このページでは、業務委託契約の契約条項のうち、納入、納入方法、納入場所の条項について解説しています。

業務委託契約書において、目的物の引渡し=納入や、業務の実施は、特に委託者にとって、極めて重要な条項です。

また、納入そのものも重要ですが、業務内容によっては納入方法や納入場所が重要となる場合もあります。

このページでは、こうした納入、納入方法、納入場所のポイントについて解説します。

なお、納期につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

納期(納入期限・納入期日)・作業期間とは?契約条項のポイントを解説




【意味・定義】納入とは?

一般的な用語としては、納入は、次の意味となります。

【意味・定義】納入とは?

納入とは、一般に、債務者がその債務の弁済として、物品または知的財産等の成果物を引渡す行為をいう。

ここでは「一般に、」という表現をしたのは、実は、「納入」という言葉は、法律上、定義が決まっていないからです。

例えば、民法では、納入という用語は使われていません。

似た用語として、民法では「給付」という言葉が使われていますが、これは、「一定の行為」程度の意味であり、これも特に定義は決まっていません。





業務委託契約では納入を定義づける

物体・有体物の引渡しだけが納入ではない

通常、契約実務において、納入といえば、何らかの物品・製品を引渡す行為のことをいいます。

特に、製造請負契約・製造業務委託契約では、そのような使い方をします。

ただ、単に物品・製品などの有体物を引渡す行為だけが納入というわけではありません。

例えば、システム等開発業務委託契約でも、完成したシステム等を引渡す行為を「納入」と表現することがあります。

業務委託契約で納入を定義づける

このように、ひと言で「納入」といっても、様々な定義・解釈が成り立ちます。

ただ、どのような義務であれ、「納入」は、受託者がしなければならない業務委託契約における義務である点は、変わりがありません。

ということは、納入の定義は、業務委託契約における受託者の義務=業務内容の定義の一部であるともいえます。

業務委託契約書における業務内容の決め方・書き方と全行程を解説

つまり、納入の定義は、こうした業務内容=義務を実施したかどうかの解釈・判断に重大な影響を与えます。

それにもかかわらず、納入の定義があいまであれば、「納入」があったかどうかについて、委託者と受託者の間で解釈・判断が分かれる、というトラブルになります。

このため、明らかに当事者が誤認することがない場合を除いて、業務委託契約では、「納入」を定義づけるべきです。

ポイント
  • 物体・有体物の引渡しだけが納入ではなく、システム等=知的財産の「引渡し」も納入とされることもある。
  • 納入=業務内容の一部を業務委託契約で明確に定義づけることが重要。





各種業務委託契約における納入とは?

製造請負契約における納入とは?

製造請負契約では、一般的には、納入とは、受託者が、委託者に対し、製造した製品を引渡すことです。

国内の企業間での製造請負契約の場合、納入は、通常、委託者が指定する場所で製品を引渡すことを意味します。

ただし、これはあくまで国内取引の場合であって、国際取引の場合は、また別の意味となります。

なお、製造請負契約につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

【改正民法対応】製造請負契約とは?偽装請負にならない対策も解説

システム等開発業務委託契約における納入とは?

システム等の納入=コード類の引渡し

システム等開発業務委託契約では、納入とは、システム等の開発による成果である知的財産(主にプログラム等のコード等の著作物)の引渡しを意味します。

これは、主にフルスクラッチでの開発の場合が該当します。

もっとも、その引渡し方法は様々で、データ量やセキュリティ上の都合、開発環境などにより、様々な制約を受けます。

このため、成果物であるシステム等の納入=引渡し(場合によっては実装まで)については、あからじめシステム等開発業務委託契約で明確に定義づけるべきです。

開発プラットフォームのノーコード開発の場合は権限等の移譲

また、近年では、開発プラットフォームを利用した開発や、ノーコードツールを利用した開発もあります。

このような開発の場合は、物理的にコード類を引渡す納入は現実的ではありません。

開発プラットフォームやノーコードツールの機能にもよりますが、一般的には、委託者から受託者に対しアカウントなどの権限を移譲することで、納入とすることが多いです。

ただし、これは、開発プラットフォームやノーコードツールの利用規約に抵触しないように注意が必要です。

この他、システム等開発業務委託契約における納入や下請法に関する問題の解説につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

システム等開発業務委託契約における納入のポイントは?下請法の注意点は?

