このページでは、業務委託契約で発生する著作権や著作者人格権の意味・定義について解説しています。
著作権は、著作物に関して発生する、様々な財産的な権利の集合体です。別名「著作財産権」ともいいます。
著作者人格権は、著作物に関して発生する、著作者の人格的な権利の集合体です。
両者とも、著作物を創作した著作者に発生する権利ですが、その性格には、違いがあります。
このページでは、こうした著作権・著作物・著作者人格権とは何か(定義)、という基本的なことについて解説しています。
なお、業務委託契約において発生する著作権や著作者人格権の問題全般については、詳しくは、以下のページをご覧ください。
【意味・定義】著作権とは?
著作権は権利の集合体
著作権は、著作権者が保有する複数の権利群のことです。
実は、著作権法では、著作権そのものを具体的に定義づけるのではなく、複数の権利の要約・略称として位置づけています。
具体的には、著作権は、著作権法第17条第1項で、次のとおり規定されています。
著作権法第17条(著作者の権利)
1 著作者は、次条第1項、第19条第1項及び第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
2 (省略)
引用元:著作権法 | e-Gov法令検索
つまり、著作権とは、著作権者が保有する、著作権法第21条から第28条までの権利である、ということです。
これを、よりわかりやすく整理すると、以下のとおりです。
【意味・定義】著作権とは?
著作権とは、著作権者が保有する、著作物の利用を許諾し、または禁止できる権利であって、複製権、上演権及び演奏権、上映権、公衆送信権等、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権等および二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の総称をいう。
これらのひとつひとつの権利のことを、「支分権」といいます。
また、著作権は、後述の「著作者人格権」と区別するために、「著作財産権」とも表現されます。
著作権の支分権の概要
支分権 | 概要 |
---|---|
複製権 (第21条) | 著作物を印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製する権利 |
上演権及び演奏権 (第22条) | 著作物を公に上演し,演奏する権利 |
上映権 (第22条の2) | 著作物を公に上映する権利 |
公衆送信権等 (第23条) | 著作物を公衆送信し,あるいは,公衆送信された著作物を公に伝達する権利 |
口述権 (第24条) | 著作物を口頭で公に伝える権利 |
展示権 (第25条) | 美術の著作物又は未発行の写真の著作物を原作品により公に展示する権利 |
頒布権 (第26条) | 映画の著作物をその複製物の譲渡又は貸与により公衆に提供する権利 |
譲渡権 (第26条の2) | 映画の著作物を除く著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利(一旦適法に譲渡された著作物のその後の譲渡には,譲渡権が及ばない) |
貸与権 (第26条の3) | 映画の著作物を除く著作物をその複製物の貸与により公衆に提供する権利 |
翻訳権、翻案権等 (第27条) | 著作物を翻訳し,編曲し,変形し,脚色し,映画化し,その他翻案する権利 |
二次的著作物の利用に関する原著作者の権利 (第28条) | 翻訳物,翻案物などの二次的著作物を利用する権利 |
引用元: 著作者の権利の内容について | 文化庁(リンク切れ)
なお、一般的な業務委託契約では、これらの支分権を分割して処理(譲渡など)することはなく、一括して「著作権」として扱われます。
ただし、著作権を譲渡する場合、著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)と第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利の譲渡については、特約として明記しないと、譲渡した者に留保されたものと推定されます。
著作権の譲渡につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 著作権は権利(支分権)の集合体。
- 著作権は譲渡できる。
- ただし、著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)と第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利は、特約がないと譲渡した者に留保されたものと推定される。
【意味・定義】著作物とは?
