- 下請法が適用される取引きでは、注文書・発注書をあとから(事後に)交付することは違法になるのでしょうか?
- 下請法が適用される場合において、注文書・発注書をあとから交付したときは、違法となる場合と適法になる場合があります。
このページでは、下請法の親事業者向けに、注文書・発注書を後から交付する「事後交付」の違法性・適法性について解説しています。
下請法が適用される取引きでは、親事業者は、下請事業者に対し、いわゆる「三条書面」を発注後、直ちに交付しなければなりません。
そこで問題となるのが、注文書・発注書については、後から交付していいのか、ということです。
これは、注文書・発注書と三条書面を兼用しているかどうかによって、違法・適法のいずれかに該当します。
このページでは、こうした三条書面・注文書・発注書のあとからの交付=事後交付について、開業22年・400社以上の取引実績がある行政書士が、わかりやすく解説していきます。
このページでわかること
- 下請法が適用される場合における注文書・発注書のあとからの交付・事後交付が違法となる場合
- 三条書面・注文書・発注書の適切な交付のタイミング
注文書・発注書をあとから交付しても必ずしも違法にはならない
下請法では、注文書・発注書の交付やその時期については、特に規制はありません。
このため、下請法が適用される取引きにおいて、注文・発注や契約の成立の後から注文書・発注書を交付したとしても、それをもって、親事業者が下請法違反になることはありません。
ただし、下請法には、いわゆる三条書面の交付については、「直ちに」しなければならないことが規定されています(後述)。
このため、三条書面を交付せずに後から注文書・発注書を交付した場合や、三条書面と注文書・発注書を兼用している場合において、「直ちに」=すぐに交付しないときは、下請法違反となります。
逆に、三条書面を直ちに交付している場合は、後から注文書・発注書を交付したとしても、下請法違反にはなりません。
また、当然ながら、三条書面と注文書・発注書を兼用しているものを「直ちに」=すぐに交付した場合も下請法違反になりません。
注文書・発注書の事後交付の違法性・適法性
- 三条書面を交付せずに後から注文書・発注書を交付した場合:違法
- 三条書面と注文書・発注書を兼用したものを後から交付した場合:違法
- 三条書面を直ちに交付したうえで後から注文書・発注書を交付した場合:適法
- 三条書面と注文書・発注書を兼用したものを直ちに交付した場合:適法
三条書面とは?
三条書面は親事業者に交付義務がある書面
三条書面とは、下請法(正式には「下請代金支払遅延等防止法」)第3条に規定されている書面です。
下請法第3条(書面の交付等)
1 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。
【意味・定義】三条書面(下請法)とは?
三条書面(下請法)とは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第3条に規定された、親事業者が下請事業者に対し交付しなければならない書面をいう。
三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
三条書面はいつまでに交付する?
下請法の親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、三条書面を交付する義務があります。
ここでいう、「直ちに」とは、一般的な法令用語の意味としては、すぐに、という意味です。
【意味・定義】直ちにとは?
「直ちに」とは、即時に、すぐに、ということ。
これは、下請法でも同様の意味で使われています。
- Q32:3条書面は様式を問わないので契約書を3条書面とすることも可能と聞いたが、発注後、契約締結まで日数を要する場合、どの程度までなら「直ちに」交付したといえるか。
- A:「直ちに」とは「すぐに」という意味である。親事業者には、発注した場合「直ちに」書面を交付する義務があるので、発注から契約締結までに日数を要するのであれば、発注後、直ちに交付したとはいえない。そのような場合には、契約書とは別に必要事項を記載した書面(3条書面)を、発注後直ちに交付しなければならない。
引用元:下請取引適正化推進講習会テキストp.31
つまり、親事業者は、下請事業者に対し業務委託(製造委託等)の発注をした場合は、すぐに三条書面を交付しなければなりません。
この他、三条書面や注文書・発注書の交付の時期につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
三条書面兼注文書(発注書)の場合はあとから交付できる?
三条書面は契約書・注文書・発注書と兼用することが多い
このように、三条書面は、親事業者が下請事業者に対し交付することから、同じく下請事業者に対し交付する注文書・発注書と兼用することが多いです。
よって、下請法が適用される取引きにおいて注文書・発注書を使う場合、親事業者は、下請事業者に対し、三条書面の要件を満たした注文書・発注書を作成したうえで交付することが多いです。
この他、三条書面と注文書・発注書の関係につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
なお、同様に、下請事業者と取り交わす業務委託契約書や取引基本契約書と三条書面を兼用することも多いです。
三条書面兼注文書(発注書)はあとから交付したら違法
このように、三条書面と注文書・発注書を兼用する場合、当然ながら、親事業者は、下請事業者に対し製造委託等(業務委託)をした場合、直ちに=すぐに交付しなければなりません。
つまり、あとから注文書・発注書を交付した場合は、下請法第3条に違反することとなります。
このため、親事業者としては、製造委託等(業務委託)の発注後にすぐに三条書面(注文書・発注書)を交付できるような運用体制を構築しておく必要があります。
または、逆に三条書面(注文書・発注書)が作成されるまでは、安易に発注をしない体制とする必要があります。
三条書面と注文書・発注書を別々にしている場合はあとから交付してもいい?
