このページでは、受託者の立場の場合における、業務委託契約書の作成のポイントについて解説しています。

業務委託契約は、民法上の定義がない契約です。このため、業務委託契約書で、当事者の権利義務について、すべて規定する必要があります。

このページでは、こうした業務委託契約について、受託者の側の立場の場合に注意するべきポイントについて解説します。

なお、委託者の立場の場合の解説につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

【委託者側版】業務委託契約書の21の記載内容・契約条項とリーガルチェックリスト

また、業務委託契約の全般的な解説につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約書とは?書き方・注意点についてわかりやすく解説




【受託者側向け】業務委託契約の21のポイント・契約条項・注意点一覧

受託者にとって重要な業務委託契約のポイント・契約条項・注意点は、以下の21項目となります。

業務委託契約の21のポイント・契約条項・注意点一覧
1.目的条項目的条項は、契約の概要を規定する条項です。
2.契約形態契約形態の条項は、業務委託契約が、民法上のどの契約に該当するのかを規定する条項です。一般的には、請負契約か準委任契約のいずれか、または双方であることを規定します。
3.業務内容業務内容の条項は、委託者が受託者に対し委託する、委託業務の内容について規定する条項です。業務委託契約においては、最も重要な条項のひとつです。
4.契約の成立・受発注の手続き契約の成立の条項は、業務委託契約の成立の条件・時期を規定する条項です。また、いわゆる基本契約である業務委託契約では、個別契約の成立=個々の取引の受発注の手続きを規定します。
5.報酬・料金・委託料の金額・計算方法報酬・料金・委託料の金額・計算方法の条項は、具体的な数字や計算方法により、報酬・料金・委託料を規定する条項です。計算方法で規定する場合は、計算の結果が、契約当事者で異なることが無いよう規定することが重要となります。
6.報酬・料金・委託料の支払方法支払方法の条項は、委託者が受託者に対し、どのように報酬・料金・委託料を支払うのかを規定する条項です。一般的には、現金の銀行振込による支払いが多いです。
7.報酬・料金・委託料の支払期限・支払期日支払期限・支払期日の条項は、委託者が受託者に対し支払う報酬・料金・委託料の支払期限・支払期日を規定する条項です。いわゆる「締切計算」をする場合は、何をもって締め切るのかを明記しなければ、トラブルの原因となります。
8.費用負担費用負担の条項は、業務委託契約の履行に必要な費用(内訳・金額・計算等)について、誰がどのように負担するのかを規定する条項です。
9.納期(納入期限・納入期日)納入期限・納入期日の条項では、納入期限または納入期日を規定する条項です。納入期限は「期限」、納入期日は「期日」を意味しますので、単に「納期」と記載することは避けるべきです。
10.納入・納入方法・納入場所納入・納入方法・納入場所の条項は、受託者からなされる納入の定義、納入方法、納入場所を規定します。納入は、何らかの条項(支払期限・契約不適合責任等)のトリガーになる場合があるため、何をもって納入完了となるのかを明記します。
11.受領遅滞(受領拒否・受領不能)受領遅滞の条項は、受託者からの納入があった際、委託者がその納入を拒否した場合や、納入の受入ができない場合の対処を規定する条項です。
12.検査(検査項目・検査方法・検査基準)検査の条項は、検査を実施する際の検査項目、各検査項目の検査の方法、検査結果の合否の判定基準(検査基準)を規定する条項です。
13.検査期間・検査期限と検査手続き検査期間・検査期限の条項は、委託者による検査を実施する期間または期限と、検査の合否の場合の手続きを規定します。
14.所有権の移転の時期所有権の移転の条項は、物品・製品・有体物の成果物の納入がある業務委託契約の場合において、これらの所有権の移転の時期について規定する条項です。一般的な業務委託契約では、所有権の移転の時期は、納入時か検査完了時です。
15.危険負担の移転の時期危険負担の移転の条項は、物品・製品・有体物である成果物が発生する業務委託契約の場合において、これらになんらかの損害が発生した場合の負担について規定する条項です。一般的な業務委託契約では、危険負担の移転の時期は、納入時または検査完了時です。
16.契約不適合責任契約不適合責任(旧民法における瑕疵担保責任)の条項は、請負型の業務委託契約の場合における、契約不適合の定義、契約不適合責任、契約不適合責任の期間等を規定します。
17.善管注意義務善管注意義務の条項では、準委任型の業務委託契約の場合における、善管注意義務を規定します。ただし、契約形態の条項で準委任契約である旨を明記していれば、特に契約条項として善管注意義務を規定せずとも、民法上は善管注意義務が発生します(民法第644条)。
18.契約解除条項契約解除条項は、契約が解除できる事由・理由について規定する条項です。
19.秘密保持義務・守秘義務秘密保持義務・守秘義務の条項は、秘密情報の定義、秘密保持義務、秘密情報の目的外使用の禁止等を規定する条項です。厳格な秘密保持義務・守秘義務を規定する場合は、別途秘密保持契約を締結することもあります。また、個人情報を取り扱う業務委託契約では、個人情報の取扱いについても、併せて規定します。
20.再委託・下請負再委託・下請負の条項は、受託者による業務の再委託・下請負ができるかどうかを規定する条項です。一般的には、全面的に禁止されるか、または許諾される場合であっても、受託者側に再委託先・下請負先に関する責任が課される場合が多いです。
21.合意管轄裁判所合意管轄裁判所の条項は、第一審の裁判を起こせる唯一の裁判所=専属的合意管轄裁判所を規定する条項です。どちらかの立場が優位な契約当事者に近い裁判所が選ばれることが多いです。
以下、それぞれ、詳しく見ていきましょう。





【業務委託契約のポイント1】目的条項

目的条項では契約の概要を規定する

目的条項は、契約の概要を規定する条項です。

目的条項のポイント
  • 目的条項では、契約の概要、つまり委託者・受託者の権利・義務の全体像を簡単に規定する。
  • 目的条項で、いわゆる「信義誠実の原則」を規定しても意味がないので、規定しない。
  • 目的条項は、請負型の業務委託契約では、契約不適合責任が追求されるかどうかに関わる条項。
  • 目的条項は、準委任型の業務委託契約では、受託者が業務を実施できたかどうかの判断に関わる条項。
  • 目的条項は、秘密保持義務の目的外使用があったかどうかに関わる条項。

このほか、目的条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における目的条項とは?条項の規定のしかた・書き方は?

