契約書の収入印紙や印紙税は、契約当事者のどちらが負担するべきなのでしょうか?また、負担の割合はどうなっているのでしょうか?
原則として、収入印紙・印紙税は、契約当事者が折半して負担することになります。

このページでは、弊所によく寄せられるご質問である、収入印紙・印紙税の負担当事者について解説しています。

印紙税法では、印紙税の納税義務者は、「課税文書の作成者」となっています。

また、民法上の原則として、契約の締結に必要な費用は、当事者の折半とされています。

このため、一般的な企業間の取引では、当事者双方が、折半して印紙税を負担します。

なお、契約の特約として、一方の当事者だけに収入印紙の負担を求めることができますが、業務委託契約では、下請法や独占禁止法に違反するリスクがあります。




印紙税法では印紙税の納税義務者は「作成者」

印紙税法では、印紙税の納税義務者は、課税文書の「作成者」となっています。

印紙税法第3条(納税義務者)

1 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

2 1の課税文書を2以上の者が共同して作成した場合には、当該2以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。

このため、収入印紙・印紙税は、契約書を作成したどちらかの当事者、または双方の当事者が負担することになります。

ここでポイントとなるのは、第2項にあるとおり、課税文書を共同で作成した場合は、「連帯して」印紙税を収める義務があります(何をもって「共同」というのかは必ずしも明らかではありませんが)。

つまり、共同で契約書を作成したにもかからわず、相手方がその契約書に収入印紙を貼っていない場合は、理屈のうえでは、国税庁に対して、「連帯して」印紙税を納税させられる可能性もあるわけです。

ポイント
  • 印紙税の納税義務者は課税文書の作成者。
  • 印紙税は、共同で作成した契約書の場合は、契約当事者が連帯して納税する義務がある。
  • 共同して作成したにもかかわらず、相手方が契約書に収入印紙を貼っていない場合は、理屈のうえでは、「連帯して」印紙税を納税させられる可能性もある。





民法では印紙税を含む「契約に関する費用」は等分負担

”契約の締結”に必要な費用は折半

なお、民法では、原則として、契約に関する費用は、契約当事者の等分負担となっています。

民法第558条(売買契約に関する費用)

売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。

民法第559条(有償契約への準用)

この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

ここでいう「契約に関する費用」というのは、契約の締結に必要な費用であって、債務の弁済に必要な費用(民法第485条)ではありません。

このため、民法上は、印紙税は、それぞれが等分に負担することになります。

契約書を2部作成する場合は自然と折半となる

この点について、一般的な契約書のように、原本を2部作成して、契約当事者の双方が1部づつ保管する場合は、特に問題となりません。

この場合は、それぞれが収入印紙を購入して消印を押印すれば、自然と折半となります。

なお、この際、収入印紙への消印については、「作成者のうちの一の者が消すこととしても差し支えない」とされています(印紙税法基本通達第64条)。

印紙税法基本通達第64条(共同作成の場合の印紙の消印方法)

2以上の者が共同して作成した課税文書にはり付けた印紙を法第8条《印紙による納付等》第2項の規定により消す場合には、作成者のうちの一の者が消すこととしても差し支えない。

問題は、原本を1部しか作成しない場合や、注文書・注文請書(発注書・受注書)による契約の場合です。

このような場合は、契約当事者の一方だけに印紙税を負担させることしてしまいがちですが、本当にそれでいいのか、という問題があります。

1部だけの契約書の印紙税の負担は?

コピーの契約書を保有する当事者は印紙税の負担について特約を規定する

印紙税の節約のため、契約書の原本は1部だけ作成し、一方の当事者はその原本を、他方の当事者はそのコピー・写しを保管する場合があります。

では、この1部だけの契約書については、誰が、どれだけの印紙税を負担するべきでしょうか?

この場合も、すでに述べたとおり、民法上は、契約当事者の双方が折半で負担するべきものです。

これは、受注書・注文請書も同様です(発注書・注文書には収入印紙を貼る必要はありません。後述)。

このため、コピーを保有する当事者としては、例えば、原本を保有する当事者が印紙税を負担するように、特約を規定するべきです。

コピーの契約書でも収入印紙を貼る必要がある場合もある

契約書のコピー(写し)は、そのままの状態であれば、収入印紙を貼る必要はありません。

ただし、次のように、契約の成立の証明となるようなコピー・写し・副本・謄本等には、収入印紙を貼る必要があります。

収入印紙を貼る必要のある契約書のコピー

次のような契約書は、コピー・写しであっても、収入印紙を貼る必要がある。

  • (1)契約当事者の双方又は文書の所持者以外の一方の署名又は押印があるもの
  • (2)正本などと相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明のあるもの

参考:No.7120 契約書を複数作成した場合の課税関係|国税庁

ポイント
  • 民法上は、契約に関する費用(≠債務の弁済の費用)は、契約当事者の等分負担。
  • 一部だけの契約書・注文請書も、理論上は、印紙税は、契約当事者が折半して負担する。このため、一方の当事者だけに負担を求める場合は、特約が必要。
  • コピーの契約書は収入印紙を貼る必要がない。ただし、例外として、原本と同じ扱いの場合は、収入印紙を貼る必要がある。





申込書・注文書・発注書に収入印紙・印紙税は必要?

