このページでは、(準)委任型の業務委託契約の委託者・受託者双方に向けて、(準)委任契約の法定解除権について解説しています。

法定解除権とは、法律に規定された契約解除の権利のことです。つまり、(準)委任契約における法定解除権とは、民法に規定された(準)委任契約の解除権のことです。

(準)委任契約では、委任者・受任者ともに、いつでもその解除をすることができます(民法第651条第1項)。

このため、(準)委任型の業務委託契約では、常に契約解除のリスクを考慮しておく必要があります。

他方で、(準)委任契約における契約解除権を制限する契約条項は、必ずしも有効とはいえません。

このため、(準)委任契約型の業務委託契約で契約解除権を制限したとしても、安心はできません。

このページでは、こうした(準)委任契約における契約解除・法定解除権について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • (準)委任契約における委任者の法定解除権
  • (準)委任契約における受任者の法定解除権
  • 委任者・受任者ともに契約書に約定解除権を規定するべき理由

なお、一般的な業務委託契約における約定解約権・法定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における契約解除条項とは?書き方・規定のしかたは?




法定解除権とは?

法定解除権(読み方:ほうていかいじょけん)とは、法律に規定された契約解除の権利のことです。

【意味・定義】法定解除権とは?

法定解除権とは、法律に規定された契約解除権をいう。約定解除権とは別の解除権。

一般的な契約実務においては、法定解除権は、民法にもとづく解除権であることが多いです。

(準)委任契約における法定解除権も、通常は民法に規定されたものを意味します。





(準)委任契約である業務委託契約の解除は委任者・受任者とも原則として自由

民法では、(準)委任契約の解除権について、次のような規定があります。

民法第651条(委任の解除)

1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

2 (省略)

ここでいう「いつでも」は、「特別な理由がなくても」という意味であり、時間の制約がない、という意味ではありません。

つまり、委任者(委託者)・受任者(受託者)の両者とも、特別な理由がなくても、(準)委任契約を解除できる、ということです。

(準)委任契約は、契約当事者の信頼関係が基本となる契約であるため、どちらかの契約当事者が契約を解除したいと考えれば、本条により、解除できます。

ポイント
  • (準)委任契約は、委任者・受任者ともに、特別な理由がなくても契約解除ができる。





(準)委任契約である業務委託契約の解除により損害賠償責任が発生する

(準)委任契約の解除により損害賠償責任が発生する2つの条件

ただし、契約解除自体は比較的自由にできるものの、次の2つの場合は、次のとおり、その損害を賠償しなければなりません。

(準)委任契約の解除において損害賠償責任が発生する場合

次の2つの場合は、(準)委任契約の解除をした当事者は、損害賠償をしなければならない。

  • 相手方に不利な時期に委任を解除した場合
  • 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除した場合
根拠条文

民法第651条(委任の解除)

1 (省略)

2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

(1)相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

(2)委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

「相手方に不利な時期」とは?

「相手方に不利な時期」とは、次のとおりです。

「相手方に不利な時期」とは?
  • 【委任者側の解除】受任者が事務処理の準備に着手しかけた時期。
  • 【受任者側の解除】委任者が直ちに自分で事務の処理を開始することもできず、また、他の受任者に対して事務処理を委任することができない時期(大審院判決大正6年1月20日)

「委任者が受任者の利益をも目的とする委任」とは?

「委任者が受任者の利益をも目的とする委任」とは、委任者のみならず、受任者も何らかの利益(単なる報酬を除く。最高裁判決昭和43年9月3日)を得ることがその目的となる(準)委任契約のことです。

例えば、受任者が保証金を事業資金として利用できる建物等の管理契約のような(準)委任契約が該当すると考えられます(最高裁判決昭和56年1月19日)。

逆に言えば、一方的な業務委託契約のような(準)委任契約の場合は、「専ら報酬を得ることによるもの」に該当するものと考えられます。

(準)委任契約では「相手方に不利な時期」であれば損害賠償責任が発生する

このため、受託者が一方的に業務を実施するだけの(準)委任型の業務委託契約が解除された場合は、損害賠償責任は発生しないものと考えられます(民法第651条第2項第2号)。

ただし、この場合であっても、「相手方に不利な時期」に解除されたときは、当然ながら損害賠償責任が発生します(同第1号)。

なお、民法第651条第2項第2号は、2020年4月1日施行の改正民法(債権法)により改正されたものです。





(準)委任契約である業務委託契約の解除権は制限できるか?

「自由に契約解除ができる」というメリット・デメリット

このように、民法上、委任契約の解除は、委任者・受任者とも原則として自由とされています。

このため、契約の当事者としては、いつでも契約を解除できるというメリットがあります。もちろん、損害賠償責任の発生については、注意が必要です。

これは、逆にいえば、常に相手方から契約解除をされるかもしれないデメリットがある、ともいえます。

(準)委任型の業務委託契約ではデメリットもある

企業間取引である(準)委任型の業務委託契約としては、「自由にいつでも契約を解除できる」という点は、メリット・デメリットのいずれも考えられます。

【委託者】(準)委任契約の解除権のメリット・デメリット
  • メリット:受託者(受任者)による業務委託の実施に問題がある場合に、契約解除で対処できる(ただし、損害賠償のリスクもある)。
  • デメリット:受託者(受任者)から、事業上重要なタイミングで突然、契約解除されてしまう可能性がある(ただし、損害賠償も請求できる)。
【受託者】(準)委任契約の解除権のメリット・デメリット
  • メリット:委託者(委任者)の信用状態(支払能力)に問題がある場合や、報酬・料金・委託料が業務内容に見合っていない場合は、契約解除で対処できる(ただし、損害賠償のリスクもある)。
  • デメリット:委託者(委任者)から、突然契約解除されてしまう可能性がある(ただし、損害賠償も請求できる)。

