このページでは、業務委託契約と民法上の委任契約・準委任契約との関係について解説しています。
「業務委託契約」の名前の契約は、実際には、民法上の委任契約・準委任契約である場合があります。
委任契約とは、法律行為(契約を結ぶことなど)の委託の契約です。委任契約は、民法第643条に規定されている契約です。
また、準委任契約とは、法律行為以外の行為の委託の契約です。準委任契約は、民法第656条に規定されている契約です。
このページでは、委任契約・準委任契約について解説することで、委任型・準委任型の業務委託契約における注意点について、併せて解説していきます。
【意味・定義】委任契約とは
委任契約は、民法では、以下のように規定されています。
民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約。
法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思の表示(=意思表示)をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為のことです。
学術的な用語で、非常にわかりづらいですが、わかりやすい具体例としては、「契約を結ぶこと」が、法律行為のひとつの例です。
【意味・定義】準委任契約とは
準委任契約は、民法では、以下のように規定されています。
民法第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
準委任契約とは、委任者が、受任者に対し、法律行為でない事務をすることを委託し、受任者がこれ受託する契約。
ここでいう「事務」というのは、一般的な用語としての事務(例:事務を執る、事務所、事務職など)ではなく、もっと広い概念です。
民法上は定義がありませんが、作業、助言、企画、技芸の教授など、「法律行為でない行為」が該当すると考えて差し支えないでしょう。
ちなみに、「準用」とは、ある法律の規定を、必要な修正・変更をしたうえで、類似した別の規定に当てはめることをいいます。
(準)委任契約の7つのポイント
- 【ポイント1】(準)委任契約は「法律行為・法律行為以外の事務」という行為の委託・提供を目的とした契約
- 【ポイント2】主にサービスの提供を目的とする場合が多い
- 【ポイント3】委任契約ではなく準委任契約の業務委託契約がほとんど
- 【ポイント4】物品・知的財産の「納入」がある(準)委任契約もある
- 【ポイント5】(準)委任契約は仕事の結果は問題とはならない
- 【ポイント6】(準)委任契約は契約の過程で善管注意義務を怠ると責任が発生する
- 【ポイント7】(準)委任契約は信頼関係が成り立っていることが大前提
【ポイント1】(準)委任契約は「法律行為・法律行為以外の事務」という行為の委託・提供を目的とした契約
委任契約は、「法律行為」の委託の契約であり、準委任契約は、法律行為以外の「事務」の委託の契約です。
委任契約も、準委任契約も、法律行為か法律行為でないかの違いはあっても、「一定の行為の委託」を目的とした契約といえます。
(準)委任契約の特徴は、「行為そのものが目的の契約」である、という点です。
この点から、(準)委任契約の受託者(受任者)は、「行為そのもの=仕事の過程」には責任を負いますが、行為によって生じた結果に対しては、責任を負う必要はありません。
(準)委任契約は、行為そのものを目的とした契約。このため、行為そのもの=仕事の”過程”について責任が発生するが、仕事の”結果”には責任が発生しない。
【ポイント2】主にサービスの提供を目的とする場合が多い
委託者(委任者)に代わって意思表示をする委任契約
委任契約の具体的な例としては、弁護士との訴訟代理契約、税理士との税務業務委託契約などがあります。また、不動産業者との不動産の売買・賃貸の媒介契約なども委任契約の一種です。
これらの契約は、裁判所・税務署・不動産売買や賃貸の相手方に対して、受託者(受任者)が委託者(委任者)に代わって意思表示をして、その結果が委託者(委任者)に帰属します。
すでに述べたとおり、委任契約では、受託者(受任者)は、結果責任を負いません。
ですから、例えば、弁護士との訴訟代理契約では、訴訟で敗訴したとしても、成果報酬の特約でもない限り、委託者(委任者)は、受託者(受任者)である弁護士に対して、弁護士報酬を支払わなければなりません。
ちなみに、会社と会社の役員との契約は、委任契約です。
委託者(委任者)に対して一定の行為を提供する準委任契約
これに対して、準委任契約の具体的な例としては、医師と患者との医療行為・診療行為の契約が該当します。
医師は、患者に対して、医療行為・診療行為を提供し、その対価として、診療報酬を受け取ります。
