このページでは、請負型の業務委託契約の委託者・受託者双方に向けて、請負契約の法定解除権について解説しています。

法定解除権とは、法律に規定された契約解除の権利のことです。つまり、請負契約における法定解除権とは、民法に規定された請負契約の解除権のことです。

請負契約では、注文者(委託者)は、比較的簡単に契約解除ができます。他方、請負人(受託者)は、簡単には契約解除はできません。

請負人としては、非常に限定された場合(注文者が破産した場合)にしか契約解除権が認められれないため、不安になる請負人も多いです。

このため、業務委託契約において、特に請負人(受託者)となった場合、契約書を作成して特約を設定し、契約解除がしやすい契約内容とする必要があります。

このページでは、こうした請負契約型の業務委託契約における契約解除・法定解除権の詳細や、問題点、その問題点を解消する契約書の作成のしかたなどについて、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 請負契約における注文者による法定解除権
  • 請負契約における請負人による法定解除権
  • 特に請負人が契約書に約定解除権を規定するべき理由

なお、一般的な業務委託契約における約定解除権・法定解除権につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約における契約解除条項とは?契約条項の規定のしかた・書き方は?




法定解除権とは?

法定解除権(読み方:ほうていかいじょけん)とは、法律に規定された契約解除の権利のことです。

【意味・定義】法定解除権とは?

法定解除権とは、法律に規定された契約解除権をいう。約定解除権とは別の解除権。

一般的な契約実務においては、法定解除権は、民法にもとづく解除権であることが多いです。

請負契約における法定解除権も、通常は民法に規定されたものを意味します。




注文者による請負契約の解除権

請負契約で注文者が行使できる2つの法定解除権とは?

民法上の請負契約において、注文者(委託者)には、次の2つの解除権が認められています。

【意味・定義】請負契約における注文者の法定解除権とは?

民法上の注文者(委託者)の法定解除権は次の2つ。

  • 仕事の目的物に契約不適合がある場合の解除権(民法第559条において準用される第562条、第564条)
  • 仕事が完成するまでの間に理由なしに行使できる、損害賠償責任つきの解除権(民法第641条)
民法第562条、第564条、第559条

民法第562条(買主の追完請求権)

1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

民法第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)

前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

民法第559条(有償契約への準用)

この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

民法第641条

民法第641条(注文者による契約の解除)

請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

【注文者の解除権1】目的物に契約不適合がある場合の請負契約の解除権

1つめの注文者(委託者)が行使できる請負契約の法定解除権は、仕事の目的物に契約不適合(欠陥・ミス)があった場合の解除権です。

【意味・定義】請負契約における契約不適合とは?

請負契約における契約不適合とは、請負契約において請負人がおこなった仕事の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないこと。いわゆる「瑕疵」(欠陥・ミス等)を含む。

注文者(委託者)は、請負人(受注者)による仕事によってできた目的物に契約不適合(欠陥・ミス)がある場合は、請負契約の解除ができます。

この契約解除権は、契約不適合責任のひとつです。

【意味・定義】請負契約における契約不適合責任とは?

請負契約における契約不適合責任とは、仕事の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約不適合があった場合。瑕疵、ミス、欠陥等があった場合を含む。)において、注文者から請求された、履行の追完、報酬の減額、損害賠償、契約の解除の請求に応じる請負人の責任・義務をいう。

この他、契約不適合責任につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】業務委託契約における契約不適合責任とは?定義・ポイントも解説

 

【注文者の解除権2】仕事が完成するまでに行使できる請負契約の解除権

注文者(委託者)は仕事の完成までに契約解除自体はできる

2つめの注文者(委託者)が行使できる請負契約の法定解除権は、仕事が完成するまでに行使できる解除権です。

注文者(委託者)は、「請負人(受託者)が仕事を完成しない間は」、「いつでも」契約を解除できます。

「仕事を完成しない間」とは、仕事に着手したかどうかを問いません。

なお、ここでいう「いつでも」というのは、理由を示す必要がない、ということです。

逸失利益の補償を含む損害賠償責任が発生する

ただし、この場合、注文者(委託者)は、請負人(受注者)の「損害を賠償」する必要があります。

なお、注文者(委託者)は、請負契約の解除そのものは、損害賠償をすることなくできます(大審院判決明治37年10月3日)。

つまり、損害賠償は、契約解除の後でも構いません。

ただし、この場合の損害は、請負人(受託者)が負担した費用だけでなく、「得べかりし利益」(=逸失利益)も含みます。

ポイント
  • 注文者(委託者)は、「仕事の目的物に契約不適合がある場合」と「仕事が完成するまでの間の場合」に契約解除ができる。ただし、後者には損害賠償責任が発生する。
  • 仕事の完成前に請負契約を解除した場合、注文者(委託者)は、請負人(受託者)に対して、費用と逸失利益を含む損害賠償をしなければならない。




請負人による請負契約の解除権

民法上の請負契約において、請負人(受託者)には、次の1つの解除権が認められています。

【意味・定義】請負契約における請負人の法定解除権とは?