契約の概要を正確に記載する

受託者の立場の場合、目的条項では、契約の概要について、正確に記載します。

受託者にとって、目的条項は、受託した業務を問題なく完了したかどうかに関係してきます。

多くの業務委託契約は、請負型・準委任型のいずれかです。

請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?

委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

 

請負型・準委任型のいずれの場合であっても、「契約の目的」が達成できているかどうかが、受託者による契約の履行がされたかどうかの判断基準となります。

契約の目的と債務不履行

契約の目的は、受託者による契約の履行があったかどうか=債務不履行(契約違反)かどうかの判断基準。

もちろん、受託者が受託した業務を完遂したかどうかは、検査基準、次いで業務内容により判断されます。

ただ、こうした検査基準や業務内容でも、契約の履行がなされているかどうかがハッキリしない場合は、契約の目的も判断基準となります。

このため、目的条項が不明確な内容の場合、受託者が受託した業務を完遂したかどうかを巡って、委託者との間でトラブルなることがあます。

なお、請負契約・(準)委任契約の契約解除につきましては、詳しくは、それぞれ次のページをご覧ください。

請負契約の契約解除権とは?請負人・注文者からの契約解除について解説

(準)委任契約の契約解除権とは?「いつでも」解約できるとは?





【業務委託契約のポイント2】契約形態

契約形態の条項では請負契約・準委任契約などを規定する

契約形態の条項では、業務委託契約が、民法上のどの契約に該当するのかを規定します。

一般的な業務委託契約は、請負契約か、準委任契約のいずれかに該当することが多いです。

契約形態の条項のポイント
  • 契約形態の条項では、可能な限り、業務委託契約が民法上の何の契約であるかを特定し、明記する。
  • 一般的な業務委託契約は、請負契約か準委任契約のどちらかであるため、いずれかを明記する。
  • 例外として、寄託契約、売買契約、贈与契約である業務委託契約もあり得る。
  • 契約形態を規定しておかないと、トラブルになった場合、委託者が自分にとって都合のいい契約形態を主張してくる。
  • 契約形態を規定しておかないと、不要な印紙税を負担することになる。

このほか、契約形態の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

契約形態とは?その種類・一覧や書き方・規定のしかたについても解説

契約形態は必ず明記する

受託者の立場の場合、契約形態は、必ず明記してください。これは、委託者の場合であっても同様です。

業務委託契約は、法律上(民法上)の定義がない契約ですが、実際は民法上のいずれかの契約に該当します。

業務委託契約には請負・委任・偽装請負・雇用・売買(譲渡)・寄託・組合の7つの種類がある

多くの業務委託契約は、請負契約か準委任契約のいずれかに該当します。

このため、請負契約に該当するのか、準委任契約に該当するのかをよく検討のうえ、どちらかを業務委託契約書に明記してください。

請負契約と(準)委任契約の14の違い

ただし、ごくまれに、請負契約にも準委任契約にも該当しない業務委託契約もあります。

こうした業務委託契約の場合は、無理に請負契約や準委任契約にせずに、他の民法や商法の別の契約を検討してください。

「準委任契約が委託者にとって有利」とは限らない

一般的に、業務委託契約では、「準委任契約が受託者にとって有利」という認識があるようです。

これは、「仕事の完成」=結果の保証を求められる請負契約とはことなり、「善管注意義務」は結果の保証をしなくてもいい、という事情があるためであると推察されます。

確かに、善管注意義務が仕事の完成を目的としていないことは事実です。しかしながら、業務内容の性質や受託者の専門性の高さによっては、「仕事の完成」と同程度の高度な善管注意義務が求められる可能性もあります。

この点から、受託者としては、安易に準委任契約とするのではなく、あえて請負契約としたうえで、業務内容の限定や、免責条項を拡充により対応するなどの工夫も検討するべきでしょう。





【業務委託契約のポイント3】業務内容

業務内容の条項では委託業務の内容について規定する

業務内容の条項では、委託者が受託者に対し委託する、委託業務の内容について規定します。

この業務内容の条項は、業務委託契約の中でも、最も重要な規定です。

業務内容の条項のポイント
  • 業務委託契約は法律上の定義がないため、業務内容は、すべて業務委託契約で委託者と受託者が決めなければならない。
  • 業務内容は、受託者が「何をするのか」を決めるものであり、同時に、受託者が「ちゃんとしたのか」の判断基準となる。
  • 業務内容が不明確な業務委託契約は、さまざまなリスクがある。
  • 業務内容は、可能な限り特定し、詳細かつ明確に規定する。
  • 業務内容は、下請法の問題となりやすい条項。

このほか、業務内容の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約書における業務内容の決め方・書き方と全行程を解説

業務内容は明確に規定する

受託者の立場の場合、業務内容は、当然ながら、必ず規定してください。

業務内容は、受託者が何をするのかを規定する内容ですので、業務委託契約のなかでも、最も重要な規定です。

注意すべき点は、いかに明確に業務内容を規定するか、ということです。

業務内容のポイント

業務内容は、明確に規定する。

不明確な業務内容では業務実施の結果の合否を巡ってトラブルとなる

業務委託契約では、受託者自身は予定どおりの業務を実施したと思っていても、委託者の側から、不十分である(=検査結果が不合格)と主張されることがあります。

このような委託者の主張は、恣意的・意図的であることもありますが、業務内容が不十分であることも原因のひとつです。

つまり、不明確な業務内容では、委託者との間で、当初予定どおりの業務が実施されたどうかを巡ってトラブルとなる、ということです。

このようなトラブルにならないためにも、受託者としては、業務内容は、明確に、かつ客観的に規定します。

下請法が適用される場合は不明確な業務内容は委託者の責任

業務委託契約は、委託者・受託者の資本金と業務内容によっては、下請法が適用されます。

下請法の対象かどうかの条件とは?資本金・業務内容(製造委託等)について解説

下請法が適用される業務委託契約の場合、業務内容を明確にする義務は、委託者=親事業者の側にあります。

委託者=親事業者は、下請法第3条にもとづき、受託者=下請事業者に対し、業務内容等を明確に記載した書面(いわゆる「三条書面」)を交付しなければなりません。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項や契約書との違いは?

