの2つ目は、コストが割高になる可能性がある、という点です。
業務内容によっては、自社の内部で業務を完結させるよりも、外部の業者(特に海外)に再委託・下請けをしたほうが、結果的にはコストが安くなることがあります。
再委託・下請けを禁止された場合、こうした外注によるコストの圧縮ができなくなります。
このため、結果的に、割高なコストで業務処理をせざるを得なくなりますので、再委託・下請けの禁止は、利益を圧迫する要因となります。
業務委託契約で受託者が再委託・下請けを許可してもらうべき理由は?
受託者にとって、再委託・下請けは、メリットが多いため、委託者から許可をしてもらうべきです。
できれば、無条件での全面的な再委託・下請けができる内容としたしたほうがいいです。
受託者が再委託・下請負を許可してもらうべき理由
受託者が再委託・下請負を許可してもらうべき理由は、自社のみでは対処できない規模や技術・ノウハウの案件でも受注できるから。
ただ、現実的には、委託者から、なんらかの条件がつけられることが多いです。
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