民法上の請負人(受託者)の法定解除権は次の1つ。

  • 注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の解除権(改正民法第642条第1項)
改正民法第642条

民法第642条(注文者についての破産手続の開始による解除

1 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。

2 (以下省略)

【請負人の解除権】注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の請負契約の解除権

仕事の完成前であれば契約解除ができる

請負契約における請負人(受託者)の法定解除権は、注文者(委託者)が破産手続開始決定を受けた場合における解除権です。

請負人(受託者)は、注文者(委託者)が破産手続開始の決定を受けた場合、請負契約を解除できます(改正民法第642条第1項本文)。

ただし、請負人(受託者)が契約解除をできるのは、あくまで仕事の完成の前に限った話であり、仕事の完成後には、契約の解除はできません(改正民法第642条第1項ただし書き)。

このため、特に金額が大きい請負契約・業務委託契約等において、支払いが残っている場合は、請負人(受託者)は、注文者(委託者)の信用状態に常に気を配り、破産手続きを開始する可能性を考慮しておく必要があります。

請負契約では注文者にとってただ1つの契約解除権

なお、破産開始手続が開始された場合における請負人の法定解除権は、請負人(受注者)に認められた唯一の法定解除権です。

つまり、請負人(受注者)は、民法上は、注文者(委託者)が破産開始手続の決定を受けない限り、請負契約を解除できません。

もちろん、一般的な契約のルールとして、注文者(委託者)に債務不履行があった場合は、契約の解除ができます(民法第540条〜同第548条)。

破産管財人が契約解除しないと損害賠償請求まではできない

注文者(委託者)が破産手続開始決定を受けた場合の解約では、請負人(受託者)は、「破産財団の配当に加入する」(改正民法第642条第2項、第3項)ことによって、報酬・費用・損害の賠償を請求することができます。

ただし、請負人(受託者)から請負契約の解除をした場合、報酬・費用は請求できますが、損害賠償の請求まではできません。

あくまで、損害賠償の請求ができるのは、「破産管財人が契約の解除をした場合における請負人」に限られています。

このため、請負人(受託者)の側から請負契約の解除をした場合、注文者(委託者)に対して、損害賠償請求まではできません。

報酬・費用・損害賠償が回収できるかどうかは別問題

いくら報酬・費用・損害賠償の請求ができる権利があるとはいえ、実際にお金として回収できるかどうかは別問題です。

注文者(委託者)が破産手続きを開始している状況では、ほとんど財産が残っていないと考えられます。

ですから、報酬・費用・損害賠償の請求は、権利としてできたとしても、まず回収はできないと考えるべきです。

このため、請負型の業務委託契約では、請負人(受託者)は、受注前に、注文者(委託者)の信用状態に注意する必要があります。

ポイント
  • 請負人(受託者)は、「注文者(委託者)が破産手続開始決定を受けた場合」に契約解除ができる。
  • 破産手続開始決定があっても、請負人(受託者)は、破産管財人が契約解除しないと損害賠償請求はできない。




請負人(受託者)は契約書に別途解除権を規定しておく

なお、それぞれの契約当事者は、法定解除権以外にも、契約に規定された解除権にもとづく契約の解除もできます。

これを、「約定解除権」(読み方:やくじょうかいじょけん)といいます。

【意味・定義】約定解除権とは?

約定解除権とは、契約当事者の合意によって契約に規定された条件つきの契約解除権をいう。法定解除権とは別の解除権。

すでに触れたとおり、請負人(受託者)の請負契約における解除権は、一般的な契約のルール(債務不履行)を除くと、注文者(委託者)が破産開始手続の開始を受けた場合のもの1つしかありません。

このため、業務委託契約書を作成する際には、より多くの約定解除権を規定しておいて、いざとなったら契約解除ができるような状態にしておくことが重要です。

業務委託契約書を作成する理由

請負契約型の業務委託契約では、請負人(受託者)は、一般的な債務不履行による契約解除以外では、注文者(委託者)が破産開始手続の開始を受けた場合にしか契約解除ができないため、他の契約解除事由により契約解除をしたい場合は、特約として契約解除権(約定解除権)を規定した契約書が必要となるから。

なお、業務委託契約における契約解除条項・約定解除権につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

業務委託契約における契約解除条項とは?契約条項の規定のしかた・書き方は?

また、請負契約につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

【改正民法対応】請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?

ポイント
  • 請負人(受託者)に認められた請負契約の法定解除権は、注文者(委託者)が破産手続開始決定を受けた場合だけ。
  • だからこそ、業務委託契約による約定解除権の確保が必須となる。




請負契約の契約解除権・法定解除権に関するよくある質問

請負契約の解除権とは何ですか?
請負契約の注文者の法定解除権には、仕事の目的物に契約不適合がある場合の解除権と、仕事が完成するまでの間に理由なしに行使できる損害賠償責任つきの解除権があります。これに対し、請負契約の請負人の法定解除権には、注文者が破産手続開始の決定を受けた場合の解除権があります。このほか、注文者・請負人双方に、債務不履行による法定解除権があります。また、特約で約定解除権を規定することもできます。
請負契約はいつでも解除できる?
請負契約の注文者は、「請負人が仕事を完成しない間」(民法第641条)であれば、いつでも=理由を示さずに契約解除ができます。これに対し、注文者は、いつでも契約解除はできません。
請負契約の解除はいつまでにできる?
請負契約の注文者が契約解除ができるのは、「請負人が仕事を完成しない間」です。これに対し、請負契約の請負人は、「注文者が破産手続開始の決定を受けたとき」から「仕事を完成」するまでの間です(民法第642条第1項)。




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