準委任契約でも、受託者(受任者)は、結果責任を負いません。
ですから、例えば、医療行為・診療行為の契約にもとづき、医師が最善を尽くして治療をしたとしても、結果として、患者が亡くなることもあります。
このような場合であっても、医師は、診療報酬を受取る権利があります。
もちろん、治療に最善を尽くさず、医療行為・診療行為に重大な過失があった場合は、医療過誤として、責任を負うことになります。
企業間取引での知識・技能・作業の提供は準委任契約
この他、企業間取引で準委任型の業務委託契約では、コンサルタントによる経営コンサルティング契約なども該当します。
これは、経営コンサルタントから、知識・技能(ときには作業)を提供してもらう準委任契約です。
また、ソフトウェア(プログラム、システム、アプリ等)開発の業務委託契約も、ソフトウェアの完成を目的とせず、コーディングなどの作業の提供を目的とした契約であれば、準委任型の業務委託契約といえます。
建設工事の契約も同様に、工事の完成を目的としているのではなく、建設工事での作業の提供を目的としている場合は、請負契約ではなく準委任契約です。
【ポイント3】委任契約ではなく準委任契約の業務委託契約がほとんど
契約実務の現場では、委任契約である業務委託契約は、実はほとんどありません。実際には、準委任契約である業務委託契約がほとんどです。
委任契約は、外部の第三者に対し、なんらかの意思を表示する契約です。
第三者である受託者(受任者)に対し、委託者(委任者)が自らの意思決定の権限を与えるような、非常に重大な契約は、企業間取引では滅多にありません。
このため、業務内容として、なんらかの知識・技能・作業などのサービスの提供を受ける業務委託契約は、ほとんどが準委任契約です。
【ポイント4】物品・知的財産の「納入」がある(準)委任契約もある
一般的な(準)委任契約では、サービスという形が残らないものを提供してもらうことがほとんどです。
ただ、サービスの提供しかたによっては、結果として、何からの物品や知的財産の納入があることがあります。
例えば、準委任型のソフトウェア(プログラム、システム、アプリ等)開発の業務委託契約では、(納入方法はさまざまですが)各種コードの納入があります。
そして、納入された各種コードについて、知的財産権の処理(一般的には譲渡か使用許諾のいずれか)をします。
このように、(準)委任契約であっても、なんらかの納入がある場合もあります。
逆にいえば、何かが納入されるからといって、必ず請負契約(あるいは売買契約)であるとは限らない、ということです。
(準)委任契約だからといって、必ず納入がないわかではない。同様に、請負契約だからといって、必ず納入があるわけではない。
【ポイント5】(準)委任契約は仕事の結果は問題とはならない
すでに述べたとおり、(準)委任契約では、受託者(受任者)は、自らの行為の結果に対しては、責任を負いません。
弁護士との訴訟代理契約では、訴訟で敗訴したとしても、その敗訴に対して責任を負わず、弁護士報酬を受取る権利があります。
医師との医療行為・診療行為の契約では、治療の結果、患者が亡くなったとしても、その治療に対して責任を負わず、診療報酬を受取る権利があります。
コンサルタントとの経営コンサルティング契約では、コンサルティングによって、会社の業績が向上しなくても(それどころか業績が悪化しても)、その業績に対して責任を負わず、コンサルティングフィーを受取る権利があります。
このように、(準)委任契約では、契約の過程において問題がなければ、受託者(受任者)は、責任を負うことはありません。
【ポイント6】(準)委任契約は契約の過程で善管注意義務を怠ると責任が発生する
【意味・定義】善管注意義務とは
では、どのような場合に、(準)委任契約で受託者(受任者)が責任を負うのかといえば、「善管注意義務」に違反した場合です。
民法では、善管注意義務は、次のように規定されています。
民法第644条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
ここでいう「善良な管理者の注意…の義務」を省略したのが、善管注意義務です。
善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務。
善管注意義務には客観的な基準があるわけではない
善管注意義務は、非常に抽象的な概念で、法律で決まった客観的な基準があるわけではありません。
このため、業務委託契約においても、受託者(受任者)が、善管注意義務に違反しているかどうかは、極端な話、裁判を起こしてみないとわかりません。
この点から、(準)委任型の業務委託契約では、委託者(委任者)にとって、受託者(受任者)の責任が追求しにくい、という特徴があります。
