このページでは、主に業務委託契約の受託者向けに、いわゆる「再委託にあたらない契約」について解説しています。

一般的な業務委託契約では、再委託が禁止されていることが多いです。

このため、実際に委託された業務を実施する場合に、誰に対してなら業務を任せていいのかが問題となります。

この点について、「再委託にあたらない契約」は、自社の役員、労働者(社員)や派遣会社との委任契約、労働契約・雇用契約や労働者派遣契約のみであり、それ以外の第三者(子会社を含む)との契約は、原則としてすべて「再委託にあたる契約」となります。

このページでは、こうした「再委託にあたらない契約」について、開業20年・400社以上の取引実績がある管理人が、わかりやすく解説していきます。

このページでわかること
  • いわゆる「再委託にあたらない契約」の範囲。
  • 再委託の定義。




「再委託にあたらない契約」と「再委託にあたる契約」の範囲

「再委託にあたらない契約」の範囲

業務委託契約(請負契約・準委任契約)において受託者が業務の実施をおこなわせる場合、契約実務では、いわゆる「再委託にあたらない契約」は、以下のものとなります。

「再委託にあたらない契約」の範囲
  • 自社の役員との委任契約
  • 自社の労働者との労働契約・雇用契約
  • 派遣会社との労働者派遣契約

このため、業務について、役員・労働者(社員。転籍出向・在籍出向の出向者を含む)・派遣労働者が実施する場合は、「再委託にあたらない」こととなります。

つまり、業務について、いわゆる「内製化」をしている場合に限り、「再委託にあたらない」ということです。

「再委託にあたる契約」の範囲

これに対し、業務委託契約(請負契約・準委任契約)において受託者が業務の実施をおこなわせる場合、以下の契約は、すべて「再委託にあたる契約」となります。

「再委託にあたる契約」の範囲
  • 第三者との業務委託契約(業務再委託契約)
  • 第三者との請負契約(下請負契約)
  • 第三者との準委任契約(再準委任契約)

つまり、受託者が業務をおこなう際に、自社の役員・労働者(社員)・派遣労働者以外の第三者に対して業務をおこなわせる契約は、すべて「再委託にあたる契約」となります。

この第三者は、子会社・親会社等の資本関係のある法人や、直接雇用の関係にない個人事業者・フリーランスも含みます。





再委託とは?

再委託は、「なんらかの委託についての再度の委託であること」を意味します。

【意味・定義】再委託とは?

再委託とは、業務委託(請負・委任・準委任)を受けた受託者が、委託業務の全部または一部を第三者に対し再度委託することであって、下請負(下請け)、再委任(再準委任)のいずれかのものをいう。

この再委託は、ビジネス用語であり、民法上は正確な定義がない用語であるため、非常に誤解されやすい表現です。

契約実務では、上流工程(受託者が受託する業務)の契約形態や、下流工程(受託者が再委託する業務)の契約形態が何であっても関係なく、すべて「再委託」と表現することがあります。

よって、以下の契約形態は、すべて「再委託」に該当し得ます。

「再委託」の契約形態
  • 請負契約で受注した業務を下請負契約で注文する下請負
  • 請負契約で受託した業務を再準委任契約で委託する再準委任
  • 準委任契約で受注した業務を下請負契約で注文する下請負
  • 準委任契約で受託した業務を再準委任契約で委託する再準委任

このように、契約実務では、自社の社内の者(役員・社員・指揮命令下にある派遣会社の派遣労働者)以外の第三者との契約は、契約形態に関係なく、すべて「再委託にあたる契約」とされます。





