相手方から収入印紙(消印済み)が貼られた契約書と収入印紙が貼られていない契約書が送られてきた場合、どちらを渡す、返すものなのでしょうか?
法的には、どちらを渡し、返しても構いません。ただし、収入印紙が貼られていない契約書には、収入印紙を貼ったうえで渡す、返すようにします。

ビジネスマナーとしては、収入印紙が貼られていない契約書に収入印紙を貼り、消印(割印ではありません)を押したうえで渡す、返すべきです。

このページでは、主に企業の契約担当者向けに、契約書への署名・記名押印の際の収入印紙の貼り方と返し方、送り方について解説しています。

契約書の取り交わしの際、相手方から、収入印紙が貼られた契約書と、そうでない契約書が送られてきて、どちらを返送したらいいのか、迷ったことはないでしょうか?

実は、法的にはどちらを返しても問題はありませんが、ビジネスマナーとしては、収入印紙を貼られていない契約書に収入印紙を貼り、消印を押したうえで返送するべきとされています。

なお、実際の契約実務では、まだ署名・記名押印が完了していない場合は、郵送の時点では収入印紙を貼る必要はなく、署名・記名押印をする際に、自身だけが消印をすれば問題ありません。

このページでは、こうした収入印紙の貼り方と契約書の返し方・送り方について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • 収入印紙が貼られている契約書とそうでない契約書のどちらを渡す、返すべきか。
  • ビジネスマナーとしての収入印紙の貼り方・契印の押し方・契約書の渡し方・返し方
  • 法的に正しい収入印紙の貼り方・消印の押し方




片方だけ収入印紙が貼られた契約書を送られたらどうする?

取引先から2部送られてきた契約書のうち、片方だけ収入印紙が貼られた状態だったことはないでしょうか?

管理人も、初めてこうした契約書を送られた際には、どのように対処するべきなのか、迷ったことがあります。

結論としては、どちらを返したとしても法的には問題ありませんが、収入印紙を貼っていない契約書を返す場合は収入印紙を貼ったうえで返します。

以下、この点について詳しく解説しますが、前提として、以下の状態であるものと仮定します。

前提条件
  • 契約当事者は2者である。
  • 契約書を2部作成し、それぞれ1部を原本として保有する。
  • 印紙税の負担については、折半である旨の合意がある、または印紙税の負担については特に合意がない。
  • 契約書の取り交わし、署名・記名押印の手続きを郵送でおこなう。
  • 相手方が契約書を作成・製本し、2部のうち、1部のみに収入印紙を貼り、消印を押して郵送してきている。

上記以外の前提の場合は、結論が異なる可能性もありますので、ご注意ください。





どちらを返しても法的には問題ない

消印は一方の当事者だけが押していればいい

契約書における印紙税の実務では、主に金額、負担当事者・負担割合、収入印紙の消印の方法―の3点が問題となります。

このうち、郵送されてきた2部の契約書のうち、「片方だけ収入印紙(消印済み)が貼られていた」状態だった場合は、収入印紙の消印の方法の問題となります。

実は、収入印紙への消印(または署名)は、契約当事者の一方だけが押印すればよいとされています(印紙税法基本通達第64条)。

印紙税法基本通達第64条(共同作成の場合の印紙の消印方法)

2以上の者が共同して作成した課税文書にはり付けた印紙を法第8条《印紙による納付等》第2項の規定により消す場合には、作成者のうちの一の者が消すこととしても差し支えない。

このため、法的には、契約書の原本には、どちらかの当事者の一方だけが消印を押印していれば問題はありません。

つまり、自身が保管する契約書の原本には、自身のものでも相手方のものでも、一方の押印さえあれば、どちらでも問題ありません。

もちろん、両方の消印が押印してあっても差し支えありません。

いずれにしても「消印が押印されている収入印紙が貼られている」状態で渡す・返す

よって、2部のうち「片方だけ収入印紙(消印済み)が貼られた」契約書が送られてきた場合、法的には、以下の対応が正解となります。

適切な対応
  • 「収入印紙が貼られていない契約書」に収入印紙を貼り、消印を押印したうえで返送する(ビジネスマナーとしても正解。後述)。
  • 「収入印紙(相手方の消印済み)が貼られている契約書」に消印を押印したうえで返送する。

他方で、以下の対応はトラブルになる可能性があります。

不適切な対応
  • 「収入印紙が貼られていない契約書」に収入印紙を貼らずに返送する。

この場合、相手方が契約書2部分の印紙税を負担するように要求しているとも捉えかねられません。

一般的に、印紙税は、特約が無い限りは、契約当事者が双方折半して負担することとなります。

つまり、相手方が契約書2部分の印紙税を全額負担する特約が無い限り、自身が契約書1部分の印紙税を負担する必要があります。

この他、契約書の印紙税・収入印紙の負担につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約書の印紙(印紙税・収入印紙)はどちらが負担する?折半する法的な根拠は?





