こんにちは。契約書作成専門・小山内行政書士事務所代表の小山内です。

このページでは、業務委託契約書に関係する営業秘密の意味・定義・要件や、営業秘密の具体例について、簡単にわかりやすく、まとめて解説しています。

営業秘密は、不正競争防止法により保護される知的財産の一種で、一般的には「ノウハウ」や「トレードシークレット」と呼ばれている情報のことです。

実は、営業秘密として保護される情報は、非常に範囲が広く、特許が取得できるような技術的な情報から、顧客情報のような技術的でない情報まで、あらゆる有用な情報が保護対象となる可能性があります。

業務委託契約の実務において営業秘密が問題となるのは、相手方に対して、(特に機密性が高い)情報を開示する業務委託契約です。

また、一部のコンサルティング契約のように、営業秘密そのものの取扱いが重要となる業務委託契約もあります。

そこで、このページでは、そもそも営業秘密とは何か、という基本的な内容について、解説しています。

なお、業務委託契約において発生する営業秘密の問題全般については、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書における営業秘密(ノウハウ)―秘密保持義務の重要性と権利処理とは?

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【意味・定義】営業秘密とは?

営業秘密は企業の知的財産であるノウハウのこと

営業秘密は、一般的には、「ノウハウ」と呼ばれている、企業の知的財産の一種です。

営業秘密の定義は、不正競争防止法では、次のとおり規定されています。

不正競争防止法第2条(定義)

(途中省略)

6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

(以下省略)

ある情報がこの定義に該当すれば、特許のような特許庁への出願などの手続きを必要とせずに、営業秘密として扱われ、不正競争防止法によって、保護されます。

この「特許庁への出願などの手続きが不要」というのが、営業秘密の大きな特徴のひとつです。

営業秘密は相対的独占的権利

営業秘密の保有者は、営業秘密を独占的に使用できます。

ただ、営業秘密の権利は、独占的な権利(独占的に使用できる権利)ではありますが、排他的な権利ではありません。これは、著作物も同様です。

このため、営業秘密や著作物は、客観的には同じ情報であっても、第三者が独自に創作したものにも、権利が認められます。

この点から、営業秘密の権利や著作権の非排他的独占的権利のことを「相対的独占権」といいます。

これに対し、特許権などの排他的独占的権利のことを「絶対的独占権」といいます。

絶対的独占権・相対的独占権

  • 絶対的独占権:特許権、実用新案権、意匠権、商標権、育成者権の5つの権利
  • 相対的独占権:著作権、回路配置利用権、商号、不正競争法上の利益の4つの権利
ポイント

  • 営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの。
  • 営業秘密は、独占的に使用できるものの、第三者が独自に開発した同じ情報の営業秘密についても、同じく、その第三者の営業秘密としての保護が及ぶ。

営業秘密の3要件

では、営業秘密に該当するための具体的な要件は何かといば、次の3つです。

営業秘密の要件

次の3つの要件をすべて満たした情報は、営業秘密として保護される。

  • 【要件1】秘密管理性(「秘密として管理されている」)
  • 【要件2】有用性(「有用な技術上又は営業上の情報」)
  • 【要件3】非公知性(「公然と知られていない」)

【営業秘密の要件1】秘密管理性

秘密管理性=秘密として管理されていること

不正競争防止法第2条第6項に「秘密として管理されている」とあるとおり、営業秘密は、「秘密として管理されて」いなければなりません。

つまり、秘密管理性とは、その情報が、「『秘密として管理されている』こと」をいいます。

この定義では、非常にあいまいで、わかりづらいと思います。

このため、「秘密管理性」を満たしているかどうかは、過去に様々な裁判で争われてきました。

従業員等が「秘密管理意思」を認識できる必要がある

秘密管理性のポイントは、次のとおりです。

…営業秘密を保有する事業者(保有者)が当該情報を秘密であると単に主観的に認識しているだけでは十分ではなく,保有者の秘密管理意思(特定の情報を秘密として管理しようする意思)が,保有者が実施する具体的状況に応じた経済合理的な秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され,当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。

