- 業務委託契約(準委任契約・請負契約)で委任者・委託者が受任者・受託者の作業者・人を指定・指名すると偽装請負・労働者派遣法違反に該当しますか?
- 業務委託契約(準委任契約・請負契約)で委任者・委託者が受任者・受託者の作業者・人を指定・指名すると偽装請負・労働者派遣法違反に該当します。
適法な業務委託契約(準委任契約・請負契約)では、受任者・受託者の作業者は、受任者・受託者が自ら指名することにより、作業者の労務管理等をしなければなりません。
にもかかわらず、委託者が受託者の作業者を指名してしまうと、委託者が受託者の作業者の労務管理等をしていることとなります。
そうなると、いわゆる「37告示」に抵触し、適法な準委任契約や業務委託契約ではなく、労働者派遣契約となり、偽装請負・労働者派遣法違反となります。
このページでは、(準)委任契約、請負契約、業務委託契約その他の契約において、発注者が、受注者の作業者・労働者を指名するリスクや偽装請負・労働者派遣法違反について解説しています。
特に企業間契約において、発注者としては「ちゃんと契約どおりに仕事しくれる作業者を指名したいんだけど…」と不安に思われる方も多いかと思います。
しかし、準委任契約に限らず、なんらかの業務を実施する契約において、発注者が受注者の作業者・労働者を指名することは、偽装請負となり、労働者派遣法違反となります。
なぜならば、本来は受注者の作業者・労働者の指名は受注者自身がしなければなりませんが、発注者が受注者の作業者・労働者の労務管理等をすると、偽装請負の基準を定めた37号告示に抵触するからです。
この際、受注者だけでなく、発注者もまた、労働者派遣法違反となります。
このページでは、こうした「作業者の指名」の問題点・リスクについて、厚生労働省の資料にもとづき、開業22年・400社以上の取引実績と労働者派遣法に関する書籍の出版経験がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページを読むことで、「作業者の指名」の具体的な問題点やリスクと、その回避方法を理解できます。。
このページでわかること
- (準)委任契約、請負契約、業務委託契約等において、発注者が受注者の作業者・労働者を指名することが偽装請負・労働者派遣法に該当するかどうか。
- 37号告示に抵触し、偽装請負・労働者派遣法に抵触した場合の法的なリスク・問題点。
- 「作業者の指名」に該当しないスキルシートの提示方法。
作業者・労働者の指名は37号告示違反・偽装請負・労働者派遣法違反
「労働者の配置の決定・変更」を受注者が自らおこなう必要がある
(準)委任契約、請負契約、業務委託契約等で、発注者が受注者の作業者を指名することは、37号告示に抵触し、偽装請負・労働者派遣法違反となります。
【意味・定義】37号告示とは?
37号告示とは、労働者派遣事業と請負等の労働者派遣契約にもとづく事業との区分を明らかにすることを目的とした厚生労働省のガイドラインである「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」をいう。
37号告示第2条第1号ハ(2)には、次のとおり規定されています。
一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
(イおよびロ省略)
ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1)(省略)
(2)労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
(以下省略)
また、この規定の具体的判断基準は、次のとおりです。
(具体的判断基準)
当該要件の判断は、当該労働者に係る勤務場所、直接指揮命令する者等の決定及び変更につき、当該事業主が自ら行うものであるか否かを総合的に勘案して行う。
なお、勤務場所については、当該業務の性格上、実際に就業することとなる場所が移動すること等により、個々具体的な現実の勤務場所を当該事業主が決定又は変更できない場合は当該業務の性格に応じて合理的な範囲でこれが特定されれば足りるものである。
この37号告示により、受注者の労働者の配置等の決定・変更については、受注者自身がおこなう必要があります。
このため、受注者の労働者を指名することは、受注者の労働者の配置等の決定を発注者がおこなっていることとなり、37号告示に抵触することとなります。
37号告示に抵触=偽装請負・労働者派遣法違反
37号告示の基準は、第2条第3項に詳細が規定されています。
ここで問題になるのが、37号告示第2条第3項において、例外に該当しない限り「労働者派遣事業を行う事業主」と判断する、と規定されている点です。
37号告示第2条
1 (省略)
2 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
3 (以下省略)
これは、いわゆる「ホワイトリスト方式」で、例外の条件のすべてに該当する場合にのみ、適法な請負契約・(準)委任契約・業務委託契約であり、そうでない場合は労働者派遣契約である、という形式となっています。
このため、受注者が「労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと」をせずに、発注者が受注者の作業者・労働者を指名すると、受注者は、労働者派遣事業をしていることとなります。
この他、37号告示の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 発注者による受注者の作業者・労働者の指名は、37号告示に抵触し、偽装請負・労働者派遣法違反となる。
- 適法な(準)委任契約、請負契約、業務委託契約では、「労働者の配置の決定・変更」を受注者が自らおこなう必要がある。
偽装請負は受注者だけでなく発注者も労働者派遣法違反
発注者=無許可の労働者派遣事業
このように、発注者が受注者の作業者・労働者を指名すると、37号告示に抵触し、受注者が労働者派遣事業をおこなっていることとなります。
この場合、受注者が労働者派遣事業の許可を得ていなければ、無許可での労働者派遣事業となります。
無許可での労働者派遣事業は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
労働者派遣法第59条
次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(1)(省略)
(2)第5条第1項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者
(3)(以下省略)
また、無許可での労働者派遣事業だけでなく、「派遣元事業主の講ずべき措置等」その他の本来労働者派遣事業者がおこなうべき他の義務も果たしていないこととなります。
発注者=派遣先の義務違反
このように、偽装請負に該当する場合は、受注者は、労働者派遣事業者扱いとなり、労働者派遣法違反となる可能性が高いです。
他方で、偽装請負に該当する場合は、発注者もまた「派遣先」扱いとなります。
労働者派遣法では、主に派遣労働者の保護のために、派遣先にも詳細な義務を課しています(派遣先の講ずべき措置等)。
当然ながら、発注者がこれらの義務を果たしていないと、労働者派遣法違反となり、罰則が科されます。
ポイント
- 偽装請負があった場合、受注者は、無許可の労働者派遣事業者として、様々な労働者派遣法に違反することとなり、罰則が科される。
- 偽装請負が合った場合、発注者も、派遣先として、様々な労働者派遣法に違反することとなり、罰則が科される。
「作業者の指名」に該当しないスキルシートの提示とは?
