このページでは、ソフトウェア・システム・アプリ等の開発業務委託契約(以下、「システム等開発業務委託契約」といいます。)の契約条項のうち、納入にや納入方法関する条項と、これに関連する下請法の注意点について解説しています。

システム等開発業務委託契約では、納入や納入方法は、開発スタイルや開発方法、利用するツールや開発プラットフォームによって様々です。

このため、システム等開発業務委託契約では、こうした納入や納入方法についても、丁寧に規定する必要があります。

また、下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約では、納入の定義や特約の設定によっては、支払期限に影響を与える可能性もあります。

このページでは、こうしたソフトウェア・システム・アプリ・プログラム等の納入のポイントについて開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページをご覧いただくことで、以下の内容を理解できます。

このページでわかること
  • システム等開発業務委託契約における納入のポイント。
  • 下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約において、仕様を満たしていない成果物が納入された場合において支払いを留保できる条件。

なお、システム等開発業務委託契約そのものの詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】ソフトウェア・システム・アプリ開発業務委託契約とは?




システム等開発業務委託契約における納入とは?

システム等の納入=コード類の引渡し

システム等開発業務委託契約では、納入とは、システム等の開発による成果である知的財産(主にプログラム等のコード等の著作物)の引渡しを意味します。

これは、主にフルスクラッチでの開発の場合が該当します。

もっとも、その引渡し方法は様々で、データ量やセキュリティ上の都合、開発環境などにより、様々な制約を受けます。

このため、成果物であるシステム等の納入=引渡し(場合によっては実装まで)については、あからじめシステム等開発業務委託契約で明確に定義づけるべきです。

開発プラットフォームのノーコード開発の場合は権限等の移譲

また、近年では、開発プラットフォームを利用した開発や、ノーコードツールを利用した開発もあります。

このような開発の場合は、物理的にコード類を引渡す納入は現実的ではありません。

開発プラットフォームやノーコードツールの機能にもよりますが、一般的には、委託者から受託者に対しアカウントなどの権限を移譲することで、納入とすることが多いです。

ただし、これは、開発プラットフォームやノーコードツールの利用規約に抵触しないように注意が必要です。

「引渡し=知的財産権の譲渡」とは限らない

知的財産の引渡しや権限等の引渡しは、必ずしも知的財産権の譲渡になるわけではなく、単なる情報の開示に過ぎません。

同じように、記録媒体(USBメモリ、HDDなど)でプログラム等の納品があった場合、記録媒体の所有権が移転したからといって、必ずしも知的財産権を譲渡したことにはなりません。

このため、納入や記録媒体の所有権の移転とは別に、知的財産権の譲渡や利用許諾についても、別途規定しておくべきです。

この他、業務委託契約における著作権の取扱いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約(請負契約)で著作権はどのように発生・帰属・譲渡・処理をする?

ポイント
  • システム等開発業務委託契約における納入や納入方法は、開発スタイルや開発方法、利用するツールや開発プラットフォームによって様々であるため、契約書で明確に定義づける必要がある。
  • 納入=知的財産の引渡しは、必ずしも知的財産権の譲渡になるとは限らない。





下請法が適用されれるシステム等開発業務委託契約とは?

システム等開発業務委託契約では、次の場合に下請法が適用されます。

下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約の具体例
  • 委託者が第三者からシステム等開発業務委託契約を受託した場合において、受託者に対し、その業務の一部または全部を再委託する場合
  • 委託者が社内においてシステム等を開発している場合において、受託者に対し、その開発のいち部を委託する場合。

なお、上記の業務内容の他に、次の委託者と受託者の資本金の区分も下請法が適用される要件となります。

パターン1
親事業者下請事業者
資本金の区分3億1円以上3億円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る
  4. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理に限る
パターン2
親事業者下請事業者
資本金の区分1千万1円以上3億円以下1千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 製造委託
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る
  4. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理に限る
パターン3
親事業者下請事業者
資本金の区分5千万1円以上5千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 情報成果物の作成(プログラムの作成以外のもの)
  2. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理以外のもの)
パターン4
親事業者下請事業者
資本金の区分1千万1円以上5千万円以下1千万円以下(または個人事業者)
業務内容
  1. 情報成果物の作成(プログラムの作成以外のもの)
  2. 役務提供委託(運送・物品の倉庫保管、情報処理以外のもの)

一般的なシステム等開発業務委託契約は、「プログラムの作成」に該当しますので、上記のパターン1またはパターン2に該当します。

これらの4つのパターンにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?資本金・業務内容(製造委託等)について解説





下請法が適用される場合は「納入があった日から60日後」が支払期限

委託者(ユーザ)は受領=納入としない

なお、委託者(ユーザ)の立場の場合、下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約では、安易に引渡し=成果物の受領をもって「納入」としてはいけません。

というのは、下請法が適用される場合、納入は、支払期限の起算点として、非常に重要な意味を持つからです。

下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約において、個々の業務が請負型の場合は、支払期限は、「納入があった日」から起算して60日以内です。