つまり、簡単にいえば、形式的に管理しているだけでなく、従業員等が、事業者の「秘密管理意思」を認識できるかどうかがポイントとなる、ということです。

『営業秘密管理指針』等の活用により秘密管理性を満たす

なお、経済産業省では、企業が営業秘密を保護するために参考となる、さまざまな情報を公開しています。

参考:営業秘密 ~営業秘密を守り活用する~(METI/経済産業省)

これらの情報のうち、法的保護レベルに関するガイドラインが、『営業秘密管理指針』です。

営業秘密管理指針は、その名のとおり、営業秘密を管理する指針について書かれており、その大半が秘密管理性についての解説となっています。

このため、ある情報が秘密管理性の要件を満たすように管理するためには、非常に参考となる資料です。

ポイント

  • 営業秘密は、「秘密として管理されている」ことが必要。
  • 秘密管理性は、単に形式的に管理されているだけではなく、実態としても管理されている必要がある。
  • 特に、従業員の「秘密管理意思」に対する認識が重要となる。
  • 『営業秘密管理指針』等のガイドラインを利用することで、「秘密として管理」できる。

【営業秘密の要件2】有用性

有用性=事業活動にとって客観的に有用なもの

不正競争防止法第2項第6項に「生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」とあるとおり、営業秘密は、「有用な技術上又は営業上の情報」でなければなりません。

この点について、過去の判例では、次のとおり判示されています。

…秘密として管理されている情報のうちで,財やサービスの生産,販売,研究開発に役立つなど事業活動にとって有用なものに限り保護の対象としている…

なお、有用性は、あくまで客観的に有用かどうかが問題となります。

このため、いくら情報の保有者が主観的に有用だと思っていても、客観的に有用でなければ、有用性は認められません。

営業秘密は技術上の情報も保護対象

このように、事業活動上有用な情報・商業的価値がある情報であれば、あらゆる情報が営業秘密と認められる可能性があります。

よく誤解されがちですが、「営業秘密」という表現から、営業上のノウハウ(接客マニュアルやセールストークのスクリプトなど)だけが保護対象のように思われがちです。

実際は、不正競争防止法第2条第6項にもあるとおり、「技術上」の情報も保護対象となります。

ですから、製造業者の製品や生産方法の情報も、営業秘密としての保護対象となります。

また、IT企業のプログラムの情報も、著作物としてはもちろん、営業秘密としても保護対象となります。

公序良俗に反する情報には有用性は認められない

なお、公序良俗に反する情報は、不正競争防止法による保護に値しない情報ですので、有用性の要件を満たしません。

具体的には、次のような情報は、有用性が認められません。

公序良俗に反する情報の具体例

有用性が認められない「公序良俗に反する情報」とは、「企業の脱税,有害物質の垂れ流し,禁制品の製造,内外の公務員に対する賄賂の提供等といった,反社会的な行為」にかかる情報。

なお、この点について、過去の判例では、次のとおり判示されています。

…犯罪の手口や脱税の方法等を教示し,あるいは麻薬・覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法を示す情報のような公序良俗に反する内容の情報は,法的な保護の対象に値しないものとして,営業秘密としての保護を受けないものと解すべきである。

ポイント

  • 営業秘密は「有用な技術上又は営業上の情報」であることが必要。
  • 事業上有用な情報や商業的価値がある客観的(≠主観的)な情報は、有用性が認められる。
  • 営業上の情報だけではなく、技術上の情報もまた、「営業秘密」として保護される。
  • 公序良俗に反する情報には有用性は認められない。

【営業秘密の要件3】非公知性

非公知性=保有者の管理下以外では入手できないこと

不正競争防止法第2項第6項に「公然と知られていないもの」とあるとおり、営業秘密は、「公然と知られていない」状態でなければなりません。

より具体的に、「公然と知られていない」状態がどのようなものかといえば、次のとおりです。

「公然と知られていない」状態とは,具体的には,当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない等,保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態である。