つまり、下請法が適用される業務委託契約では、業務内容を明らかにするのは、「委託者=親事業者の義務」ということになります。

業務内容を明らかにするのは委託者?受託者?

下請法が適用される場合、業務内容を明らかにするのは、受託者ではなく、委託者=親事業者の義務。

また、三条書面に記載された業務内容が不明確なことが原因の場合、受託者=下請事業者は、委託者=親事業者による返品や、無償でのやり直しを拒否できます。





【業務委託契約のポイント4】契約の成立・受発注の手続き

契約の成立の条項では個別契約の受発注の手続きを規定する

契約の成立の条項では、業務委託契約の成立の条件・時期を規定します。

また、いわゆる基本契約である業務委託契約では、個別契約の成立=個々の取引の受発注の手続きを規定します。

契約の成立・受発注の手続きの条項のポイント
  • 業務委託契約は、口頭でも成立する契約であるため、契約成立・変更を書面だけに限定する=口頭の手続きを排除するために、契約の成立の条項を規定する。
  • スポットの業務委託契約では、一般的には、業務委託契約書の取交しをもって、業務委託契約書に記載された日付の時点で、契約が成立する。
  • 個別契約の成立・受発注の手続きの条項では、個別契約の受発注の方法、スケジュール、成立条件を決める。
  • 受発注の際、委託者による発注の後で、受託者からの受注がない場合に、個別契約がどうなるのか=自動成立とするのか、自動不成立とするのかを規定する。
  • 受発注の際、委託者による発注の後で、受託者からの受注がない場合について、何も規定していない場合は、商法第509条にもとづき、個別契約は、自動成立となる。
  • 下請法が適用される業務委託契約や、建設工事請負契約では、契約書の作成が義務づけられている。

このほか、契約の成立・受発注の手続きの条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における発注書・注文書の使い方は?契約の成立・受発注の手続きについても解説

個別契約は自動不成立=申込みの失効とする

受託者の立場の場合、受発注の手続きで重要となるのが、委託者からの発注に対して諾否を通知しない場合の規定です。

個別契約の受発注の際、委託者からの発注に対し、なんらかの理由により、受託者としては反応できない場合があります。

こうした場合、業務委託契約(取引基本契約)で、何も規定していないと、商法第509条により、自動的に個別契約が成立してしまいます。

商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)

1 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。

2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。

この際、委託者からの発注の内容が、例えば、納期が極端に短い、あまりにも発注量が多い(逆に少ない)のように、なんらかの問題がある場合でも、個別契約は自動的に成立します。

こうしたリスクを防ぐためにも、受託者としては、委託者からの発注=個別契約の申込みがあった際に、諾否の通知をしない場合は、自動的に個別契約が不成立となるように、業務委託契約(取引基本契約)で特約を設定するべきです。





【業務委託契約のポイント5】報酬・料金・委託料の金額・計算方法

報酬・料金・委託料は金額または計算方法で規定する

報酬・料金・委託料の金額・計算方法の条項では、具体的な数字や計算方法により、報酬・料金・委託料を規定します。

報酬・料金・委託料の金額・計算方法の条項のポイント
  • 報酬・料金・委託料は、原則として金額で規定し、やむを得ない場合に限り、計算方法で規定する。
  • 報酬・料金・委託料の金額・計算方法は、下請法上、問題になりやすい。
  • 報酬・料金・委託料に課税される消費税については、必ず記載する。
  • 報酬・料金・委託料の書き方で、印紙税が変わる。このため、なるべく印紙税が少額で済むような報酬・料金・委託料の書き方とする。
  • 自身がフリーランス・個人事業者である場合は、源泉徴収の金額も記載する。

このほか、報酬・料金・委託料の金額・計算方法の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約書における報酬・料金の決め方・書き方とは?

消費税・印紙税に注意する

一般的な業務委託契約では、報酬・料金・委託料の金額や計算方法は、通常は、受託者の側が、事前に見積書で提示します。

報酬・料金・委託料は、当然ながら、委託者の側とトラブルとならないよう、お互いに認識が一致するように記載します。

この際、意外と消費税の記載(内税・外税の明記)を忘れがちですので、しっかりと明記します。

消費税は、記載のしかたによっては、印紙税の計算が変わってきますので、必ず本体価格と消費財を別々に分けて記載してください。





【業務委託契約のポイント6】報酬・料金・委託料の支払方法

支払方法の条項では報酬・料金・委託料の支払方法を規定する

支払方法の条項では、委託者が、受託者に対し、報酬・料金・委託料をどのような支払うのかを規定します。

一般的な業務委託契約の場合、金額が少額な場合は、銀行振込による支払いがほとんどです。

支払方法の条項のポイント
  • 少額の業務委託契約の支払方法は、銀行振込が一般的。
  • 多額の業務委託契約の支払方法は、手形・小切手・電子記録債権など。
  • このほか、多額の多額の業務委託契約の支払方法としては、債権譲渡担保方式、ファクタリング方式、併存的債務引受方式の3種類の一括決済方式がある。

このほか、支払方法の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における支払方法とは?書き方・規定のしかたは?