「再委託にあたらない契約」の具体例

再委託にあたらない契約1:役員との委任契約

再委託にあたらない契約の1つめは、役員との委任契約です。

つまり、受託者の役員が受託者との委任契約にもとづいて業務を実施することは、再委託にあたりません。

受託者の役員は、受託者の社内に在籍する役員であるため、第三者ではなく当事者として扱われます。

このため、再委託が禁止されている業務について、受託者役員が実施することは、契約違反にはなりません。

再委託にあたらない契約2:労働者(社員)との労働契約・雇用契約

再委託にあたらない契約の2つめは、労働者(社員)との労働契約・雇用契約です。

つまり、受託者の労働者(社員)が受託者との労働契約・雇用契約にもとづいて業務を実施することは、再委託にあたりません。

受託者の労働者は、受託者(社員)の社内に在籍する労働者であるため、第三者ではなく当事者として扱われます。

このため、再委託が禁止されている業務について、受託者の労働者(社員)が実施することは、契約違反にはなりません。

これは、出向者の場合も同様であり、転籍出向・在籍出向のいずれも、受託者との労働契約・雇用契約を締結していれば、労働者(社員)となります。

再委託にあたらない契約3:派遣会社との労働者派遣契約

再委託にあたらない契約の3つめは、派遣会社との労働者派遣契約です。

つまり、派遣会社の派遣労働者が受託者の指揮命令の元で業務を実施することは、再委託にあたりません。

受託者の指揮命令の元で労働する場合、派遣会社の派遣労働者は、派遣会社に在籍していたとしても、受託者の労働者と同様に、第三者ではなく当事者として扱われます。

このため、再委託が禁止されている業務について、派遣労働者が実施することは、契約違反にはなりません。

この他、再委託と派遣の違いにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

再委託と派遣の違いとは?労働者派遣契約は再委託に該当する?





「再委託にあたる契約」の具体例

再委託にあたる契約1:第三者との業務委託契約(業務再委託契約)

再委託にあたる契約の1つめは、第三者との業務委託契約(業務再委託契約)です。

業務委託契約書とは?書き方・注意点についてわかりやすく解説

第三者が相手方となる業務委託契約は、典型的な再委託の例です。

なお、再委先が子会社や親会社のような資本関係がある場合(後述)であっても同様です。

これは、他のどの契約であっても該当します。

再委託にあたる契約2:第三者との請負契約(下請負契約)

再委託にあたる契約の2つめは、第三者との請負契約(下請負契約)です。

請負契約とは?委任契約や業務委託契約との違いは?

この請負契約には、契約形態として請負契約として明記されている場合はもとより、実態として請負契約であれば、該当します。

なお、「請負」「下請」「下請負」という表現をもって、「再委託にあたらない」ということにはなりません。

すでに述べたとおり、そもそも「再委託」に明確な定義がない以上、こうした表現の違いは問題にはなりません。

再委託にあたる契約3:第三者との準委任契約(再準委任契約)

再委託にあたる契約の3つめは、第三者との準委任契約(再準委任契約)です。

委任契約・準委任契約とは?請負契約や業務委託契約との違いは?

この準委任契約には、契約形態として請負契約として明記されている場合はもとより、実態として準委任契約であれば、該当します。

なお、「委任」「準委任」「再委任」「再準委任」という表現をもって、「再委託にあたらない」ということにはなりません。

そもそも、委任契約・準委任契約について規定されている民法第643条には、委任・準委任が「委託」であることが明記されています。

民法第643条(委任)

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

また、すでに述べたとおり、そもそも「再委託」に明確な定義がない以上、こうした表現の違いは問題にはなりません。





補足1:子会社・親会社・系列会社・グループ会社は当事者?第三者?

なお、再委託先が子会社・親会社のような資本関係がある場合や、直接の資本関係は無いものの、系列会社・グループ会社である場合であっても、「再委託にあたらない」ことにはなりません。

たとえ資本関係があろうとも、法人格が別である以上は、子会社・親会社もまた、第三者となります。

よって、子会社・親会社が再委託先となる契約は、再委託にあたります。

このため、再委託を予定しているのであれば、再委託先が子会社や親会社であったとしても、元の業務委託契約では、再委託ができように、再委託の条項を規定しておくべきです。

業務委託契約における再委託・下請負(外注)の許可・禁止条項とは?





補足2:役員・労働者(社員)は秘密保持義務では第三者となる

「再委託にあたらない契約」では、役員や労働者(社員)は、当事者として扱われ、第三者には該当しません。

この点について、秘密保持契約や秘密保持義務の実務では、役員や労働者(社員)も第三者として扱われます。

よって、秘密保持契約や秘密保持義務の条項を検討する際には、第三者の範囲について、誤解のないように注意します。

この他、秘密保持義務と例外となる第三者の範囲につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

秘密保持義務と例外の条項とは?第三者の範囲はどこまで?





「再委託にあたらない契約」に関するよくある質問

いわゆる「再委託にあたらない契約」にはどのようなものがありますか?
いわゆる「再委託にあたらない契約」には、主に以下のものがあります。

  • 自社の役員との委任契約
  • 自社の労働者との労働契約・雇用契約
  • 派遣会社との労働者派遣契約
「再委託にあたる」契約にはどのようなものがありますか?
「再委託にあたる」契約には、主に以下のものがあります。

  • 第三者との業務委託契約(業務再委託契約)
  • 第三者との請負契約(下請負契約)
  • 第三者との準委任契約(再準委任契約)