このページでは、業務委託契約の業務内容が不十分な場合におけるリスクについて、簡単にわかりやすく解説しています。

業務委託契約書を作成する際に最も時間をかけて検討しなければいけないのが、業務内容そのものと、その書き方です。

というのも、業務委託契約は、法的に定義がない契約ですので、そもそも「何をするのか」=業務内容が法律では決まっていません。

このため、業務内容については、明確かつ十分にすべて業務委託契約書に書いて決めなければいけません。

不明確・不十分な業務内容では、実際に受託者によって業務が実施された際に、トラブルになる可能性が高くなります。

このページでは、こうした不明確・不十分な業務内容のリスクについて、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。

このページを読むことで、不明確・不十分な業務内容によるトラブルを未然に防ぐことができます。

このページでわかること
  • 不明確・不十分な業務内容のリスク
  • 不明確・不十分な業務内容のによる下請法違反のリスク




業務委託契約で不明確・不十分な業務内容のリスクとは?

不明確な業務内容のリスクとは?

業務委託契約では、不明確な業務内容を規定したり、業務内容が不十分である場合は、次のようなリスクがあります。

不十分・不明瞭な業務内容のリスク
  • 【リスク1】委託者は受託者の責任を追求できない
  • 【リスク2】受託者は際限なく業務の提供を求められる
  • 【リスク3】あとで変更・明確化する方が手間がかかる
  • 【リスク4】委託者が下請法違反となる

以下、それぞれ詳しく解説します。





【リスク1】委託者は受託者の責任を追求できない

「思っていたのと違う」はよくある話

業務内容が不明確な場合、委託者にとって大きなリスクとなるのが、受託者に対して業務の実施に関する責任を追求できなくなる、という点です。

業務委託契約では、実際に業務が実施された際に、「思っていた業務」と違うということがあります。

特に、業務内容に形がない、システム等の開発業務委託契約や、コンサルティング契約では、ありがちな話です。

こうした場合、契約違反(債務不履行)を主張して、「思っていた業務」どおりにやり直しを求めるか、または報酬・料金・委託料の支払いを拒否したくなります。

ところが、実は、業務内容が明確に規定されているかどうか、というのが重要となります。

業務内容を明確に決めるのは委託者の責任

当然ながら、業務内容が明確に規定されていれば、その内容どおりかどうかの判別がつきやすくなりますので、受託者の責任を追求しやすくなります。

これに対し、業務内容が不明確であれば、そもそも「何をするべきなのか」がハッキリしないため、受託者の責任を追求しづらくなります。

一般的に、業務内容を明確に決めるのは、委託者の側の責任です。

特に、下請法が適用される業務委託契約では、業務内容を三条書面に規定することは、下請法にもとづく委託者の義務となります(詳しくは後述)。

このため、業務内容が不明確な結果、受託者の業務の実施に支障が出たとしても、委託者は、受託者に対し、責任の追求はできなくなります。





【リスク2】受託者は際限なく業務の提供を求められる

逆に、業務内容が不明確な場合、受託者にとって大きなリスクとなるのが、委託者から際限なく業務の提供を求められる、という点です。

これもまた、業務内容に形がない、システム等の開発業務委託契約や、(特に)コンサルティング契約でありがちな話です。

コンサルティング契約における業務内容の決め方・書き方とは?

受託者の立場としては、業務委託契約で規定していない業務内容は、「契約内容に含まれない」と解釈するのが当然です。

しかし、委託者の立場としては、業務内容が不明確にしか規定されてなければ、「あれもこれも業務内容に含まれる」と、「拡大解釈」します。

こうした「拡大解釈」の大半は悪気がない「誤解」にもとづくものでしょうが、中には意図的に拡大解釈している場合もあります。

このため、受託者としては、「拡大解釈」の余地がないように、明確に業務内容を規定するべきです。





【リスク3】あとで変更・明確化する方が手間がかかる

業務委託契約の中には、当初から業務内容を確定させるのが難しいものもあります。

典型的なものとしては、システム等開発業務委託契約があります。

システム・アプリ開発業務委託契約における業務内容の決め方・書き方とは?