支払方法はなるべく銀行振込にする

銀行振込以外は例外的な方法

すでに触れたとおり、一般的な業務委託契約、特に金額が小規模なものでは、支払方法は、現金による銀行振込が多いです。

手形や小切手による支払いもありますが、かつてに比べると、非常に件数は少なくなっています。その代わりに、電子記録債権や、一括決済方式が増えてきています。

ただ、公正取引委員会中小企業庁が推奨しているとおり、下請法が適用される場合に限りますが、本来であれば、(銀行振込による)現金払いが望ましい、とされています。

下請代金の支払手段について

親事業者による下請代金の支払については、以下によるものとする。

  1. 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
  2. 手形等により下請代金を支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。
  3. 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として、段階的に短縮に努めることとし、将来的には60日以内とするよう努めること。

こうした背景があるにもかかわらず、委託者が銀行振込以外の支払方法による支払いを求めてくることもあります。

この場合、その理由や目的を十分に検討したうえで、支払方法を決定するべきです。

振込手数料は特約がない限り委託者の負担

銀行振込の手数料は、民法上、金銭を振込む委託者の側の負担とされています。

民法第485条(弁済の費用)

弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

つまり、業務委託契約に銀行振込の手数料に関する特約がない場合は、支払う側=委託者の負担となります。

逆にいえば、業務委託契約に特約がないにもかかわらず、委託者が勝手に振込手数料を控除して支払いをしてはいけません。

このため、受託者としては、勝手に振込手数料を控除された場合は、民法第485条を理由に、委託者に対し、振込手数料の負担を求めることができます。

下請事業者に銀行振込手数料を負担させる場合は事前に合意する

なお、下請法が適用される取引において、委託者=親事業者が受託者=下請事業者に振込手数料を負担させる場合は、事前に書面による合意が必要となります。

下請事業者の了解を得た上で,下請代金を下請事業者の銀行口座に振り込む際の振込手数料を下請代金の額から差し引いて支払うことは問題ないか。
発注前に当該手数料を下請事業者が負担する旨の書面での合意がある場合には,親事業者が負担した実費の範囲内で当該手数料を差し引いて下請代金を支払うことが認められる。
(以下省略)

逆に言えば、このような合意がない場合において、委託者=親事業者が受託者=下請事業者に振込手数料を負担させた場合は、「下請代金の減額の禁止」や「買いたたきの禁止」に抵触する可能性があります。





【業務委託契約のポイント7】報酬・料金・委託料の支払期限・支払期日

支払期限・支払期日の条項では報酬・料金・委託料の支払期限・支払期日を規定する

支払期限・支払期日の条項では、委託者が受託者に対し支払う報酬・料金・委託料の支払期限・支払期日を規定します。

支払期限・支払期日の条項のポイント
  • 支払期限は、誤解のないよう、なるべく日付を特定して規定する。
  • やむを得ない場合に限り、計算方法で規定する。
  • 締切計算をする場合は、「何をもって締切るのか」を正確に記載する。
  • 下請法が適用される業務委託契約では、支払期限は、特に問題となりやすいので、注意する。

このほか、条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における支払期限・支払期日とは?契約条項について解説?

「月末締め翌月末払い」としない

受託者の立場の場合、支払期限・支払期日は、委託者に誤解されないよう、なるべく日付を特定した形で規定するべきです。

やむを得ず、「納入の日から起算して●日後」のような計算方法の形で規定する場合は、委託者との間で認識の齟齬がないように、十分に協議をしてください。

特に、いわゆる「月末締め翌月末払い」のような締切計算は、要注意です。

このような計算方法では、「何をもって締切るのか」を明確にしていないと、委託者との間で、月単位での支払期限・支払期日の誤解が生じることがあります。

下請法では支払期限・支払期日は「納入時から60日後」

下請法が適用される業務委託契約の場合、委託者=親事業者は、支払期限・支払期日を納入または業務の実施があった日から60日以内に設定しなければなりません。

よく誤解されがちですが、この60日以内に支払期限・支払期日を設定する下請法の規制は、検査の有無は関係ありません。

下請法による支払期日の制限

下請法が適用される業務委託契約における支払期日は、検査の有無にかかわらず、下請事業者の給付を受領した日、つまり納入があった日または業務が終了した日から起算して60日以内。

このため、受託者=下請事業者としては、たとえ納入から60日以上後に支払期限を設定されたとしても、下請法にもとづき、納入から60日後には、委託者に対し、報酬・料金・委託料の支払いの請求ができます。

なお、この「60日ルール」は、あくまで原則であり、例外として、「60日ルール」が適用されない場合もあります。

ただ、この例外については、厳しい条件がありますので、受託者=下請事業者としては、本当に適法な例外に該当するのか、下請法や関連するガイドラインをよく確認してください。





【業務委託契約のポイント8】費用負担

費用負担の条項では費用を負担する当事者と費用の内訳・金額・計算等を規定する

費用負担の条項では、業務委託契約の履行に必要な費用(内訳・金額・計算等)について、誰がどのように負担するのかを明記します。

費用負担の条項のポイント
  • 民法上の原則としては、業務委託契約の履行の費用は、受託者が負担する。
  • 例外としては、準委任契約である業務委託契約の履行の費用は、委託者が負担する。
  • 業務委託契約では、トラブル防止のため、民法上の規定に関係なく、費用負担を明確に規定する。
  • 委託者による安易な費用負担は、業務委託契約ではなく、労働者派遣契約、雇用契約・労働契約とみなされるリスクとなる。
  • 印紙税は、折半が民法上の原則。ただし、印紙税法では、契約当事者に「連帯責任」が発生する。

このほか、費用負担の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における費用負担とは?書き方・規定のしかたは?

委託者に負担してもらいたい費用は必ず明記する

一般的な業務委託契約では、業務の実施に要する費用は、受託者の負担とされることが多いです。受託者としては、業務委託契約の報酬・料金・委託料は、そうした諸々の費用も含めた金額を設定します。

なお、一部の業務委託契約では、どうしても事前に費用が算定できない場合や、実費計算が必要な場合もあります。

この場合は、受託者としては、委託者に対し、費用負担を求めることになります。こうした委託者の費用負担についても、必ず業務委託契約に明記します。

この際、費用の計算方法をなるべく明確に規定しないと、費用の数字を巡ってトラブルになりますので、注意してください。





【業務委託契約のポイント9】納入・納入方法・納入場所

納入の条項では納入の定義・納入方法・納入場所を規定する

納入の条項では、受託者からなされる納入の定義と納入場所を規定します。

また、特殊な成果物の納入の場合は、納入方法も規定します。

納入の条項のポイント
  • 実は「納入」という用語には、法律的な定義がない。このため、必要に応じて、業務委託契約で納入を定義づける。
  • 成果物の引渡しがない業務委託契約では、納入ではなく、「業務の実施」。
  • 特殊な成果物の納入がある業務委託契約では、納入方法も規定する。
  • 有体物の成果物の納入がある業務委託契約では、住所で特定する形で納入場所を規定する。

このほか、納入(納入方法・納入場所)の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

納入・納入方法・納入場所とは?書き方・規定のしかたは?