これは、言いかえれば、客観的な基準がある業務委託契約の場合は、善管注意義務違反を追求しやすいということです。
例えば、税理士との税務業務委託契約のように、委託業務のミス(誤った会計処理・税務申告など)がわかりやすい業務委託契約では、委託者(委任者)は、受託者(受任者)に対して、善管注意義務違反があったものとして、責任を追求できます。
このほか、善管注意義務につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
【ポイント7】(準)委任契約は信頼関係が成り立っていることが大前提
一般的に、どのような契約であれ、契約を結ぶ際には、契約当事者間に信頼関係が成り立っている場合がほとんどです。
ただ、お互いに相手方のことを信頼していない関係であっても、契約の内容そのものに影響を与えることは、あまりありません。
これに対して、(準)委任契約は、お互いに相手方のことを信頼していることが前提の契約です。
(準)委任契約では、当事者間の信頼が前提となっている契約内容が多数あります。
例えば、原則として無報酬であること(民法第648条)、無報酬であっても善管注意義務があること(民法第644条)、いつでも契約解除ができること(民法第651条第1項)などの規定です。
- (準)委任契約は、契約当事者の信頼関係が基本となる契約。
- 通常は、なんらかの行為の提供がある契約だが、成果物の納入がある場合もある。
- (準)委任契約は、行為そのもの責任(善管注意義務)が問われる。
- 請負契約とは違って、「行為の結果」の責任は問われない。
(準)委任契約における受託者(受任者)の5つの義務・責任
- 【義務・責任1】受任した法律行為・事務に着手する義務
- 【義務・責任2】期限(納期)・期日・期間に受任した法律行為・事務を実施する義務
- 【義務・責任3】受託者(受任者)自身が委託業務を実施する義務
- 【義務・責任4】善管注意義務
- 【義務・責任5】報告義務
【義務・責任1】受任した法律行為・事務に着手する義務
当たり前の話ですが、受託者(受任者)は、受任した法律行為・事務=委託業務に着手する義務があります。これは、何も(準)委任契約に限った話ではありません。
民法第541条(履行遅滞による解除権)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
このように、民法では、契約全般の一般的なルールとして、「契約の履行をしない場合」は、契約解除ができるようになっています。
【義務・責任2】期限(納期)・期日・期間に受任した法律行為・事務を実施する義務
一般的な業務委託契約としての(準)委任契約では、必ず期限(納期。法律的には「確定期限」)が設定されています。
受託者(受任者)は、この期限(納期)までに、受任した法律行為・事務=委託業務を実施する義務があります。これは、裏を返せば、期限(納期)が来るまでは、委託業務を実施する義務はない、ともいえます。
民法第412条(履行期と履行遅滞)
1 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 (以下省略)
このように、民法では、契約全般の一般的なルールとして、確定期限の到来後は、債務者に責任が発生するようになっています。
また、業務委託契約の性質によっては、特定の期日や期間に委託業務を実施する義務が課される場合がありますが、これも同様です。
このほか、納入につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
【義務・責任3】受託者(受任者)自身が委託業務を実施する義務
(準)委任契約では原則として再委託・再委任はできない
実は、民法上、(準)委任契約では、再委託・再委任はできません。
(準)委任契約は、委託者(委任者)と受託者(受任者)との信頼関係が基本となる契約です。
委託者(委任者)が、受託者(受任者)を信頼して業務の実施を委託したのに、受託者(受任者)が他の第三者に業務を再委託・再委任してしまうと、委託者(委任者)の信頼を裏切ることになります。
このため、一般的に、民法第104条の代理の規定を根拠に、(準)委任契約では、再委託・再委任ができない、とされています。
民法第104条(任意代理人による復代理人の選任)
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
この規定により、「本人の許諾を得たとき」か「やむを得ない事由があるとき」でなければ、再委託・再委任はできません。
委託者(委任者)の承諾を得ても受託者(受任者)は再委託先・復受任者の行為に責任を負う
また、「本人(=委託者(委任者)の承諾を得たとき」であっても、再委託先・復受任者の行為による責任は、受託者(受任者)が負います。