ポイント
  • 製造業務委託契約では、製造された物品・製品の引渡しが納入。
  • システム等開発業務委託契約では、納入は、成果物によって、様々であり、一概には決められてない。このため、案件ごとに詳細に規定する。





成果物の引渡しがない業務委託契約では「業務の実施」

なお、特に成果物の引渡しがない業務委託契約では、納入という表現はしません。この場合は、「業務の実施」のような表現をします。

「業務の実施」の場合でも、納入と同じく、その定義、つまり何をもって「業務の実施」がおこなわれたのか、という点が重要です。

「業務の実施」では、「成果物」という目に見える物体の納入はありませんので、納入の定義よりもなおさら重要となります。

なお、通常、「業務の実施」の定義は、「業務内容」の規定で定義づけます。

「業務内容」の規定につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

業務委託契約書における業務内容の決め方・書き方と全行程を解説





業務委託契約では納入方法を決める

特殊な納入の場合は詳細な納入方法を規定する

一部の請負契約型の業務委託契約では、納入する物品・製品・成果物が特殊なものであることがあります。

このような特殊な納入物の場合、納入方法も特殊であることが多いです。

この場合、業務委託契約では、納入の定義とは別に「納入方法」の規定を設定する場合があります。

例えば、特殊な管理を要する化学物質の納入や、大規模なシステムの納入などでは、詳細な納入方法を規定します。

特殊な納入方法の場合は別紙にする

なお、こうした特殊な納入方法は、「納入」の定義のほうに規定してもかまいません。

ただ、そうすると「納入」の定義が複雑・冗長になり、かえって契約書が読みづらくなります。

このため、「納入」の条項とは別の条項として、「納入方法」の規定を設定したほうが、契約書としては読みやすくなります。

また、場合によっては、納入方法の表示に図面や画像が必要な場合がありますが、このような場合、契約の本文ではなく、別紙にして対応します。

ポイント
  • 特殊な納入の場合は、詳細な納入方法を規定する。
  • 特殊な納入方法の場合は、契約の本文の部分に規定するのではなく、別紙にして規定する。





業務委託契約において納入場所を規定する

納入場所は住所等で明記する

詳細が必要な場合は住所+地図・建物・階数・部屋番号等で指定する

業務委託契約において、物品・製品・成果物の納入がある場合、通常は、その納入場所を規定します。

納入場所は、一般的には、住所で規定します。

ただ、敷地が広い場合、同じ住所や敷地内に複数の建物がある場合、大型の建物の場合などでは、住所だけでは納入場所が特定できない可能性もあります。

この場合は、以下のような対応となります。

住所だけで納入場所が特定できない場合の対応
  • 地図で場所を指定する
  • 建物を指定する
  • 建物の階数や部屋番号・部屋名称・部署を指定する

例えば、工場などに材料や燃料を納入する場合は、業務委託契約において具体的な建物や装置なども明記しておきます。

納入場所の条項の書き方・記載例・具体例

 

【契約条項の書き方・記載例・具体例】納入場所に関する条項(住所のみ)

第○条(納入場所)

本件製品の納入場所は、東京都●●区●●町●丁目●番地●号に所在する委託者の営業所とする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

【契約条項の書き方・記載例・具体例】納入場所に関する条項(住所+地図)

第○条(納入場所)

本件製品の納入場所は、東京都●●区●●町●丁目●番地●号に所在する委託者の事業所であって、別紙「納入場所」の地図上において指定された箇所とする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

【契約条項の書き方・記載例・具体例】納入場所に関する条項(住所+建物)