著作物は「創作性」がポイント
著作権は、著作者が著作物を創作することによって、発生します。逆にいえば、「著作物」に該当しなければ、著作権は発生しません。
そこで問題となるのが、「そもそも著作物とは何か」という著作権の定義です。
著作物は、著作権法第2条第1項第1号で、次のとおり規定されています。
著作権法第2条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(以下省略)
引用元:著作権法 | e-Gov法令検索
この定義は、以下の4つの要素(要件)に分解することができます。
著作物の4要件
- 「思想又は感情」であること。
- 「創作的」であること。
- 「表現したもの」であること。
- 「文芸、学術、美術又は音楽」であること。
このうち、最もあいまいで、判断が難しいのが「創作的」、つまり創作性があるかどうか、という点です。
著作物の具体例
さて、この定義では、非常に抽象的でわかりづらいので、著作権法第10条では、さらに著作物の具体例を例示しています。
著作権法第10条(著作物の例示)
1 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
(1)小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
(2)音楽の著作物
(3)舞踊又は無言劇の著作物
(4)絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
(5)建築の著作物
(6)地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
(7)映画の著作物
(8)写真の著作物
(9)プログラムの著作物
2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。
3 第一項第九号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。
(1)プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。
(2)規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう。
(3)解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。
引用元:著作権法 | e-Gov法令検索
この内容で、かなりイメージしやすくなったと思います。
もちろん、「例示」ですし、「おおむね」とあるように、これら以外にも著作物の定義に該当すれば、著作物として判断される場合があります(例:ゲームなど)。
逆に、これらの例示に該当する場合でも、著作物の定義に該当しなければ、著作物とは判断されない場合もあります(例:創作性がない文章など)。
プログラム言語・規約・解法は著作権法では保護されない
なお、著作権法第10条第3項にあるとおり、プログラム言語・規約(インターフェイスやプロトコールなど)・解法(アルゴリズム)は、著作物に該当しません。
ですから、プログラム言語・規約・解法ついては、著作権が発生せず、著作権法では保護されません。
ただし、これらは、他の法律にもとづく知的財産権として、保護される可能性はあります。
例えば、不正競争防止法にもとづく営業秘密や、特許法にもとづく特許権(ソフトウェア特許として)として保護される可能性はあります。
業務委託契約で発生する著作物の具体例
業務委託契約では、具体的には以下の著作物が発生します。
著作権が発生する業務委託契約の具体例
- ソフトウェア・システム・アプリなどの開発の業務委託契約におけるプログラムの著作物
- ウェブサイトの作成・ウェブデザインなどの作成の業務委託契約における言語の著作物
- グラフィックデザイン・イラスト作成などの業務委託契約における美術の著作物
- ライティングなど文章の作成の業務委託契約における言語の著作物
- 素材撮りなどの撮影業務委託契約における写真の著作物
- マニュアルの作成業務委託契約における言語の著作物
- プロモーション動画の作成業務委託契約における映画の著作物
- 経営コンサルティング契約(成果物の作成がある場合)における言語や美術の著作物
- (録画される)講演などの業務委託契約における映画・音楽の著作物
ポイント
- 創作性が高くないと著作物とは認めれれない。
- プログラム言語・規約・解法は著作物ではない。
- 解法(=アルゴリズム)は営業秘密や特許権(ソフトウェア特許)として保護される可能性はある。
- 業務委託契約では、様々な著作物が発生する。
【意味・定義】著作者人格権とは?
著作者人格権は公表権・氏名表示権・同一性保持権の集合体
著作権が発生する業務委託契約では、著作権の処理以外にも、著作者人格権が発生します。
著作者人格権は、著作権法第17条第1項で、次のとおり規定されています。
著作権法第17条(著作者の権利)
1 著作者は、次条第1項、第19条第1項及び第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
2 (省略)
引用元:著作権法 | e-Gov法令検索
具体的には、著作者人格権は、3つの著作者の権利を要約した用語です。
【意味・定義】著作者人格権とは?
著作者人格権とは、公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つの権利の総称をいう。
なお、この著作者人格権と区別するために、著作権を「著作財産権」と表現することもあります。
著作者人格権の概要
著作者人格権 | 概要 |
---|---|
公表権 (第18条) | 未公表の著作物を公表するかどうか等を決定する権利 |
氏名表示権 (第19条) | 著作物に著作者名を付すかどうか,付す場合に名義をどうするかを決定する権利 |
同一性保持権 (第20条) | 著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されない権利 |
引用元: 著作者の権利の内容について | 文化庁(リンク切れ)
著作者人格権は譲渡できない権利
なお、著作者人格権は、譲渡できません。
著作権法第59条(著作者人格権の一身専属性)
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。
引用元:著作権法 | e-Gov法令検索
このため、一般的な業務委託契約では、受託者に著作者人格権が発生する場合、その著作者人格権を行使しないように義務づけます。
これを、「著作者人格権不行使特約」といいます。
著作者人格権不行使特約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
ポイント
- 著作物が創作された場合、著作権とは別に、著作者人格権も発生する。
- 著作者人格権は譲渡できない。
- 著作者人格権については不行使特約を設定する。
著作権・著作物・著作者人格権に関するよくある質問
- 著作権とは何ですか?
- 著作権とは、著作権者が保有する、著作物の利用を許諾し、または禁止できる権利であって、複製権、上演権及び演奏権、上映権、公衆送信権等、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権等および二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の総称のことです。
- 著作物とはなんですか?
- 著作物とは、次の4つの要件を満たした表現のことです。
- 「思想又は感情」であること。
- 「創作的」であること。
- 「表現したもの」であること。
- 「文芸、学術、美術又は音楽」であること。
- 著作者人格権とは、どのような権利ですか?
- 著作者人格権は、次の3つの権利の総称のことです。
- 公表権:未公表の著作物を公表するかどうか等を決定する権利
- 氏名表示権:著作物に著作者名を付すかどうか,付す場合に名義をどうするかを決定する権利
- 同一性保持権:著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されない権利