具体的には、次の民法第105条第1項の規定が根拠です。
民法第105条(復代理人を選任した代理人の責任)
1 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。
2 代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。
なお、第2項にあるとおり、「本人の指名に従って復代理人を選任したとき」は責任を負いません。
ただし、同項ただし書きにあるとおり、復代理人=再委託先・復受任者が不適任または不誠実であることを知りながら、本人=委託者(委任者)に対して、その旨を通知し、または再委託先・復受任者との契約を解除するのを怠った場合も、責任を負います。
このほか、再委託につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
【義務・責任4】善管注意義務
すでに述べたとおり、受託者(受任者)には、いわゆる善管注意義務、つまり「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」があります。
繰り返しになりますが、善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて要求される、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務のことをいいます。
この善管注意義務を果たさない場合、受託者(受任者)は、債務不履行(いわゆる契約違反)となります。
善管注意義務には、客観的な基準があるわけではなく、個々の契約の内容や取引きの実態によって、最終的には裁判所が判断することになります。
【義務・責任5】報告義務
受託者(受任者)は、委託者(委任者)に対する報告義務があります。
民法第645条(受任者による報告)
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
この規定にあるとおり、報告しなければならないのは、「委任者(=委託者)の請求があるとき」と「委任が終了した後」です。
このため、特に業務委託契約書に報告の規定がなかったとしても、委託者(委任者)から請求された場合は、受託者(受任者)は、報告する義務があります。
(準)委任契約において、受託者(受任者)には、以下の義務・責任がある。
- 受任した法律行為・事務に着手する義務
- 期限(納期)・期日・期間に受任した法律行為・事務を実施する義務
- 受託者(受任者)自身が委託業務を実施する義務
- 善管注意義務
- 報告義務
(準)委任契約における受託者(受任者)の4つの権利
- 【権利1】報酬の請求権
- 【権利2】費用の請求権
- 【権利3】委託業務の実施に伴う損害の賠償請求権
- 【権利4】中途解約権・契約解除権
【権利1】報酬の請求権
実は(準)委任契約は原則として無報酬
(準)委任契約は、特約がなければ、無報酬とされています。
民法第648条(受任者の報酬)
1 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 (以下省略)
もちろん、特約があれば、有報酬とすることは可能です。
(準)委任型の業務委託契約では有報酬
もっとも、(準)委任契約が無報酬というのは、あくまで原則です。(準)委任型の業務委託契約では、むしろ例外であるはずの有報酬となることがほとんどです。
まず、ほとんどの業務委託契約書では、報酬の金額や計算方法を規定します。
次に、仮にこうした報酬の規定がない場合や、業務委託契約書を取交していない場合であっても、商法第512条により、有報酬となります。
商法第512条(報酬請求権)
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
報酬はあくまで後払い
ただし、報酬の請求は、委託業務を実施した後でしかできません。つまり、後払いということです。
民法第648条(受任者の報酬)
1 (省略)
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
3 (省略)
ここでいう「第624条第2項の規定」では、「その期間を経過した後に、請求することができる」となっていますので、同じように後払いということです。
【権利2】費用の請求権
受託者(受任者)は前払いで費用を請求できる
(準)委任契約では、受託者(受任者)は、委託者(委任者)に対して、費用の請求ができます。しかも、「前払い」で請求ができます。
民法第649条(受任者による費用の前払請求)
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