ビジネスマナーとしては「収入印紙が貼られていない方」の返送が正解

相手方は「消印は両者のものが必要」と思い込んでいる

なお、ビジネスマナーとしては、「収入印紙が貼られていない契約書」に収入印紙を貼り、消印を押印したうえで返送することが正解となります。

片方だけ収入印紙(相手方が消印済み)が貼られた契約書を2部郵送してくるということは、相手方は「収入印紙には契約当事者の両者が消印を押す必要がある」と思い込んでいる可能性があります。

この相手方に対し、「収入印紙(相手方が押印済み)が貼られた契約書」に消印を押して返送すると、相手方には契約当事者の両者の消印が押印された契約書が残ります。

他方で、自身には、自身の消印のみが押印された契約書が残ります。

余計な連絡・配慮・印象の悪化を生じさせない

すでに述べたとおり、一方の当事者の消印だけが押印されていたとしても、法的には問題はありません。

しかしながら、「両者の消印が必要」と思い込んでいる相手方には、「一方の当事者の消印だけが押印された契約書」について、不必要な連絡・配慮をさせてしまう可能性があります。

また、いかに法的には正しい内容であったとしても、「両者の消印が必要」と思い込んでいる相手方に対して、「消印は一方の当事者のものだけで結構です」とわざわざ伝えるのも、角が立ちますし、相手方の担当者の印象が悪くなります。

このため、両者に両者の消印が押印された契約書が残るよう、「収入印紙が貼られていない契約書」に収入印紙を貼り、消印を押印したうえで返送するべきです。





契約書を郵送する場合は手続き完了の直前まで収入印紙を貼らなくてもいい

収入印紙はいつ貼る?

なお、一般的な契約実務では、郵送で契約書の取り交わしをおこなう場合、署名または記名押印が完了するまでは、収入印紙を貼りません。

印紙税の課税文書は、「課税文書の作成の時まで」に、「印紙税を納付しなければならない」とされています(印紙税法第8条)。

印紙税法第8条(印紙による納付等)

1 課税文書の作成者は、次条から第12条までの規定の適用を受ける場合を除き、当該課税文書に課されるべき印紙税に相当する金額の印紙(以下「相当印紙」という。)を、当該課税文書の作成の時までに、当該課税文書にはり付ける方法により、印紙税を納付しなければならない。

2 課税文書の作成者は、前項の規定により当該課税文書に印紙をはり付ける場合には、政令で定めるところにより、当該課税文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない。

契約書は、印紙税法では「契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書」(印紙税法基本通達第44条)とされ、その「作成の時」とは、「当該証明の時」とされています(同上)。

何をもって「証明の時」であるかは契約の状態にもよるでしょうが、通常は、「契約の成立≒契約当事者双方の署名・記名押印の完了」が「証明の時」=「課税文書の作成の時」であると考えられます。

収入印紙は署名・記名押印の完了と同時に消印を押す

契約書の取り交わしを郵送でおこなう場合、契約当事者両者の署名・記名押印は完了していない状態です。

このため、法的には、まだわざわざ収入印紙を貼る必要はありません。

また、万が一、契約書の作成や製本のミスなどにより作成し直すこととなった場合、収入印紙を貼っていると、税務署で還付の手続きをしなければなりません。

このため、一般的な契約実務では、収入印紙を貼って消印を押すのは、手続きの最後、つまり署名・記名押印と同時におこないます。

この際、すでに述べたとおり、契約当事者一方の消印だけで法的には問題はないため、手元に残る原本には、自身の消印だけが押印されていることとなります。





収入印紙への消印(≠割印)の押し方

なお、収入印紙に消印を押す場合、以下の図のように押します。

この他、収入印紙への消印(≠割印)の押し方の詳細な解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

契約書に貼る印紙(収入印紙)への消印(≠割印)のしかた・場所は?





印紙税の節税は電子契約サービスがおすすめ

印紙税の節税には、電子契約サービスの利用がおすすめです。

というのも、電子契約サービスは、他の方法に比べて、デメリットがほとんど無いからです。

印紙税を節税する方法は、さまざまあります。

具体的には、以下のものが考えられます。

印紙税を節税する方法
  1. コピーを作成する:原本を1部のみ作成し、一方の当事者のみが保有し、他方の当事者はコピーを保有する。
  2. 契約形態を変更する:節税のために準委任契約のような非課税の契約にする。
  3. 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:取引基本契約に初回の注文書・注文請書や個別契約を綴じ込むことで7号文書から2号文書・1号文書に変える。

しかし、これらの方法には、以下のデメリットがあります。

印紙税の節税のデメリット
  • コピーを作成する:契約書のコピーは、原本に比べて証拠能力が低い。
  • 契約形態を変更する:節税のために契約形態を変えるのは本末転倒であり、節税の効果以上のデメリットが発生するリスクがある。
  • 7号文書を2号文書・1号文書に変更する:7号文書よりも印紙税の金額が減ることはあるものの、結局2号文書・1号文書として課税される。

これに対し、電子契約サービスは、有料ではあるものの、その料金を上回る節税効果があり、上記のようなデメリットがありません。

電子契約サービスのメリット
  1. 電子契約サービスを利用した場合、双方に証拠として電子署名がなされた契約書のデータが残るため、コピーの契約書よりも証拠能力が高い。
  2. 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、印紙税を考慮した契約形態にする必要がない。
  3. 電子契約サービスは印紙税が発生しないため、7号文書に2号文書や1号文書を同轍する必要はなく、そもそも契約書を製本する必要すらない。

このように、印紙税の節税には、電子契約サービスの利用が、最もおすすめです。

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収入印紙の貼り方・消印の押し方に関するよくある質問

相手方から片方だけに収入印紙(消印済み)が貼られた契約書が送られてきた場合、どちらを渡す、返すべきでしょうか?
法的には、どちらを渡し、返しても構いませが、ビジネスマナーとしては、収入印紙が貼られていない契約書に収入印紙を貼り、消印を押したうえで渡す、返すべきです。
収入印紙は、いつ契約書に貼るべきでしょうか?
一般的な契約実務では、収入印紙は、郵送の段階ではなく、署名・記名押印と同時に貼り、消印を押印します。