このページでは、業務委託契約において、受託者からよく主張される「二次使用・二次利用」について解説しています。また、併せて、「商品化権」について解説しています。

いわゆる「二次使用・二次利用」という概念は、著作権が発生する業務委託契約のなかでも、特に、グラフィックデザイン・キャラクターデザインの業務委託契約などで、受託者であるクリエーターの方が主張する権利です。

ただ、この「二次使用・二次利用」は、著作権法には存在しない概念です。

このため、実際の業務委託契約の現場では、特に委託者の側が混乱する原因となります。

このページでは、そうした事情を踏まえて、「二次使用・二次利用」や、これによく似た「商品化権」について、わかりやすく解説していきます。

なお、業務委託契約における著作権の取扱い全般については、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約(請負契約)で著作権はどのように発生・帰属・譲渡・処理をする?




「二次使用・二次利用」とは?

二次使用・二次利用とは?

まず前提として、「二次使用」や「二次利用」は、慣例で使われているビジネス用語であり、著作権法に規定された、あるいは著作権にかかわる契約実務で使われる法律用語ではありません。

一般的には、これらの意味は、次のとおりです。

【意味・定義】二次使用・二次利用とは?

二次使用・二次利用とは、一般に、何らかの著作物の作成業務委託契約において、当初の契約内容として規定された著作権の使用・利用を「一次使用」・「一次利用」とした場合における、他の用途・目的でさらに(二次的に)使用・利用をする行為をいう。

上記の定義は、あくまで一般的な意味で使われている定義の一部にすぎません。

場合によっては、これとは異なる定義で使われる場合もあります。

ちなみに、「一次使用」「一次利用」という表現はあまり聞きませんし、同様に、「三次使用」・「三次利用」という表現も聞きません。

契約実務では「一次」「二次」とはせずに利用または使用

また、契約実務では、利用や使用について、わざわざ「一次」や「二次」と区別することはありません。

当初のものであっても、後から追加でされるものであっても、すべて「使用」または「利用」です。

「一次」「二次」ではなく、条件が異なる利用または使用と捉えます。

なお、利用や使用を受けた者が、さらに第三者に対し利用や使用を許諾する行為を再使用や再利用またはサブライセンスといいます。

「譲渡された著作権」にもとづき主張されることもある

業務委託契約では、委託者が、受託者から、著作権の譲渡とは別に、著作権の「二次使用権・二次利用権」を主張されることがあります。

具体的には、「著作権自体は譲渡するけども、二次使用・二次利用をする場合は、別途のライセンス料(ロイヤリティ)が発生する」という主張です(受託者によって多少違いはあります)。

特に、一部のフリーランスの(特にキャラクターデザインの)クリエイターの方からよく主張されます。

ポイントは、「著作権は譲渡する」という点を認めつつ、「二次使用・二次利用」(その定義は明らかではありませんが)する場合は話が別だ、ということです。

「商品化権」と混同される場合もある

また、キャラクター等の作成業務委託契約等では、作成されたキャラクターに関する商品化権(後述)が「二次使用権」・「二次利用権」と呼ばれることもあります。

商品化権自体、法律では定義づけられていない用語です。

そして、その商品化権をさらの定義づけられていない「二次使用権」・「二次利用権」として呼ぶため、ますます定義があやふやになります。

特に、キャラクターの商品化は、事業として成功すればするほど、利益も増えるため、権利の帰属を巡ってトラブルになりがちです。

「二次利用」・「二次使用」の分類

大まかに分けると、「二次使用」・「二次利用」は、次のように分離されます。

二次使用・二次利用の分類
  • 何らかの著作物を作成した際に著作者が著作権を留保した場合において、当初の著作権の利用・使用を一次使用・一次利用とした場合における、後から別の目的でされる使用・利用のこと。
  • 何らかの著作物を作成した際に著作者が著作権を譲渡した場合において、譲渡を受けた者による著作物の使用・利用のこと。
  • キャラクター等の著作物を作成した際の著作権の帰属にかかわらず、当該キャラクターの商品化にともない、著作者が主張する商品化権のこと。

いずれも、定義や契約内容によって、適法な主張の場合と権利の無い主張の場合があります。

ポイント
  • 「二次使用」・「二次利用」はビジネス用語であり、法律用語ではない。
  • 一次・二次ではなく、条件が異なる別の使用・利用。
  • 「譲渡された著作権」であるにもかかわらず、二次使用・二次利用について権利を主張されることもある。
  • 商品化権を「二次使用権」・「二次利用権」と表現する場合もある。





二次使用と二次利用の違いは?

使用と利用の違いは?

著作権の実務では、使用と利用は明確に区別されて使われます。

使用は有体物によって用いられる行為

使用は、主に有体物により著作物を用いる行為のことをいいます。

具体的には、書籍を読む行為などが該当します。

【意味・定義】使用(著作権法)とは?

著作権法における使用とは、有体物により著作物を用いる行為をいう。

利用は有体物または無体物で用いられる行為

これに対し、利用は、有体物のみならず無体物によっても著作物を用いる行為のことをいいます。

具体的には、インターネットで公衆送信をする行為などが該当します。

【意味・定義】利用(著作権法)とは?

