このページでは、民法上の請負契約における契約の契約の解除や法定解除権について、簡単にわかりやすく解説しています。
請負契約では、注文者(委託者)は、比較的簡単に契約解除ができます。
他方、請負人(受託者)は、そう簡単には契約解除はできません。
このため、特に請負人(受注者)の立場として請負型の業務委託契約書を作成する場合、特約を設定して、もっと契約解除がしやすい契約内容とする必要があります。
このページでは、こうした請負契約における契約解除・法定解除権について、詳しく解説します。
なお、一般的な業務委託契約における約定解約権・法定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
注文者(委託者)の2つの請負契約の解除権
「仕事に欠陥・ミスがあった場合」と「仕事の完成前」の解除権
民法上の請負契約において、注文者(委託者)には、次の2つの解除権が認められています。
民法上の注文者(委託者)の法定解除権は次の2つ
- 仕事の目的物に瑕疵がある場合の解除権(民法第635条)
- 仕事が完成するまでの間に行使できる、損害賠償責任付きの解除権(民法第641条)
民法第635条(請負人の担保責任)
仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。
民法第641条(注文者による契約の解除)
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
【注文者の解除権1】目的物に瑕疵がある場合の解除権
仕事にミスがあった場合に請負契約を解除できる3つの条件
1つめの注文者(委託者)が行使できる請負契約の法定解除権は、仕事の目的物に欠陥・ミスがあった場合の解除権です。
注文者(委託者)は、請負人(受注者)による仕事によってできた目的物に瑕疵(欠陥・ミス)がある場合は、請負契約の解除ができます。
この場合の請負契約の解約は、以下の3つの条件を満たす必要があります。
以下の3つの条件を満たしていれば請負契約は解除できる。
- 仕事の目的物に瑕疵(欠陥・ミス)があること。
- その瑕疵(欠陥・ミス)のために契約をした目的を達することができないこと。
- 仕事の目的物が「建物その他の土地の工作物」でないこと。
「契約の目的」が達成できるかどうかがポイント
これらの3つの条件のうち、「契約をした目的を達することができないとき」というのがポイントです。
例えば、システム開発の請負契約において、できたシステムが「契約の目的を達することができない」のであれば、注文者(委託者)は、請負契約を解除できます(東京地裁判決平成16年12月22日)。
このため、特に注文者(委託者)にとっては、請負契約では、「仕事の目的物」を完成させることによって、「何を達成させるのか」が重要となります。
ですから、業務委託契約書を作成する際には、契約の目的を規定する条項、業務内容、仕様書などの記載が特に重要といえます。
「契約の目的」が達成できる場合は請負契約の解除はできない
これは、逆にいえば、「契約をした目的を達すること」ができるのであれば、注文者(委託者)は、請負契約を解除できないということです。
この場合は、注文者は、民法第654条の瑕疵担保責任の請求(目的物の修補・損害賠償のいずれか、または両方)を請求できるだけです。
民法第634条(請負人の担保責任)
1 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条の規定を準用する。
なお、仕事の目的物が「建物その他の土地の工作物」である場合は、同様に、注文者(委託者)は、請負契約を解除できず、目的物の修補・損害賠償のいずれか、または両方が請求できます。
これらの瑕疵担保責任につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【注文者の解除権2】仕事が完成するまでに行使できる解除権
注文者(委託者)は仕事の完成までに契約解除自体はできる
2つめの注文者(委託者)が行使できる請負契約の法定解除権は、仕事が完成するまでに行使できる解除権です。
注文者(委託者)は、「請負人(受託者)が仕事を完成しない間は」、「いつでも」契約を解除できます。
「仕事を完成しない間」とは、仕事に着手したかどうかを問いません。
なお、ここでいう「いつでも」というのは、理由を示す必要がない、ということです。
逸失利益の補償を含む損害賠償責任が発生する
ただし、この場合は、注文者(委託者)は、請負人(受注者)の「損害を賠償」する必要があります。
なお、注文者(委託者)は、請負契約の解除そのものは、損害賠償をすることなくできます(大審院判決明治37年10月3日)。
つまり、損害賠償は、契約解除の後でも構いません。
なお、この場合の損害は、請負人(受託者)が負担した費用だけでなく、「得べかりし利益」(=逸失利益)も含みます。
仕事の完成前に請負契約を解除した場合、注文者(委託者)は、請負人(受託者)に対して、費用と逸失利益を含む損害賠償をしなければならない。
請負人(受託者)の1つの請負契約の解除権
民法上の請負契約において、請負人(受託者)には、次の1つの解除権が認められています。
民法上の請負人(受託者)の法定解除権は次の1つ
- 注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の解除権(民法第642条)
民法第642条(注文者についての破産手続の開始による解除)
1 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。この場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
2 前項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。
【請負人の解除権】注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の解除権
請負契約では注文者にとってただ1つの契約解除権
請負人(受託者)が行使できる請負契約の法定解除権は、注文者(委託者)が破産手続開始決定を受けた場合の解除権です。
請負人(受注者)は、注文者が破産手続開始の決定を受けた場合、請負契約を解除できます。
これは、請負契約特有の法定解除権としては、ただ一つ、請負人(受注者)に認められたものです。
つまり、原則として、請負人(受注者)は、請負契約を解除できません。
もちろん、一般的な契約のルールとして、注文者(委託者)に債務不履行があった場合は、契約の解除ができます(民法第540条〜同第548条)。
破産管財人が契約解除しないと損害賠償請求まではできない
注文者(委託者)が破産手続開始決定を受けた場合の解約では、請負人(受託者)は、「破産財団の配当に加入すること」(民法第642条第1項後段、第2項後段)によって、報酬・費用・損害の賠償を請求することができます。
ただし、請負人(受託者)から請負契約の解除をした場合、報酬・費用は請求できますが、損害賠償の請求まではできません。
あくまで、損害賠償の請求ができるのは、「破産管財人が契約の解除をした場合における請負人」に限られています。
このため、請負人(受託者)の側から請負契約の解除をした場合、注文者(委託者)に対して、損害賠償請求まではできません。
報酬・費用・損害賠償が回収できるかどうかは別問題
いくら報酬・費用・損害賠償の請求ができる権利があるとはいえ、実際にお金として回収できるかどうかは別問題です。
注文者(委託者)が破産手続きを開始している状況では、ほとんど財産が残っていないと考えられます。
ですから、報酬・費用・損害賠償の請求は、権利としてできたとしても、まず回収はできないと考えるべきです。
このため、請負型の業務委託契約では、請負人(受託者)は、受注前に、注文者(委託者)の信用状態に注意する必要があります。
請負人(受託者)は業務委託契約に別途解除権を規定しておく
なお、それぞれの契約当事者は、法定解除権以外にも、契約に規定された解除権にもとづく契約の解除もできます。
これを、「約定解除権」(読み方:やくじょうかいじょけん)といいます。
約定解除権とは、契約当事者の合意によって契約に規定された、法定解除権とは別の解除権。
すでに触れたとおり、請負人(受注者)の請負契約における解除権は、1つしかありません。
このため、業務委託契約書を作成する際には、より多くの約定解除権を規定しておいて、いざとなったら契約解除ができるような状態にしておくことが重要です。
なお、契約解除条項につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
請負人(受託者)に認められた請負契約の法定解除権は、注文者(委託者)が破産手続開始決定を受けた場合だけ。だからこそ、業務委託契約による約定解除権の確保が必須。