ちなみに、この費用の支払いがあるまでは、委託業務に着手しなくても、契約違反とはなりません。
受託者(受任者)が立替えた費用も請求できる
また、(準)委任契約では、受託者(受任者)が委託業務の実施に必要な費用を負担した場合は、委託者(委任者)に対し、この費用について請求ができます。
民法第650条(受任者による費用等の償還請求等)
1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 (以下省略)
なお、業務委託契約の費用負担につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
【権利3】委託業務の実施に伴う損害の賠償請求権
受託者(受任者)は、委託業務の実施に伴い、自らに過失なく損害を受けた場合は、委託者(委任者)に対し、その損害の賠償を請求できます。
民法第650条(受任者による費用等の償還請求等)
(第1項および第2項省略)
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
【権利4】中途解約権・契約解除権
受託者(受任者)は、いつでも(準)委任契約を契約解除できます。
民法第651条(委任の解除)
1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
ここでいう、「いつでも」というのは、時期に限らず、特別な理由が必要がない、という意味です。
ただ、上記の規定の第2項にあるとおり、委託者(委任者)に不利な時期に解除した場合は、損害賠償責任が発生します。
このほか、(準)委任契約の法定解除権につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。
(準)委任契約において、受託者(受任者)には、以下の権利がある。
- 報酬の請求権
- 費用の請求権
- 委託業務の実施に伴う損害の賠償請求権
- 中途解約権・契約解除権
(準)委任契約における委託者(委任者)の4つの責任・義務
- 【義務・責任1】報酬の支払い義務
- 【義務・責任2】費用の支払い義務
- 【義務・責任3】指名した再委託先・復受任者による行為の責任
- 【義務・責任4】委託業務の実施に伴い受託者(受任者)に発生した損害の賠償責任
【義務・責任1】報酬の支払い義務
受託者(受任者)の報酬請求権の裏返しになりますが、委託者(委任者)には、報酬を支払う義務があります。
民法第648条第1項では、委任契約は無報酬となっていますが、一般的な業務委託契約では、特約として、報酬の金額や計算方法が規定されます。
また、仮にそうした特約がない場合であっても、一般的な企業間取引に適用される商法の第512条では、受託者(受任者)の報酬の請求権が認められています。
商法第512条(報酬請求権)
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
【義務・責任2】費用の支払い義務
委託者(委任者)は前払いで費用を支払わなければならない
これも受託者(受任者)の費用の請求権の裏返しになりますが、(準)委任契約では、委託者(委任者)は、受託者(受任者)に対して、前払いで費用を支払う義務があります。
民法第649条(受任者による費用の前払請求)
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
しかも、この費用の支払いをしなければ、委託業務の実施を請求することができません。
委託者(委任者)は受託者(受任者)が立替えた費用を支払わなければならない
また、(準)委任契約では、受託者(受任者)が委託業務の実施に必要な費用を負担した場合は、委託者(委任者)は、この費用も支払わなければなりません。
民法第650条(受任者による費用等の償還請求等)
1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 (以下省略)
費用負担をしたくないのであれば業務委託契約書に明記する
このように、(準)委任型の業務委託契約では、委託者(委任者)は、想定外の費用の負担を求められる可能性があります。
このため、委託者(委任者)として、費用負担をしたくないのであれば、委託業務の実施に要する費用は受託者(受任者)の負担とするように、業務委託契約書で特約を規定する必要があります。
最低限、費用が発生する場合は、委託者(委任者)からの承諾を得るようにするように、受託者(受任者)に義務を課します。
こうすることで、際限なく費用の負担を求められることがなくなります。
このほか、費用負担につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【義務・責任3】指名した再委託先・復受任者による行為の責任