第○条(納入場所)

本件製品の納入場所は、東京都●●区●●町●丁目●番地●号に所在する委託者の第2工場とする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

【契約条項の書き方・記載例・具体例】納入場所に関する条項(住所+建物階数・部屋)

第○条(納入場所)

東京都●●区●●町●丁目●番地●号に所在する委託者の本社ビル25階の第3会議室とする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)




納入作業も詳細に規定する

なお、納入品や納入場所によっては、納入の「作業」が発生することがあります。

こうした「作業」が想定以上に負担となることも考えられます。

このため、特に大量の物品・製品の納入がある場合は、その「作業」についても、考慮する必要があります。

そうした作業について、委託者・受託者のどちらが作業を負担するのか、また、報酬・料金・委託料が妥当かどうかも検討するべきです。

納入場所は下請法の三条書面の必須記載事項

なお、下請法が適用される業務委託契約の場合、納入場所は、いわゆる「三条書面」の必須記載事項です。

つまり、「納入場所」は、事前に合意しておかないと揉める要素となる契約条項である、ということです。

三条書面につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の三条書面とは?12の法定記載事項や契約書との違いは?

下請法が適用されるかどうかにつきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

下請法の対象かどうかの条件とは?資本金・業務内容(製造委託等)について解説

商法では通常は委託者の「現在の営業所」

特定物かどうかによって変わってくる

なお、特に業務委託契約で「納入場所」について合意していない場合(=「当事者の意思表示によって定まらないとき」)は、商法第516条が適用されます。

商法第516条では、債務の履行の場所=納入場所は、次のとおり規定されています。

商法第516条(債務の履行の場所)

1 商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質又は当事者の意思表示によって定まらないときは、特定物の引渡しはその行為の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない。

2 (省略)

ここでいう、特定物・不特定物の定義は、次のとおりです。

【意味・定義】特定物・不特定物とは?
  • 特定物とは、契約当事者が、その個性・固有性について着目した特定の有体物をいう。
  • 不特定物とは、契約当事者が、その個性・固有性ではなく、単に種類・性質・型番などに着目した有体物をいう。
例えば、通常の中古車は、世界にひとつしかない、典型的な特定物です。

これに対し、同じ自動車でも、工場で大量生産されている新車は、通常は、不特定物です。

特定物=現存場所・その他=現在の営業所

すでに触れたとおり、商法第516条の規定により、特定物の納入場所は、「その行為の時にその物が存在した場所」、その他の物の納入場所は、「債権者の現在の営業所」となります。

このため、例えば、ある製品に関する業務委託契約の場合、修理の契約の場合は、特定物の引渡しになりますので、納入場所は、「その行為の時にその物が存在した場所」となります。

これに対し、同じ製品であっても、新品の製造請負契約の場合は、不特定物の引渡しになりますので、納入場所は、「債権者の現在の営業所」ということになります。

もっとも、すでに触れたとおり、一般的な業務委託契約では、納入場所について合意しますので、この商法第516条が適用されることは、めったにありません。

ポイント
  • 納入場所は、住所等で具体的に明記する。
  • 広い敷地・複数の建物がある住所・大型の建物の場合は、さらに詳細に、建物・階数・部屋番号・部屋の場所などを明記する。
  • 納入場所は、下請法の三条書面の必須記載事項。
  • 納入場所について特に事前の合意がない場合は、商法第516条にもとづき、納入場所が判断される。





業務委託契約における納入・納入場所・納入方法に関するよくある質問

納入とは何ですか?
納入とは、一般に、債務者がその債務の弁済として、物品または知的財産を引渡す行為のことです。なお、民法では、特に「納入」という用語の定義はありません。
納入場所はどのように決めますか?
納入場所は、一般的には、住所で決定します。この際、住所の敷地が広い場合や、建物が複数ある場合は、地図で場所したり、建物や部屋を指定することで、さらに詳細に決定します。