このように、常に損害賠償請求と併せて考える必要があるものの、「いつでも」契約解除ができるというのは、特に継続的な企業間の取引きとしては、委託者・受託者双方にとって、メリット・デメリットがあります。

(準)委任契約の法定解除権は制限できない可能がある

このため、委託者・受託者どちらの立場であって、業務委託契約の内容として、いつでも解除できる法定解除権を制限できるかどうかが重要です。

この点については、古くから裁判で争われていてますが、現状では、判例で統一的判断が形成されていはいません。

つまり、(準)委任契約における法定解除権の制限が有効となるか無効となるかは、事案ごとによって異なります。

このため、ビジネス上の業務委託契約としての委任契約では、たとえ契約書で解除権を別途で規定した場合であっても、常に契約を解除される可能性を考慮しておく必要があります。

ポイント
  • 特に理由が必要でない(準)委任契約の解除権は、ビジネス上の業務委託契約としてはデメリットもある。
  • ただ、デメリットを解消するために契約解除権を特約で制約したとしても、必ずしも有効となるとは限らない。





(準)委任契約である業務委託契約の解除は将来に向かってのみ効力がある

なお、(準)委任契約の解除は、将来に向かってのみ効力があるとされます。

民法第652条(委任の解除の効力)

第620条の規定は、委任について準用する。

民法第620条(賃貸借の解除の効力)

賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

このように、将来に向かってのみ効力が発生することを、将来効といいます。

【意味・定義】将来効とは?

将来効とは、将来に向かってのみ発生する効力をいう。

このため、一般的な契約解除のような、過去に遡って、契約を結んだ時点の状態に戻すこと(いわゆる「原状回復」)は必要ではありません。

【意味・定義】原状回復とは?

原状回復とは、契約解除、契約期間の満了、契約の取消し、契約の無効、契約の申込みの撤回等の何らかの契約の終了等に伴い、契約が存在しなかった状態に戻すことをいう。「現状回復」は誤り。

専門的な表現をすれば、(準)委任契約の契約解除には、いわゆる遡及効(読み方:そきゅうこう)がありません。

【意味・定義】遡及効とは?

遡及効とは、契約や法律の効果が、遡って(さかのぼって)生じることをいう。

もっとも、民法第620条後段にあるように、損害賠償請求は過去に遡ってできます。

ポイント
  • (準)委任契約の契約解除は、過去に遡及せず、将来に向かってのみ効力が発生する。
  • ただし、損害賠償は、過去にさかのぼってできる。





契約解除については必ず業務委託契約で規定する

このように、(準)委任契約は、民法の解除権にもとづき、委託者・受託者ともに、比較的自由に契約解除ができます。

この法定解除権を制限する場合は、契約書において特約を規定する必要があります。

ただ、(準)委任契約の法定解除権の制限は、すでに触れたとおり、必ずしも有効となるとは限りませんので、注意が必要です(それでも規定していおくことに越したことはありません)。

業務委託契約書を作成する理由

(準)委任契約は、「いつでも」契約解除ができる(民法第651条)、つまり特別な理由を必要とせずに契約解除ができることから、この法定解除権を制限する場合は、特約としてを契約解除事由を限定する旨を規定した契約書が必要となるから。

また、民法上の法定解除権による契約解除を行使した場合、すでに触れたとおり、相手方から損害賠償請求をされる可能性があります。

このため、損害賠償請求をされないような契約解除をするためには、特約として、業務委託契約に契約解除条項(約定解除権)や契約解除を制限する条項を規定しておく必要があります。

業務委託契約書を作成する理由

(準)委任契約では、法定解除権の行使によって損害賠償責任が発生する可能性があることから、この損害賠償責任を免責する場合は、特約としてこの免責について規定した契約書が必要となるから。

業務委託契約における契約解除条項・約定解除権につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における契約解除条項とは?書き方・規定のしかたは?

また、委任契約・準委任契約につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?





(準)委任契約の契約解除権・法定解除権に関するよくある質問

(準)委任契約の解除権とは何ですか?
(準)委任契約には、委任者・受任者ともに「いつでも」契約解除ができる法定解除権があります。この他、委任者・受任者ともに、債務不履行による法定解除権があります。また、特約で約定解除権を規定することもできます。
(準)委任契約はいつでも解除できる?
(準)委任契約は、委任者・受任者ともに、「いつでも」(民法第651条第1項)、つまり特別な理由を必要とせずに、解除できます。
(準)委任契約の解除事由は?
(準)委任契約は、いつでも、つまり特別な理由を必要とせずに解約できることから、特に契約解除事由はありません。
業務委託契約は いつでも解除できる?
(準)委任契約型の業務委託契約は、いつでも解約できます。
(準)委任契約の解除の将来効は?
(準)委任契約の解除は、将来効があり、将来にわたってのみ効力を生じます。このため、過去に遡って効力が生じる遡及効はありません。





(準)委任契約の関連ページ