申込書・注文書・発注書には収入印紙を貼らなくていい

申込書・注文書・発注書で契約の申込みをする場合についてですが、原則として、申込書・注文書・発注書には収入印紙を貼る必要はありません。

[平成29年4月1日現在法令等]

契約とは、申込みとその申込みに対する承諾によって成立するものですから、契約の申込み事実を証明する目的で作成される単なる申込書、注文書、依頼書等(以下「申込書等」という。)は、通常、課税対象にはなりません。(以下省略)

自動成立の申込書・注文書・発注書は課税文書扱い=収入印紙を貼る必要がある

ただし、注文書を送付しただけで自動的に契約が成立する手続きとした場合などには、その注文書は、課税文書となります。

[平成29年4月1日現在法令等]

(途中省略)次に掲げるものは、一般的に契約書に該当するものとして取り扱われています。

(1)契約当事者の間の基本契約書、規約又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものは除かれます。

(2)(以下省略)

このため、注文書の送付により完全に自動的に契約が成立する手続きでは、印紙税の節約のメリットはありません。

この他、申込書・注文書・発注書の印紙税の計算や収入印紙につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

注文書の印紙(収入印紙)はどちらが貼るものなのでしょうか?

注文請書・受注書の印紙税の負担は?

注文請書・受注書は、注文書・発注書と違って、契約の成立を証する書面ですので、収入印紙を貼る必要があります。

この場合も、1部だけの契約書と同様に、民法上は、契約当事者の双方が折半で負担するべきものです。

このため、委託者としては、後になって、受託者から印紙税の半額の負担を求められる可能性があります。

こうしたことがないように、業務委託契約や取引基本契約では、念のため、注文請書に貼る収入印紙の負担について、特約を規定しておくべきです。

ポイント
  • 注文書には、原則として収入印紙を貼る必要はない。
  • 例外として、注文書の交付により契約が完全に自動的に成立する場合は、収入印紙を貼る必要がある。
  • 注文請書は課税文書であるため、収入印紙を貼る必要がある。





特約で一方の当事者だけに印紙税を負担させられる

なお、特約を設定することで、どちらか一方が印紙税を負担するような契約内容とすることはできます。

ただし、例えば、下請事業者や立場が弱い契約当事者に対して、一方的に印紙税を負担させるような契約内容は、下請法や独占禁止法で問題となる可能性があります。

下請法につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

下請法とは?中小零細企業・個人事業者・フリーランス=業務委託契約の受託者の味方の法律

独占禁止法につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

独占禁止法とは?私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法等の業務委託契約との関係も解説

ポイント
  • 特約として一方だけが印紙税を負担する内容にもできるが、下請法や独占禁止法で問題となる可能性もある。





補足:収入印紙が貼られた契約書と貼られていない契約書はどちらを渡す・返す?

相手方から契約書が2部郵送されてきた場合に、片方だけに収入印紙(消印済み)が貼られていて、もう片方は収入印紙が貼られていないことがあります。

この場合、法的には、どちらを返送しても、特に問題はありません。ただし、収入印紙が貼られていない契約書には、収入印紙を貼ったうえで返送するようにします。

なお、ビジネスマナーとしては、収入印紙が貼られていない契約書に収入印紙を貼り、消印(割印ではありません)を押したうえで返送するべきです。

この点につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約書はどちらを渡す・返す?消印(≠割印)がある印紙(収入印紙)が有るものと無いもの





収入印紙への消印(≠割印)の押し方

なお、収入印紙に消印を押す場合、以下の図のように押します。

この他、収入印紙への消印(≠割印)の押し方の詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約書に貼る印紙(収入印紙)への消印(≠割印)のしかた・場所は?





印紙税の節税は電子契約サービスがおすすめ

印紙税の節税には、電子契約サービスの利用がおすすめです。

というのも、電子契約サービスは、他の方法に比べて、デメリットがほとんど無いからです。

印紙税を節税する方法は、さまざまあります。

具体的には、以下のものが考えられます。

印紙税を節税する方法
  1. コピーを作成する:原本を1部のみ作成し、一方の当事者のみが保有し、他方の当事者はコピーを保有する。
  2. 契約形態を変更する:節税のために準委任契約のような非課税の契約にする。
  3. 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:取引基本契約に初回の注文書・注文請書や個別契約を綴じ込むことで7号文書から2号文書・1号文書に変える。

しかし、これらの方法には、以下のデメリットがあります。

印紙税の節税のデメリット
  • コピーを作成する:契約書のコピーは、原本に比べて証拠能力が低い。
  • 契約形態を変更する:節税のために契約形態を変えるのは本末転倒であり、節税の効果以上のデメリットが発生するリスクがある。
  • 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:7号文書よりも印紙税の金額が減ることはあるものの、結局2号文書・1号文書として課税される。

これに対し、電子契約サービスは、有料ではあるものの、その料金を上回る節税効果があり、上記のようなデメリットがありません。

電子契約サービスのメリット
  1. 電子契約サービスを利用した場合、双方に証拠として電子署名がなされた契約書のデータが残るため、コピーの契約書よりも証拠能力が高い。
  2. 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、印紙税を考慮した契約形態にする必要がない。
  3. 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、7号文書に2号文書や1号文書を同轍する必要はなく、そもそも契約書を製本する必要すらない。

このように、印紙税の節税には、電子契約サービスの利用が、最もおすすめです。

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収入印紙・印紙税の負担に関するよくある質問

契約書の収入印紙・印紙税はどちらが負担するのでしょうか?
原則として、収入印紙・印紙税は、契約当事者が折半して負担することになります。
注文書や発注書に収入印紙は必要でしょうか?
原則として、申込書・注文書・発注書には収入印紙は不要です。ただし、申込書・注文書・発注書の交付のしかたによっては、収入印紙が必要となることもあります。
注文請書や受注書には収入印紙が必要ですか?
注文請書は課税文書であるため、収入印紙が必要です。