ポイントは、「納入があった日」から60日以内であって、「検査が完了した日」から60日以内ではない点です。

つまり、納入があれば、検査に合格するかどうかに関係なく、最長でも60日後には、委託者は、報酬・料金・委託料を支払わなければなりません。

成果物が委託内容の水準に達していなくても支払義務はある

もっとも、いくら「納入があった日」とはいえ、成果物が委託内容の水準に達しているかどうかがわからない場合があります。

この場合であっても、下請法が適用されるのであれば、委託者(ユーザ)は、報酬・料金・委託料を支払わなければなりません。

もし、成果物が委託内容の水準に達していないとして、報酬・料金・委託料の支払いを拒絶した場合、委託者(ユーザ)は、下請法違反となります。

ということは、原則としては、どのように出来が悪いシステム等であったとしても、委託者(ユーザ)は、受託者(ベンダ)に対して、いったんは報酬・料金・委託料を支払わなければならない、ということです。

例外として支払いを留保できる条件とは?

ただし、以下のとおり、一定の条件を満たしている場合に限り、委託者(ユーザ)は、受託者(ベンダ)に対する報酬・料金・委託料の支払いを留保できます。

(3) また,情報成果物作成委託においては,親事業者が作成の過程で,委託内容の確認や今後の作業についての指示等を行うために,情報成果物を一時的に自己の支配下に置くことがある。親事業者が情報成果物を支配下に置いた時点では,当該情報成果物が委託内容の水準に達し得るかどうか明らかではない場合において,あらかじめ親事業者と下請事業者との間で,親事業者が支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で,給付を受領したこととすることを合意している場合には,当該情報成果物を支配下に置いたとしても直ちに「受領」したものとは取り扱わず,支配下に置いた日を「支払期日」の起算日とはしない。ただし,3条書面に明記された納期日において,親事業者の支配下にあれば,内容の確認が終わっているかどうかを問わず,当該期日に給付を受領したものとして,「支払期日」の起算日とする。

これをわかりやすくまとめると、次のとおりです。

システム等開発業務委託契約の支払期限の起算日・受領日
  • 注文品(=成果物)が委託内容の水準に達しているかどうか明らかではない場合
  • あらかじめ親事業者と下請事業者との間で、親事業者の支配下に置いた注文品の内容が一定の水準を満たしていることを確認した時点で受領とすることを合意している場合

以上の2点を満たしていれば、ユーザは、その確認の時点まで(ただし、最長で三条書面に記載した納期日まで)は、受領を留保することがでます。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項や契約書との違いは?

特に、業務委託契約の実務では、2点目に配慮した契約書の作成が重要となります。

【契約条項の書き方・記載例・具体例】支払いの起算点に関する条項

第○条(検査による特例)

委託者が本件成果物の納入を受けた場合において、当該本件成果物が第●条に規定する検査に合格するものかどうかが明らかでないときは、委託者および受託者は、当該本件成果物について、当該検査に合格した時点において、納入を完了したものとみなすことに合意するものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

なお、上記の記載例は、あくまで「納入」と「納入完了」と「検査」の行程をそれぞれ別物としていることを想定しています。

業務委託契約書を作成する理由

下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約では、特に特約がなければ、受託者からの納入があった時点で、成果物の内容にかかわらず「納入があった日」から起算して60日以内に報酬・料金支払わなければならないことから、成果物の検査等を実施したうえで「納入」とするかどうかを判断する場合は、特約として検査合格の時点を支払期限の起算点とする旨を規定した契約書が必要となるから。

このほか、納入に関する契約条項につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

納入・納入方法・納入場所とは?書き方・規定のしかたは?

また、システム等開発業務委託契約全般の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】ソフトウェア・システム・アプリ開発業務委託契約とは?

ポイント
  • 下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約では、支払期限は、「納入があった日」から60日以内であって、「検査が完了した日」から60日以内ではない。
  • 成果物が委託内容の水準に達していない場合であっても、親事業者(委託者)には報酬・料金の支払義務がある。
  • 成果物が委託内容の水準に達していない場合において、委託者が三条書面に記載された支払期限まで支払いを留保するには、特約が必要。





システム等開発業務委託契約における納入に関するよくある質問

システム等開発業務委託契約では、どのように成果物を納入をするのですか?
システム等開発業務委託契約では、委託者から受託者に対し、次の方法により成果物が納入されます。

  1. 成果物の記録媒体を物理的に引渡すこと
  2. データをオンラインで電子的に送信すること
  3. 開発プラットフォームやツールのアカウント等の権限等を移譲すること
下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約では、どのような点に気をつけるべきですか?
下請法が適用されるシステム等開発業務委託契約では、親事業者(委託者)は、三条書面で設定した支払期限より前であっても、原則として成果物の納入があった日から起算して60日後までに、下請事業者(受託者)に対し、報酬・料金を支払わなければなりません。しかし、以下の条件を満たした場合は、三条書面で設定した支払期限まで支払いを留保することができます。

  • 注文品(=成果物)が委託内容の水準に達しているかどうか明らかではない場合
  • あらかじめ親事業者と下請事業者との間で、親事業者の支配下に置いた注文品の内容が一定の水準を満たしていることを確認した時点で受領とすることを合意している場合