納入=業務の一部

受託者としては、物品・製品・成果物の納入がある業務委託契約では、納入をするまで(検査がある場合は検査完了まで)が業務です。

このため、受託者の立場では、何をもって納入ができたといえるのか、という「納入の定義」が重要となることもあります。

例えば、一般的な製造請負契約・製造業務委託契約では、受託者に対して、契約の目的物である物品・製品・成果物を引渡すことが納入となります。この程度であれば、納入の定義は、さほど難しくないでしょう。

これに対し、ソフトウェア・プログラム・システム・アプリ等の開発業務委託契約のように、必ずしも何をもって納入とするのかが決まっていない契約の場合は、明確に納入の定義を規定するべきです。





【業務委託契約のポイント10】納期(納入期限・納入期日)

納期の条項では納入期限・納入期日を規定する

納期の条項では、納入期限または納入期日を規定します。

納期の条項のポイント
  • 納入期限と納入期日は、同じようで別の意味。「納期」という表現では、このうちのどちらを意味するのかわからないため、契約書では、「納期」という表現は使わない。
  • 納入期限・納入期日は、誤解のないよう、日付・年月日で明記する。
  • 納入期限・納入期日だけではなく、実際に納入があった場合の手続きも明記する。

このほか、納入(納入期限・納入期日)条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

納期(納入期限・納入期日)・作業期間とは?契約条項のポイントを解説

「納入期日」に注意

受託者の立場の場合、納期の条項では、納入期限と納入期日のどちらかで規定します。

納入期限と納入期日の違い
  • 納入期限は「期限」なので、指定された「日まで」に納入するという意味。
  • 納入期日は「期日」なので、指定されたピンポイントの「日」に納入するという意味。

上記のように、納入期日で納期を規定した場合、受託者としては、特定の日の納入しなければなりません。

たとえ納入期日よりも早く物品・製品・成果物を納入しようとしても、委託者から受領を拒否される可能性があります。

このため、物品・製品・成果物の納入がある業務委託契約では、納期が納入期限なのか、納入期日なのか、委託者とよく協議して確定させるべきです。

納入日が非常に重要となる

また、納入日は、契約内容によっては、支払期限・支払期日、検査期間、契約不適合責任の期間の起算点となることがあります。

ただ、納入の定義や手続きが明確でないと、こうした期間・期日の計算も明確になりません。

そこで、受託者としては、納入があった際に、委託者から、納入を証するなんらかの書面(いわゆる「受領証書」)を受取るようにします。

なお、この受領証書ですが、業務委託契約で委託者による受領証書の交付の義務が規定されていなくても、受託者は、民法上、その交付を請求することができます。

民法第486条(受領証書の交付請求)

弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。





【業務委託契約のポイント11】受領遅滞(受領拒否・受領不能)

受領遅滞の条項では受領拒否・受領不能の場合の対応を規定する

受領遅滞の条項では、受託者からの納入があった際、委託者がその納入を拒否した場合や、納入の受入ができない場合の対処を規定します。

受領遅滞の条項のポイント
  • 受領遅滞とは、委託者による受領の拒否または受領の不能により、受領が遅れること。
  • 受領遅滞の条項では、受領遅滞があった場合の委託者の責任、受託者の免責を規定する。
  • 委託者にとっては、受領遅滞は、下請法や独占禁止法に違反する行為。

このほか、条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

受領遅滞(受領拒否・受領不能)とは?書き方・規定のしかたは?

受領遅滞があった場合の委託者の責任を詳細に規定する

受領遅滞による委託者の責任・受託者の免責はの判例・学説は不確定

受託者の立場の場合、受領遅滞の条項で非常に重要となるのが、委託者の責任を受託者の免責についてです。

どのような場合に受領遅滞に該当するのかは、比較的はっきりしています。

受領遅滞の要件とは?
  1. 受領行為を要する債務であること。
  2. 債務の本旨に従った履行の提供があること。
  3. 履行遅滞が債権者の責任によるものであること。

しかしながら、改正民法第413条第の規定では、受領遅滞があった場合における債権者=委託者の具体的な「遅滞の責任」、特に「受領義務」は、明示されていません。

受領遅滞の責任の学説・判例
  1. 債務者による利息支払義務は免責される(大審院判決大正5年4月26日)
  2. 債権者の同時履行の抗弁権(民法第533条)は無くなる。
  3. 債務者は、債権者に対し、損害賠償の請求ができる。
  4. 債務者は、履行遅滞を理由に、契約解除ができる。

なお、学説によっては、3.と4.については、認めない立場もあります(判例同旨。最高裁判決昭和40年12月3日)。

業務委託契約では受領遅滞による委託者の責任・受託者の免責を規定する

このように、受領遅滞があった場合の委託者の責任・受託者の免責は、不確定です。

このため、受託者としては、業務委託契約では、次のように、受領遅滞があった場合における委託者の責任・受託者の免責の詳細を規定しておくべきです。

受託者が履行遅滞の条項で規定するべき内容
  1. 受領遅滞があった場合、委託者の同時履行の抗弁権が無くなり、受領がなくても受託者に報酬・料金・委託料の支払義務が発生するようにする。
  2. 受領遅滞そのものにもとづく、損害賠償・遅延損害金の請求ができるようにする。
  3. 受領遅滞があった場合における、違約金・損害賠償額の予定を設定する。
  4. 受領遅滞そのものにもとづく、契約解除ができるようにする。
  5. 受領遅滞により契約を解除した場合、物品・製品等を第三者に売却できるようにする。





【業務委託契約のポイント12】検査(検査項目・検査方法・検査基準)

検査の条項では検査項目・検査方法・検査基準を規定する。

検査の条項では、検査を実施する際の検査項目、各検査項目の検査の方法、検査結果の合否の判定基準(検査基準)を規定します。

検査の条項のポイント
  • 検査の条項では、なるべく客観的・一義的に、検査項目・検査方法・検査基準を規定する。
  • 不明確な検査項目・検査方法・検査基準は、検査の合否を巡って、トラブルとなる。
  • 下請法が適用される場合、検査は問題となりやすい。

このほか、検査の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における検査(検査項目・検査方法・検査基準)とは?書き方・規定のしかたは?

