- 無体財産権の譲渡がある請負契約書は、1号文書と2号文書のいずれに該当するのでしょうか?また、印紙税の計算はどのようにするのでしょうか?
- 著作権などの無体財産権(≒知的財産権)の譲渡がある請負契約書は、1号文書であり、2号文書でもある契約書ですが、このような場合は、原則として1号文書として扱います。
ただし、請負(2号文書)の対価としての報酬・料金・委託料等が、無体財産権の譲渡の対価の金額よりも多い場合は、例外として2号文書として扱います。
このページでは、契約書が1号文書かつ2号文書である場合の印紙税の取扱いと金額の計算のしかたについて、簡単にわかりやすく解説します。
一部の請負契約は、著作権などの無体財産権(≒知的財産権)の譲渡がある場合があります。
この場合、その契約書は、請負契約書(2号文書)であり、かつ無体財産権の譲渡の契約書(1号文書)でもあります。
このような1号文書かつ2号文書である契約書は、報酬・料金・委託料等の記載のしかたによって、1号文書または2号文書として扱われます。
このページでは、こうした1号文書かつ2号文書である契約書の帰属や印紙税の計算や収入印紙について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページをご覧いただくことで、以下の内容を理解できます。
このページでわかること
- 1号文書かつ2号文書の契約書がどちらに該当するのか。
- 1号文書かつ2号文書の契約書の具体例。
- 1号文書かつ2号文書の契約書の印紙税の計算のしかた。
- 1号文書かつ2号文書の契約書における節税のしかた。
なお、1号文書と2号文書の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
1号文書・2号文書になる契約書とは?
1号文書とは?
1号文書とは、不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書、地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書、消費貸借に関する契約書、運送に関する契約書(傭よう船契約書を含む。)のいずれかの契約書が該当します。
【意味・定義】1号文書(印紙税法)とは?
印紙税法における1号文書とは、以下のいずれかの契約書をいう。
- 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書
- 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
- 消費貸借に関する契約書
- 運送に関する契約書(傭よう船契約書を含む。)
ここでいう無体財産権とは、以下のものをいいます。
【意味・定義】無体財産権(印紙税法)とは?
印紙税法における無体財産権とは、「特許権、実用新案権、商標権、意匠権、回路配置利用権、育成者権、商号及び著作権」をいう。
2号文書とは?
2号文書とは、「請負に関する契約書」であって、「職業野球の選手、映画の俳優その他これらに類する者で政令で定めるものの役務の提供を約することを内容とする契約を含むもの」が該当します。
【意味・定義】2号文書(印紙税法)とは?
印紙税法における2号文書とは、請負に関する契約書であって、「職業野球の選手、映画の俳優その他これらに類する者で政令で定めるものの役務の提供を約することを内容とする契約を含むもの」をいう。
なお、請負契約に関する基本的な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
1号文書と2号文書の違いとは?
このように、1号文書と2号文書には、以下の違いがあります。
1号文書と2号文書の違い
1号文書と2号文書は、それぞれ次の契約書を対象とする点で異なる。
- 1号文書:1.不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書、2.地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書、3.消費貸借に関する契約書、4.運送に関する契約書(傭よう船契約書を含む。)―の4種類の契約書
- 2号文書:請負に関する契約書
この他、1号文書と2号文書の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
1号文書かつ2号文書の契約書の具体例:著作権の譲渡がある請負契約書
以上のように、「請負に関する契約書」の中でも、無体財産権≒知的財産権の譲渡があるものは、1号文書であり、かつ、2号文書でもあります。
例えば、一般的な企業間契約としては、次のような著作物の作成に関する契約書が該当します。
1号文書かつ2号文書である契約書の具体例
- ソフトウェア・プログラム・システム・アプリ開発業務請負契約書
- グラフィックデザイン作成請負契約書
- ライティング業務請負契約書
- ホームページ作成請負契約書
いずれも、著作権の譲渡があり、かつ、スポットの契約書であることが前提です。
1号文書かつ2号文書の場合はどちらの文書に該当する?