受託者の「労働者の配置等の決定及び変更」は受託者自身がおこなう
なお、発注者が受注者に対し、いわゆる「スキルシート」の提示を求めることは、「作業者の指名」に該当しない場合があります。
ただし、これには、次のとおり条件があります。
受注者の労働者のスキルの把握が認められる条件
- 発注者が受注者に対し個人を特定できるスキルシートを提出させることによって、受注者の個々の労働者を指名したり、受注者の特定の労働者の就業を拒否したりしないこと。
つまり、個人を特定できないスキルシートの提出は、偽装請負とは判断されません。
逆に言えば、個人を特定できるスキルシートの提出や、これにもとづいて、委託者による受託者の業務従事者の指名や就業拒否があった場合は、偽装請負とみなされる可能性が高くなります。
この他、業務委託契約やSES契約におけるスキルシートの提出の違法性につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 発注者が受注者に対し、個人を特定できない形で受注者の作業者・労働者のスキルシートの提示を求めることは、「作業者の指名」にはならない。
- 受注者が個人を特定できないスキルシートを提示したとしても、発注者は、受注者の作業者・労働者を選別してはいけない。
「作業者の指示」以外の偽装請負に該当しない37号告示のチェックリストは?
この他、37号告示に抵触せず、偽装請負に該当しないチェックリストは、以下のとおりです。
偽装請負とならないチェックリスト
- 1.「業務の遂行方法に関する指示その他の管理」を受託者が自らおこなっている。
- 2.「業務の遂行に関する評価等に係る指示」を受託者が自らおこなっている。
- 3.「労働時間の指示」を受託者が自らおこなっている。
- 4.「残業・休日出勤の指示」を受託者が自らおこなっている。
- 5.「服務規律の指示」を受託者が自らおこなっている。
- 6.「労働者の配置の決定・変更」を受託者が自らおこなっている。
- 7.受託者が運転資金などの自己資金を自ら調達し、使用している。
- 8.受託者が事業主としての民法・商法等の法律に基づく責任の負担している。
- 9.業務内容が単に肉体的な労働力を提供するものでない。
- 10.受託者が自らの責任・負担での機械・設備・器材・材料・資材の調達している。
- 11.受託者自身の企画・専門的技術・専門的経験によって業務を処理している。
※ただし、10.と11.はいずれかを満たせばよい。
これらの偽装請負とならないチェックリストの詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
関連情報:業務委託契約で作業場所を指定することは違法?
業務委託契約では、作業者の指名と関連して、作業場所の指定について問題となる場合もあります。
この点について、業務委託契約では、委託者が受託者の作業場所を指定することは、原則として適法であり、違法ではありません。
ただし、受託者が個人事業者・フリーランスである場合は、業務内容の性質によって、違法(偽装請負)と適法の両方の可能性があります。
この点について、「業務の性質上」、作業場所の指定が必然である場合は、特に問題ではなく、適法な業務委託契約となります。
他方で、業務の性質上、特に必要のないにもかかわらず、業務遂行を指揮命令するために作業場所を指定することは、適法な業務委託契約とはみなされず、労働契約・雇用契約とみなされ、労働基準法、労働契約法その他の各種労働法に違反し、違法となる可能性があります。
この他、業務委託契約における作業場所の指定の問題点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
準委任契約、請負契約、業務委託契約における作業者の指名に関するよくある質問
- 準委任契約や業務委託契約で委任者・委託者が受任者・受託者の作業者を指名すると偽装請負・労働者派遣法違反に該当しますか?
- 準委任契約や業務委託契約で委任者・委託者が受任者・受託者の作業者を指名すると偽装請負・労働者派遣法違反に該当します。
- なぜ準委任契約や業務委託契約で委任者・委託者が受任者・受託者の作業者を指名すると偽装請負・労働者派遣法違反に該当するのですか?
- 準委任契約や業務委託契約では、37号告示により、「労働者の配置の決定・変更」を受任者・受注者が自らおこなう必要があるからです。
- 偽装請負・労働者派遣法違反に該当した場合、どのようなペナルティがあるのでしょうか?
- 偽装請負・労働者派遣法違反に該当した場合、受任者・受託者は無許可の労働者派遣事業者として、行政処分や罰則の対象となります。
また、委任者・委託者も、派遣先としての義務を果たしていないこととなり、行政処分や罰則の対象となります。
- スキルシートの提示を求めることは、偽装請負・労働者派遣法違反となりますか?
- 委任者・委託者が、個人を特定できない形で受任者・受託者の作業員・労働者のスキルシートの提示を求めることは、「作業者の指名」にはなりません。
ただし、そのスキルシートにもとづいて作業者・労働者を指名することは、偽装請負・労働者派遣法違反になる可能性があります。
(準)委任契約の関連ページ