検査基準を明記して検査の合否で揉めないようにする

業務委託契約では、検査結果を巡って、しばしばトラブルになります。

こうしたトラブルの多くの原因は、検査項目・検査方法・検査基準を規定しないことです。

言い換えれば、委託者の主観で検査の合否を判定できるようにすると、受託者としては、不当な検査不合格の判定となるリスクがあります。

このため、業務委託契約では、受託者が主導して、なるべく客観的な検査項目・検査方法・検査基準を規定するべきです。

委託者による恣意的な検査は下請法違反

下請法が適用される業務委託契約の場合、委託者による恣意的な検査があったときは、受託者としては、下請法による保護を受けられます。

恣意的な検査があった場合、委託者は、下請法違反となります。

下請法では、恣意的な検査にもとづく場合、次の行為を禁止しています。

「恣意的」な検査による禁止行為
  • 受領拒否(下請法第4条第1項第1号)
  • 返品(下請法第4条第1項第4号)
  • 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(下請法第4条第2項第4号)

このため、こうした下請法違反となる恣意的な検査があった場合、受託者としては、下請法の適用も視野に入れて、対応を検討してください。





【業務委託契約のポイント13】検査期間・検査期限と検査手続き

検査期間・検査期限の条項では検査の期間・期限と検査の手続きを規定する

検査期間・検査期限の条項では、委託者による検査を実施する期間または期限と、検査の合否の場合の手続きを規定します。

検査期間・検査期限の条項のポイント
  • 検査期間・検査期限は、「委託者が検査をしない」ことを防止する規定。
  • 一般的には、納入の時点から起算して、検査期間・検査期限を設定する。
  • 検査期間・検査期限の経過=自動合格または自動不合格とする。
  • 検査結果が不合格の場合の対応を規定する。
  • 製造請負契約の場合は、特別採用・特採について規定する。

このほか、検査期間・検査期限の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における検査期間・検査期限と検査手続きとは?書き方・規定のしかたは?

受託者としては検査期間・検査期限はなるべく短くする

特に検査合格後の支払いの場合は要注意

受託者にとっては、検査期間・検査期限が長いと、いつまで経っても検査が終わらない、ということになりかねません。

特に検査合格後に支払期限が設定されている場合、つまり、検査に合格しないと支払いがない場合は、検査期間・検査期限が長いと、支払いも遅くなります。

このため、受託者の立場では、検査期間・検査期限は、なるべく短く規定するべきです。

なお、すでに触れたとおり、下請法が適用される業務委託契約の場合は、検査の有無に関係なく、支払期限は、納入から60日後以内です。

検査期間・検査期限の経過=自動合格とする

業務委託契約では、委託者の検査がないまま、検査期間・検査期限が経過することがあります。

受託者としては、このように検査期間・検査期限が経過した場合、検査は、自動的に合格するように規定するべきです。

こうすることで、委託者が検査しないことのリスクはなくなります。

このほか、こうした検査の自動合格の規定は、検査手続きの省略にもなります。





【業務委託契約のポイント14】所有権の移転の時期

所有権の移転の条項では所有権の移転時期を規定する

物品・製品・有体物の成果物の納入がある業務委託契約の場合、所有権の移転の条項で、これらの所有権の移転の時期について規定します。

所有権の移転の条項のポイント
  • 民法では所有権の移転の時期は決まっていない。このため、業務委託契約で規定する必要がある。
  • 一般的な業務委託契約では、所有権の移転の時期は、納入時か検査完了時。
  • 知的財産の媒体の所有権の移転と、その知的財産の知的財産権の移転は別物。このため、それぞれ別々に規定する。

このほか、所有権の移転の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

所有権の移転の時期とは?業務委託契約における成果物の取扱いを解説

受託者にとっては所有権の移転の時期は遅いほうが有利

受託者の立場の場合、契約の目的物である物品・製品・成果物の所有権の移転の時期は、遅いほうが有利です。

というのも、こうした物品・製品・成果物の所有権は、報酬・料金・委託料の支払いの担保になるからです。

委託者からの報酬・料金・委託料の支払いがない場合、所有権が留保されていれば、受託者は、物品・製品・成果物の納入後でも、これらを引き上げることができます。

このため、できれば、委託者からの報酬・料金・委託料の完了の時点で、物品・製品・成果物の所有権が移転するように規定するべきです。

ただ、現実的には、よほど委託者に対し優位な立場でもない限り、せいぜい検査合格の時点か、納入の時点で所有権が移転することが多いです。





【業務委託契約のポイント15】危険負担の移転の時期

危険負担の移転の条項では危険負担の移転時期を規定する

物品・製品・有体物である成果物が発生する業務委託契約の場合、危険負担の移転の条項では、これらになんらかの損害が発生した場合の負担について規定します。

危険負担の移転の条項のポイント
  • 危険負担の移転の条項では、何らかの事情によって、業務実施ができない場合の危険の負担を決める。
  • 改正民法によって危険負担の移転の規定は改められ、納入の前後によって、受託者から委託者に危険負担が移転することとなった。
  • ただし、危険負担の時期を変更する場合は、業務委託契約で規定する必要がある。
  • 一般的な業務委託契約では、危険負担の移転の時期は、納入時または検査完了時。

このほか、危険負担の移転の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

【改正民法対応】危険負担の移転の時期とは?規定のしかた・書き方は?