このように、当初から業務内容を確定させるのが難しい場合は、業務内容を後で明確化することを前提にして、業務委託契約を締結します。

しかし、この方法で、後から業務内容を明確化させる方法は、結果的に、最初から業務内容を明確化させるよりも手間やコストがかかることが多いです。

例えば、システム等開発業務委託契約では、仕様が後から確定したり、開発が進んでから変更になることはよくあります。

こうした場合、それまでの開発を活かせる形で仕様の確定・変更がある場合は問題ないですが、それまでの開発を活かせない場合は、結果的に、開発につぎ込んだリソースが無駄になってしまいます。





【リスク4】委託者が下請法違反となる

業務内容は下請法の三条書面の必須記載事項

下請法が適用される業務委託契約の場合、業務内容は、いわゆる「三条書面」の必須記載事項です。

下請法は、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、委託者=親事業者を規制し、受託者=下請事業者を協力に保護している法律です。

下請法とは?禁止事項・支払期限・三条書面・五条書類について解説

業務委託契約では、委託者と受託者の資本金の金額と、業務内容によっては、下請法が適用される可能性があります。

業務委託契約に下請法が適用されるかどうかにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?

下請法が適用される場合、委託者=親事業者は、下請法第3条にもとづき、受託者=下請事業者に対して、書面を交付しなければなりません。

この書面のことを、「三条書面」といいます。

【意味・定義】三条書面(下請法)とは?

三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者に対し交付しなければならない書面をいう。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項について解説

下請法が適用される場合、委託者は、三条書面に「下請事業者の給付の内容」を必ず記載しなければなりません。

契約実務上、三条書面は、単に交付する形式の書面とするのではなく、相互に取り交わす契約書にします。つまり、業務委託契約では、業務委託契約書を三条書面とする形にします。

このため、業務委託契約書に業務内容=「下請事業者の給付の内容」を記載するのは、委託者の義務である、ということです。

業務委託契約書を作成する理由

下請法が適用される下請契約においては、親事業者(委託者)は、下請事業者(受託者)に対し三条書面を交付する義務があることから、三条書面を契約書とする場合は、業務内容を含む三条書面の必須記載事項を規定した契約書が必要となるから。

受託者が業務内容が理解できるように「委託者」が記載する必要がある

この「下請事業者の給付の内容」ですが、単に書けばいいというものではありません。

「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」によると、「下請事業者の給付の内容」については、次のとおり記載しなければなりません。

(3) 3条書面に記載する「下請事業者の給付の内容」とは,親事業者が下請事業者に委託する行為が遂行された結果,下請事業者から提供されるべき物品及び情報成果物(役務提供委託をした場合にあっては,下請事業者から提供されるべき役務)であり,3条書面には,その品目,品種,数量,規格,仕様等を明確に記載する必要がある。

また、特に、システム等開発業務委託契約では、次のとおり、「下請事業者が3条書面を見て『給付の内容』を理解でき,親事業者の指示に即した情報成果物を作成できる程度の情報を記載することが必要である。」とされています。

Q34: 情報成果物作成委託においては,委託内容の全てを3条書面に記載することは困難である場合があるが,その場合どの程度詳しく書かなければならないか。
A:委託内容の全てを記載することは困難であったとしても,下請事業者が3条書面を見て「給付の内容」を理解でき,親事業者の指示に即した情報成果物を作成できる程度の情報を記載することが必要である。
また,3条書面の「給付の内容」の記載は,親事業者として下請事業者に対し,やり直し等を求める根拠となるものでもあるので,必要な限り明確化することが望ましい。

三条書面を交付しないと最大で罰金50万円の犯罪となる

親事業者が下請業者に対し、三条書面を交付しない場合は、50万円以下の罰金が科されます。

下請法第10条(罰則)

次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処する。

(1)(省略)

(2)第5条の規定による書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。

ポイントは、親事業者である法人に罰金が科されるのではなく、「その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」にも罰金が科される、ということです。

つまり、会社で50万円を払えばいい、というものではないのです。しかも、50万円とはいえ、いわゆる「前科」がつきます。

ポイント
  • 業務内容は下請法の三条書面の必須記載事項。
  • 業務内容=「下請事業者の給付の内容」を明らかにするのは委託者の義務であり、受託者の義務ではない。
  • 受託者=下請事業者が、業務内容=「下請事業者の給付の内容」を理解できる程度の内容でなければならない。
  • 三条書面を交付しないことは犯罪行為。しかも法人だけでなく個人にも罰金が科される。





不明確・不十分な業務内容のリスクに関するよくある質問

業務委託契約において、不明確・不十分な業務内容には、どのようなリスクがありますか?
業務委託契約で不十分・不明確な業務内容は、以下の4つのリスクがあります。

  1. 委託者は受託者の責任を追求できない
  2. 受託者は際限なく業務の提供を求められる
  3. あとで変更・明確化する方が手間がかかる
  4. 委託者が下請法違反となる
業務委託契約書で不十分・不明確な業務内容を記載してしまうと法律違反になりますか?
下請法が適用される製造請負契約の場合、親事業者が下請事業者に対し、業務内容(「給付の内容」)を十分かつ明確に記載した適法な書面(いわゆる三条書面)を交付しないと、下請法第3条に違反します。