原則として1号文書・「請負の契約金額>知的財産権の譲渡対価」の場合に限り2号文書
1号文書かつ2号文書の場合、課税物件表の適用に関する通則3ロにより、次のように扱います。
1号文書かつ2号文書の場合の収入印紙
- 原則:1号文書
- ただし、それぞれの課税事項ごとの契約金額を区分することができ、かつ、2号文書についての契約金額が1号文書についての契約金額を超えるもの:2号文書
課税物件表の適用に関する通則
(途中省略)
ロ 第一号に掲げる文書と第二号に掲げる文書とに該当する文書は、第一号に掲げる文書とする。ただし、当該文書に契約金額の記載があり、かつ、当該契約金額を第一号及び第二号に掲げる文書のそれぞれにより証されるべき事項ごとに区分することができる場合において、第一号に掲げる文書により証されるべき事項に係る金額として記載されている契約金額(当該金額が二以上ある場合には、その合計額。以下このロにおいて同じ。)が第二号に掲げる文書により証されるべき事項に係る金額として記載されている契約金額に満たないときは、同号に掲げる文書とする。
引用元:印紙税法 | e-Gov法令検索
このように、請負契約書が1号文書と2号文書に該当する場合は、原則として、1号文書となります。
例外として、知的財産権の譲渡の対価と、請負の契約金額を別々に区別できるように記載していて、その金額が、請負の契約金額の方が多い場合に限り、2号文書として扱われます。
1号文書となる条文の記載例
具体的には、次のとおりです。
【契約条項の書き方・記載例・具体例】知的財産権の譲渡・移転における金額を規定する条項(1号文書)
第○条(報酬)
1 本件請負の報酬は、金15万円(消費税別)とする。
2 前項の報酬には、本件請負により生じた知的財産権の譲渡の対価を含む。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
このような規定の請負契約書の場合は、1号文書に該当しますので、400円です。
よく誤解されがちですが、2号文書には該当しませんので、印紙税額は200円ではありません。
2号文書となる条文の記載例
【契約条項の書き方・記載例・具体例】知的財産権の譲渡・移転における金額を規定する条項(2号文書)
第○条(報酬)
1 本件請負の報酬は、金8万円(消費税別)とする。
2 本件請負により生じた知的財産権の譲渡の対価は、金7万円(消費税別)とする。
(※便宜上、表現は簡略化しています)
このような規定の請負契約書の場合は、2号文書に該当します。
金額の区分があれば多い方の金額だけが課税対象となる
また、印紙税額につきましては、1つの契約書が2つ以上の課税事項に該当する場合は、それぞれの課税事項の記載金額が区分されていれば、その契約書が該当する課税事項のみの記載金額で印紙税額が決まります。
参照:2以上の号に該当する文書の所属の決定|国税庁(特に(5)を参照)
上記の2号文書となる契約条項を例にわかりやすく簡単に説明すると、上記の契約条項では記載金額が区別されていますので、印紙税額は、2号文書の記載金額=8万円(消費税別)だけで計算します。
このため、上記の例のような業務委託契約書は、8万万円(消費税別)の契約金額の2号文書として扱われ、印紙税額は400円ではなく200円となります。
同じ15万円(消費税別)の契約金額でも、金額の書き方によって、200円の印紙税の節約になります。
ポイント
- 1号文書かつ2号文書は、原則として1号文書。
- ただし、「請負の契約金額>知的財産権の譲渡対価」の場合に限り2号文書。
1号文書かつ2号文書の節税のしかたは?