受託者にとって危険負担の移転の時期はなるべく早いほうが有利

危険負担は受託者から委託者に移転する

受託者の立場の場合、危険負担の移転の時期は、なるべく早いほうが有利です。

危険負担とは、簡単にいえば、物品・製品・成果物等の目的物の引渡しがある業務委託契約において、何らかの後発的な原因で物品・製品・成果物に発生した損害の負担のことです。

【意味・定義】危険負担とは?

危険負担とは、後発的な事由によって、目的物になんらかの損害が生じた場合における損害の負担をいう。

多くの業務委託契約では、危険負担は、受託者から委託者に移転します。

このため、受託者としては、危険負担の移転の時期は、なるべく早くしたほうが、有利となります。

実務的には危険負担の移転の時期は検査完了の時点とする

理論上、受託者から委託者に危険負担が移転する日は、最も早くて、物品・製品・成果物の完成の時点です。

しかし、物品・製品・成果物が完成した時点では、これらは、受託者の支配下(占有)にあるわけです

受託者の支配下にある物品・製品・成果物について損害が発生した場合、その損害を委託者の負担とするのは、当然ながら委託者から反発を招きます。

このため、受託者としては、交渉上の立場が優位であったとしても、せいぜい、危険負担の移転の時期は、納入の時点とすることが多いです。

なお、委託者のほうが交渉上の立場が優位な場合は、危険負担の移転の時期は、検査完了の時点とされてしまうこともあります。





【業務委託契約のポイント16】契約不適合責任

請負型の業務委託契約では契約不適合責任(特にその期間)を規定する

請負型の業務委託契約の場合、契約不適合責任(旧民法における瑕疵担保責任)を規定します。

【意味・定義】契約不適合責任とは?

契約不適合責任とは、有償契約において、債務者により履行された債務が契約の内容に適合しない場合において債務者が負う責任をいう。

契約不適合責任の条項のポイント
  • 契約不適合責任の条項では、「契約不適合」の定義を規定する。
  • 注文者がその不適合を知った時から一年以内」(民法637条第1項)と異なるものを定める場合は、契約不適合責任の条項で受託者が契約不適合責任を負う期間を明記する。
  • 契約不適合責任の期間は、起算点を特定できるように規定する。

このほか、契約不適合責任につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

【改正民法対応】業務委託契約における契約不適合責任とは?「知った時から1年」の修正方法は?

受託者としては契約不適合の定義を狭くする

請負型の業務委託契約では、契約不適合責任は、目的物である物品・製品・成果物について、検査合格後に発覚した契約不適合(ミス・欠陥)に関する受託者の責任のことを意味します。

【意味・定義】請負契約における契約不適合責任とは?

請負契約における契約不適合責任とは、仕事の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約不適合があった場合。瑕疵、ミス、欠陥等があった場合を含む。)において、注文者から請求された、履行の追完、報酬の減額、損害賠償、契約の解除の請求に応じる請負人の責任・義務をいう。

受託者の立場で気をつけるべき点は、なるべく狭く契約不適合の定義を規定し、過大な契約不適合責任を追求されないようすることです。

実際に、検査合格後に目的物になんらかの問題が発覚した際、何でも契約不適合に該当するような定義では、際限なく対応を求められるリスクがあります。

このため、受託者としては、契約不適合責任の条項では、契約不適合の定義について、なるべく客観的に、かつ狭い範囲とするべきです。

契約不適合責任の期間の短縮と固定をする

受託者として、契約不適合責任の範囲を狭くするという意味では、契約不適合責任の期間を短く規定する、ということも検討するべきです。

民法上の請負契約における契約不適合責任の期間は、「注文者がその不適合を知った時から一年」とされています(民法第637条第1項)。

【根拠条文】請負契約の契約不適合責任の期間・年数

第637条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

1 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。

しかも、消滅時効が10年(民法第166条)です。

根拠条文

第166条(債権等の消滅時効)

1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

(第2項以下省略)

つまり、受託者としては、最長で10年間、契約不適合責任を負うこととなります。

しかしながら、一般的な業務委託契約の契約不適合責任としては、最長で10年間はあまりにも長いです。このため、受託者としては、この契約不適合責任の期間は、短縮するよう求めるべきです。

また、同様に、「知った時から」という起算点についても、固定化するべきです。この際、実際に契約不適合責任への対応を巡ってトラブルにならないよう、どの時点を起算点とするのかを明記します。

一般的には、納入、業務終了時、検査合格日などを契約不適合責任の期間の起算点とします。





【業務委託契約のポイント17】善管注意義務

準委任型の業務委託契約では受託者に善管注意義務が発生する

準委任型の業務委託契約では、受託者に善管注意義務が発生します(民法第644条)。

【意味・定義】善管注意義務とは?

善管注意義務とは、行為者の階層、地位、職業に応じて、社会通念上、客観的・一般的に要求される注意を払う義務をいう。

善管注意義務の条項のポイント
  • 契約形態が準委任型である業務委託契約では、特に契約に規定がなくても、受託者には、民法上、当然に善管注意義務が発生する。
  • 業務委託契約では、念のため、善管注意義務を規定しておく。

このほか、善管注意義務につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

準委任型業務委託契約における善管注意義務とは?定義・具体例と5つのポイントもわかりやすく解説

善管注意義務を軽減することは難しい

受託者にとって、善管注意義務は、事業者としての最低限の注意義務義務であるといえます。

このため、企業間取引である業務委託契約では、善管注意義務を軽減するようなことは、滅多にありません。

理論上は、善管注意義務を軽減したものに、「自己の財産に対するのと同一の注意」義務がありますが、業務委託契約では、まず使われません。

【意味・定義】自己の財産に対するのと同一の注意義務とは?