委託者(委任者)は再委託先・復受任者を指名した場合は責任を負う
(準)委任契約では、契約当事者の信頼関係がベースにあるため、原則として、再委託・再委任はできないことになっています。
また、例外として、委託者(委任者)が再委任・再委任をしたとしても、再委託先・復受任者の行為の責任は、受託者(受任者)が負います。
ところが、委託者(委任者)の「指名」があった場合は、再委託先・復受任者の行為の責任は、委託者(委任者)が負います。
民法第105条(復代理人を選任した代理人の責任)
1 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。
2 代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。
安易に再委託先・復受任者を指名すると責任を負わされる
このように、委託者(委任者)として、(準)委任型の業務委託契約では、ヘタに再委託先・復受任者を指名してしまうと、再委託先・復受任者の行為について、責任を負うことになります。
企業間取引における業務委託契約の現場では、再委託先・復受任者を「指名」することは、よくある話です。
委託者(委任者)の立場としては、自身がよく知っている業者を再委託先・復受任者として「指名」したほうが、ハンドリングが効いたり、情報漏えいがない、といったメリットもあります。
他方で、民法上は、委託者(委任者)に対して、責任を追求できなくなる、というリスクもあります。
業務委託契約書の再委託・再委任の条項に「指名」という表記がないか確認する
このため、少なくとも、業務委託契約書の再委託・再委任の規定の中に、「指名」という表記がないかどうかをよく確認するべきです。
また、業務委託契約書の記載として、形式的に「指名」という表記がなかったとしても、実質的に再委託先・復受任者を指名している場合は、結局、指名があったとみなされる可能性があります。
再委託先・復受任者の指名は、メリットが多いかもしれませんが、このような、再委託先・復受任者の責任を負わされるという、隠れたデメリットがあります。
このため、委託者(委任者)として再委託先・復受任者を指名する場合は、責任を負わされることがないように、業務委託契約書で特約を規定してください。
このほか、再委託・再委任につきましては、詳しくは以下のページをご覧ください。
【義務・責任4】委託業務の実施に伴い受託者(受任者)に発生した損害の賠償責任
受託者(受任者)による委託業務の実施に伴い、受託者(受任者)の過失ではない損害を受けた場合、委託者(委任者)は、その損害の賠償しなければなりません。
民法第650条(受任者による費用等の償還請求等)
(第1項および第2項省略)
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
重要なポイントは、賠償をしなければならないのが、「自己(=受託者(受任者))に過失のない損害」である、という点です。
つまり、委託者(委任者)に過失がある場合は当然として、第三者の過失による場合や、そもそも誰にも過失がない場合であっても、損害が発生した場合は、委託者(委任者)は、受託者(受任者)に対して、損害賠償責任を負う、ということです。
(準)委任契約において、委託者(委任者)には、以下の義務・責任がある。
- 報酬の支払い義務
- 費用の支払い義務
- 指名した再委託先・復受任者の行為による責任
- 委託業務の実施に伴い受託者(受任者)に発生した損害の賠償責任
(準)委任契約における委託者(委任者)の3つの権利
【権利1】「委託業務の実施」を請求できる権利
受託者(受任者)の「委託業務の実施」の義務の裏返しになりますが、委託者(委任者)は、受託者(受任者)に対して、委託業務の実施を請求できる権利があります。
ただ、「法律行為・法律行為以外の事務」=委託業務の実施を目的とした(準)委任契約では、何をもって「実施」といえるのかが、非常にわかりづらい、という特徴があります。
理論上は、善管注意義務を果たしていれば「実施」している、といえるのですが、結局、善管注意義務を果たしているかどうかは、裁判を起こしてみるまではわかりません。
この点につきましては、詳しく、以下のページをご覧ください。
こうした事情があるため、(準)委任型の業務委託契約書では業務内容の明記が、特に重要となります。
【権利2】報告の請求権
これも受託者(受任者)の「報告義務」の裏返しになりますが、委託者(委任者)は、受託者(受任者)に対し、報告を求めることができます。
民法第645条(受任者による報告)
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