契約金額の書き方によっては節税となる
このように、契約書への金額の書き方によって印紙税額が変わってきます。
ですから、請負契約書への契約金額の書き方次第では、印紙税は節税できます。
すでに触れた事例ではたった200円の節税ですが、これが合計金額1億5,000万円(消費税別)のシステム開発請負契約書のように、金額が大きい請負契約書の場合は、話が違ってきます。
このような請負契約書の場合、請負の報酬が8,000万円、知的財産権の譲渡対価が7,000万円だとすると、印紙税が10万円か6万円かの違いとなり、4万円節税ができます。
「印紙税の節約のために書き方を変える」のは本末転倒
ただし、本来、契約書には、実態を反映した内容を記載するべきであり、印紙税を節税するために実態を歪めて規定するのは、本末転倒です。
特に、1号文書と2号文書とに該当する場合は、節税のために請負の報酬を高く設定してしまうと、知的財産権の譲渡対価が不当に低くなる可能性があります。
こうした価格設定の交渉は、交渉が巧みな担当者が相手の場合は、つけ込まれるスキを与えることになりかねません、
特に、印紙税を節税することを目的に、知的財産権の譲渡対価を不当に低くするように要求した場合、注文者(委託者)の側は、独占禁止法の優越的地位の濫用に該当する可能性があります。
役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針 第2 7(1)
…成果物等に係る権利の譲渡等に対する対価が不当に低い場合や成果物等に係る権利の譲渡等を事実上強制する場合など、受託者に対して不当に不利益を与える場合には、優越的地位の濫用として問題となる。
ポイント
- 収入印紙の金額の計算は非常に複雑。書き方ひとつで金額も大きく変わる。
- 節税目的で知的財産権の対価を不当に安く設定すると、優越的地位の濫用になる可能性もある。
補足1:収入印紙への消印(≠割印)の押し方
なお、収入印紙に消印を押す場合、以下の図のように押します。
この他、収入印紙への消印(≠割印)の押し方の詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足2:契約書の収入印紙にはいつ消印を押す?
契約書の収入印紙に消印を押印するタイミングは、通常は、契約成立の時期=契約書に当事者すべての署名、記名押印等をした時点です。
具体的には、対面・郵送によって、以下の時期になります。
2つ契約成立の時期
- 対面での契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインが完了した時点
- 郵送で契約締結の手続きをおこなった場合:当事者のすべての署名または記名押印等のサインがなされた契約書が当事者に到達した時点
この他、契約書の収入印紙にはいつ消印を押すかにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
印紙税の節税は電子契約サービスがおすすめ
印紙税の節税には、電子契約サービスの利用がおすすめです。
というのも、電子契約サービスは、他の方法に比べて、デメリットがほとんど無いからです。
印紙税を節税する方法は、さまざまあります。
具体的には、以下のものが考えられます。
印紙税を節税する方法
- コピーを作成する:原本を1部のみ作成し、一方の当事者のみが保有し、他方の当事者はコピーを保有する。
- 契約形態を変更する:節税のために準委任契約のような非課税の契約にする。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:取引基本契約に初回の注文書・注文請書や個別契約を綴じ込むことで7号文書から2号文書・1号文書に変える。
しかし、これらの方法には、以下のデメリットがあります。
印紙税の節税のデメリット
- コピーを作成する:契約書のコピーは、原本に比べて証拠能力が低い。
- 契約形態を変更する:節税のために契約形態を変えるのは本末転倒であり、節税の効果以上のデメリットが発生するリスクがある。
- 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:7号文書よりも印紙税の金額が減ることはあるものの、結局2号文書・1号文書として課税される。
これに対し、電子契約サービスは、有料ではあるものの、その料金を上回る節税効果があり、上記のようなデメリットがありません。
電子契約サービスのメリット
- 電子契約サービスを利用した場合、双方に証拠として電子署名がなされた契約書のデータが残るため、コピーの契約書よりも証拠能力が高い。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、印紙税を考慮した契約形態にする必要がない。
- 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、7号文書に2号文書や1号文書を同轍する必要はなく、そもそも契約書を製本する必要すらない。
このように、印紙税の節税には、電子契約サービスの利用が、最もおすすめです。
1号文書かつ2号文書の印紙税の計算に関するよくある質問
- 1号文書かつ2号文書の契約書はどちらに該当するのでしょうか?
- 1号文書かつ2号文書の契約書は、原則として1号文書に該当します。
ただし、例外として、「請負契約の報酬>無体財産権の譲渡の対価」の場合は2号文書となります。
- 1号文書かつ2号文書の契約書の具体例は?
- 1号文書かつ2号文書の契約書の具体例は、以下のようなものがあります。
- ソフトウェア・プログラム・システム・アプリ開発業務請負契約書
- グラフィックデザイン作成請負契約書
- ライティング業務請負契約書
- ホームページ作成請負契約書
- 1号文書かつ2号文書の契約書で印紙税を節税する方法は?
- 1号文書かつ2号文書の契約書では、請負契約の報酬の金額が多いほうが、節税となる場合があります。