自己の財産に対するのと同一の注意義務とは、行為者の注意能力に応じて要求される、行為者の通常の注意を払う義務をいう。

ただ、これはあくまで、善管注意義務を直接軽減しない、ということであり、実際には、各種免責規定で、受託者側の責任を免責することはできます。





【業務委託契約のポイント18】契約解除条項

契約解除条項では契約解除の事由を規定する

契約解除条項では、契約が解除できる事由・理由について規定します。

契約解除条項のポイント
  • 原則として、契約の解除はできない。
  • 契約の解除がしやすいように、契約解除条項で、契約解除ができる事由を追記する。

このほか、契約解除条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における契約解除条項とは?書き方・規定のしかたは?

契約解除条項で契約解除の事由を追記する

受託者の立場の場合、委託者に比べると、民法上の契約解除権(=法定解除権)が制限されています。

特に、請負型の業務委託契約の場合は、ほとんど契約解除ができません。

請負契約の契約解除権とは?請負人・注文者からの契約解除について解説

このため、特に受託者としては、契約解除条項では、次のような契約解除の事由を追記し、約定解除権を広く設定します。

契約解除事由の具体例
  1. 公租公課・租税の滞納処分
  2. 支払い停止・不渡り処分
  3. 営業停止・営業許可取り消し
  4. 営業譲渡・合併
  5. 債務不履行による仮差押え・仮処分・強制執行
  6. 破産手続き開始申立て・民事再生手続き開始申立て・会社更生手続開始申立て
  7. 解散決議・清算
  8. 労働争議・災害等の不可抗力
  9. 財務状態の悪化
  10. 信用毀損行為
  11. 契約違反・債務不履行





【業務委託契約のポイント19】秘密保持義務・守秘義務

秘密保持義務の条項では秘密情報の定義と秘密保持義務を規定する

秘密保持義務の規定では、秘密情報の定義と、秘密保持義務・秘密情報の目的外使用の禁止を規定します。

秘密保持義務・守秘義務条項のポイント
  • 秘密情報の定義を規定しないと、秘密保持義務の規定は機能しない。
  • 秘密情報の定義と併せて、秘密情報の例外を規定する。
  • 秘密保持義務の条項では、秘密保持義務と併せて、秘密保持義務の例外も規定する。
  • 秘密情報の目的外使用も禁止する。

このほか、秘密保持義務の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における秘密保持義務・守秘義務に関する条項のまとめ

秘密情報の開示者・受領者のどちらかで内容は変える

業務委託契約では、契約内容によって、受託者は、秘密情報の開示者・受領者のいずれかのみ、または両者に該当する可能があります。

当然ながら、開示者のみに該当する場合は、委託者に対する秘密保持義務は、厳しくするべきです。

逆に、受領者のみに該当する場合は、秘密保持義務は、自身だけに課されるものですので、緩やかにするべきです。

なお、秘密情報の開示者・受領者の双方に該当する場合は、秘密情報の開示・受領の質・量により、秘密保持義務を対等のものとするか、または厳しい・緩やかにするのかを決めます。





【業務委託契約のポイント20】再委託・下請負

再委託・下請負の条項では再委託・下請負の可否について規定する

再委託・下請負の条項では、受託者による業務の再委託・下請負ができるかどうかを規定します。

再委託・下請負の条項のポイント
  • 再委託・下請負の条項では、受託者による第三者に対する再委託・下請負の可否について規定する。
  • 受託者による再委託・下請負ができるように規定する場合、なるべく無制限・無条件で全面的な再委託・下請負ができるよう規定する。
  • 条件付きの再委託・下請負の条項の場合は、詳細な条件や再委託・下請負の手続きを明記する。
  • 再委託・下請負の規定がない場合、請負型の業務委託契約の場合は、下請負は可能、準委任型の業務委託契約は、再委任は不可。
  • 再委託先・下請業者の行為の責任は、受託者が負う。

このほか、再委託・下請負の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における再委託・下請負(外注)の許可・禁止条項とは?

受託者としてはなるべく再委託・下請負ができるようにする

受託者の立場の場合、なるべく無制限・無条件で再委託・下請負ができるような契約内容とするべきです。

業務委託契約では、受託者が、受託したの業務の実施にあたり、第三者に対し、業務の再委託・下請負をすること(その可能性も含む)があります。

この場合、業務委託契約の契約内容として、委託者からの再委託・下請負の許諾がなければ、契約違反となる可能性もあります。

ただし、請負型の業務委託契約では、特に再委託について規定がない場合、受託者は、第三者に対し、再委託・下請負をしても契約違反とはなりません。

なお、自社のみで受託した業務を完全に実施できる場合は、無理に再委託・下請負ができるようにする必要はありません。

【業務委託契約のポイント21】合意管轄裁判所

合意管轄裁判所の条項では専属的合意管轄裁判所を規定する

合意管轄裁判所では、第一審の裁判を起こせる唯一の裁判所=専属的合意管轄裁判所を規定します。

合意管轄裁判所の条項のポイント
  • 合意管轄裁判所を規定する場合、必ず「専属的合意管轄裁判所」と規定する。そうでないと、唯一の裁判所を指定したことにならないこともある。
  • 合意管轄裁判所は、自社に近いほうが有利。
  • 専属的合意管轄裁判所は、必ず4つの要件を満たすように規定する。
  • 特許権等の裁判では、専属的合意管轄裁判所の条項は適用されず、東京地裁または大阪地裁の「専属管轄」が優先される。

このほか、合意管轄裁判所の条項につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における専属的合意管轄裁判所の条項とは?記載例・決め方なども解説

なるべく自社にとって都合のいい裁判所を選ぶ

委託者・受託者いずれの立場であっても、合意管轄裁判所は、自社にとって都合のいい場所の裁判所を選ぶべきです。

この点について、都合のいい場所は、企業によって様々ですが、一般的には、本社の所在地を管轄する裁判所です。

これは、通常は、法務部などの訴訟の担当者は本社にいる場合が多く、また、顧問弁護士も本社の近くに事務所があることが多いからです。

もっとも、法務の機能が本社以外にある場合や、顧問弁護士の事務所が本社の近くでない場合は、本社以外の場所の裁判所を合意管轄裁判所としても構いません。