著作権法における利用とは、有体物または無体物により著作物を用いる行為をいう。

一般に,現行法においては,何かを用いることを規定する際,「使用」は,「使用料」を除いて原則として有体物のみの利用を想定して用いられている一方,無体物の利用も想定される場合は「利用」が用いられている。

このように、契約実務においては、使用と利用は、明確に意味合いが異なります。

「二次使用」と「二次利用」の違いは?

以上のように、使用と利用の違は、著作権が有体物のみによって用いられるか、または有体物もしくは無体物によって用いられるか、という点にあります。

使用と利用の違いは?

使用と利用の違は、著作権が有体物のみによって用いられるか(使用)、有体物または無体物によって用いられるか(利用)。

よって、二次使用と二次利用の違いは、以下のとおりです。

二次使用と二次利用の違いは?

二次使用と二次利用の違いは、著作権法にもとづくのであれば、有体物のみによってで用いられるか(二次使用)、有体物または無体物のみによって用いられるか(二次利用)。

ただし、すでに述べたとおり、二次使用や二次利用は著作権法で正確に定義づけられていないビジネス用語ですので、必ずしも上記の意味合いで使われているとは限りません。

むしろ、ほとんど厳密に区別されていません。

ポイント
  • 著作権法上の使用は、有体物により著作物を用いる行為。
  • 著作権法上の利用は、有体物または無体物により著作物を用いる行為。
  • 使用と利用は、有体物のみにより用いられるか(使用)、有体物または無体物により用いられるかの違いがある。
  • 二次使用と二次利用も同様だが、厳密に区別されていないことも多い。





著作権の「二次使用権・二次利用権」は著作権法には存在しない

二次使用権・二次利用権は著作権法では存在しない

すでに述べたとおり、そもそも著作権法では、二次使用権・二次利用権という用語や概念は存在しません。

ただし、二次使用というのは、「商業用レコードの二次使用」(著作権法第95条)の場合に使われることはあります。

このため、音楽業界の取引きでもない限り、一般的な業務委託契約では使わない概念・用語です。

このように、定義がない「二次利用権」・「二次利用権」という言葉が独り歩きしているために、トラブルとなる場合があります。

二次使用権・二次利用権は二次的著作物の利用権とも異なる

また、「二次使用権・二次利用権」は、二次的著作物(著作権法第2条第1項第11号)とも違った概念のようです。

【意味・定義】二次的著作物とは?

二次的著作物とは、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。」

著作権法第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)

二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

ポイント
  • 著作権法では、「二次使用権」「二次利用権」という用語・概念は存在しない。
  • 著作権法では、「二次使用」は商業化レコードに関する考え方。
  • 「二次的使用権」「二次的利用権」は二次的著作物の権利とも別の考え方。





「二次使用」「二次利用」のリスクとは?

受注者・受託者の側は「二次使用」・「二次利用」は安易に使わない

このような、著作権法に規定のない概念を主張すること自体に問題があるわけではありません。

ただ、著作権の使用や利用に関しては、わざわざ「二次」をつけなくても、単に「使用」や「利用」で説明がつきます。

また、法律や契約の専門家は、わざわざ誤解の原因になる「二次」を使った表現をしません。

にもかかわらず、受注者・受託者の側が著作権法にない「二次使用」や「二次利用」という表現を使ってしまうと、発注者・委託者の側に、「著作権や契約実務に慣れていないのでは?」と思われるリスクがあります。

発注者・委託者の側は「二次使用」・「二次利用」を使われたら要注意

また、発注者・委託者の側としては、イラストレーターやデザイナーなどの受注者・受託者に「二次使用」や「二次利用」という表現を使われた際には、注意が必要です。

すでに述べたとおり、著作権法では「二次使用」や「二次利用」といった表現はは存在せず、すべて使用や利用で説明がつきます。

このため、こうした「二次使用」や「二次利用」の表現をあえて使う受注者・受託者は、「著作権法や契約実務に詳しくないうえに、権利関係の主張が強い」という可能性があります。

このような受注者・受託者は、適法な権利にもとづかない主張をしてくるリスクもあるため、慎重な対応をしなければなりません。

ポイント
  • 受注者側・受託者側が「二次使用」「二次利用」を使ってしまうと、発注者側・委託者側に著作権や契約実務に慣れていない印象を与える。
  • 発注者側・委託者側は受注者側・受託者側が「二次使用」「二次利用」と表現したら慎重に対応する。