また、あまり一般的ではありませんが、三条書面を注文書・発注書を別々に交付する場合もあります。
例えば、注文書・発注書の交付に時間がかかる場合や、三条書面に記載された内容以外の契約内容について交渉が必要な場合が該当します。
このような場合、親事業者は、三条書面を単体で先行して直ちに交付していれば、注文書・発注書は後から交付しても構いません。
逆に、製造委託等(業務委託)の発注を口頭や電子メールでしたにもかかわらず、三条書面を交付せずに注文書・発注書のみを後から交付した場合や、三条書面と注文書・発注書をあとから交付した場合は、下請法第3条に違反することとなります。
注文書・発注書あとから交付した場合の罰則は?
このように、三条書面を交付せずに後から注文書・発注書を交付した場合や、三条書面と注文書・発注書を兼用したものを直ちに交付せずに後から交付した場合は、下請法第3条に違反します。
下請法第3条違反があった場合、親事業者には、50万円以下の罰金が科されます。
下請法第10条(罰則)
次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50万円以下の罰金に処する。
(1)(省略)
(2)第5条の規定による書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。
ポイントは、親事業者である法人だけに罰金が科されるのではなく、「その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」にも罰金が科される、ということです。
つまり、会社で50万円を払えばいい、というものではないのです。しかも、50万円とはいえ、いわゆる「前科」がつきます。
なお、親事業者である法人にも、罰金は科されます。
下請法第12条(罰則)
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。
補足1:下請法の対象かどうかの条件とは?
下請法が適用される対象かどうかの条件は、以下のパターンのいずれかとなります。
パターン1 | |||
---|---|---|---|
親事業者 | 下請事業者 | ||
資本金の区分 | 3億1円以上 | 3億円以下(または個人事業者) | |
業務内容 |
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パターン2 | |||
---|---|---|---|
親事業者 | 下請事業者 | ||
資本金の区分 | 1千万1円以上3億円以下 | 1千万円以下(または個人事業者) | |
業務内容 |
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パターン3 | |||
---|---|---|---|
親事業者 | 下請事業者 | ||
資本金の区分 | 5千万1円以上 | 5千万円以下(または個人事業者) | |
業務内容 |
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パターン4 | ||
---|---|---|
親事業者 | 下請事業者 | |
資本金の区分 | 1千万1円以上5千万円以下 | 1千万円以下(または個人事業者) |
業務内容 |
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これらのパターンのいずれかに該当する場合は、下請法の適用対象となり、親事業者は、下請事業者に対し、三条書面を交付しなければなりません。
これらの下請法が適用されるかどうかの条件につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
補足2:フリーランス保護法にも同様の規制・罰則がある
下請法と同様の法律として、フリーランス保護法(新法)があります。
【意味・定義】フリーランス保護法(フリーランス新法)とは?
フリーランス保護法・フリーランス新法とは、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(別名:フリーランス・事業者間取引適正化等法)といい、フリーランスに係る取引の適正化、就業環境の整備等を図る法律をいう。
このフリーランス保護法は、従業員を雇っていないフリーランス・個人事業者や、一人法人に対する業務委託契約に適用される法律です。
こうしたフリーランス等に対し業務委託をする場合、発注事業者には、フリーランス保護法第3条により、下請法同様、フリーランス等に対し取引内容を通知する義務があります。
フリーランス保護法第3条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。
この通知のことを、三条通知といいます。
【意味・定義】三条通知(フリーランス保護法)とは?
三条通知(フリーランス保護法)とは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)第3条に規定された、業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に対し明示しなければならない通知をいう。
この他、三条通知につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
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下請法が適用される場合の注文書・発注書の事後交付に関連するQ&A
- 下請法では発注書はいつまでに交付しなければなりませんか?
- 親事業者は、下請事業者に対し、製造委託等(業務委託)をした後、「直ちに」(=すぐに)三条書面を交付しなければなりません。このため、三条書面や三条書面と兼用した注文書・発注書については、親事業者は、すぐに交付しなければ下請法第3条違反となります。
- 下請法では注文書・発注書は必須ですか?また、注文書・発注書なしで下請法違反になる場合は?
- 下請法が適用される場合、親事業者が契約書・注文書・発注書などを交付せずに口頭で発注した場合、違法となり、最大で50万円の罰金が科されます。