非公知性と満たすためには秘密保持義務が重要

契約実務上、ある情報を営業秘密として保護する場合は、その情報を取扱う者(個人・法人を問わず)に対して、秘密保持義務を課すことが重要となります。

これは、すでに触れた秘密管理性を満たすと同時に、非公知性を満たすために重要だからです。

この点について、必ずしも秘密保持義務がなくても、非公知とする考え方もあります。

…営業秘密における非公知性では,特定の者が事実上秘密を維持していれば,なお非公知と考えることができる場合がある。

しかし、このような「事実上秘密を維持」している状態では、いつ非公知性が失われてもおかしくない状態です。

このため、契約実務では、形式的にも秘密保持義務を課したうえで、より確実に「事実上秘密を維持」している状態を継続することが重要となります。

なお、契約条項としての秘密保持義務につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約の秘密保持義務・守秘義務とは?条項の規定のしかた・書き方・作り方は?

ポイント

  • 営業秘密は、「公然と知られていない」ことが必要。
  • 非公知性とは、保有者の管理下以外では入手できないこと。
  • 非公知性を満たすためには、秘密保持義務が重要。

営業秘密の具体例

意外に多い営業秘密

すでに触れたとおり、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3つの要件を満たした場合、あらゆる情報が、営業秘密に該当します。

典型的な例としては、顧客情報・顧客リストと、技術情報が該当します。

また、意外なものとしては、実験の失敗結果などの、いわゆる「ネガティブインフォメーション」なども営業秘密に該当します。

以下、いくつかの具体例をあげていきます。

【具体例1】顧客情報・顧客リスト

営業活動にとって最も重要な営業秘密

顧客情報・顧客リストは、文字どおり、商品やサービスの販売先である顧客(個人・法人や消費者・事業者を問いません)の情報です。

顧客情報・顧客リストは、企業の販売活動のうえでは、最も価値がある情報のひとつです。

このため、非常に有用性が高く、営業秘密に該当し得ます。

また、非常に有用性が高いために、営業員や業務委託先の企業が、外部に持ち出したり、漏洩させることが多い、という特徴があります。

営業員の退職時の持出すことがある

特に、営業員は、自らが新規開拓した顧客情報・顧客リストは、「自分の財産」という意識が強く、勤務先の知的財産である「営業秘密」であるという感覚が乏しいことがあります。

というよりも、こうした営業員は、そもそも「営業秘密」という概念を知らないことすらあります。

このため、営業員が、競合他社に転職する際や、起業して独立する際には、よく勤務先の顧客リストの持出しや、顧客の引抜きがあります。

こうした行為は、不正競争防止法違反となり、かなり重い刑事罰(「10年以下の懲役若しくは2,000万円以下の罰金」または併科。不正競争防止法第21条第1項)が科されます。