業務委託契約で著作権を譲渡したら原則として何も主張・請求はできない

著作権を譲渡する=権利者ではなくなる

業務委託契約に限らず、契約において著作権をすべて譲渡してしまうと、受託者は著作権者ではなくなります。

このため、受託者が委託者に著作権を譲渡してしまうと、「二次使用権・二次利用権」も含めて、著作権にもとづく要求は、何もできなくなります。

ですから、「著作権は譲渡するけども二次使用・二次利用をする場合が別」という主張はできません。

逆に、「二次使用・二次利用をする場合は話が別」なのであれば、著作権を譲渡したことになりません。

単に「二次使用権・二次利用権」と主張するのではなく法的に妥当な主張をする

ただ、理屈のうえでは、著作権の一部(特定の支分権)だけを委託者に譲渡し、受託者に残りの著作権を留保しておくことは可能です。

ですから、受託者としては、「著作権の全部を譲渡するのではなく、一部の支分権(○○権)は留保し、その○○権は使用許諾とし、その対価は○○としたい」というような主張もできます。

このように、単に「二次使用権・二次利用権」という、定義がない、あるいは間違った用語を使って主張するのではなく、法的に妥当な主張をしないと、契約交渉になりません。

なお、こうした、著作権を支分権単位に分割して権利処理をする方法は、理論上は可能ですが、現実的にはかなり難しい対応となります。

ポイント
  • 著作権を含む権利は、譲渡してしまうと、(元)権利者は、その権利にもとづく主張はできない。
  • 受託者として「二次利用権・二次使用権」を主張するのであれば法的に妥当な主張をする。





下請法(の考え方)には「二次利用」が存在する

なお、下請法では、法律の条文としてはありませんが、次のとおり、「二次利用」の考え方はあります。

知的財産権の譲渡・許諾等

情報成果物等の作成に関し,下請事業者に知的財産権が発生する場合があるが,親事業者が下請事業者に発生した知的財産権を,作成の目的たる使用の範囲を超えて無償で譲渡・許諾させることは,不当な経済上の利益の提供要請に該当する。また,親事業者が,情報成果物の二次利用について,下請事業者が知的財産権を有するにもかかわらず,収益を配分しなかったり,収益の配分割合を一方的に定めたり,利用を制限するなどして下請事業者の利益を不当に害する場合には,不当な経済上の利益の提供要請として問題となる。

ただし、これは、あくまで「下請事業者が知的財産権を有する」場合についての話であり、著作権を譲渡した場合には該当しない話です。

ですから、いわゆる「二次利用権・二次使用権」の問題とは、若干違った話です。

なお、下請法につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法とは?中小零細企業・個人事業者・フリーランス=業務委託契約の受託者の味方の法律





「商品化権」とは?

「二次利用権・二次使用権」と同様の問題点としては、「商品化権」の問題もあります。この商品化権も、法律上は明確な定義がない概念です。

一般的には、著作権のほか、商標権、意匠権、場合によっては不正競争防止法に規定する特定の権利(ブランド関係)、いわゆる「パブリシティ権」などが混じった権利であって、なんらかの商品やサービスのために使用することができる権利のことをいいます。

【意味・定義】商品化権とは?

商品化権とは、著作権、商標権、意匠権、不正競争防止法に規定するブランド関連の権利、パブリシティ権などの権利の集合体であって、なんらかの商品やサービスのために使用することができるものをいう。

こうした商品化権について、稀にではありますが、「著作権は譲渡するけども商品化権は留保する」として、商品化の場合は事前に協議をする(場合によっては承諾を得る)ように主張する受託者もいます。

これも、「二次利用権・二次使用権」と同じように、いったん権利を譲渡してしまえば受託者は権利者でなくなるのですから、著作権にもとづく主張は、一切できなくなります。

ポイント
  • 商品化権には、法的な定義がない。





二次使用・二次利用に関するよくある質問

二次使用・二次利用とは何ですか?
二次使用・二次利用という用語は著作権法にもとづく法律用語ではありません。
一般的には、「何らかの著作物の作成業務委託契約において、当初の契約内容として規定された著作権の使用・利用を一次使用・一次利用とした場合における、他の用途・目的でさらに(二次的に)使用・利用をする行為」のことを意味しますが、必ずしもこのとおりに使われているわけではなく、別の定義で使われることもあります。
二次使用と二次利用の違いは?
二次使用も二次利用も正確な定義がありませんので、違いは不明です。
ただし、著作権法の使用や利用に準じた考え方としては、二次使用と二次利用の違いは、有体物のみによってで用いられるか(二次使用)、有体物または無体物のみによって用いられるか(二次利用)、という点にあります。
受注者側・受託者側が「二次使用」「二次利用」という表現を使った場合、どのようなリスクがありますか?
受注者・受託者の側が著作権法にない「二次使用」や「二次利用」という表現を使ってしまうと、発注者・委託者の側に、「著作権や契約実務に慣れていないのでは?」と思われるリスクがあります。
発注者側・委託者側が「二次使用」「二次利用」の表現を使われた場合、どのようなリスクがありますか?
「二次使用」や「二次利用」の表現をあえて使う受注者・受託者は、「著作権法や契約実務に詳しくないうえに、権利関係の主張が強い」という可能性があります。
商品化権とはなんですか?
商品化権とは、著作権、商標権、意匠権、不正競争防止法に規定するブランド関連の権利、パブリシティ権などの権利の集合体であって、なんらかの商品やサービスのために使用することができるもののことです。