具体的に報告を求めることができるのは、「委託者(委任者)の請求があるとき」と「委任が終了した後」です。
また、報告事項も、「委任事務の処理の状況」と、委任事務の「経過及び結果」という漠然とした規定となっています。
このため、一般的な(準)委任型の業務委託契約で報告を求める場合は、より詳細な内容にすることがほとんどです。
【権利3】契約解除権・中途解約権
委託者(委任者)は、いつでも(準)委任契約を契約解除できます。
民法第651条(委任の解除)
1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
ここでいう、「いつでも」というのは、時期に限らず、特別な理由が必要がない、という意味です。
ただ、上記の規定の第2項にあるとおり、受託者(受任者)に不利な時期に解除した場合は、損害賠償責任が発生します。
(準)委任契約において、委託者(委任者)には、以下の権利がある。
- 「委託業務の実施」を請求できる権利
- 報告の請求権
- 契約解除権・中途解約権
(準)委任型の業務委託契約で重要な10の条項とポイント
(準)委任型の業務委託契約書を作成する場合、次の10の条項が重要となります。
- 業務内容
- 受発注の手続き
- 納入期限・納入期日・提供期日・提供期間
- 納入場所・業務実施の場所
- 業務内容の検査と検査基準・検査手続・検査期限
- 報酬・料金・委託料
- 費用負担
- 成果物の著作権の処理(譲渡または使用許諾)
- 再委託・再委任
- 契約解除・中途解約
これらの10の条項とポイントにつきましては、以下のページでまとめていますので、ご覧ください。
(準)委任型の業務委託契約では、少なくとも10の重要な条項について検討し、業務委託契約書を作成する。
(準)委任契約書は収入印紙が必要?金額は?
(準)委任契約書は、印紙税法の課税物件としては規定されていません。
ですから、原則としては、(準)委任契約書には、収入印紙を貼る必要はありませんし、金額はもちろん0円です。
ただし、例外として、「売買の委託」や継続的な「売買の業務」の(準)委任契約書は、7号文書に該当する可能性があります。
また、著作権などの無体財産権の譲渡がある(準)委任契約書の場合は、1号文書に該当する可能性もあります。
これらの7号文書(税額は4,000円)・1号文書(税額は無体財産権の対価による)に該当する場合は、印紙税の課税対象となり、収入印紙を貼る必要があります。
この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
(準)委任契約書は原則として不課税文書であり、収入印紙・印紙税は不要。ただし、例外として、7号文書や1号文書に該当する可能性がある。
(準)委任契約と請負契約との13の違い
(準)委任契約と似たような契約に、請負契約があります。ただ、(準)委任契約と請負契約とは、以下の13の点で違いがあります。
請負契約 | (準)委任契約 | |
---|---|---|
業務内容・報酬請求の根拠 | 仕事の完成 | 法律行為・法律行為以外の事務などの一定の作業・行為の実施 |
受託者の業務の責任 | 仕事の結果に対する責任 (完成義務・瑕疵担保責任) | 仕事の過程に対する責任 (善管注意義務) |
報告義務 | なし | あり |
業務の実施による成果物 | 原則として発生する(発生しない場合もある) | 原則として発生しない(発生する場合もある) |
業務の実施に要する費用負担 | 受託者の負担 | 委託者の負担 |
受託者による再委託 | できる | できない |
再委託先の責任 | 受託者が負う | 原則として受託者が負う 例外として委託者の指名する再委託先の責任は委託者が負う |
委託者の契約解除権 | 仕事が完成するまでは、いつでも損害を賠償して契約解除ができる | いつでも契約解除ができる。ただし、受託者の不利な時期に契約解除をしたときは損害賠償責任が発生する |
受託者の契約解除権 | 委託者が破産手続開始の決定を受けたときは、契約解除ができる。 | いつでも契約解除ができる。ただし、委託者の不利な時期に契約解除をしたときは損害賠償責任が発生する |
収入印紙 | 必要(1号文書、2号文書、7号文書に該当する可能性あり) | 原則として不要(ただし、1号文書、7号文書に該当する可能性あり) |
下請法違反のリスク | 高い | 高い |
労働者派遣法違反=偽装請負のリスク | 低い(ただし常駐型は高い) | 高い(常駐型は特に高い) |
労働法違反のリスク | 低い | 高い |
これらの点の詳しい解説につきましては、以下のページをご覧ください。
(準)委任契約と請負契約とでは、13もの違いがある。これらの違いを意識して、業務委託契約書を作成する。