【具体例2】納入先・納入元の情報

顧客情報・顧客リストが営業秘密に該当するのですから、企業間取引での納入先もまた、当然営業秘密に該当し得ます。

逆に、商品・製品・部品などの仕入先=納入元もまた、営業秘密に該当します。

また、単に納入先・納入元の情報やリストだけではなく、納入先に対する販売価格や、納入元からの仕入価格などの、価格に関する情報もまた、営業秘密に該当します。

さらに、詳細な取引条件などの取引情報もまた、営業秘密に該当します。

【具体例3】マーケティング情報

マーケティング情報など、適切な経営判断に資する情報は、営業秘密に該当し得ます。

ただ、公開されているデータなどは、「非公知性」を満たしませんので、それ単体では、営業秘密としては保護されません。

しかしながら、こうした公開データの組合わせであれば、個々のデータが公開されたものであっても、次のとおり、営業秘密に該当し得ます。

…どの情報をどう組み合わせるかといったこと自体に有用性があり営業秘密たり得るからである。

【具体例4】業務マニュアル

接客マニュアルや業務処理に必要なマニュアルなど、業務マニュアルは、業務の標準的な処理方法や効率化などのノウハウが記載されています。

こうしたマニュアルは、いわば「ノウハウ」の塊であり、当然に営業秘密として保護さ得ます。

なお、マニュアルは、紙その他の媒体にアウトプットされて可視化された場合に、営業秘密として扱われます。

次のとおり、従業員が個人として体得した無形のノウハウなどは、可視化されていない場合は、営業秘密として扱われない可能性があります。

…その内容を紙その他の媒体に可視化することが必要となる。

【具体例5】技術情報

製品そのもの・製造方法・設計・金型・検査方法など

ある意味で、もっとも「ノウハウ」=営業秘密らしい情報ですが、製品に関する情報は、当然営業秘密となります。

製品そのものの情報もそうですし、製造方法、製品の設計図・設計データ等、金型図面、金型そのもの、工場レイアウト、完成した製品の検査方法など、あらゆる情報が営業秘密になり得ます。

こうした情報が発明に該当する場合、特許出願することにより、特許権として保護することも可能です。

しかし、特許権として保護する場合は、出願公開により、情報が公開されますし、20年間(最長でも医薬品・医療機器で25年間)しか保護を受けられません。

これに対し、営業秘密の場合は、情報を秘匿したまま、(理論上は)無期限で保護を受けられます。

実験等のデータ

また、社内で実験した結果や、市場調査などのデータも、営業秘密になり得ます。

データ=単なる事実は、著作物に該当しないため、著作権法では保護を受けられません。

これに対し、不正競争防止法では、営業秘密の要件さえ満たしていれば、データ=単なる事実であっても、保護を受けられます。

このため、データ=単なる事実を保護したいのであれば、公表せずに秘匿するか、他人に開示する場合は、秘密保持義務を課した上で開示します。

ネガティブインフォメーション

意外なところでは、同じデータであっても、ネガティブインフォメーションも営業秘密になり得ます。

ネガティブインフォメーションとは、実験等の失敗の情報・知識のことです。

ネガティブインフォメーションは、有用性がない情報のように思われますが、「ある行為が失敗する・成功しない」という情報は、ムダを回避できるという点で、有用性が認められます。

ネガティブインフォメーションは、「有用性がない」と誤解されがちで、管理がいい加減になりがちです。

しかし、ネガティブインフォメーションは、立派な知的財産・経営資源ですので、他の営業秘密と一緒に、しっかり管理するべきです。

ポイント

公序良俗に反しない情報は、理論上は、3要件さえ満たしていれば、あらゆるものが営業秘密に該当し得る。

営業秘密は著作物や発明としても保護を受けられる

営業秘密は、営業秘密としてだけではなく、ほかの知的財産としても保護を受けられます。

例えば、プログラムは、著作物としても保護を受けられますが、同時に、営業秘密としても保護を受けられます(ともに要件を満たしている必要があります)。

なお、著作権そのものや、著作権と業務委託契約の関係につきましては、それぞれ、以下のページをご覧ください。

著作権・著作物・著作者人格権とは?業務委託契約との関係をわかりやすく解説

業務委託契約書における著作権・著作者人格権―その帰属・使用許諾・使用制限の問題点とは?

また、技術情報は、営業秘密として保護を受けると同時に、発明として、特許を受ける権利としての保護を受けられる場合もあります。

もちろん、こうした技術情報は、特許出願をした場合は、出願公開によって、営業秘密の要件である「非公知性」を満たさなくなりますので、営業秘密としての保護は受けられなくなります。

なお、特許権そのものや、特許権と業務委託契約との関係につきましては、それぞれ、以下のページをご覧ください。

特許権・実用新案権・発明の定義・要件とは?業務委託契約との関係をわかりやすく解説

業務委託契約における特許権・実用新案権―その使用許諾・改良発明の問題点とは?

ポイント

営業秘密として保護を受けられる情報は、ほかの知的財産(発明・著作物等)としても、保護を受けられる可能性がある。